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EP 20

帳簿チェックと、サバ缶をかじる人魚姫

庭で「純金100kgの漬物石」という致死量のカルチャーショックを浴び、一度は気絶しかけた特別査察官ユリウス。

しかし、彼は帝国のエリートである。揺らぐ足取りを気合いで立て直し、ついにポポロ村の財務を取り仕切る男――猫耳族の商人ニャングルを村長宅の執務室へと追い詰めていた。

「ルナミス帝国・財務省の特別査察局から参った。お前がこの村の金庫番だな。……さぁ、洗いざらい吐いてもらおうか。あの庭の純金や、村の不自然な潤沢資金の出処を!」

ユリウスが身分証と帝国特権のバッジを突きつけると、ニャングルは「ひぃっ! お、お上のお役人様や!」とビクッと肩を揺らした。

「わ、ワイは何も悪いことしてまへんで! ほら、これがこの村の正確な帳簿でっせ!」

ニャングルはガタガタと震えながら、相棒の算盤と一緒に分厚い帳簿を差し出した。

ユリウスは冷たい笑みを浮かべ、帳簿を開いた。

(フン。どうせ裏帳簿があるのだろう。どんな巧妙なマネーロンダリングの偽装項目が……な、なんだこれは?)

ユリウスの目が、帳簿の記載項目に釘付けになった。

【収入】世界樹からの年金(お小遣い)…… 純金100kg ※備考:リアンが漬物石として使用中

【収入】海神リヴァイアサンからの差し入れ…… 極上霜降りマグロ、魔物タラバガニ等 ※備考:映画撮影の迷惑料

【収入】カジノ胴元・邪神デュアダロスからの上納金…… 金貨3袋 ※備考:リーザの幸運バフによる胴元破産のため

「…………」

ユリウスはそっと帳簿を閉じた。そして、メガネを外し、目頭を強く揉んだ。

(……暗号か? いや、帝国最高の暗号解読スキルを持つ私にも、この文脈は理解できない。海神? 邪神? 世界樹の年金? ……馬鹿にするのも大概にしろ!!)

ユリウスが机をバンッ!と叩いて激怒しようとした、まさにその時。

「あーっ! またお兄さん、パチンコで負けたんですかぁ? しょうがないですねぇ、私のご飯、一口分けてあげますよぉ☆」

執務室の開け放たれた窓の外から、聞き覚えのある可愛らしい声がした。

ユリウスが窓の外を見ると、そこには狼の耳と尻尾を生やしたガラの悪いフェンリルと、ピンク色の髪をした少女――先ほど庭にいた少女の姿があった。

「……ん? あの少女の顔、どこかで……」

ユリウスの脳内データベースが瞬時に検索をかける。

ピンク色の髪。愛らしい瞳。そして、海中国家シーランの王族特有の気品(※今は泥とパン屑まみれだが)。

「まさか……! かつてルナミス帝国とシーランの友好の証として派遣された、『親善大使』のリーザ王女殿下!!?」

なぜ、あのような高貴な王女が、こんなド田舎の村でエプロン姿でいるのか?

驚愕するユリウスの目の前で、リーザは満面の笑顔で『自分の昼食』を広げ始めた。

「じゃじゃーん! 今日の私のオーガニック・ランチですぅ♡」

パカッ。

リーザが開けたのは、パチンコ屋の景品でもらった**『サバの味噌煮缶』。

そしてタッパーに入っているのは、公園で摘んできた『タンポポとヨモギの雑草サラダ』。極めつけは、スーパーの特売で勝ち取った『パサパサのパンの耳』**である。

「タンポポの苦味が、サバのお味噌と絶妙にマッチして最高なんですよぉ! ほら、一口どうぞ! あーん♡」

リーザは本気で(やせ我慢と極貧生活の知恵で)それを「ごちそう」だと思い込み、フェンリルにパンの耳を差し出している。

「…………ッ!!!」

その光景を見た瞬間、ユリウスの脳内で『最悪のシナリオ(完全なる勘違い)』が完成してしまった。

(庭には100キロの純金! 帳簿には極上マグロやタラバガニなどの高級海鮮の数々! ……それだけの莫大な富を村長や料理人が独占している裏で……親善大使である王女殿下に、雑草と……缶詰(猫の餌)を与えて飼い殺しにしているというのか……ッ!!)

エリート査察官の心が、激しく軋んだ。

何という残虐非道な村か。何という経済格差か。

泥まみれになりながらも、笑顔で「オーガニック・ランチ(雑草)」を頬張る健気な王女の姿に、ユリウスの目からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。

「お、お役人様!? なんで帳簿見て泣いてはるんですか!?」

ニャングルが慌てふためく中、ユリウスは震える手でメガネを掛け直した。

(許せん……! 私欲を肥やす極悪非道な村長と、あの暗殺者のような目をした料理人! 私が必ず不正の証拠を掴み……リーザ殿下を、この地獄のような極貧生活から救い出してみせるッ!!)

完全に的外れな正義感に燃え上がるユリウス。

だが、彼が「諸悪の根源(悪魔の料理人)」と睨んだ男の『飯』によって、自らのエリートのプライドと胃袋が完膚なきまでに破壊されることになるとは、この時のユリウスは知る由もなかったのである。

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