EP 22
「拝啓、親父殿。俺様はポポロ帝国の将軍になりました(大嘘)」
ポポロ屋のアイドルタイム。
客足が落ち着いた店内の片隅で、イグニスが鬼気迫る形相でペンを走らせていた。
「……ッ、……よし」
彼は羊皮紙に向かい、まるで呪文を刻むかのように筆圧高く文字を書き連ねている。
「『拝啓、親父、お袋へ。……俺様は今、ポポロ帝国というすげぇデカい国で、将軍をやってる』」
イグニスが読み上げながら書くその内容に、横から覗き込んでいたキャルルが即座にツッコミを入れた。
「帝国? ここ、ポポロ村なんですけど」
キャルルはジト目で周囲を見回した。
のどかな田園風景。行き交うのは農作業中のオークや、散歩中の猫。どこをどう切り取っても「村」だ。
「うるせぇ! 心意気は帝国なんだよ!」
イグニスは聞く耳を持たず、さらに筆を進める。嘘八百のオンパレードだ。
「『……俺様の活躍は凄まじく、広場には純金で出来た俺様を讃える像も立ったぜ。村人……いや、国民たちは毎日、俺様の像に祈りを捧げている』」
「『……俺様の部下は3万人居て、俺様が直々に鍛えてる。毎日、大地を揺るがすような訓練の声が響いている』」
「おい」
カウンターの中でグラスを磨いていたリアンが、呆れ果てた声を出した。
「3万人って、この村の人口は300人も居ないんだが……」
「しかもその内訳、半分は畑のマンドラじゃない?」
キャルルが追撃する。
実際の「部下」といえば、畑の害虫駆除を手伝ってくれる近所の子供(3人)くらいのものだ。
「細かい数字を気にするな! 四捨五入すりゃ3万人だ!」
「どういう計算だ」
リアンはため息をついた。
この竜人、見栄のためなら算数すらねじ曲げる気だ。
「よし! 書けた!」
イグニスは満足げに手紙を封筒に入れ、封蝋を垂らして紋章を押した。
「ニャングル! これを『ゴルド郵便』で竜人の里まで送ってくれ! 特急便だ!」
「お、おう……」
呼ばれたニャングルは、受け取った手紙の重み(罪の重み)に少し引いていた。
「ええんか、これ……。親御さんが知ったら卒倒するで? 『うちの息子が知らん間に皇帝の側近になっとる』って……」
「いいんだよ! バレなきゃ真実だ!」
そこへ、話を聞いていたルナが、トテトテと歩み寄ってきた。
彼女はキラキラした瞳でイグニスを見上げる。
「イグニスさん? 純金の像が欲しかったんですか? 私、作りましょうか?」
ルナは世界樹の杖を構えた。
「石ころを金に変える魔法なら得意ですぅ☆ 3万人の部下も、ゴーレムで作れば……」
「バカ野郎!」
イグニスはルナの手を払いのけた。
「お前のは『3日で元に戻る偽金』じゃねぇか! そんなもんは詐欺だ! 俺様のプライドが許さん! いらん!」
その瞬間、店内全員(リアン、キャルル、ニャングル)の心が一つになった。
「「「詐欺師はお前だ!!!!」」」
「ぐっ……!?」
三方向からの正論パンチに、イグニスが怯む。
「う、うるさい! 手紙の中だけなら夢を見てもいいだろ!」
「夢を見るのは勝手だが、親が視察に来たらどうするんだ」
リアンの冷徹な指摘に、イグニスは一瞬凍りついたが、すぐに震える声で笑い飛ばした。
「ガ、ガハハ! 親父たちは里から出たことねぇから大丈夫だ! ……たぶん」
「知らんで、ほんまに……」
ニャングルは「宛先:竜人の里・族長ドグラ・ドラグーン様」と書かれた封筒を鞄にしまった。
この手紙が、後にポポロ村を揺るがす「最大級のトラブル」の火種になるとは、この時のイグニスはまだ知る由もなかったのである。




