EP 9
平和(?)な結末と、神々のマシマシ
天界エリート討伐隊が「豚神屋」の凶悪な一杯の前に陥落してから、数週間後。
ポポロ村は、かつてないほどの平和と……とてつもないニンニクの匂いに包まれていた。
「へいらっしゃい!! 食券機はあっちだ、順番に並べよ!」
ポポロ屋(すっかり『豚神屋』の暖簾が定着しつつある)の入り口で、竜人のイグニスが汗だくになりながら客を捌いていた。
店の外には、ルナミス帝国の国境警備兵、ワイズ皇国の魔族、そして……すっかり薄汚れた純白の羽を揺らす「天使族」と「エリート討伐隊」の面々が、仲良く肩を並べて大行列を作っている。
彼らは天界へ帰ることを完全に放棄し、ポポロ村の裏山にテントを張り、太陽芋の畑仕事を手伝うことで『日々のラーメン代』を稼ぐという、極めて健全かつ堕落した生活を送っていた。
ガラッ。
店内のカウンター席の奥。かつて天界最強の戦乙女と謳われたヴァルキュリアは、ルチアナとお揃いの『ヨレヨレの芋ジャージ』を着込み、完全にリラックスしきった顔で新聞(帝国のパチンコ新台情報)を読んでいた。
「あー、リアンさん。私、いつもの。……『全マシマシのカラメ、アブラ塊で』」
「あいよ。……お前、完全にこの村の主みたいになってんな」
リアンが呆れながら極太麺をテボ(茹でザル)に投げ込む。
「仕方ないじゃないですかぁ。天界の無味乾燥な神饌なんて、もう私の胃袋は受け付けない体になっちゃったんですから。……ルチアナ様、そこのマヨネーズ取ってください」
「はいはい。あんたもすっかり立派な『ジロリアン(駄目天使)』ねぇ〜」
ルチアナとヴァルキュリアが、ゲラゲラと笑い合いながら特大ラーメンに喰らいつく。かつての風紀委員長とサボり魔の確執は、豚の脂という強固な接着剤によって完全に修復(?)されていた。
「ふん。我も一杯もらおうか。……あの下品な味が、三日も食べないと無性に恋しくなってな」
屋台を引いてきた竜王デュークも、すっかり常連顔でカウンターに座った。
相変わらず「これはエサだ」と文句を言いつつも、注文の呪文は誰よりも流暢である。
そんなカオス極まる店内の奥、洗い場からは、悲壮感漂う男たちの会話が聞こえてくる。
「……クソッ。俺様もパチンコ行きてぇ。あの『確変』の脳汁が忘れられねぇ……!」
「文句を言うなニート狼。手を動かせ。あと百枚皿を洗えば、リアンから『まかないの豚神屋ラーメン』が支給されるんじゃ。ワシは今日こそ、ニンニクを限界までマシてやるんじゃ……!」
フェンリルとデュアダロスが、ゴム手袋をはめた手で必死にジョッキを磨いている。神と邪神が、一杯のラーメンのために労働の喜びに目覚めていた。
「リアン君、お水おかわり入りましたぁ!」
「はぁい、こちらに特製クラフトコーラもお持ちしますねぇ☆」
キャルルとルナが、笑顔で店内を飛び回る。
その光景を見渡しながら、リアンは静かにエプロンの紐を締め直した。
「……ま、悪くねぇか」
元・裏社会のトップ暗殺者だった男は、小さく息を吐いて笑った。
神々も、天使も、魔族も、人間も。
全員が同じどんぶりを前にして、鼻水を垂らしながら麺をワシワシとすすっている。
こんなギトギトで下品な場所で、戦争や争いなど起きるはずもない。圧倒的なカロリーとニンニクの匂いが、世界に絶対的な『平和という名の抑止力』をもたらしていたのだ。
「よし! 麺あがったぞ! 次のお客様、ニンニク入れますか!?」
リアンの威勢の良い声が、今日もポポロ村の青空に響き渡る。
かくして、最強の料理人リアンと愉快な仲間たちの、ドタバタで美味しすぎる異世界スローライフ(?)は、これからも騒がしく続いていくのであった。




