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 テーブルに無造作に山積みにされた大量の紙幣が、自動結束機で札束にして綺麗に積み重ねられていく。

 

 アレックス・ソーサはトミーと電話で談笑している。トミーは冗談をまじえながら、ビジネスを良い方向にもっていこうと交渉している。

 

 ある日、トミー達はスーツケースを手に銀行を訪れる。マーティ、ニック、チコ、そしてアーニーも各々スーツケースを両手に持っている。中は札束だ。開業資金を預けるためにきたのだ。支店長はその金額の多さに驚きを隠せないようだったが、満面の笑顔で挨拶しトミーと握手した。

 トミーは新たに「モンタナ興業」を立ち上げたのだ。

 

 次にトミーは、妹ジェーンの長年の夢であった美容院をオープンさせてやった。オープン祝いのリボンを切る妹の嬉しそうな笑顔に、トミーは自分のことのように喜んでいた。そんなトミーをマーティとエルヴィアは微妙な表情で見ていた。

 開店後もトミーは時折美容院を見に行き、妹の頑張っている姿に満足そうにしていた。

 

 そして、自分の豪邸に関係者達を呼び、エルヴィアと結婚式を挙げるのだった。神父の前で二人は永遠の愛を誓い、トミーは花嫁姿のエルヴィアにキスを送る。皆が祝福にわく中、マーティはジェーンを見て微笑み、ジェーンもマーティを見て微笑む。二人の関係も良好のようだ。

 また、豪奢な大広間にはトミーとエルヴィアの肖像画が飾られていた。

 トミーがエルヴィア達を連れて敷地内のあるところに案内する。そこには、木に鎖で繋がれたトラがいた。以前、トラを買うと言っていたが、まさか本当に買うとは…。トラはトミー達にビックリして初めは吠えていたが、鎖でしっかり繋がれて逃げられないため、やがてすわり込んでしまう。

 

 すべてが順調に進み出した頃、豪邸に銀行の支店長がやってきた。応接間に通すと、トミーはどっしりと椅子に座り交渉の先手を取る。トミーの服装はすっかり変わり、黒のシャツに金のブレスレット、金の時計、白のズボンを身につけていた。

「話があるそうだな、聞こうか。言っとくが、手数料の引き上げなら断るぜ。以前の倍の額を預けるんだ。取引は月額1000万以上、デカい額だ。銀行が手数料を下げる番だ」

 支店長はとたんに顔色を変える。

「そんな! 無茶です…」

「では、どうする?」

「うちは銀行だ、神の御業(みわざ)は出来ない。大金を洗うのはラクじゃないんだ」

 マネーロンダリング。麻薬取引、粉飾決算など犯罪による資金を、出所を隠すために架空名義等操作すること。トミーの莫大な資金は銀行の協力の元で成されていたのだった。

「仕事だろ?」

「取引を続けるには、料金の引き上げを…」

 ダンッ トミーが軽くテーブルを叩く。

「…上げる?」

 支店長に向けられた眼は怒っていた。支店長が生唾をのむ。

「…こ、国税局が…」

「何が国税局だ! ここは本音で話し合おう。かけひきは当然、お互い商売だ」

「この地域は国税局に睨まれている。タイムズが特集記事を組んだほどだ。…銀行は株主に責任がある」

 トミーは金色の葉巻ケースを開き一本手に取ると、マーティに笑いかけた。

「演説が上手いな」

 皮肉だ。マーティは苦笑いを返す。支店長の話は続く。

「20ドル札は1200万まで10%、10ドル札は8%、5ドル札は6%…他の銀行でも同じだ」

「怒るな」

 見かねてマーティがイラつくトミーに声をかけるが、時すでに遅し。

「クソったれ! いいか、それなら金はバハマへ運ぶ」

「一度はいいが、そのあとは? バハマの銀行を信用して2000万預けられるかい? 手数料を払っても、うちは信用できる。でしょう?」

 巧みに弱みをついてこられて、トミーは葉巻を吸いながら思案する。マーティに視線を送ると、お手上げという表情。

「聞いたか? ためになるぜ…」

 支店長はちらりと腕時計を見ると、おもむろに席を立つ。

「古いつきあいだ、悪いようにはしないよ。ではこれで失礼する」

「悪どいぞ」

 交渉に敗れトミーが毒づくが、支店長は平然としている。

「新婚家庭はどうですか?」

「…銀行よりいい」

 また毒づくが、相手にせずニコリと笑って右手を差し出す。

「では、美人の奥様によろしく。また、近いうちに」

「OK」

 握手をして、支店長は帰っていった。

 その後ろ姿を自室の窓から見ながらイラつくトミー。

「クソ野郎、見下しやがって。ボート難民だと思ってやがる」

 金の箱から麻薬を皿に取り出し、鼻から吸い込む。

「あんな面、見たくもねぇ…。ユダヤ人のサイデルバウムは? 個人で金を動かして、手数料は4%。組織に強いぜ」

 マーティが銀行以外の預け先を提案する。表が難しいなら、裏道を使うまで…しかし、トミーは

「…信用できるか。組織が何だってんだ! 組織なんかクソ食らえ! ブタ野郎どもが!」

 イライラと怒鳴り、葉巻にライターで火をつける。壁には監視モニターが何台も縦横に並べられており、そのうちの一つのモニターにトミーの視線が止まった。正門が開いて車が一台入ってくる。豪邸に設置された監視カメラの映像は、すべてトミーの自室のモニターに映しだされる。

「マーティ、今月のモニターのチェックは済んだか?」

 食い入るようにモニターを見ているトミーに、マーティが腰に手をおいて答える。

「やらせたよ、5000ドルかかった」

 トミーは葉巻をふかしながら、一台のモニターを指差す。

「見ろ、電気工事のトラックだ。三日もあそこにいる」

「数えてんのか!」

「三日もいるんだ、イヤでも目につく」

「…警察かな」

 マーティは最も考えられることを口にしてみた。対してトミーは何か考え込んでいる。

「…エチュビラ兄弟が狙ってるかもしれない」

 それは、以前フランクが寄越してきた殺し屋だ。クラブで激しい銃撃戦の末、天井の照明が落下して下敷きになって死んだ。死体を確認したわけではないが…まさか

「…かもな、調べてみるよ」

 事業を始め、何もかも上手くいきだしてから、トミーはますます用心深く、疑り深くなった。見ていて呆れることもあるが、気持ちが分かるのでマーティは素直にうなずいた。出ていく背中に、声がかけられる。

「マーティ、コロンビアまでぶっ飛ばせ!」

「落ち着けよ…調べねぇと何もわかんねぇだろ。他の家の捜査かもしれないし、本当に電気工事かも…」

「おい、よくそんなことが言えるな。警備はお前の役目だぞ」

 ガシャン 鍵がテーブルに投げ出される。

「玄関の鍵だ、奴らにやったらどうだ?」

 やつあたりだ。いつもは受け流すマーティも、売り言葉に買い言葉で言い返してしまう。

「言っとくが、家の警備に金を使いすぎてる。儲けの12%、デカい金額だ」

「夜、安心して眠るためだ! 気をぬくな!」

 頭に血がのぼると、言葉は出せば出すほど嫌なものになっていく。今のトミーとは話にならない。

「…わかったよ」

 不承不承マーティは引き下がった。今度こそ帰ろうとしたマーティに

「油断は命とりだ、ハングリーな時と違って気持ちがゆるむ」

 そう釘をさしてきた。トミーの考えは、攻めよりも守りに偏りすぎていると、マーティはそれが気がかりだった。

 

 そんなトミーの考えは結婚生活にも影響していた。愛するエルヴィアとの生活を経済的、精神的にも守るために、これまで以上に事業に力を入れるようになる。フランクとの虚飾にまみれた結婚が終わり、トミーとの新しい生活に幸せを求めていたエルヴィアは、以前と同じ淋しさを感じるようになり、やがて酒やタバコ、麻薬におぼれていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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