EP 13
「強欲監査官の来訪と、笑顔の幻覚納税」
「開けろ! ワイズ皇国財務局、特別監査官のゴルドーである!!」
ドカッ!と乱暴に扉が蹴り開けられ、村長宅に踏み込んできたのは、たっぷりと脂の乗った腹を揺らす、いかにも強欲そうな男だった。
ゴルドー監査官は、キャルルたちを見下ろして嫌悪感も露わに鼻を鳴らした。
「ふん。辺境の小汚いウサギ村長め。貴様らのカジノや謎の弁当屋が、不当に莫大な利益を上げているという報告が入っているぞ!」
「ふ、不当だなんて……! 私たちはちゃんと正当な商売をして……」
「黙れ! 我がワイズ皇国の国境近くで商売をする以上、莫大な『特別環境保全税』を納める義務がある! 噂に聞く月商3億円……その8割、2億4千万円を今すぐここに現金で出せ!!」
ゴルドーがバンッ!と分厚い徴税令状を机に叩きつけた。
完全に言いがかりの、ヤクザ顔負けのぼったくりである。
「なっ……8割!? そんなの横暴や! 国を跨いでの二重、三重課税の法律違反やで!」
「黙れ猫耳商人! 払えぬと言うなら、今すぐ軍を呼んでこの村を差し押さえるぞ!」
ニャングルが牙を剥くが、ゴルドーは勝ち誇ったように笑う。
キャルルは顔面蒼白になり、リアンは静かにエプロンの下で『銃口剣』の柄に手をかけた。
(……面倒だ。ここで首を落として、裏山の肥料にするか?)
元暗殺者のリアンが、国家との全面戦争も辞さない冷酷な殺意を練り上げようとした、その時だった。
「あらあら〜。監査官さん、遠いところをご苦労様ですぅ☆」
緊迫した空気を読まない、間延びした声。
ルナが、両手で可愛らしい『小さな植木鉢』を抱えながらトテトテと歩み寄ってきた。
「なんだ貴様は、エルフの小娘! 下がれ!」
「まあまあ。そんなに怒ると血圧が上がっちゃいますよぉ。はい、これ、ポポロ村からの歓迎のお花ですぅ」
ルナが差し出した植木鉢には、極彩色に毒々しくマーブル模様を描く、見たこともない大きな花が咲いていた。
そして、その花からプシュゥゥゥ……と、ピンク色の甘い煙が吹き出した。
「ん? なんだこの匂いは……むっ?」
ゴルドーがその煙を吸い込んだ瞬間。
彼のギョロリとした目が、一瞬にして虚ろになり、だらしない笑顔へと変わった。
「あ……あへぇ……?」
ルナが持ち出したのは、世界樹の根元にしか生えない『極大幻覚植物・ハッピードリーム草』である。
吸い込んだ者に、脳が焼き切れるほどの「自分の一番都合の良い幻覚」を見せる危険薬草だ。
「さぁさぁ、監査官さん。こちらが税金の2億4千万円分の金貨の山ですぅ! ほら、キラキラしてますよぉ?」
「ウヒョヒョヒョ……! お、黄金の山じゃあ〜! ワシの手柄じゃあ〜!」
ゴルドーは、何もない虚空に向かって両手を広げ、ヨダレを垂らしながら抱きつく真似をしている。
リアンとニャングル、そしてキャルルは、その狂気の光景にドン引きして固まっていた。
「じゃあ監査官さん。税金は全額、たしかに受け取ったって、この紙にサインと判子をお願いしますねぇ☆」
「おうよ! 任せろぉ〜!」
ルナが差し出した『納税完了の公式証明書』に、ゴルドーは幻覚を見たまま、スラスラと流れるような筆記体で完璧なサインを書き入れ、ワイズ皇国財務局の公印をバンッ!と力強く押した。
「はいっ! ありがとうございますぅ! これでポポロ村はクリーンな優良納税村ですねっ!」
ルナは完璧な証明書をキャルルに手渡すと、今度は自分の杖を軽く振った。
えいのえいのえいっ☆
床の石ころが、まばゆい光を放って『偽造金貨』へと変化する。
「はい、監査官さん! これ、お持ち帰りの税金ですぅ♡」
ルナは、ずっしりと重い偽金の詰まった麻袋を、ゴルドーの腕に押し付けた。
(※3日後にはただの石ころに戻る代物である)
「ウヒョヒョ……重い! たまらん! ワイズ皇国万歳じゃあ〜! また来るぞぉ〜!」
ゴルドーは偽金の袋を大事そうに抱き抱え、幻覚のお花畑をスキップするような足取りで、ポポロ村を上機嫌で去っていった。
バタン。
村長宅の扉が閉まり、静寂が戻る。
「……」
「……」
残されたキャルル、ニャングル、そしてリアンの三人は、未だに笑顔で手を振っているルナを、恐怖の眼差しで見つめていた。
「……なぁ、キャルル」
「なに、リアン君……」
「帝国でも皇国でもない。……この村で一番怒らせちゃいけねぇのは、間違いなくコイツ(ルナ)だな」
「同感でっせ……。ワイ、絶対ルナはんには逆らわんとこ……」
ヤクザ顔負けの強欲役人を、幻覚と偽造通貨で完全に手玉に取った天然エルフ。
ポポロ村の平和は、今日もルナの(コンプライアンス的に完全アウトな)魔法によって守られたのであった。




