EP 18
クランクアップと、豪華海鮮の打ち上げ(終わらない嘘)
「素晴らしい……! 本当に素晴らしい映画だったわ!!」
ポポロ村の広場(※ルナの魔法で半壊状態)に、女王リヴァイアサンの歓喜の声が響き渡った。
彼女は真珠の玉座から立ち上がり、泥とパン屑まみれのリーザを力強く抱きしめた。
「ママ、お前を誇りに思います! これほどの過酷な撮影を乗り切り、魂の演技を見せたお前は、間違いなく世界一の女優よ!」
「あ、あはは……。ありがとう、ママ……(※鳩に突かれた傷が痛い)」
リーザが引きつった笑みを浮かべる中、リヴァイアサンはクルリと振り返り、メガホンを持ったままのリアンに向かって深く頭を下げた。
「リアン監督! 我が娘の才能を引き出してくださり、心から感謝いたします。これは、映画スタッフの皆様への『差し入れ』です。どうかお受け取りください!」
女王が指を鳴らすと、魚人兵士たちがズラリと進み出た。
彼らが置いていったのは、巨大なシャコ貝に詰め込まれた『超特大の極上霜降りマグロ』、『タラバガニ(魔物サイズ)』、『最高級ウニとイクラの樽』。
そして極めつけは、映画の制作資金として置かれた『純金の延べ棒(追加で100キロ)』であった。
「……ふん。まぁ、悪くねぇ差し入れだ」
リアンはマグロのサシ(脂)の入り具合を確認し、満足げに口角を上げた。
「それでは皆様! 映画の『完成』を、海の底から楽しみにしておりますわ! シーラン最大の海中シアターを貸し切って、国民全員で鑑賞いたしますからね!!」
ザザァァァァァンッ!!
リヴァイアサンは満面の笑みでそう言い残すと、数万の深海軍勢と共に、引く波に乗ってポポロ村から去っていった。
空を覆っていた暗雲が晴れ、平和な太陽の光が村に降り注ぐ。
ポポロ村は、水没の危機を見事に回避したのである。
◇ ◇ ◇
その夜。ポポロ屋の店内は、盛大な『クランクアップ(撮影終了)の打ち上げ』の熱気に包まれていた。
「ウオォォォォ!! 美味ぇぇぇ!! 生きてて良かったァァァ!!」
「マグロの脂が……! 舌の上で溶けるんじゃあ……ッ!!」
ルナの重力魔法でペシャンコになっていたフェンリルとデュアダロスが、涙を流しながら『深海魔物・特上海鮮丼』をガツガツとかき込んでいる。
リアンの包丁捌きによって極限まで旨味を引き出された大トロ、濃厚なウニ、そして弾力抜群のクラーケンの刺身が、丼の上で宝石のように輝いていた。
「んん~っ♡ やっぱりリアンさんのご飯は最高ね!」
キャルルがイクラを頬張り、ルナも「カニさん、甘いですぅ☆」とご満悦である。
そして、店の隅のテーブル。
今日の主役であるリーザは、特大の海鮮丼を前にして、両手を合わせてボロボロと泣いていた。
「うぅっ……! 本物の……本物のお魚よぉ……! サバ缶じゃない、鳩の餌でもない、温かいご飯がこんなに美味しいなんてぇぇ……!」
リーザはマグロを一口食べるごとに、「生きててよかった」と嗚咽を漏らした。
圧倒的な暴力(母)と理不尽(監督)を乗り越え、彼女はようやく「極貧」からの(一時的な)解放を味わっていたのだ。
「……まぁ、よく頑張ったな、大女優。アラ汁のおかわりもあるぞ」
リアンが呆れながらも、温かいアラ汁の椀をリーザの前にコトッと置いた。
「リアン監督ぅぅ! ありがとうございますぅ!!」
リーザがアラ汁をすすり、至福の表情で息を吐き出した。
誰もが笑顔。誰もが満腹。ポポロ村に、完全なるハッピーエンドが訪れた……かに見えた。
その時だった。
食後の温かいお茶をすすっていたキャルルが、ふと、何気ないトーンで口を開いた。
「……で、リーザ」
「んふぅ? にゃに、キャルル?」
口の周りにご飯粒をつけたリーザが首を傾げる。キャルルのウサギ耳が、ピクリと動いた。
「あんたのお母様、帰る前に『完成を楽しみにしてる』『国民全員で鑑賞する』って言ってたわよね」
「……うん!」
「今日私たちが撮ったのって……『フェンリルがルナに燃やされて、デュアダロスと一緒にペシャンコになって、最後にアンタが鳩の餌を食う』っていう、意味不明な映像の切れ端だけよね?」
「…………」
ポポロ屋の店内から、スッと音が消えた。
フェンリルがマグロを噛むのをやめ、デュアダロスがイクラを箸から落とした。
「……あの、リアン監督?」
リーザが、ガタガタと震える首を回して、リアンを見上げた。
「……ん? あぁ、俺はただの『ロケ弁(海鮮丼)のケータリング業者』だ。監督の仕事は今日でクランクアップしたからな。後の編集(完成品)はお前らで勝手にやれ。俺はもう寝る」
リアンはエプロンを外し、一切の責任を放棄して厨房の奥へと消えていった。
「えっ」
残されたのは、圧倒的な映像素材の不足と、支離滅裂なシナリオ。
そして、「大作映画の完成」を海の底で今か今かと待ちわびている、絶対に怒らせてはいけない女王。
「……あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
極上の海鮮丼の味が、一瞬にしてリーザの口の中から消え去った。
ルナミス帝国の夜空に、極貧アイドルの絶望の悲鳴がどこまでも響き渡る。
彼女たちの「終わらない映画制作(という名の地獄)」は、まだ始まったばかりなのであった。




