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EP 5

船底チンチロリン! 剥き出しの欲望とイカサマ邪神

「……き、キツい……。腕が、腰がぁぁ……」

出航から数時間後。第三天魔丸の薄暗い船底(タコ部屋)。

ルチアナとリーザは、冷たい鉄の床にボロ雑巾のように転がっていた。

二人に与えられた初日の労働は「甲板の血抜き掃除」と「大量のロープの巻き直し」。温室育ち(?)の神と、普段は反復横跳びとラジオ体操しかしていない極貧アイドルにとって、遠洋漁業の肉体労働はまさに地獄だった。

「ルチアナ様ぁ……私、もうダメですぅ……。サバ缶の匂いどころか、本物の生臭さで吐きそうですぅ……」

「弱音を吐くんじゃないわよリーザ……! アタシだって、今すぐコタツに入って魔導ファミコンやりたいのよぉ……ッ!」

二人が涙を流していると、ガチャリと重い鉄扉が開き、アルマーニのスーツに身を包んだ船長(邪神)デュアダロスが、取り巻きの屈強な漁師たちを連れて現れた。

「オラァ! 休憩時間だ新入りども。……どうだ? 海の労働の味はよ」

デュアダロスはニヤニヤと笑いながら、特大のどんぶりと三つのサイコロを床に置いた。

「てめぇらの絶望した顔、最高にそそるぜ。だがな、俺は慈悲深い船長だ。……さっきも言った通り、てめぇらの『前借り給料』を賭けた大チンチロリン大会を開催してやる」

デュアダロスが葉巻を燻らせると、周囲の漁師たちが「ウオォォォ!」と血走った目でどんぶりを取り囲んだ。

「ルールは簡単だ。親は俺。お前らは張った額の分だけ、勝てば借金が減り、負ければ借金が増える。……どうだ? 運が良ければ、今日中に5000金貨をチャラにして、ヘリを呼んで地上に帰れるかもしれねぇぞ?」

「「……ッ!!」」

その言葉を聞いた瞬間。

疲労困憊だったはずのルチアナとリーザの瞳に、ギラギラとした『狂気の光(ギャンブル脳)』が宿った。

「や、やるわ! アタシ、神様だもん! 運のパラメーターならカンストしてるはずよ!!」

「私もやりますぅ! アイドルの輝くオーラで、サイコロの目を操ってみせますっ☆」

「おいバカ! やめとけ!」

リアンが慌てて止めに入る。

「相手は邪神だぞ! イカサマなんて息を吐くようにやるに決まってんだろ! これ以上借金増やしてどうすんだ!」

「うるさいわねリアン! あんたは黙ってて! これはアタシたちの誇り(とコタツ)を取り戻すための聖戦なのよ!」

「そうですぅ! 5000金貨なんて、一発当てればすぐですぅ!」

FXでレバレッジ1000倍を溶かしたばかりの二人の耳に、元暗殺者の忠告など届くはずもなかった。

キャルルは「あーあ。蟹工船から、地下労働施設にクラスチェンジしちゃったわね」と、するめをかじりながら傍観している。

「カッカッカッ! いいぜぇ、その剥き出しの欲望! ……じゃあ、まずは親の俺からだ!」

デュアダロスがどんぶりにサイコロを投げ込む。

カラカラカラッ……!

サイコロが不自然な軌道を描き、ピタリと止まった。

出た目は――『4・5・6(シゴロ)』。

親の無条件勝利、掛け金は2倍の没収である。

「はい、俺の勝ち。……ほらほら、どんどん張れよぉ?」

デュアダロスがゲスい笑みを浮かべる。

彼の指先から微弱な『重力魔法(邪神の権能)』が放たれ、サイコロの出目を完璧にコントロールしていることなど、欲望に目が眩んだ二人には気づけない。

「くっ……! まだ一回目よ! 次はアタシの番! いっけぇぇぇ!!」

ルチアナがサイコロを投げる。

カラカラカラ……ピタッ。

出た目は――『1・2・3(ヒフミ)』。

子の無条件負け、掛け金は2倍の没収である。

「「あぁぁぁぁぁぁぁッ!?」」

「カッカッカッ! ざんね~ん! はい、借金倍付け~!」

「次! 私ですぅ! アイドルパワー全開っ! キラキラリーン☆」

リーザが祈るようにサイコロを投げる。

カラカラカラ……ピュンッ!

リーザの投げたサイコロは、どんぶりの縁に当たって外へ飛び出し、鉄の床を転がって止まった。

チンチロリンにおける最大のタブー――『ションベン(場外)』。無条件負けである。

「「ぎゃああああああああッッ!!?」」

「おいおいおい、親善大使サマはションベン垂れ流しかぁ!? ギャハハハハ!! これも無条件負けだ! 借金追加ァ!!」

デュアダロスの容赦ない煽りと、イカサマのオンパレード。

それからわずか数十分の間に。

「……あ、あ、ああ……」

「……アイ、ドル……オワッタ……」

床に崩れ落ちたルチアナとリーザ。

彼女たちの借金は、FXで溶かした5000金貨から、さらに【8000金貨】へと、信じられないスピードで膨れ上がっていた。

「……だから言ったろ」

リアンが額を押さえてため息をつく。

「カッカッカッ! 最高だぜお前ら! これで一生、俺の船でタコ部屋暮らしだなァ! さぁ、休憩終わりだ! 甲板に戻って、吐くまでロープ巻きの続きをやれェ!!」

デュアダロスの高笑いが響き渡る中、完全に生気を失ったダメ神と極貧アイドルは、重い足取りで再び地獄の甲板へと向かっていくのであった。

そしてこの後、彼女たちを襲う『船酔い』が、伝説の魔獣を呼び寄せる最悪のトリガーになるとは、この時の誰も知る由もなかったのである。

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