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EP 4

出航! 地獄のマグロ漁船と、船長デュアダロス

「オラァ! さっさと歩かんかい! 乗船タラップもたもた渡ってんじゃねぇぞ!」

ルナミス帝国沖合のうらぶれた港。

荒波に揺れる巨大な漆黒のマグロ漁船『第三天魔丸』の甲板で、屈強な海の男たちの怒号が飛び交っていた。

「ひぐっ……うぅ……なんで私がこんな塩臭いゴム長靴と、カッパを着なきゃいけないのよぉ……! 私は神よ! アナスタシア世界の創造神なのよぉぉ!」

「ルチアナ様ぁ……私のアイドル衣装(※ただの私服)が、魚の血と油でドロドロですぅ……! これじゃファンが減っちゃう……!」

ペラペラのゴムカッパを着せられたルチアナとリーザが、甲板の隅で抱き合いながら大粒の涙を流していた。

その傍らでは、連帯保証人(という名の保護者)として巻き込まれたリアンが、呆れ顔で潮風を浴びていた。

「自業自得だ。……それにしても、ニャングルの奴、ゴルド商会のツテを使ってこんなヤバそうな裏社会の漁船を手配しやがって。ここ、絶対普通の漁船じゃねぇぞ」

リアンの元・暗殺者としての嗅覚が、船全体に漂う『血と暴力の匂い』を敏感に察知していた。

一方、監視役として同行したキャルルはといえば。

「わぁ~! 海風が気持ちいいですねぇ! 船旅なんて久しぶりですっ☆」

と、満面の笑みでカモメに手を振っており、全く悲壮感がなかった。彼女は最悪、船が沈んでもマッハ1のジャンプ力で自力で陸まで帰れるからである。

「……おい、新入りども。ゴチャゴチャ喚いてねぇで、整列しろ」

その時。

甲板の奥から、重厚な足音と共に、一人の男が姿を現した。

「……は?」

リアンは目を疑った。

海の男たちが震え上がって道を空ける中、現れたその男は、漁師の格好などしていなかった。

完璧に仕立てられた『アルマーニの高級スーツ』。オールバックに撫でつけられた髪。口元には太い葉巻をくわえ、胸元からはチラリと『トカレフ』の黒光りする銃身が見え隠れしている。

そして何より、スーツの上から羽織ったヤクザ映画さながらのド派手なコートの背中には、禍々しい『昇り龍』の刺繍が施されていた。

「……お前ら、ウチ(デュア組)がゴルド商会から買い取った『債務者』だな。俺の船に乗ったからには、骨の髄まで働いて……って、んん?」

男が葉巻の煙を吐き出し、ルチアナたちの顔を見た瞬間。

その動きが、ピタリと止まった。

「……えっ。デュアダロス……?」

ルチアナが、素っ頓狂な声を上げた。

「……はぁ!? なんでお前らがここにいんだよ!! つーかルチアナ! お前、俺をダンジョン(天魔窟)に封印した張本人じゃねぇか!!」

邪神デュアダロス。

かつてルチアナと世界の覇権を争い、今はダンジョンに封印されているはずの彼が、なぜかマグロ漁船の船長として君臨していたのだ。

「ちょ、ちょっと待て! なんでお前がシャバに出て漁船の船長なんかやってんだよ!」

リアンがツッコミを入れる。

「あぁん? 決まってんだろ! いつもなら四神の連中が俺のダンジョンに『新作の任侠映画のDVD』と『ビール』の差し入れを持ってきて一緒に映画鑑賞会やってたのに、ここ最近パッタリ来なくなりやがったからだ! 退屈すぎて、ダミーの分身を置いてシャバにシノギ(遠洋漁業)に出稼ぎに来たんだよ!」

(※四神たちは現在、泥沼の社内恋愛トラブルでそれどころではない)

デュアダロスは忌々しげに葉巻を携帯灰皿に揉み消すと、ニヤァァッと邪悪で、最高にゲスい笑みを浮かべた。

「……ハッ。なるほどな。ニャングルから回ってきた『金貨5000枚の大口債務者』ってのは、お前らのことか。……傑作だぜ。自分を封印したクソ女神が、今度は俺の船で『借金奴隷』としてタコ部屋行きたぁなァ!!」

「ひぃぃぃっ! や、やめて! 指パッチンで塵にしないでぇぇ!」

ルチアナがリーザを盾にして縮み上がる。

「安心しろ。塵になんかしてやらねぇよ。お前らは俺の『大事な商品』だからなァ。伝説のマグローザを釣り上げるための、最高の労働力としてこき使ってやる。……だが」

デュアダロスは、アルマーニの懐から、ジャラジャラと音を立てて『三つのサイコロ』と『どんぶり』を取り出した。

「ただ働かせるだけじゃ面白くねぇ。……今日の夜、船底のタコ部屋で『給料日の前借りチンチロリン』を開催してやる。ここで勝てば、一気に借金を減らして地上に帰れるぜ? ……まぁ、負ければ一生、海の上だがなァ!! カッカッカッ!!」

任侠映画にかぶれた邪神による、悪魔のギャンブルの誘惑。

「帰れる」という言葉に、ルチアナとリーザの目に、再びギラギラとした『欲望の光』が宿り始めていた。

「やめろお前ら! その顔はやめろ!!」

リアンの必死の制止も虚しく、極貧アイドルとニート神は、再び後戻りのできないギャンブルの沼へと足を踏み入れようとしていたのである。

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