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 裁判で不利になると悟ったトミーは、ソーサを頼ることにした。宮殿にやって来たトミー、チコ、アーニーをソーサの付き人が案内する。

「トミー」

 呼びかけられて振り向くと、灰色のシャツにホワイトスーツ姿のソーサがいた。

「アレックス、急に押しかけて悪かった」

 トミーもすぐ挨拶を返し、突然の訪問をわびた。

「いや…エルヴィアは?」

「元気だ。奥さんは?」

 ソーサの妻は妊娠中だ。順調で出産予定日まであと三月らしい。嬉しそうに話すソーサに、逆に夫婦仲を聞かれてトミーは当たりさわりのない返事を返す。

「君の後を継ぐ、トミー二世は?」

「努力中だよ」

 ソーサはポンッとトミーの肩を叩き「頑張れ」と励ます。

「紹介しよう」

 トミーが案内された部屋では、二人の男が何事か話し合いをしている。さらに少し離れた席にもインテリ風の男がいた。

「こちら、(アンデス砂糖)のクイン会長」

「そして、こちらが陸軍第一軍団のストラッサー将軍」

 二人を紹介されて、トミーは握手する。

「こちら、内務省のエリアル・ブライヤー」

 三人目の男とも握手をして、これで四人全員の紹介が終わった。挨拶したもののトミーにはこの顔合わせの意味が分からず、居心地の悪さを感じていた。そんな雰囲気の中、ソーサが口火をきった。

「さて、我々全員に関わることで相談がある。君の問題事だよ、トミー」

 今回の脱税の件、まさかこのお偉方を巻き込んで対応をするのかと、トミーは内心びびっていた。

「そして、我々の問題でもある。協力すればすべて片付く。今、君は税金のトラブルで懲役を控えてるが、ワシントンの友人が助けてくれる。追徴金と罰金だけで刑務所には行かずに済む」

 よどみないソーサの説明を聞いて、最後に黙ってトミーはうなずいた。

「…わかった。あんたの問題事は?」

「…これだ」

 録画されたニュースが再生される。キャスターと解説者が軽快なやり取りをしている。

『ボリビア政府は麻薬組織から政府献金を?』 

『そうです。ご存知のように……何十億ドルもの金の出所は、アメリカです。ボリビアのコカインの最大の顧客は、アメリカです。……一方、アメリカ政府は麻薬撲滅のため数百万ドルを注ぎこみ、同時に麻薬を送り込んでいる国の政府と国交を結んでいます。最近、大きな取引が行われました。では、悲劇的なコメディの主役を紹介します』

 一人の男性の写真が大きく映された。

『買い手はこの写真の人物、ココンブレ将軍、私の祖国ボリビアの防衛大臣。彼は二ヶ月ほど前、スイスの湖畔に1200万の別荘を購入。ボリビアの防衛大臣が守るのは、金庫でしょう』

 さらに、もう一人男性の写真が映される。

『こちらは、アレハンドロ・ソーサ、非常に興味深い人物です。英国で教育を受けた、名門の大地主。麻薬ビジネスを牛耳る大立て者でアンデス山脈一帯に麻薬帝国を築いています』

 ここでテレビは消され、ソーサが話し始める。

「奴は報道番組に出演、ヨーロッパや日本のテレビにも顔を出す。人々は彼の言葉聞く、こっちは大迷惑だ……これが我々の問題事だ」

 そして、付き人に視線を送りながらトミーに聞いた。

「アルベルトを?」

「知ってる」

 トミーの返事に、ソーサは大きくうなづくと話を続ける。

「邪魔者を消すベテランだ。今回も彼が頼りだが…英語にヨワイ。アメリカにも不慣れで、助けが要る…迷惑かな?」

 トミーの真意をはかるような目でたずねてくる。トミーは一瞬黙りこみ、答えた。

「引き受けましょう」

 その返事にソーサは満足そうに喜ぶが、目は笑ってなかった。 

 

 マイアミに帰った後、トミーはタキシードを着てエルヴィア、マーティを連れて高級レストランで食事をしていた。トミーは疲れているのか食事が進まず、赤ワインを飲んでいた。そんなトミーを心配して、食後のコーヒーを飲みながらマーティが話しかける。

「ボリビアで何があったんだ? 話してみろよ…ソーサと何の話を?」

「くだらん話だ…」

 そう答えただけで口を閉ざしてしまう。葉巻を吸いながら、心ここにあらずな様子だ。しばらくして、ようやくマーティに話しかけてきた。

「いいか、ここはお前に任せる。俺は来週ニューヨークに出かける…いいな」

「…気に入らねぇ、イヤな予感がするぜ」

 いつかトミーが言ったことのあるセリフ。何か軽口で返すところだったが、トミーは全く笑っていなかった。

「…そうか。そもそもお前が持ち込んだ厄介事だ」

 やつあたりと思えるトミーの返答に、思わず言い返そうとマーティが口を開くが、トミーの言葉が早かった。

「お前がサイデルバウムを…」

「何だよ…サイデルバウムとソーサに何の関係がある。無関係だろ」

 真面目にマーティに言い返されて、さすがに気まずさを感じた。ふとテーブルを見ると、エルヴィアの食事が全く手をつけられていないことに気づいた。

「なぜ食わない?」

「食べたくないの…」

「なぜ注文した?」

「食欲がなくなったの…」

 葉巻を吸いながら、トミーは彼女を見る。店の照明と服装で気づかなかったが、よく見ると目が虚ろで顔色も悪い。微妙な空気を感じたマーティが話題を変えようとする。

「なぁ、弁護士が裁判を引き延ばしてくれるんだろ?」

 しかし、何の言葉もなく場は静まりかえる。やがて、トミーが大きなため息をついた。

「さんざん苦労した挙げ句が、これだ」

 両手を広げてぼやき始めたら、もう押さえがきかなくなる。

「食って飲んでファックして、ヤクを鼻につっこむ」

 マーティが「止めろ」と止めるが、もう誰にも止められない。

「それで? 50歳になったら(みにく)い太鼓腹、胸も尻も垂れる。肝臓はふくれあがり、皮膚には汚いシミだらけ、まるでミイラだ」

 ののしるトミー、固い表情のエルヴィア。

「…もっとみじめな奴もいるぜ。金もうけにあくせくして、幸せか?」

 たまりかねてマーティが口をはさむが、トミーは彼女を指差してさらに言いはなつ。

「こいつを見ろ、ジャンキーだ。何も食わず、一日中シェイドを下ろして眠り続けて、起きたらヤク」

「やめな」

「ボヤッとしてやる気もない、子供もつくれない。子宮が汚れきってて子供を産むことができない」

「…よくも言ったわね」 

 ついにエルヴィアが怒りをあらわにした。

「このゲス、よくもそんなことを!」

 バシャッ、叫ぶと同時に、グラスの水をトミーにかけた。周りの客達は一斉にトミー達を見てざわざわとした空気が流れる。

「自分はどうなのよ、ヤクを売りさばいて大勢を殺してるくせに! ずいぶんと世界の役にたってるわね!」

 トミーが反論しようとするが、口をはさませない。

「子供? 父親の資格があるの?」

 キレたトミーがナプキンを彼女に投げつけて、つかみかかろうとするが、慌ててマーティが止めに入る。それでもエルヴィアの言葉は止められなかった。

「学校へ送ってくの? それまで命があると思う? 夫にもなれないくせに!」

 殴ろうとするトミーを即座にマーティが止める。

「いつも用心棒に取り巻かれて、私の話し相手はブタ並みのニック。それが人間の生活?」

 そう言われて、トミーは席に座りこむ。さっきまでの怒りはもうなかった。

「…わかる? 私達は負けたのよ、勝ち目はどこにもない」

「ラリってる」

「それは、あなたよ」

 そう言い残すと、エルヴィアは席を立つ。マーティが家まで送ろうと手を差し出すが、払いのけられてしまう。

「家には帰らない。ほっといて、一人にして」

 そして、トミーに向かって

「お別れよ、もうたくさん…」

 そっとつぶやくと店を出て行ってしまった。一緒について行こうとするマーティを、トミーが止める。

「ほっとけ、ヤクをやればすぐよりが戻る」

 それでも心配だったマーティは後を追いかけた。エルヴィアとマーティが去って、レストランはざわざわした雰囲気のまま客達はトミーを興味深げに見ている。トミーはそんな客達に見せつけるように、ナプキンをポンッと投げる。

「何見てる、虫けらどもが。知ってるか? お前らは皆腰抜けだ。何食わぬ顔で、俺のような人間を指差して言う(あいつは悪党だ)」

 酔いで覚束ない体をアーニーに支えられながら、席を立つ。

「そういうお前らは何だ。善人か? 笑わせるな。とりつくろい、ウソをつく。俺はそんなことはしない、俺はいつも真実を話す、ウソをつく時もだ。さぁ、悪党におやすみを言いな。俺ほどの悪党には、もう会えないぞ。どきな、悪党様のお通りだ! 俺は悪党だ! 道をあけろ!」

店を出るまで悪態をつき続けた。 

 

 

 

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