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EP 14

「魔公爵の胃痛と、闇ブローカー女神の影」

ワイズ皇国、財務局の奥に位置する豪奢な執務室。

分厚い絨毯の上に、ただの「その辺で拾ってきたような石ころ」が山のように積まれていた。

「……話を聞こうか? ゴルドーよ」

執務机に深く腰掛け、冷たい眼差しを見下ろしているのは、魔族の頂点に連なる実力者――ルーベンス魔公爵だった。

「ル、ルーベンス魔公爵様! わ、私は……そのっ!」

先陣切ってポポロ村へ乗り込んだはずの特別監査官ゴルドーは、今や顔面を土気色にして床に這いつくばっていた。

「貴様はポポロ村から、莫大な税を現金で取り立てて来たのであろう?」

「は、はい……! 確かにこの目で、黄金の山を受け取ったはずで……!」

ルーベンスは足元の石ころを革靴のつま先で軽く弾いた。

カラカラと、マヌケな音が執務室に響く。

「なんだ? これは」

「い、いや! その、ワシは確かに受け取って、金庫に厳重に……!」

「話にならんな」

ルーベンスの低い声が、ゴルドーの弁明を冷酷に遮った。

「貴様は使い込みでもしたのか? それとも幻覚でも見ていたのか? いずれにせよ、我ら魔族の掟と皇国の法を……随分と舐められた物だ」

ルーベンスは顎でしゃくった。

「連れて行け」

「ハッ!」

控えていた魔族の兵士たちが、ゴルドーの両脇をガッチリと固める。

「お、お助け下さい! ルーベンス様ああぁぁぁ……!!」

ゴルドーの惨めな絶叫が廊下の奥へと消えていく。

執務室に再び静寂が戻ると、ルーベンスは大きく息を吐き、ドカッと背もたれに体重を預けた。

「……やれやれ」

ルーベンスは胸元から、見慣れた赤と白の箱――『マルボロ』を取り出し、一本咥えて指先の魔力で火を点けた。

紫煙を深く吸い込み、天井に向かってゆっくりと吐き出す。

冷酷な魔公爵の仮面が剥がれ、中間管理職特有の「重度の胃痛を抱えた男」の顔になった。

「ったくよぉ……。トップである女魔王のラスティア様は、仕事もせずにルチアナと連日飲み明かしてるし、現場の事にはこれっぽっちも興味ねぇし……あー、腹いてぇわ」

ルーベンスはこめかみを揉んだ。

「だいたい、ゴルドーのバカが。ポポロ村に武力行使だの戦争だのふっかけやがって。もし国境が封鎖なんて事態になってみろ。……俺が週末に楽しみにしてる、ルナミス帝国の競馬場に行けなくなるだろうが!」

魔公爵の最大の怒りの理由は、税の使い込みでも魔族の威信でもなく、「週末の娯楽の危機」だった。

「馬鹿が……。あそこの競馬場の近くにある、キタナシュランな飯屋の『油ぎった焼き飯』が食えなくなるじゃねぇか。あのラードのコクと、パラパラの米……あれがないと俺の一週間は始まらねぇんだよ」

さらに、ルーベンスには絶対にポポロ村に手を出せない「裏の理由」があった。

彼は手元のマルボロの箱を忌々しそうに見つめる。

「それに……ポポロ村に侵攻なんてしたら、あのルチアナからマルボロの供給を止められる……」

ルーベンスはブルッと身震いした。

「あいつ、マジで闇ブローカーすぎんだろ……。地球の嗜好品で、魔族の幹部連中の弱みを完全に握りやがって。今やウチの軍部、あの駄目女神の機嫌一つで崩壊するぞ……」

創造神ルチアナは、魔王軍のインフラ(タバコやソシャゲの課金カードなど)を牛耳る、絶対的な裏の支配者となっていたのだ。

「……まぁいい」

ルーベンスはタバコを灰皿で揉み消し、不敵に笑った。

「これで、戦争を煽っていた過激派のゴルドーは消えた。これからは、平和と娯楽(競馬)を愛する穏健派の俺が幅を利かせるようになるぜ。……さて、今週末のメインレースの予想でもするか」

魔族の恐るべき陰謀は、ルチアナの密輸品とリアンたちの料理によって、完全に骨抜きにされているのであった。

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