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 トミーはチコを連れて取引をしていた。相手は二人、話はうまくまとまり、コーヒーを飲みながら金額の確認をしている。一人が映画の話をしだした。

「コロンビアでは(ケマダの戦い)で仕事をした。主演はマーロン・ブランド、俺は彼の運転手をしていた」

 チコは驚いて興味津々に聞いていたが、トミーは聞いてなかった。

「コロンビアでロケをした映画だ。監督はイタリア人のポンテコルボ。……ポール・ニューマンともトゥーソンで仕事したな」

「トゥーソン! それも運転手で? …なら、ベニー・アルパレスって男を?」

 チコ達が映画の話に盛り上がっている横で、トミーともう一人の取引相手は領収書の確認を行っている。

「合計は?」

 トミーに聞かれ、男は計数機の金額を答えた。

「28万3107ドル65セント。小切手か?」

 小切手帳を準備してトミーを見ると、何か考え込んでいる。

「…俺の計算では28万4600ドルだ」

「おいおい、機械に間違いはないぜ」

 何の冗談だと笑って済ませようとするが、トミーは真顔だった。男の手からペンを抜き取ると

「もう一度」

 数え直しを要求した。困惑している相手に、再度要求する。

「ビジネスだ。1500ドル違う」

「…端数は君にやるよ」

「もう一度だ」

 根負けした男はトミーの金額を小切手に書こうとするが、トミーはあくまでも数え直しを言い張る。男はため息をつくと、小切手を書きはじめる。

「宛先は?」

「モンタナ不動産」

 そう言って葉巻をくわえるトミー、小切手を書く男、その横で映画の話をしていた男は、タバコを吸いながら様子をそっと見ていた。

 

 その後も度々トミーから数え直しが要求され、計数のやり直しをし、時刻は夜の11時5分になっていた。

 そして、取引相手の二人とチコがクタクタになっても、まだ領収書は書き終わらなかった。 時刻は深夜1時32分。

「おい、あと小切手7枚要るぜ。まず、132万5623ドル」

 全く疲れた様子のないトミーが声をかける。チコがビタミン剤を飲んでなんとか気力を取り戻そうとするが、男二人は疲れきっている。仕方なくトミーは休憩を入れることにした。

「20万片付けたら休憩だ」

 その瞬間、取引相手二人が拳銃を向けてきた。

「手を上げろ!」

 そして、さらに数名の男が拳銃を手に部屋に入ってきた。

「壁の方を向け!」

 トミーとチコは両手を上げて壁の方を向く。男が二人の両手に手錠をかける。

「逮捕する。君達には黙秘権がある……」

 お決まりの権利の説明が行われ、トミーが腰に装備していた拳銃は取り上げられた。突然の逮捕に黙っていられずトミーがくってかかる。

「デカの証拠を見せろ」

 すると、映画の話をしていた男が捜査官の身分証明書を見せてきた。

「…ごりっぱ、盗んだのか」

 悪態をつくトミーに、捜査官も言い返す。

「キューバ人の恥さらしめ」

「手をどけな。弁護士を呼ぶ」

 この会話を聞いてリーダーらしき捜査官がやってきた。

「呼んでもムダだ。あの時計を見ろ」

 壁の時計をよくよく見ると、12のところが妙に黒くなっている。

「監視カメラが仕込んである。言い逃れは出来ない」

 油断していたと後悔してももう遅い…苦々しい顔でトミーは口を開いた。

「俺はシロだ。預金しただけだ。こんなの時間のムダだよ。弁護士を呼ぶ、マイアミで一番の腕利きの弁護士だ」

 連行されながらもリーダーの捜査官を指差して言い捨てる。

「明日の朝、お前はアラスカに左遷だ。厚着してな」

 このリーダー捜査官、ウェイド・ブロンソと言い、腕利きの麻薬捜査官である。以前からトミーに目をつけていて、ついに犯行現場の証拠を押さえたのだった。

 その後、腕利き弁護士によりトミーは釈放された。新聞は『麻薬王 500万で釈放』と大々的に取り上げたのだった。

 

「では小切手で10万、それに現金で30万……共謀罪はもみ消せる。だが脱税はお手上げだ、打つ手はない」

 トミーとマーティは弁護士の説明を聞いていた。トミーが収支申告書類をきちんとしていなかったことが指摘され、さらに所得隠しが意図的に行われていたと判断されているといわれた。

「…つまり、何年だ?」

 額に手をあててトミーがたずねる。

「懲役5年、たぶん3年で出られる」

 パンッ! 机を叩いてトミーが立ち上がる。 

「3年も! 罪状は? 金を洗ったからか? 皆やってるぜ!」

 傷害罪、麻薬売買、賭博等あらゆる犯罪に比べれば、脱税なんて誰でもやってるとトミーは言い張るが、その脱税こそ証拠が明るみになりやすいのだ。弁護士いわく、まず税務書類は整えておくべしと。

「まぁまぁ、キューバの刑務所とは違うって…ホテル並だよ」

「お前…誰に口きいてんだ!」

 なんとかなだめようとマーティがジョークを言うが、トミーの怒りをあおるだけだった。この様子を見て弁護士が一つ提案を持ちかける。

「では、裁判を引き延ばそう。1年か2年たてば…」

「ダメだ! 刑務所へは絶対に行かない! あそこはごめんだ!」

 これには弁護士も言葉が出ない。しばらくして、落ち着いたトミーが話し始める。

「こうしよう、あんたにあと40万渡す。全部で80万、最高裁だって動かせる」

 自信満々のトミーだったが、弁護士の難しい顔は変わらなかった。

「容疑に疑問があれば私も戦える。だが、君の場合は申告していない、130万の現金を。ビデオが現場を押さえてる。タクシーで拾った金だとでも言うのか?」

皮肉をこめた返しに、トミーは何も言えず黙ってミネラルウォーターを飲んだ。 

 

 

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