EP 20
「深夜の怪獣大決戦 〜寝起きドッキリは地竜と共に〜」
「ガアアア……ゴゴゴゴゴ……」
店の裏にあるボロテントの中から、地割れのようなイビキが響いていた。
イグニスだ。外で本物のドラゴンが咆哮を上げているのに、この偽ドラゴン(竜人)は爆睡している。
バンッ!
リアンがテントの幕を乱暴に開け放った。
「おい! 起きろ! 仕事だ! ドラゴンが出たぞ!」
「あぁ? なんだよリアン……もう飯は食えねぇ……ムニャムニャ……」
イグニスは寝ぼけて鼻提灯を膨らませている。
その時だった。
ドシン!!
地面が大きく揺れ、テントの入り口が巨大な影に覆われた。
地竜がヌッと顔を覗き込み、獲物を見下ろしたのだ。
ギョロリとした爬虫類の目と目が合う。
「……ん?」
イグニスの目が点になり、次の瞬間、飛び起きた。
「な、なんだあああ!? なんで本物がここにいんだよォ!?」
「説明は後だ! 倒すんだよ、手を貸せ! こいつは今日の売り上げ(予定)だ!」
「わ、分かった! 食われるのはごめんだ!」
イグニスは愛用の両手斧を引っ掴み、パンツ一丁のままテントから飛び出した。
◇ ◇ ◇
一方、店の表では。
「ふあぁ……。うぅん、夜更かしはお肌に悪いんですのよ? 美容の敵ですわ……」
世界樹のログハウスから、ネグリジェ姿のルナが目をこすりながら出てきた。
その横で、パジャマ姿のキャルルが叫ぶ。
「ルナちゃん、寝てる場合じゃないの! ポポロ村がピンチなの! リアン君がルチアナ様のことを『クソババア』って言ったから、天罰が落ちてきたのよ!」
そこにリアンが駆け戻ってきた。
「おいキャルル! 俺はクソババアまでは言ってないだろ! お前も心の中で『小ジワババア』と言っただろ! 俺には聞こえてたぞ!」
「言ってない! 言ってないもん! ……思ってたけど!」
「やっぱ思ってたんじゃねぇか!」
ギャーギャーと言い合う二人。
その足元で、ニャングルが頭を抱えて震えていた。
「ど、どうでもええがな! 早よ何とかして下さい! ワイの在庫(商品)が潰されてまう!」
地竜が大きく息を吸い込んだ。ブレスの予備動作だ。
キャルルの目つきが変わった。
「……私の村を、壊すなあああ!!」
キャルルは大地を蹴った。
その靴底には、かつて冒険者時代に手に入れた**『雷竜石』**が仕込まれている。
闘気を流し込むと、バチバチと青白い稲妻が爆ぜた。
「月影流・雷撃『鐘打ち』!!」
バリバリバリッ!!
キャルルの空中回し蹴りが、地竜の顎に直撃した。
電撃が神経を焼き、地竜が悲鳴を上げて仰け反る。
「今ですわね! えいのえいのえいっ☆」
ルナがタイミングよく世界樹の杖を掲げた。
地面のアスファルトを突き破り、極太の木の根が何本も隆起する。
ズズズズッ!
根は生きた蛇のように地竜の手足に絡みつき、その巨体を大地に縫い止めた。
「ナイスだ、二人とも! トドメは俺たちが刺す!」
リアンは『銃口剣』のシリンダーを高速回転させた。
全魔力を一点に集中させる。
「銃口剣――ガンモード! 『フルチャージ・バースト』!!」
ドゴオオオオン!!
銃口から、6発分のエネルギーを圧縮した極太の魔弾が放たれた。
一直線に伸びた光の筋が、地竜の硬い鱗(絶対防御)を粉砕し、肉を抉る。
『ギャアアアア!!』
地竜が苦痛に悶絶し、体勢を崩した。
その隙を見逃す男ではない。
「行くぜえええ!! 俺様の眠りを妨げた罪は重いぞオオ!!」
上空から、紅蓮の炎を纏ったイグニスが降ってきた。
両手斧に全闘気を注ぎ込み、自らが隕石となって突っ込む。
「必殺! 『イグニス・ブレイク』!!」
ズバァァァァン!!
灼熱の斧が、地竜の首を深々と断ち切った。
轟音と共に、巨体がドサリと崩れ落ちる。
静寂が戻ったポポロ村。
残されたのは、巨大なドラゴンの死体と、息を切らす最強の店員たち。
「ふぅ……。やったか」
リアンが剣を納めると、物陰からニャングルが飛び出してきた。
「す、すごいで! Aランクの地竜を無傷で倒してもうた!」
「当然だ。俺たちを誰だと思ってる」
リアンは倒れた地竜を見下ろし、ニヤリと笑った。
「さて……。災い転じて福となす、だな」
「え?」
「見ろ、この立派な肉。鮮度抜群だぞ。明日のスペシャルメニューは『地竜のステーキ丼』で決まりだ」
「ひゃっほー! 肉だ肉だぁ!」
「地竜の皮と牙は高く売れまっせ! 億万長者や!」
「お肌にいいコラーゲンもありそうですわね♡」
結局、神罰として遣わされた地竜は、ポポロ屋の「食材」と「臨時ボーナス」となってしまったのだった。




