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深夜3時少し前、トミーはヴィト、マーティ、チコの三人を連れてフランクの会社に向かった。中に入ると、フランクの笑い声がする。
「…今日の試合は? 俺は行けなかったんだ」
友達と電話で楽しげに話しながら、手元のグラスにバーボンを注ぐ。後ろの席には、アーニー、メル刑事、他に部下が二人いる。トミーの読み通りメル刑事はフランクとつながっていた。
「スコアは? 3対2? よし、俺の少年野球チームが試合に勝った!」
パシュッ! パシュッ!
突然、2発の銃声が鳴り、驚いて振り向くと部下二人が死んでいた。奥から現れたのは、拳銃を握ったヴィト。
「アンパイアを買収したのか?」
そう皮肉りながら左手にギプスをつけたトミー、そしてマーティ、チコが現れる。ヴィトの姿に内心かなりビックリしていたが、さすが面の皮の厚いフランクはなに食わぬ顔で答える。
「なんだ、どうした?」
「800ドルの服がこのザマだ」
この場にいる全員が真相を知っていた。もはや、言い逃れは許されない。
「誰にやられた?」
「さぁな…どこかの殺し屋だ。誰かが雇ったんだ。見たことねぇ面だ…メル、この答えを教えてもらいたいねぇ」
トミーは椅子に座る。すぐ側にいるメルの顔は強ばり、脂汗をうかべている。フランクが話し出した。
「エチュビラ兄弟だ。モーテルの件を恨んでた」
「…そうだな…そうかもしれない…」
今のフランクは自分が疑われないように必死だ。ヴィトにトミー、なんて厄介な奴らだ。何でコイツらが一緒なんだ…
「とにかく、お前が無事で何よりだ。仕返ししてやるぞ」
「いや、俺がやる」
トミーはサイレンサー付の拳銃を取り出した。さすがにフランクの顔色が変わる。
「なんだ、銃なんか出して…」
「気にすんな、俺、パラノイアなんだ。安心するんだよ」
チリリリン、チリリリン
静まりかえった部屋に、電話が鳴り響く。
チリリリン、チリリリン
黙りこんだまま動かないフランクに、トミーが声をかける。
「電話だぜ」
すると、あわてたようにフランクが話しだす。
「あぁ…エルヴィアだ。クラブの後ケンカしてな」
「いないと言おう」
「いや! いい、俺が出る」
トミーが立とうとするやいなや、即座にフランクが受話器を取った。
「…あぁ、わかった。あと一時間で帰る」
会話はあっという間に終わり、部屋はまた静かになる。時刻は3時。会話の相手はエルヴィアではなく、トミーの部下ニック。トミーに指示されたとおり、フランクを殺る合図。
誰も口を開かない中、トミーがフランクに話しかける。
「フランク、あんたはゲス野郎だ」
「何のことだ」
「しらばっくれるな! ゴキブリめ!」
「一体何の話だ!」
いくら問い詰めても、フランクはしらを切りとおす態度だった。トミーは手元の拳銃を軽く叩くと、改めてフランクの顔を見つめて言った。
「なぁ、フランク…[ハザ]を知ってるか? あんたが教えてくれた…汚ねぇブタ野郎のことだ。貴様のことだよ!」
ここにきてフランクは何もかもバレていることを悟った。それでもなお、見苦しく言い逃れようとする。
「待て待て、誤解だ。たまに衝突はあっても、俺とお前の仲だ。俺は目をかけてやっただろ?」
「俺は仁義を守ってきた。脇でゼニを稼いだが、裏切ったことはない。だが、貴様は仁義を踏みつけるゴキブリ野郎だ!」
トミーから投げつけられた言葉には、拒絶の意志が込められていた。うろたえてフランクは、横にいるメル刑事に助けを求める。
「…な…なんとか言ってくれ」
「自分のハエは自分で追いな」
すげなく断られたフランクは、ヴィトに目で助けを求めるが、その眼差しは冷たかった。ついに観念したのか、フランクは肩を落として座り込み話し出す。
「…白状する。俺がやった」
トミーが拳銃の安全装置を下ろす。とたんに、フランクが怯えて命乞いをする。
「頼む、命だけは助けてくれ。お願いだ…命を助けてくれたら、1000万ドルやるよ。1000万だ、スペインの金庫に入ってる。一緒に飛行機に乗って、今すぐ取りに行こう」
トミーの表情は変わらない。フランクはなんとか懐柔しようと言葉を続ける。
「エルヴィアが欲しいんだろ? やるよ…俺は消える。二度と姿を見せない」
神に懺悔をするように、フランクはトミーにひざまずいた。下から仰ぎ見ながら命乞いを続ける。
「頼む、俺は何もしていない」
「…自分の手を汚さず、人にやらせたからな。立て!」
忠誠を誓うためにトミーの靴を舐めようとするフランクに、怒鳴りつけて素早く爪先を引く。ベソベソとみっともなく泣き出した。
「頼むよ…トミー、殺さないでくれ」
「…殺さねぇよ」
その言葉に心底ほっとすると、フランクはまたトミーの靴に頭を押し付けようとする。感謝の気持ちを表すためだが、トミーは汚ならしいものを見る目で睨み付けた。
「立て! ヴィト、あんたに任せるぜ」
「ま…待て…待て…待ってくれ!」
処刑を宣告されたフランクは、トミーの前から引きはがされる。
パシュッ!
そして、ついにヴィトの手で射殺された。常に欲得ずくで動き、自身の地位と財産のためなら敵味方関係なく利用し、その犠牲になった者は数えきれない。仁義に生きる者を嘲笑い続けた男に、ようやく正義の鉄槌が下されたのだ。
トミーはゆっくりとメル刑事の横に座る。
「イヌもカタをつけるか…」
トミーにとって、コイツはフランク以上に許せない奴だ。ところが、メルは目の前でフランクが殺されたのに、他人事のように弁明し始めた。
「俺は奴にやめろと言ったんだ。使えるヤツを殺すなと。だが、女のことでカッカして…バカだよ」
「あんたもだぜ。あんたもバカだ」
そう冷たくトミーに返されても、メルは鼻で笑って毒を吐く。
「調子づくな」
トミーは拳銃をメルの顔に向けた。
「そのセリフ、自分に言ったらどうだ」
パシュッ!
弾はメルの腹に当たり、激痛にもだえながら腹を押さえている。
「…うぅ…俺は…警官だぞ…」
メルは勘違いしている。警官がヤクザと組めば、それはもう警官ではない。正義を隠れ簑にした悪そのものだ。トミーの最も憎むゴキブリ野郎だ。
「よく言うぜ」
憎々しげに言うと、トミーは拳銃を向け直す。その目は怒りに染まっていた。
「ちょっと待てよ! この件は目をつぶる」
「だろうな。自分で買いな、地獄行きのファーストクラスの切符を!」
「この、成り上がりのチンピラめ!」
「あばよ、いい旅を」
「Fuck you!」
パシュッ! パシュッ!
メルを始末して帰ろうとすると、マーティが聞いてきた。
「奴は?」
アーニーのことだ。アーニーは固い表情で何か覚悟をしているようだった。少し考えて声をかける。
「働くか?」
すぐにアーニーはうなずいて「働くよ」と答えた。
「明日、連絡しな」
それだけ言って立ち去る。アーニーの背後にいたチコが
「職にありついたな」
良かったな、と声をかけてやった。アーニーはあわててトミーにもう一度声をかけた。
「トミー、恩にきるよ」
トミーは軽く手を上げ帰ってしまう。アーニーはいつまでも後ろ姿を見送っていた。
1981年 フランク・サンダ
メル・バーンスタイン 他 計4名 死亡
トミーはフランク達を殺害した後、フランク邸に来ていた。眠っているエルヴィアの髪を優しく撫でると、彼女が目を覚ます。
「トミー、どうしたの?」
こんな夜更けの訪問なんて、不信に思うのが当たり前だ。
「フランクは?」
いつもは多弁なトミーが何も言わない。ただ優しく見つめるだけ…
「エルヴィア、荷物をまとめろ。一緒に来るんだ…分かるだろ」
そっと、もう一度彼女の頬にふれると、寝室から出て行った。
エルヴィアはそんなトミーを見て、何かを悟るのだった。
寝室を出たトミーは、窓からマイアミの夜景を眺めていた。空には飛行船が飛んでいる。機体に文字が描かれていた。
「THE WORLD IS YOURS」 …世界は君のもの…
飛行船はゆっくりと飛び続ける。
トミーはその夜景を眺めながら、タバコを吸うのだった。




