EP 25
リアン監督の閃き。「回せ! これが映画だ!」
「あがぁぁぁぁッ!! ひぃぃぃッ!! い、痛いのに元気ィィィッ!!」
深夜のポポロ村。村長宅の一室では、ルナミス帝国が誇るエリート特別査察官ユリウスが、紫電を纏ったウサギ(キャルル)によって、文字通りボールのように部屋中をバウンドさせられていた。
ドガァァァン!!(打撃音)
ピカァァァッ!!(全回復の光)
打撃と回復の無限ループ。その無間地獄の扉の隙間から、魔道カメラのレンズが冷酷にユリウスを狙い続けていた。
「いいぞ……! その歪んだ顔、死の恐怖と健康が入り混じった絶望の表情……ッ! 帝国の三ツ星俳優でも絶対に出せねぇ、極上の『リアル』だ!」
サンバイザーを被ったリアン監督が、カメラを回しながら歓喜に打ち震えている。
「ルナ! 照明が暗ぇ! もっとあいつの顔を照らせ!」
「はーい☆ じゃあ、プチ太陽で照らしますねぇ♡」
ルナの杖の先から、真昼の太陽のような強烈な光が放たれ、ユリウスの顔面を容赦なく白日の下に晒す。
「目がぁぁぁ!! 蹴られてる上に目がぁぁぁぁ!!」
「よし、リーザ! 出番だ! カメラのフレームに入って、あの悪徳役人に向かって泣き叫べ!」
「えぇぇっ!? 私、どういう設定で入ればいいの!?」
パジャマ姿のリーザが、ガクガク震えながらリアンに指示を仰ぐ。
「ヒロインを虐げてきた『悪徳代官』が、ヒロインの親友の『精霊ウサギ』の怒りを買い、無限の裁きを受けているシーンだ! お前はヒロインとして、優しさを見せて『もうやめて!』と庇うフリをしろ!」
「無茶苦茶なシナリオ設定!!」
ツッコミを入れながらも、リーザは生存本能(とアイドル魂)で瞬時に役に入り込み、カメラの前へと飛び出した。
「も、もうやめてウサギさん!! たしかにこの人は、私に鳩の餌やサバ缶を食べさせた悪いお役人だけど……もう十分に反省してるわ!!」
「アベェェェッ!?(※キャルルの踵落としが顔面にクリーンヒット)」
ユリウスは、床にめり込み、直後に全回復の光を浴びながら、リーザの台詞を聞いてハッとした。
(……え、映画!? そうか、私がこの『悪役』を完璧に演じ切れば、カットがかかってこの地獄から解放されるのか……!?)
帝国エリートの頭脳が、極限状態の中で狂った生存ルート(適応)を弾き出した。
「そ、そうだァァ!!」
ユリウスは、キャルルに胸倉を掴まれながら、カメラに向かって血走った(しかし肉体は全回復している)目を向け、アドリブで叫び始めた。
「私が悪かったぁぁ! リーザを虐げ、私利私欲を肥やしていた私が全て悪かったぁぁ! 許してくれ、ウサギの精霊よぉぉ!! もう二度と、純金を漬物石にしたりはしないからぁぁ!!」
「いいぞ! その懺悔の台詞、最高だ!」
リアン監督がガッツポーズをする。
「うふふっ☆ まだまだお疲れですねぇ! はいっ、月影流・乱れ鐘打ちぃぃ!!」
「ギャアアアアアアアアッッ!!」
しかし、ユリウスは致命的な勘違いをしていた。
このウサギ(キャルル)は、映画の演技など一切していない。ただ満月の光を浴びて、善意のヤキ入れを本能で行っているだけの完全なナチュラル・サイコパスである。監督が「カット」と言おうが、月が沈むまで彼女の無限コンボは止まらないのだ。
「なんでだァァ!! 完璧な悪役の散り際を演じたのに、なんで蹴りが止まらないんだァァ!! カットは!? 監督、カットォォォ!!」
「……よし、フィルムの容量がいっぱいになった。カメラ止めるぞ。後は朝まで、精霊ウサギと勝手にアドリブで演技を深めてくれ。お疲れさん」
リアンは魔道カメラを満足げに収納すると、エプロンを外してスタスタと自室へ戻っていった。
「えっ」
「それでは査察官さん、第二ラウンドいきますよぉ☆」
「あ、あ、あ……」
ユリウスの口から、絶望の泡が吹かれた。
「リアン監督ぅぅぅ!! 見捨てないでぇぇぇ!! 誰か、誰か助けてくれェェェェ!!!」
こうして、ポポロ村の夜空に、朝まで帝国査察官の悲鳴がBGMとして響き渡った。
しかし、その犠牲と引き換えに……ポポロ村の即席映画制作委員会は、母・リヴァイアサンに提出するための「悪役が理不尽なまでにボコボコにされる、臨場感MAXのクライマックス映像」を完璧に手に入れたのである。




