EP 19
「お会計は『地竜』で(換金不可避)」
深夜のポポロ屋。
カウンターで頬杖をつくジャージ姿の女神が、気怠げに注文を追加した。
「あぁ、リアン。あと『月見大根』。汁をたっぷりと吸わせて、箸で切れるくらい煮込んだやつね。辛子は鼻がツーンとするくらい多めで。……あと、熱々の『芋酒』もつけて」
「……注文の多いババアだ。金、持ってんだろうな?」
リアンが呆れながら、おでん鍋の蓋を開ける。
湯気とともに、出汁の優しい香りが立ち昇る。
「ババアじゃないっての! ピチピチの永遠の17歳(神界歴)よ! 金ならちゃんと払うわよ」
ルチアナが唇を尖らせて抗議する。
その横で、キャルルがニコニコと――しかし、目は笑っていない「村長の顔」で話しかけた。
「ねぇ、おば様」
「……あ?」
ルチアナの眉がピクリと動く。
「ポポロ村は如何ですか? 最近、雨が少なくて作物が心配なの。おば様の力で、気候は『実りの秋』あたりにして頂けると、村長として大変助かるのですが」
キャルルは上目遣いで、可愛らしく首を傾げた。
だが、その内容は「天候操作」という神への直談判であり、呼び方は「おば様(BBA)」だ。
「お、おば様ァ!? あんたねぇ、丁寧に言えば何でも許されると思ったら大間違いよ!?」
ルチアナがバンとカウンターを叩いた。
「出会って3秒で『天候変えろ』ってお願い!? しかも『おば様』呼ばわり!? 無茶苦茶な願いよ、それ!」
「てへへ☆」
「てへへ、じゃないわよ!」
ギャーギャーと騒ぐ女神とウサギ。
そこに、ドンッと重厚な徳利とお皿が置かれた。
「ほらよ。おでんと芋酒の熱燗だ」
リアンが出したのは、飴色に透き通るまで煮込まれた大根。その頂点には、山盛りの和からし。
「それ食ったら、さっさと帰れ。おばさん」
「きいいい! おばさん言うな!」
ルチアナは悪態をつきながらも、熱々の大根を箸で割り、ハフハフと口に運んだ。
「んむっ……! あつっ……うまっ!」
じゅわっと溢れる出汁の旨味。
直後に襲ってくる、和からしの強烈な刺激。
それを、熱々の芋酒で流し込む。
「くぅぅぅ……! 効くぅ〜! 神界のネクタルより美味いじゃないのよ、悔しいけど!」
文句を言いながらも、女神の箸は止まらない。
結局、彼女は鍋の底が見えるまで食べ尽くし、酒も一滴残らず飲み干した。
◇ ◇ ◇
食後。
満足げに爪楊枝(これも通販)をシーハーさせているルチアナに、リアンが手を差し出した。
「おら。食うもん食ったんだ。さっさと金を出せ」
「……チッ。世知辛いわねぇ、元日本人」
ルチアナは面倒くさそうに立ち上がり、ジャージのポケットを探るふりをした。
だが、財布が出てくる気配はない。
「分かってるわよ。現物がいいんでしょ、現物が」
「あ?」
ルチアナは店の外へ向かい、夜の闇に向かって指をパチンと鳴らした。
「――『召喚』」
ズゴゴゴゴゴゴゴ……!!
突然、ポポロ屋の外で地面が激しく揺れた。
窓の外、店の駐車場(予定地)のアスファルトを突き破り、巨大な影が出現した。
岩石のような鱗。丸太のような尻尾。
体長10メートル級のモンスター。
「……は?」
リアンとキャルルが絶句する。
「『地竜』よ。ランクはA+」
ルチアナはケラケラと笑い、その巨大な怪物を指差した。
「ほらほら! アレを倒して素材を売れば、おでん代どころか、一生遊んで暮らせるくらい金が稼げるでしょ?」
「な、なんだと……!?」
リアンが血管を浮き上がらせる。
支払い代わりのモンスター召喚。しかも災害級だ。
「じゃあね〜! ご馳走様! べ〜だ!」
ルチアナはあっかんべーをして、光の粒子となって消滅した。
残されたのは、深夜に咆哮を上げる地竜と、殺気立つ店主。
「……あの、クソ女神ィィィ!!」
リアンは『銃口剣』を抜き、窓から飛び出した。
深夜のポポロ村に、地竜の悲鳴と、リアンの怒号が響き渡る。
明日の「日替わり定食」のメイン食材は、どうやら『ドラゴンステーキ』になりそうだ。




