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 夜のニューヨークの某ホテルの入口に車が止まる。中から一人の男が降りてきて帽子をかぶり、ホテルに入っていく。彼は先日テレビでボリビア政府と麻薬ビジネスの癒着を話していた解説者。

 その様子を暗闇の中、別の車の中からトミーが見張っていた。ゆったりとした足取りで男がホテルに入ったことを確認すると、裏通りに立っている作業員に目配せする。ソーサの雇ったイタリア人の殺し屋は作業員のツナギを着た姿で、周りに人影がないと確認すると車の下にもぐり込む。トミーがタバコを吸ってる間に、殺し屋は手早く小型爆弾を取りつけた。

 

 翌朝、トミーは電話ボックスから部下に連絡していた。

「弁護士には、もう用はないと言え。裁判沙汰にはしない。心配すんな。…エルヴィアから連絡は?」

 レストランで大喧嘩したものの、やはり心配しているようだ。電話ボックスを出ると、駐車している一台の車に乗り込む。車には後部座席にチコとアーニー、助手席に殺し屋が乗っていた。

「何かあったか?」

 殺し屋がトミーにたずねてくる。

「すべて順調だ」と即答する。そして、チコに「時間は?」と聞く。

「10分前」

 チコの返事を聞いて少し考えると

「…マーティに電話してくる」

 そう言って運転席から出ようとするが、殺し屋に止められた。

「座ってろ」

「…俺に指図するな」

「出てきた!」

 アーニーが指さすホテルの入口から、男が出てきてボーイと話をしている。

「奴だろ?」

 アーニーが聞くと、殺し屋がイタリア語で答える。

『計画通りに、国連ビルの前で殺る』

「どこででも好きな所で殺りな。殺る前に言ってくれ」

 トミーが冗談まじりに返すと、殺し屋は真顔で言ってきた。

『30メーターの間隔を空けてつけるんだ。30メーターだ』

「一度言えばわかる。何度も繰り返すな」

『30メーターだ、いいな』

「…トロい野郎だ、頭にくるぜ」

 トミーが麻薬を鼻から吸っていると、まもなく男が乗り込んだ車が動き出した。

「行くぞ」

 殺し屋の号令でトミーは車を動かす。ところが、男の車は何故かホテルの入口で停車した。エンジンはかかったまま、男は車から出てこない。 

「なんだ? どうしたんだ?」トミー一行は驚く。

「何してる?」

 予定外の行動にトミーが不思議がっていると、ホテルの入口から女と子供二人が出てきて男の車に乗り込んだ。

「どういうことだ…ガキを乗せたぞ」

 トミーの疑問にチコが答える。

「いつもは別の車で学校へ行くんだ」

「中止しよう。いいな、今日はやめだ」

 慌ててトミーは中止を決め、殺し屋にもイタリア語で言った。

『中止だ。一人の時に殺る。女子供が巻き添えになる』

 しかし、殺し屋は首を横に振る。

『ソーサの命令を受けている。中止はできない』

 命令は絶対だと言いきられ、トミー達は何も言えなくなってしまう。

 そのうち男の車は動き出し、トミー達も後を追跡する。運転するトミーの視線の先では、車の中で子供達が楽しそうにしている光景が見えた。助手席の殺し屋が起爆装置のアンテナを立て、トミーに指示する。

『よし、この距離を保て。アセるな、ゆっくり』

 何事か毒づいているトミーを見て声をかける。

『…落ち着け』

「落ち着け? ガキが乗ってるんだ。気に入らねぇ…気に入らねぇ…」

 男の車との間隔が開いていき、殺し屋が怒鳴る。

『何してる! 先に行かれちまう!』

「ちゃんと見てるよ…」

『10メーターだよ! 早く追え!』

「黙ってろ!」

 男の車はトミー達に気付かず走り続けている。トミーは感情を押さえきれなかった。

「ガキの目を見ながら殺れるか? あぁ? 目をそらすんだろ!」

『だまれ!』

「いい気分か? 女子供を殺って、大物気分か」

『黙ってろ!』

 車中はみるみる緊迫した空気につつまれていき、変えられる者はいなかった。

「何が大物だ…クソったれ! 俺に女子供は殺せねぇ…俺を何だと思ってやがる」

 トミーに見切りをつけて殺し屋が起爆装置のスイッチを押そうとして、

「お前が死ね!」

 ダンッ! 殺し屋のこめかみを撃ちぬいた。ドサリと体がくずおれる。

 トミーは何事もなかったように運転し続ける。

「貴様らウジ虫とは違うんだ。俺を見くびりやがって…ふざけるな。言うこと聞かねぇからそのザマだ」

 チコとアーニーは驚きで言葉を失っていた。この行為の意味がわかるからだ。

 

 夕方、ニューヨークのヘリポートの公衆電話からトミーが連絡していた。

「ニック、何してた?」

「配達です」

「マーティは? どこにかけてもいないぞ」

「知りません。二日前に黙って消えちまって…」

「消えた? 後を任せたんだぞ…どこへ行った…頼りにならねぇ奴だ!」

 イライラを壁に八つ当たりする。電話の向こうにも伝わり、ニックが恐る恐る話す。

「…何も聞いてねぇ。あの、そっちは?」

 ニューヨークの暗殺の件を聞いてくる。

「…最低だ…頭にきてる。戻ったらただでは済ませねぇ」

「いつ戻ります?」

「今夜そっちへ戻る」

「あの…お袋さんから電話がありました、ジェーンがいないって」

「いない?」

 母親から電話してくるなんて珍しい。しかもジェーンが何も言わずに留守にするなんて…

「…お袋さんに連絡を」

「今夜連絡すると言っといてくれ。…エルヴィアから連絡は?……そうか…もし連絡があったら[愛してる]と伝えてくれ。いいな」

受話器を戻すと、ヘリに乗り込んだのだった。 

 

 

 

 

 

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