EP 24
地獄のヤキ入れと、無限全回復ループ
「あがはぁっ!!?」
ユリウスの絶叫が、夜のポポロ村に木霊した。
窓から音速で突入してきたキャルルの膝蹴り――『月影流・顎砕き』が、ユリウスの顎を正確に捉え、彼を天井まで打ち上げたのだ。
ガシャンッ!と音を立てて天井にめり込むユリウス。普通なら即死、良くて一生寝たきりの重傷である。
「あらあらぁ☆ 査察官さん、首の骨がズレてますよぉ? これじゃあお仕事に差し支えますねぇ!」
空中を舞うキャルルが、ハイライトの消えた瞳で微笑む。彼女がユリウスの体に触れた瞬間、周囲の満月の光が凝縮され、眩いばかりの輝きを放った。
「はいっ! 完・全・回・復ぅ☆」
ピカァァァァァッ!という消音の光がユリウスを包む。
次の瞬間、砕けたはずの顎は元通りになり、折れた頸椎は新品同様に再生し、ユリウスの意識は「最高にクリアな状態」で覚醒した。
「……は? あ、あれ? 痛くな……い……?」
床に転がったユリウスが、自分の顔を触って呆然とする。
だが、その安堵は一瞬で、これまで味わったことのない『脳を焼き切るような激痛の残像』が、遅れてやってきた。
「い、痛ぁぁぁぁぁぁ!! 身体は治ってるのに、痛みの記憶だけが残ってるぅぅぅ!!?」
「うふふっ、まだ腰のあたりが重そうですねぇ☆ 次は……『月影流・鐘打ち』ですっ!」
「待て、話を聞け! 私は帝国特別査察……ぎゃあああああああ!!」
ドゴォォォォォンッ!!
キャルルの回し蹴りがユリウスの脇腹に炸裂し、彼の肋骨を全て粉砕した。
だが、衝撃が抜ける前にキャルルの手から放たれた全回復魔法が、折れた骨を瞬時に接着していく。
【粉砕(破壊)】と【再生(回復)】の同時処理。
それは、人間が耐えられる限界を超えた「拷問」の完成形だった。
「ひぐっ! お、おぇぇ……っ! 死なせて……頼むから一度、気を失わせてくれぇぇ!!」
「ダメですよぉ、不健康なまま寝るなんて! はい、顎砕き、鐘打ち、乱れ鐘打ち! おかわりどうぞぉぉぉ!!」
「あがぁっ! ひぎぃっ! あぶっ!! ……あ、身体が軽い……いや痛い!! どっちなんだぁぁぁぁ!!!」
ユリウスは、部屋の中をピンボールの玉のように跳ね回された。
殴られては治り、蹴られては治る。
肉体はアスリートのように元気になっていくのに、精神は一秒ごとに消し炭になっていく。
◇ ◇ ◇
一方、その部屋の外では。
「……うわぁ、やってるわね。村長さん、今夜はノリノリじゃない」
リーザが、隣の部屋の壁から伝わってくる「ドゴォォン!」「ギャァァァ!」という振動を感じながら、耳を塞いでいた。
「いい出汁が出てやがるな……。あの査察官、明日には別の生き物になってるぞ」
リアンが、廊下で腕を組みながら冷静に分析する。
そこへ、寝ぼけ眼のルナがパジャマ姿で現れた。
「あらぁ? 皆さんでお祭りですかぁ? 私も、あそこに『ハッピー・ドリーム(幻覚植物)』を投げ入れて、もっと楽しくしてあげましょうかぁ☆」
「ルナ、やめろ。それ以上やったら、あいつの脳が物理的に溶けて帝国との外交問題になる」
リアンがルナを制止しようとした……その時、リアンの「料理人兼・映画監督」の血が騒いだ。
「……待てよ。この理不尽なまでの暴力、そして死ぬことのない無限の再生。……これだ。これこそが、あのゴミ映画に足りなかった『説得力』だ!」
リアンは、どこからか取り出した『魔道カメラ』を肩に担ぎ、粉砕されたユリウスの部屋の扉の隙間にレンズを向けた。
「おい、ルナ! 照明だ! 一番強いやつをあいつらに浴びせろ! リーザ、お前はカメラの横で『きゃあー!ヒロインを助けてー!』って叫び続けろ!」
「えぇっ!? この状況で撮影再開ですかぁ!?」
「いいからやれ! 『どん底からのシンデレラ・完結編〜真夜中の全回復処刑〜』、クランクインだ!!」
こうして、帝国エリートの絶叫と、紫電を纏ったウサギの蹂躙劇は、高画質の映像素材として、リアンのカメラにバッチリと収められていくのであった。
「やめてぇぇぇ! 全回復させないでぇぇぇぇ!!!」
ユリウスの魂の叫びは、満月の夜空へと虚しく消えていった。




