EP 23
「父、来襲。――ポポロ帝国建国のお知らせ」
数日後。
イグニスの手紙が『ゴルド郵便・超特急便(ドラゴン便)』によって実家に届いた、まさにその翌日のことだった。
ズシーン……ズシーン……!
ポポロ村の地面が、一定のリズムで大きく揺れ始めた。
コップの水が波紋を描き、棚の皿がカタカタと音を立てる。
「な、なんだ!? また地竜か!?」
リアンが厨房から顔を出し、外の様子を伺う。
そこへ、ニャングルが顔面蒼白で店に飛び込んできた。
「た、た、大変でっせー!! 村の入り口に、とんでもない行列が来とる!」
「行列? 客か?」
「ちゃうわ! 全身フルプレートメイルで武装した竜人族の一団や! 先頭の爺さん、『ワシはポポロ帝国の将軍イグニスの父、ドグラ・ドラグーンである! 息子の晴れ姿を見に来た!』って言うて門を破壊しよったで!」
「!!??」
店内にいたイグニスの顔から、血の気が引いた。
彼は泡を吹きながら、その場に崩れ落ちた。
「お、親父ぃぃぃ!? 早すぎるだろ! 暇なのかよあのクソ親父!」
「おいイグニス。どうすんだこれ。村の入り口からここまでは徒歩10分だぞ」
リアンが冷ややかに見下ろす。
嘘がバレれば、イグニスはただでは済まない。竜人の掟では「嘘つきは鱗を全部剥いで荒野に放置」だ。
イグニスはガバッと起き上がり、リアンの足にすがりついた。
「た、頼むリアン! キャルル! みんな! 今から10分間だけ、ここを『ポポロ帝国』にしてくれ!!」
「はぁ? バカかお前」
「無理に決まってるでしょ!」
キャルルも呆れ顔だ。
だが、イグニスは必死だった。涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしている。
「頼む! この通りだ! 親父にバレたら俺様は殺される! 一生皿洗いでも何でもするから! 『俺様=将軍』『リアン=皇帝』『キャルル=宰相』ってことにしてくれぇぇ!!」
その時、ルナがひょっこりと顔を出した。
「あら? 面白そうですわね☆ 帝国ごっこですか?」
ルナはニッコリと笑い、世界樹の杖を掲げた。
「じゃあ、舞台セットは私が作りますぅ! えいのえいのえいっ☆」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
ポポロ屋(木造平屋)を中心に、世界樹の根が爆発的に隆起した。
店が持ち上げられ、木々が複雑に絡み合い、瞬く間に『仮設・世界樹城』が形成されていく。
さらに、ルナは店の前の岩を指差した。
「そして~、イグニスさんの純金像でしたっけ? ――『物質変換』!」
カッ!!
ただの岩が、黄金の光を放ち始めた。
そこには、斧を掲げてドヤ顔をする**『純金製イグニス像(高さ5メートル)』**が爆誕していた。
「で、できちゃった……」
キャルルが口を開けて固まる。
「よし! 形にはなった!」
イグニスは立ち上がり、リアンにコックコートの上から『王冠(通販のパーティグッズ)』を被せた。
「リアン! お前は皇帝だ! 偉そうにしててくれ! 絶対に『いらっしゃいませ』とか言うなよ!」
「……チッ。貸し一つだからな」
リアンは仕方なく、厨房の椅子(玉座代わり)に座り、足を組んだ。
バンッ!!
その瞬間、城(店)の扉が蹴破られた。
「イグニスー!! 父が来たぞー!! どこだ我が息子よ!!」
現れたのは、身長3メートル近い巨漢の老竜人。
族長ドグラ・ドラグーン。その背後には、屈強な親衛隊がズラリと並んでいる。
ドグラは店内を見渡し、玉座に座るリアンと、その横に控えるイグニス(エプロンを脱ぎ捨てて斧を持った)を見た。
「おお……! これがお前の城か! そして、そちらにおわすのが……」
イグニスが一歩前に出る。
声が裏返りそうになるのを必死に抑えて。
「ち、父上! 遠路はるばるよく来たな! 紹介しよう! このお方こそが、我が主君にしてポポロ帝国の皇帝、リアン・フォン・クライン陛下であらせられる!!」
リアンは無言で、ドグラを見下ろした。
その目には、数々の修羅場を潜り抜けてきた「本物の強者の覇気」が宿っている。
演技ではない。元・裏社会の英雄の地が出ただけだ。
「……ほう」
ドグラが息を呑んだ。
「(なんと……ただ座っているだけでこの威圧感! 只者ではない! 息子が仕えるに値する器だ!)」
ドグラはガシャンと膝をつき、頭を垂れた。
「お初にお目にかかります、皇帝陛下! 愚息イグニスがお世話になっております!」
「……うむ。楽にしろ」
リアンが短く答える。
「イグニスは……まぁ、よくやっている。皿……いや、戦場での働きは見事だ」
「おお! お褒めの言葉、恐悦至極!」
ドグラは涙を流して感激した。
イグニスは背後で親指を立てて「グッジョブ!」のサインを送っている。
しかし、ここで終わるはずがなかった。
ドグラが顔を上げ、期待に満ちた目で言った。
「して、陛下。手紙にあった**『3万人の部下』**による軍事演習……ぜひ拝見しとうございます!」
「!!!」
イグニスが再び凍りついた。
3万人。
今ここにいるのは、リアン、キャルル、ルナ、ニャングル、イグニス。
あと、逃げ遅れたネタキャベツが1玉。
計5人と1玉だ。
「ど、どうするんや……!?」
ニャングルが小声で叫ぶ。
絶体絶命のピンチ。
その時、キャルル(宰相役)が一歩前に出た。
「ふふふ……ドグラ殿。あいにく正規軍は遠征中でして」
キャルルはニッコリと笑い、窓の外の畑を指差した。
「代わりと言ってはなんですが……我が国の誇る『特殊部隊・マンドラゴラ師団』の演習をお見せしましょう。――ルナ、やって!」
「は~い☆ みんな起きろ~!」
ルナが杖を振った。
ギャアアアアアアアアア!!!
畑から、数千本のニンジンマンドラが一斉に飛び出し、奇声を上げて走り回る地獄絵図が展開された。
「おおお! なんという統率の取れた(?)動き! これが帝国の力か!」
ドグラは勘違いして感動しているが、実際はただのパニックである。
ポポロ村の運命は、皮一枚で繋がっていた。




