EP 17
「背徳の極み! マヨ玉焼きそば爆弾」
「……いくぞ」
リアンが熱した鉄板に、中華麺(かんすい入り自家製麺)を投入した。
ジュワァァァァァッ!!
すでに炒めてあった『ピッグシープ』の豚バラ肉と、キャベツ、もやしと合流させる。
「味の決め手はこれだ」
リアンが回しかけたのは、村の特産『ソーリーフ』を煮詰めて熟成させた、特濃ソースだ。
鉄板の上でソースが踊り、蒸発し、麺の一本一本に絡みつく。
「はぁ……♡ いい匂い……」
カウンターで頬杖をつくキャルルの鼻が、ピクピクと痙攣している。
ソースの香りは、獣人の本能を直接揺さぶる麻薬だ。
「美味そうだぜ……。肉の脂とソースが混ざる音だけで、白飯が食える」
「じゅるり……。デザートの後に、麺類も別腹ですわ……」
イグニスとルナも、生唾を飲み込んで凝視している。
だが、リアンはニヤリと笑った。
「まだだ。ただの焼きそばじゃない……」
リアンは別のフライパンを取り出した。
コンッ、パカッ。
割り入れたのは、栄養価の高い『トライバード』のL玉卵。
白身がチリチリと焼け、黄身はプルプルの半熟状態――『目玉焼き』を作る。
「こいつを、こうして……」
ドンッ!
ソース焼きそばの頂上に、半熟目玉焼きを鎮座させる。
さらに、リアンは『マヨ・ハーブ』のチューブを構えた。
「仕上げだ」
ブチュチュチュチュチュ……!!
ためらいなどない。
茶色い麺と黄色い目玉焼きの上を、白い悪魔が網目状に覆い尽くしていく。
最後に、青海苔と紅生姜を添えて――。
「完成だ」
リアンがドンと置いたその弁当箱は、カロリーの塊だった。
「こ、これは……」
ニャングルが目を剥いた。
「麺×ソース×卵×マヨネーズ……!? あかん、これ見ただけで血管詰まりそうなほど美味そうや……!」
「名付けて、『背徳の焼きそば弁当』だ」
リアンは不敵に笑い、割り箸を添えた。
「獣人族は肉体労働や戦闘でカロリーを欲している。この濃厚な味付けと脂質……抗える奴はいない」
リアンはニャングルに弁当の山を託した。
「ニャングル。レオンハートの獣人どもに売ってこい。……飛ぶぞ」
「任せておくんなまし! この『悪魔の食べ物』、高値で売りつけてきまっさ!」
◇ ◇ ◇
レオンハート獣人王国・国境警備隊駐屯地。
そこは、筋骨隆々な獣人たちが訓練に明け暮れる場所。
彼らの食事は、質実剛健な干し肉と硬いパンのみ。
「食」に楽しみなど求めていなかった彼らの鼻に、その匂いは届いた。
「……くんくん。なんだ、この刺激的な匂いは?」
「ソース? いや、もっとこう……脳みそが痺れるような……」
ドスンッ!
いつものようにイグニス便が着陸し、ニャングルが風呂敷を広げた。
「へいへい! 腹ペコの旦那衆! 今日はスタミナ満点、食えば力が湧いてくる『焼きそば弁当』でっせ!」
「焼きそばだと?」
隊長である虎耳族の巨漢が、弁当箱をひったくるように手に取った。
蓋を開ける。
ドォォォォン!!
「なッ……なんだこのビジュアルは!?」
茶色い麺。白いマヨネーズ。そして中央に輝く黄金の目玉焼き。
隊長は震える手で箸を取り、黄身を突いた。
トロォォォ……。
半熟の黄身が溢れ出し、ソースとマヨネーズと混ざり合い、麺に絡みつく。
それは芸術的なまでの「背徳の濁流」だった。
「い、いただきます……!」
隊長は大きく口を開け、麺をすすり込んだ。
ズルルッ、ズルズルッ!!
瞬間。
彼の脳内で、何かが弾けた。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉッ!!?」
隊長の全身の毛が逆立った。
「こ、濃い! 濃厚だ! ソースのスパイシーさを、卵のまろやかさとマヨネーズの酸味が包み込む……! なんだこれは! 口の中がカーニバルだ!」
「隊長! 俺にも! 俺にも食わせてください!」
「うめぇぇぇ! なんだこの白いソースは! 悪魔的な美味さだ!」
一口食べた獣人たちが、次々と白目を剥いて天を仰ぐ。
「飛ぶ……! 意識が飛ぶぞぉぉぉ!!」
「力が……力が溢れてくるぅぅ!」
あまりのカロリーと旨味の暴力に、屈強な戦士たちが次々と陥落していく。
その光景を見ながら、ニャングルは両手いっぱいの金貨(売り上げ)をジャラジャラと鳴らした。
「ヒヒヒ……チョロいわぁ。やっぱり『ジャンクフード』は世界共通の言語やな!」
こうして、レオンハート王国の兵士たちは、剣を振るうよりも「焼きそばをすする音」を国境に響かせるようになったのだった。
ポポロ屋の侵略は、止まらない。




