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EP 15

「満月の狂気フルムーン・ラビットと、音速の村長」

ポポロ屋の営業も終わり、静かな夜が訪れようとしていた頃。

「ん?」

リアンが厨房の片付けの手を止めた。

外から、ただならぬ気配と物音が聞こえてきたのだ。

バタン! バタン! ガチャン!

次々と、ポポロ村の家々の扉が閉まり、窓には厳重な板が打ち付けられていく。

まるで、災害の直撃を恐れてシェルターに引きこもるかのような異常な光景だった。

「どうしたんだ? 皆?」

イグニスが不思議そうに首を傾げる。

「まだ、寝るには早いですよ?」

ルナもキョトンとしている。

しかし、ただ一人、ポポロ村の「真の恐ろしさ」を熟知している行商人だけは違った。

「……ハッ!」

ニャングルが夜空を見上げ、その顔から一瞬で血の気が引いた。

雲が晴れ、夜空に浮かび上がったのは、不気味なほど大きく、そして白く輝く円。

「ま……満月や! ちゅ~事は……!!」

ニャングルが叫びかけた、その時だった。

「アハハハ☆ 皆ぁ~、盛り上がってるぅ?」

ポポロ屋の屋根の上から、場違いなほどハイテンションでポップな声が降ってきた。

そこに立っていたのは、村長のキャルルだ。

だが、その姿は普段の温厚な彼女とは全く異なっていた。

つぶらな瞳はルビーのように紅く発光し、全身からは銀色の闘気オーラが凄まじい密度で立ち昇っている。

ウサギの耳はアンテナのようにピンと張り詰め、周囲の空気がビリビリと震えていた。

「キャルル……?」

リアンが怪訝な顔で声をかける。

「あかん!? 皆、逃げるんや! 満月の時のキャルルは……いや、月兎族ムーン・ラビットは……死ぬでぇぇ!!」

ニャングルが涙目で絶叫した。

しかし、その悲鳴を聞いたキャルルの耳がピクリと動く。

「うわあああん! ニャングルがイジメるぅ! 月に代わって……流星脚!!」

ドンッ!!

屋根の瓦が粉砕されたかと思うと、キャルルの姿が完全に「消えた」。

初速、0からトップスピードへの到達時間、ほぼゼロ。

「ヒッ!?」

ニャングルが悲鳴を上げる間もなく、銀色の閃光が彼の腹部に突き刺さった。

計算上の威力、実に33,750ジュール。

小型自動車が猛スピードで激突したに等しい、殺意100%の飛び蹴りである。

ドガガガアアアンン!!

「ひぃぃぃ……(ガクッ)」

ニャングルはポポロ屋の壁をぶち抜き、はるか後方の畑まで吹き飛んで白目を剥いた。完全に即死レベルの一撃だ。

「あぁっ! ケガした? じゃあ、回復ぅ!」

キャルルは一瞬でニャングルの横にワープすると、月兎族の秘められた治癒のチートを解放した。

ボロボロになったニャングルの体が、光に包まれて一瞬で全回復する。

「……はっ! ワイは生きて……ヒィィィ! また蹴られるぅ!」

ニャングルは回復した傍から恐怖で震え上がった。

殺して、蘇生させて、また遊ぶ。満月の月兎族は、加減を知らない純粋な狂戦士バーサーカーなのだ。

「どないなっとんねん、おい。兎、調子にのんなよ」

ここで、洗い場から顔を出した邪神デュアダロスが、極道の凄みを利かせて前に出た。

「ワシが相手したるわ。その銀色の闘気ごと、次元の彼方へ……」

「わぁっ! 遊んでくれるの~☆」

デュアダロスが仕込み刀を抜くより早く、キャルルの口角が三日月のように吊り上がった。

彼女の足元で、アスファルトが爆発するように弾け飛ぶ。

「む、無理だ……!」

リアンは元・暗殺者の動体視力で必死に彼女を追おうとした。

「キャルルは、100mを5秒台で走り、ジャンプ力は20mだ……。どんな奴でも、あの動きを完全に捉えられるか……!?」

「違いまっせ……リアンはん……」

畑から這い出してきたニャングルが、恐怖のあまり胃液を吐き出しながら(オロロロロ……)首を振った。

「それは、通常時の話や……。月兎族は、満月時にはリミッターが外れて……『音速』を超えますねん。だ、だから蹴りの威力は……」

ドッバァァァァァン!!

ニャングルの言葉を証明するかのように、ソニックブーム(衝撃波)がポポロ村を吹き荒れた。

「げふぁっ!?」

邪神デュアダロスが、音速のウサギのタックルを食らい、アルマーニのスーツを破きながら夜空の星へと変えられていく。

「……そ、総員撤退!! 店の中に入ってバリケードを築け!!」

リアンは即座にプライドを捨て、イグニスとルナの首根っこを掴んでポポロ屋の中へと退避した。

神や邪神ですら手玉に取るリアンも、本能が「今のキャルルには関わるな」と警鐘を鳴らしていたのだ。

「え~? つまんな~い! 誰も相手してくれないの~?」

バタン!と閉ざされたポポロ屋の強固な扉を前に、キャルルは頬を膨らませた。

紅く光る瞳が、夜の闇を見渡す。

そして、はるか遠く、国境の向こう側へと視線を向けた。

「そうだ! ワイズ皇国の人達と遊んでこよぉっと☆」

キャルルは無邪気に笑い、脚に闘気を溜め込んだ。

ドゴォォォォン!!

大地を蹴り割る轟音と共に、銀色の流星が国境を越えてワイズ皇国方面へと飛び去っていく。

翌朝、ワイズ皇国の軍事施設が「謎の銀色の流星(笑顔のウサギ)」によって壊滅的な被害を受け、魔公爵ルーベンスの胃痛がさらにマッハで加速することになるのだが……それはまた別の話である。

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