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EP 8

「開帳カジノ・ポポロと、絶対遵守の『二度漬け禁止』」

「さぁさぁ! 張った張った! 丁か、半か! 迷うた奴から身包み剥がれるのがこの鉄火場カジノ・ポポロやで!!」

拡声器を持ったニャングルが、ダミ声を張り上げる。

テントの中には、ルナミス帝国、ワイズ皇国、レオンハート獣人王国の国境警備兵たちが、国籍の壁を越えてギッシリと詰めかけていた。彼らの目は血走り、手には給料袋が握られている。

そして、その熱狂の中心。

緋色の毛氈もうせんが敷かれた台の前に、胡座をかいて座る一人の男。

「……」

アルマーニのジャケットとシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になったインテリヤクザ邪神・デュアダロスである。

鍛え上げられた肉体。その背中から肩にかけて、見事な『昇り龍の刺青』がヌメッとした汗をかいて照明に鈍く光っている。

(……最高だ)

デュアダロスは、内心で打ち震えていた。

地下ダンジョンで何百年も夢見た、ヤクザ映画のワンシーン。

周囲を取り囲む荒くれ者たち。そして、自分の手の中にある竹の壺と、二つのサイコロ。

カラカラカラッ……!

カァァァン!!

デュアダロスは芸術的な手首のスナップで壺を振り、台に叩きつけた。

「……丁半駒揃いやした。勝負!!」

ドスの効いた、完璧な壺振りの発声。

パッと壺が開かれる。

「うおおおおお!! 丁だぁぁぁ!!」

「クソッ! 今月もカミさんに怒られるぅぅ!」

兵士たちの悲喜交々がテントを揺らす。

デュアダロスは静かに目を閉じ、幸福を噛み締めていた。

(これだ……ワシが求めていた娑婆しゃばの空気は……!)

◇ ◇ ◇

「おい。博打に夢中になるのは勝手だが、腹は減ってないか?」

テントの入り口から、巨大な銀盆を掲げたリアンが現れた。

その瞬間、賭博場のむせ返るような熱気に、強烈な『油とソースの暴力的な匂い』が混ざり合う。

「リアン大将! 待ってました!!」

「ギャンブルと言えば、それだよな!」

リアンがドンッと台の端に置いたのは、山盛りの『特製・串カツ盛り合わせ』と、キンキンに冷えた『ジョッキのエール(麦酒)』だった。

豚バラ、牛ヒレ、レンコン、うずらの卵、そしてポポロ村特産の甘い玉ねぎ。

細かいパン粉を薄く纏わせ、高温のラードでカラッと揚がった黄金色の串たち。

「うめぇぇぇ! サクサクだ! それに中の肉汁が凄ぇ!」

「このドロッとした黒いソース、甘辛くて最高だぜ! ビールが止まらん!」

負けた兵士も勝った兵士も、串カツに群がり、ビールを浴びるように飲む。

しかし、一人の獣人兵が、一口かじった串カツをもう一度ソースの容器に突っ込もうとした、その瞬間。

ドンッ!!

リアンの包丁が、獣人兵の指の数ミリ横の台に突き刺さった。

「……あ?」

リアンの目が、絶対零度の殺気を放っている。

「ルールを説明し忘れたな。ウチの串カツは、『ソースの二度漬け禁止』だ。もし衛生観念を無視して、かじった後の串を共有のソースに突っ込んだ奴がいたら……」

リアンは『銃口剣』をチャカッと鳴らした。

「……その腕ごと切り落として、次の串カツの具にするからな」

「ひぃぃぃぃ!! す、すんませんッ!!」

獣人兵は泡を吹いて土下座した。

カジノの胴元(邪神)よりも、厨房の主(元暗殺者)の方が圧倒的に恐ろしい空間である。

◇ ◇ ◇

その頃、賭博のテーブルの端っこで、身内同士の醜い争いが起きていた。

「よし! 俺様の今月の小遣い、全額『半』に賭けるぜ!!」

イグニスが鼻息を荒くして、なけなしの銀貨をドンと置いた。

「イグニス君……それ、キャルルちゃんから貰ったお小遣いでしょ? なくなったら今月、草しか食べられなくなるわよ?」

「うるせぇ! 男には勝負しなきゃならねぇ時があるんだよ!」

「あ、じゃあ私も参加しますぅ☆」

ルナがトテトテと歩み寄り、世界樹の杖を振った。

えいのえいのえいっ☆

台の上に、ジャラジャラと大量の『金貨の山』が生成される。

「私はこの金貨全部、『丁』に賭けますぅ!」

「おおおお!? なんだあのエルフの嬢ちゃん、大金持ちじゃねぇか!」

兵士たちがどよめく。

だが、壺振りのデュアダロスの『邪神の眼』は誤魔化せなかった。

「……おい、エルフの嬢ちゃん」

デュアダロスは鋭い眼光で、ルナの生成した金貨を睨みつけた。

「ワシの目は誤魔化せねぇぜ。その金貨……3日もすりゃあ石っころに戻る『魔法の偽造硬貨』じゃねぇか。極道の鉄火場に泥塗ろうってのか?」

デュアダロスの背中の龍が、怒りで微かに赤く発光する。

「アッ……バレちゃいました? てへぺろ☆」

ルナが可愛く舌を出した瞬間。

リアンの拳が、ルナとイグニス(ついでにニャングル)の脳天にクリーンヒットした。

ゴツンッ!!

「「「痛ぁぁぁい!!」」」

「身内でイカサマと散財してどうする。お前ら全員、店の裏で皿洗いしてこい」

リアンに首根っこを掴まれ、ズルズルと引きずられていくポンコツ三人組。

それを見送ったデュアダロスは、ふっと笑い、串カツを一本手に取った。

(……悪くねぇ。こんな騒がしい娑婆も、悪くねぇな)

邪神デュアダロスは、たっぷりとソースに漬けた(一度漬け)豚バラ串をかじり、満足げに壺を握り直した。

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