EP 7
「カジノ・ポポロ計画と、ノリノリの壺振り邪神」
「賭博場を開きたい……?」
キャルルがウサギの耳をピンと立て、警戒心を露わにした。
「そうでんねん、村長。丁半博打や!」
ニャングルはニヤニヤと笑いながら、カチャカチャと算盤を弾く。
「う~ん……賭け事って、なんか恐そう。借金取りとか、怖いお兄さんたちが村をウロウロするのは嫌よ」
「そんな先入観もたんと! きちんとルールを設けて、管理を徹底すれば安全な大人の娯楽になれるわ!」
ニャングルは身を乗り出し、熱弁を振るう。
「考えてもみぃ。ここはルナミス帝国、ワイズ皇国、レオンハート獣人王国の3カ国が交わる交通の要衝でっせ! ただの『美味い飯屋がある村』から、もう一歩踏み込んだ『目玉の観光資源』が無いと損や!」
「観光資源……」
「せや! 国境警備でストレスの溜まった兵隊さんたちから、給料を綺麗に吸い上げる……いや、楽しんでお金を使ってもらうための『カジノ・ポポロ』計画や!」
キャルルは腕組みをして唸った。
確かに村の財政が潤うのは村長として魅力的だが、治安の悪化は避けたい。
「……治安の維持はどうする気だ、猫」
厨房の奥から、リアンが低い声で口を挟んだ。
手元では、夕食用の『太陽芋のポテトサラダ』をマッシュしている。
「いくらルールを設けても、ギャンブルには必ずトラブルが付きまとう。イカサマ、借金の踏み倒し、客同士の喧嘩……。俺の店に血の匂いを持ち込むようなら、その計画ごと叩き斬るぞ」
リアンの冷たい視線に、ニャングルは一瞬ヒビったが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「ふっふっふ……リアンはん、ご心配なく。『絶対に誰も逆らえない、最強の用心棒兼・胴元』なら、すでにウチの店に居りまっせ」
ニャングルがビシッと指を差した先。
厨房の片隅の洗い場。
そこには、最高級のアルマーニスーツの上に『フリフリのピンクのエプロン』を身につけ、ゴム手袋をして山のような皿を洗っている男がいた。
「……あ?」
インテリヤクザ邪神・デュアダロスである。
無銭飲食のツケを払うため、絶賛バイト中だ。
「このおっさん、『極道』の設定なんやろ? 見た目も怖いし、魔力もそこそこ(神レベル)ある! 『壺振り(サイコロを振る役)』にはピッタリやんけ!」
「……壺振りだと?」
デュアダロスの動きが、ピタリと止まった。
彼は泡だらけの皿を置き、ゆっくりと振り返った。
「ワシに……あの任侠映画で見た、畳の上で上半身裸になって、壺を振って『丁半駒揃いました』って言うアレをやれと……?」
「せや! あんた、ヤクザ映画マニアなんやろ!? これ以上ない適役やないか!」
ニャングルの言葉に、デュアダロスの瞳に、かつてないほどの熱い光が宿った。
インテリヤクザとしてのプライド、そして何より「任侠ロマン」への強い憧れが爆発する。
「や、やる……!!」
デュアダロスはゴム手袋を勢いよくむしり取った。
「やらせてくだせぇ!! ワシ、ずっとアレをやってみたかったんじゃ!! 地下ダンジョンで一人でサイコロ振って練習してたから、腕には自信がある!!」
邪神が、目をキラキラさせて懇願している。
「……アホらし」
リアンは深いため息をついた。
だが、デュアダロスがこのまま皿洗いを続けても、借金(神々の宴会代+超高級ワイン代で30万超え)を返し終わるまで何年かかるか分からない。
「……まぁ、借金返済の足しになるなら、やらせてみるか。客のトラブルも、コイツの『指パッチン(塵化)』で黙らせられるしな」
「ほんまっすか、リアンはん!?」
デュアダロスが歓喜の声を上げた。
だが、リアンは包丁の峰をデュアダロスの喉元にピタリと当てた。
「ただし。お前がイカサマをしたり、売上をごまかしたりしたら……その壺ごとお前の頭を叩き割るからな。わかったな?」
「ヒッ……! わ、わかっておりやす!!」
「よっしゃ! ほな決まりや!」
ニャングルが両手を叩いて喜ぶ。
「会場はポポロ屋の裏にテントを張って作るで! リアンはんは『ギャンブル飯(カツ丼や串カツ)』の準備をお願いしまっさ! 賭博場には美味いジャンクフードが必須やからな!」
こうして、ポポロ村に新たな(そして絶対的にヤバい)娯楽施設が誕生することになった。
「カジノ・ポポロ(丁半博打会場)」。
胴元は最恐の邪神。
用心棒は元・裏社会の伝説の暗殺者。
そして経営は、がめつい猫耳商人。
これほど客にとって「勝てば天国、イカサマすれば地獄」なギャンブル場が、未だかつてあっただろうか。
各国の兵士たちの財布が、本格的に絞り尽くされようとしていた。




