EP 21
「地竜(Aランク)の朝ステーキ 〜共食い疑惑を添えて〜」
翌朝。
ポポロ屋の裏庭は、朝日を遮る巨大な山――昨夜仕留めた地竜の死体によって、薄暗かった。
「さぁさぁ、リアン! ドラゴンステーキを作ってくれよ! 腹が減って鱗が乾いちまう!」
イグニスが両手にナイフとフォークを握りしめ、地竜の太ももあたりをバンバン叩いている。
その横で、電卓(算盤)を弾いていたニャングルが血相を変えて飛びかかった。
「何を言うてんや! 地竜なんて宝の山やで! 肉は高級食材、皮は防具、牙は工芸品……血の一滴たりとも食わせへん! 全部売り払ってポポロ屋の運転資金にするんや!」
ニャングルはイグニスの尻尾を引っ張り、さらに叫んだ。
「そもそも、お前は『竜人』やろが! ドラゴンの親戚みたいなもんや! 共食いになるんとちゃうか!?」
「細かい事を気にすんなよ! 俺たちは進化した種族だ、野生のトカゲと一緒にするな!」
イグニスは鼻息荒く言い返した。
「それに、胃袋に入れば皆同じよ! 強い奴を食って強くなる、それが自然の摂理だ!」
「アホンダラぁ……! この野蛮人がぁ!」
ニャングルが頭を抱える。
そこへ、強力な援軍が現れた。
「まぁまぁ、ニャングル。ケチくさいこと言わないの」
キャルルがぴょこんと顔を出し、興味津々で地竜の肉質を突っついた。
「私も竜の肉なんて食べたことないし……食べてみたいわ。村長の特権で許可します!」
「うぅ……村長命令……」
さらに、寝癖がついたままのルナもふらふらと現れた。
「私も食べたいぃ……。あの地竜さん、魔力をたっぷり吸ってて、すごく美味しそうなオーラが出てますぅ……じゅるり」
「エルフが肉食でええんか!?」
最後に、主役が包丁を片手に現れた。
「俺は料理したい」
リアンの目は、完全に「職人」の目だった。
「Aランクの地竜なんて、帝都の三ツ星レストランでも扱えない代物だ。その筋繊維、脂の乗り具合……料理人として挑まないわけにはいかない」
「ぐぬぬぬぬ……!」
ニャングルは四面楚歌だった。
最強の村長、災害級エルフ、元公爵料理人、そしてバカ竜。
このメンバーの食欲を止める術は、ゴルド商会のマニュアルには載っていない。
「……はぁぁ。全く、しゃーないわ!」
ニャングルはがっくりと肩を落とし、涙目で条件を突きつけた。
「その代わり、希少部位は売り物にするからダメや! 食べるのはサーロイン周辺のみ! 一人600gまでやで! それ以上食うたら給料から引くからな!」
「600gか。朝飯にしちゃ十分すぎる量だな」
リアンはニヤリと笑い、地竜の巨体に向き直った。
「よし、解体ショーの始まりだ」
ザシュッ!
リアンの包丁捌きは神業だった。
硬い鱗の隙間に刃を滑り込ませ、一瞬で皮を剥ぐ。現れたのは、ルビーのように赤く、霜降りの脂が乗った極上の赤身肉だ。
「す、すげぇ……輝いてやがる」
リアンは切り出した肉の塊(約3kg)を厨房に運び込んだ。
「地竜の肉は筋肉質で硬い。だが、魔力を通しやすい性質がある」
リアンは肉を常温に戻し、表面に『岩塩』と『ブラックペッパー』を擦り込む。
そして、熱したフライパンに、地竜自身の脂身を溶かした。
ジュワァァァァァァッ!!
肉を投入した瞬間、爆発的な音が響く。
立ち昇る煙は、野性的でありながら、どこか甘いナッツのような香ばしさを含んでいた。
「レアで仕上げる。余熱で火を通せ」
表面をカリッと焼き上げ、中はロゼ色に。
仕上げに、醤油と赤ワイン、そして大量の『おろしニンニク』と『バター』で作った特製ソースを回しかける。
ジューーーーーッ!!
「完成だ。『地竜のガーリック・バター醤油ステーキ(600g)』」
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
テーブルに運ばれたのは、もはや肉の壁だった。
「い、いただきます!!」
全員が一斉にナイフを入れる。
スッ……。あれだけ硬そうだった肉が、バターのように切れる。
パクッ。
「んんん〜〜〜〜ッ!!」
全員が仰け反った。
「な、なんだこれ!? 噛んだ瞬間、肉汁が噴水みたいに!」
「脂が甘いわ! 全然しつこくない!」
「魔力が……身体中に力がみなぎってきますぅ!」
イグニスに至っては、涙を流しながら貪り食っている。
「うめぇ……! 強さが、俺の中に流れてくる……! 共食い最高!!」
「言い方!」
そして、一番反対していたニャングルも――。
「……う、美味すぎるやろこれぇぇぇ!!」
彼は泣きながら肉を頬張っていた。
「悔しい! この一切れで金貨一枚はするのに! 口が止まらへん! 美味い! 金の味がするぅぅ!」
こうして、ポポロ屋の朝は、全員の満腹と、ニャングルの複雑な叫び声で幕を開けた。
ドラゴンステーキを平らげた一行のステータスが、一時的にカンストしたことは言うまでもない。




