EP 8
堕天使たちの行列と、特製クラフトコーラによる天界陥落
「……おいおい、なんだこの行列は」
翌日のお昼時。厨房から顔を出したリアンは、ポポロ屋(現在は一時的に『豚神屋』の暖簾を掲げている)の外を見て呆れ返った。
「列を乱さないでください! 食券……じゃなかった、注文は並んでからですよ!」
「あぁん? こちとらルナミス帝国のパチンコ屋で開店前から並ぶのには慣れてんだよ! 早くその『アブラマシマシ』ってヤツを食わせろ!」
店の外にズラリと並んでいるのは、純白の羽を生やした数十人の「天使族」たちだった。
ルチアナの影響で下界(帝国)の娯楽にハマり、天界に帰らなくなった不良天使たちである。彼女らは「あの厳格なヴァルキュリア様が、謎のどんぶりに屈して号泣しながら麺をすすっている」という噂を嗅ぎつけ、天界の威厳もクソもなく大挙して押し寄せてきたのだ。
「仕方ねぇ。全員に豚の洗礼を浴びせてやる。イグニス! 麺上げのペースを上げるぞ!」
「了解ッス、リアンはん! もう腕がパンパンッス!」
次々と供される、暴力的なカロリーの山。
天使たちは一口食べるなり、神聖なオーラを『濃厚な豚骨醤油とニンニクの匂い』へと上書きされ、次々と涙を流して堕落(ジロリアン化)していった。
その、ポポロ村が完全な「背脂の園」と化していた、まさにその時である。
ゴゴゴゴゴゴッ……!!
突如として空が割れ、幾筋もの荘厳な光の柱が豚神屋の前に突き刺さった。
『堕落せし天使どもよ!! 神聖なる掟を破り、下界の泥水をすするとは何事か!!』
光の中から現れたのは、黄金の甲冑で全身を固め、一切の感情を持たない冷徹な表情を浮かべた『天界エリート討伐隊』の精鋭たちだった。
「ひぃっ!? と、討伐隊の連中だ! 連れ戻しに来たんだ!」
パチンコ帰りだった天使たちが、どんぶりを抱えたまま悲鳴を上げる。
討伐隊の隊長が、冷酷な目で店内を睨みつけた。
『風紀委員長であるヴァルキュリア様まで音信不通とは……。もはやこの村は、天界の敵! 全員を拘束し、天界の裁きに……』
「うるせぇな」
隊長の厳粛な宣言を、厨房からの低く冷たい声が遮った。
「店の入り口を塞ぐな。営業妨害だ。……捕まえるにしろ何にしろ、まずは『コレ』を飲んで落ち着け」
ドンッ! ドンッ!
リアンが討伐隊の目の前に叩きつけたのは、氷がたっぷり入った巨大なジョッキだった。
中には、シュワシュワと炭酸が弾ける、深い琥珀色の液体が満たされている。
『なんだこれは。我らに毒でも盛る気か』
「バカ言え。極上の**『特製クラフトコーラ』**だ」
リアンはニヤリと笑った。
「数種類のスパイスと柑橘類、そしてポポロ村特産の太陽芋から抽出した蜜をブレンドして炭酸で割った。豚骨と背脂でギトギトになった胃袋と脳みそを、一撃でリセットする魔法の飲み物だ」
『……ふん。下界の泥水など……』
隊長はそう吐き捨てながらも、強烈なニンニクの匂いに当てられて喉が渇いていたのか、ジョッキを手に取り、一口飲んだ。
『…………ッ!?』
討伐隊長の黄金の瞳が、限界まで見開かれた。
ただの甘い飲み物ではない。カルダモンやクローブの複雑で鮮烈なスパイスの香りが鼻腔を突き抜け、柑橘の爽やかな酸味と強炭酸が、脳天をガツンと殴りつける。
『な、なんだこの清涼感は……! 口の中がさっぱりとして、不思議と……とてつもなく腹が減ってきたぞ……!?』
「だろ? 胃袋が整ったところで、メインディッシュだ」
リアンがカウンター越しに突き出したのは、討伐隊の人数分用意された、限界まで背脂とニンニクが盛られた『豚神屋ラーメン・特大』だった。
「食わねぇなら帰れ。食うなら……呪文を唱えろ」
クラフトコーラによって完全に胃袋の「準備」をさせられてしまった討伐隊長は、震える手で箸を握りしめ、そして……天を仰いで泣き叫んだ。
『……ヤ、ヤサイマシマシアブラカラメ……ッ!! ニンニクもだァァァ!!!』
「あいよ!!」
かくして、天界最後の希望であった「エリート討伐隊」は、特製クラフトコーラと二郎系ラーメンの『究極のジャンクコンボ』の前に一瞬で陥落。
ポポロ屋の周りには、黄金の甲冑をギトギトに汚しながら麺をワシワシとすする、哀れで幸せな天使たちの行列がどこまでも続くのであった。




