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EP 2

アイドルの転落。『ロスカット! ロスカットよぉぉ!』

深夜二時。ポポロ村の村長宅。

静まり返った家の中で、キャルルの部屋に居候しているリーザの布団の中から、奇妙な掛け声が響いていた。

「……いけっ! そこよ! パンプ! パンプぅぅぅ!!」

暗闇の中、魔導ファミコンのバックライトに照らされたリーザの顔は、かつてないほど真剣だった。

画面には、赤と青の『ローソク足』と呼ばれるグラフが、崖から転げ落ちるようにズドドドドッと急降下している。

(ルチアナ様は『この数字が上がればお小遣いになる』って言ってたわ! アイドルたるもの、ファンの期待(?)には全力で応えなきゃ!)

リーザは、これが『レバレッジ1000倍で全ツッパされたFX(外国為替証拠金取引)の地獄のデスゲーム』であることなど微塵も理解していない。ただの「ボタンを押して数字を上げるポイ活ゲーム」だと思い込んでいるのだ。

「お願いっ、上がって! 私の歌でバフをかけるわ! ♪愛! アイ! 愛! アイ! ラ~ブラブ! マネー! マネ! ローン! ダーリン! グ!」

リーザは本気の持ち歌『Love & Money』を小声で歌いながら、十字キーの上ボタンを壊れんばかりの勢いで連打した。

「……おい。こんな夜更けに何やってんだ」

ガチャリ。

トイレに起きてきたリアンが、不審な声を聞きつけて扉を開けた。

そこには、布団を被ってゲーム機に噛み付かんばかりの勢いで念を送る極貧アイドルの姿。

「……リーザまで? お前ら、揃いも揃って何をしてんだ?」

「あっ、リアンさん! 今、すっごく大事なところなの! パンプ! パンプぅぅ!!」

画面に釘付けのまま、リーザは必死に叫んだ。

その狂気じみた姿に、リアンは呆れ果てて首を振った。

「……はぁ。パンプね。リズムゲームか何か知らねぇが、村長(大家)に怒られる前に寝ろよ」

リアンは完全にスルーを決め込み、自室へと戻っていった。

(俺は料理人だ。あいつらの夜更かしゲームにまで付き合ってられるか)

そう、彼は知らなかったのだ。リーザが今、ボタン一つで『帝国の一等地が買えるほどの莫大な資金』を、電子の海へと放り投げようとしている瞬間に立ち会っていたということを。

◇ ◇ ◇

そして、運命の翌朝。

「……リ、リーザちゃん……」

リビングの床を這うようにして、ルチアナがやってきた。

寝癖だらけの髪。落ちくぼんだ目。まるで三途の川からUターンしてきた亡者のような姿である。

「お小遣いゲーム……どう、なった……? 『奇跡のV字回復』……した……?」

ルチアナが震える手を伸ばすと、コタツでパンの耳をかじっていたリーザが、パァァァッ!と満面のアイドルスマイルで振り返った。

「あっ、ルチアナ様! おはようございますぅ☆ あのゲーム、すっごく派手な演出が出たんですよぉ!」

「……え?」

「見てください! 朝になったら、画面が真っ赤に光って、激しいアラート音が鳴ったんです! これって、隠しステージのクリアですよね!?」

リーザがドヤ顔で突き出した『魔導ファミコン』の画面。

ルチアナの瞳孔が、極限まで見開かれた。

画面全体を覆い尽くす、血のような真っ赤な警告ポップアップ。

そこに、無慈悲な明朝体でデカデカと表示されていたのは――。

『強制ロスカットが執行されました』

『口座残高:-5000金貨』

「…………あ」

ルチアナの口から、魂の漏れる音がした。

マイナス、五千金貨。

日本円にして、およそ『五千万円』の莫大な借金(追証)が、一夜にして確定した瞬間であった。

「あのねあのね! 私が『パンプ!』って応援したら、グラフが一気に下に突き抜けて、この画面になったの! 凄いでしょ! お小遣い、いつ貰えるのかなぁ?」

無邪気に喜ぶリーザの言葉は、もはやルチアナの耳には届いていなかった。

「……ロ、ロス……」

「ロス?」

「ロスカットよぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」

ルチアナの絶叫が、朝のポポロ村に響き渡った。

「終わった……! 私の人生、終わったぁぁぁ!! 神なのに借金まみれぇぇぇ!!」

「えっ!? ルチアナ様!? どうしたの!?」

「あんたが下に突き抜けさせたのよォォォ!! ショート(売り)のポジションで全力パンプ(買い応援)してどうすんのよォォォ!! バカ! アホ! ポンコツ人魚ォォォ!!」

ルチアナは白目を剥き、口からカニのようにブクブクと泡を吹き始めた。

「あわわわ! ルチアナ様が壊れちゃったぁぁ!」

事の重大さに(少しだけ)気づき始めたリーザもまた、真っ青な顔でその場に崩れ落ちた。

かくして、ルナミス帝国でも類を見ない最悪の金融事故を引き起こした『ニート神』と『極貧アイドル』は、仲良く床の上で白目を剥いて気絶したのであった。

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