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 フランク達が「バビロン・クラブ」から去って、マーティが席に戻るとトミーがぼやいた。

「クソ野郎…デカを回しやがって…」

「なんだよ? フランクが? なんで奴だって分かる?」

「レベンガの件を知ってるのはフランクだ。きっと俺への牽制だ」

 そう話すトミーの視線の先には、妹のジェーンの姿。妹は踊っていた男と、仲良くどこかに行こうとしている。恋人のように体を寄せあい、よく見ると男の手がさりげなく妹の腰に当てられている。この光景を見たトミーは瞬時に立ち上がり、後を追いかけた。

「? どうしたんだ?」

 何事かとマーティもあわてて後ろについて行った。

 男とジェーンはクラブの入口のトイレにやってきた。

「個室でいいことしようぜ…」

 男は酔っているのかジェーンを男子トイレに連れこみ、ジェーンもされるがままに抱きついている。個室トイレで麻薬をタバコのように吸いあっていると、突然ドアが蹴り開けられた。トミーだ。怒りの形相で男の胸ぐらをつかみあげると、引きずり出して外に放り出す。男は倒れたまま訳がわからない様子だ。

「な、なんだよ…まだ何もしてないぜ」

 文句を言ってるが、そんな男はマーティに任せて、トミーは妹のもとに向かう。状況が分かっていないのか、ジェーンは廊下の壁にもたれていた。

「何のマネだ…男にケツ触らせて、トイレでお楽しみか」

 トミーが皮肉を言っても、まったく無反応。マーティは集まっていた野次馬を追い払うと、二人を黙って見ていた。トミーは妹の顎をつかんで目を合わせると、こんこんと言い聞かせる。

「何考えてんだ…。いいか、よく覚えとけ…今度こんなマネしたら、顔がゆがむほど殴ってやる」

「やったらどう? 偉そうに…」

 ジェーンは反抗的に睨み付けて挑発してくる。

「俺を怒らせるな。もういい…消えな」

 妹の二の腕をつかむと、腹立ちのままマーティの方に乱暴に放り渡した。とっさにマーティが支えたが、話を切られたジェーンの怒りはおさまらない。

「ひどいわ、私に命令する権利がどこにあるの! 私は赤ん坊じゃないのよ。自分の好きなようにするわ。男とだって寝るわ!」

 バチンッ! トミーが妹をビンタした。そして、立ち去ってしまった。

 マーティは残されたジェーンを気づかって優しく声をかける。

「…出ようか」

 ジェーンは兄に怒鳴られたことがショックなのか、固い表情のままだった。怒られたことなど一度もなかったのだろう。トミーは妹を大事にしているが、その愛情はどこか度を超えている。家まで送ろうと車に乗せる。

「兄さんは君を愛してる。あいつから見りゃ、君はまだまだ小さい妹なんだよ」

 頼まれてもいないのに、マーティはついフォローしてしまう。

「でも、私はもう赤ん坊じゃない。二十歳よ、大人なのよ」

「大人か…」

 ぽつりとつぶやかれた言葉に、ジェーンはそっとマーティを見る。

「兄さんの身にもなってごらんよ。今のあいつに喜びを与えるのは、君しかいない。君が必要なんだよ。(けが)れなく、まっとうだ。君を自分のような人間にしたくないんだ。父親のように守っている」

「守る? 何から?」

 気持ちが落ち着いてきたのか、少しずつジェーンが話しだす。

「今夜踊ったようなゲスな野郎だよ」

 思わず顔をしかめて、吐き捨てるようにマーティが答えてやる。

「フェルナンドはいい人よ。女の扱いを知ってるわ」

「あいつが? トイレに女を連れ込む男が?」

 フェルナンドを本気でいい人だと今も思っているジェーンに、思わずため息が出る。。

「先を考えて付き合う男を選ばないと…」

「誰と?」

「まともな職の奴だよ、銀行員、医者、弁護士…」

「あんたは?」

 唐突にジェーンに聞かれ、意味がわからずマーティはただ驚いていた。

「ねぇ、デートは?」

「バカ言え!」

 即座に否定するが、ジェーンはいたずらっ子のように笑っている。

「私を見る目付き、私が気づかないと思うの?」

「トミーと俺は兄弟同然、君は俺の妹みたいなもんだ。これからもこの関係は変わらない」

 いつの間にか話が自分のことになって、ばつの悪いマーティは話を終わらせようとするが…

「兄さんが怖いの? 私が妹だから?」

 どうしても答えが欲しいジェーンは真剣な目で問いかける。

「俺は誰も怖くない! 勘違いするな!」

 つい怒鳴ってしまい、話は終わった。だが、ジェーンに感づかれている気まずさで、マーティはいつになく静かに運転し続けたのだった。

 

 妹をマーティに任せて、トミーは一人でボックス席に戻ってきた。

 ホールではダンスタイムが終わり、司会者がジョークで客を笑わせている。酒とタバコ、薬が人を酔わせ、些細なネタで笑いころげている。

「そこのレディ、あなたのブラの中を当てましょうか? …コカインだ!」

「今夜は気分がいい。女を抱いた…夢を見た」

 観客たちが笑っている中、真顔の男が二人いた。エチュビラ兄弟だ。兄弟の目線はトミーの方を向いている。テーブルの下に置いたイングラムとUZIに手を伸ばすと、さりげなくマガジンを装填しタオルで隠す。

 トミーはスコッチを飲みながら、葉巻を吸っていた。司会者を見ているが、心ここにあらずだった。そんなトミーを狙うエチュビラ兄弟が、そっとタオルに包んだマシンガンをテーブルに置く。動こうとした瞬間

 パッと照明が変わる。フランク・シナトラの曲「Strangers In The Night」がかかり、ホールの端にライトが当てられて、小太りでわし鼻の男の着ぐるみが登場した。エチュビラ兄弟は顔を見合わせると、一旦マシンガンをテーブルの下に再度隠す。

 着ぐるみの男は曲に合わせて踊り、やがて観客席に近づいてくる。この様子を見たエチュビラ弟は、ライトが当たる席に観客の目が向いているタイミングでトミーを狙おうと、兄に合図を送る。次に着ぐるみ男が向かうのはトミーの隣の女性客の席だ。観客は薄暗い照明の中、うっとりと曲に聞き惚れている。誰もこちらなど気にしていない…

 ダダダダダダダッ! エチュビラ兄弟が立ち上がってマシンガンを撃つ。

 弾はトミーの頭上のガラスを砕き、着ぐるみ男に当たってしまう。トミーは間一髪床に伏せた。

 ダダダダダダダッ! ダダダダダダダッ!

 激しい銃撃の雨がめちゃくちゃに破壊していく。と、突然静けさがおとずれた。弾を撃ち尽くしたのだ。

 観客は泣き叫び、一斉に出入口を目指して逃げまどい、店内はパニックになる。トミーはベレッタを握ると、ほふく状態で殺し屋を探した。すると、逃げまどう人々の中に、二人だけ立っている男がいる。エチュビラ兄弟だ。奴らはマガジンを装填し直している。トミーは兄弟の足を狙って発砲する。

 ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 弾は命中して、弟は天井の照明を撃ちながら倒れ、兄は被弾したまま倒れてもなお撃ち続ける。

 ダダダダダダダッ!

 ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 トミーは全弾撃ち続け、弾がつきると一目散に逃げた。兄がトミーめがけて撃とうとしたが、その瞬間照明が落下してエチュビラ兄弟は下敷きになった。

 1981年 エチュビラ兄弟 死亡

 

 トミーがクラブを出ると、外は雨が降っていた。停めていたポルシェ928に乗り込むと、颯爽と走らせる。

 これはフランクからの暗殺命令に違いない。トミーは固く復讐を誓うのだった。

 

 そのころ、マーティはジェーンを家に送った後、娼婦のミリアムとベッドの中にいた。

 電話が鳴る。マーティはミリアムを見ると

「出なよ、俺はいない」

 そう笑いながら言って居留守をきめこむ。ミリアムが出ると、相手はトミーだった。

「ハイ、トミー」

「ミリアム、マーティを」

 なんだか深刻そうな声に、ミリアムはすぐマーティに変わる。

「おいおい、ママかよ」

 少しふざけてみるが、トミーは真面目に話してきた。

「服を着ろ。45分後に、[サンダ モーターズ]の前で」

 その言葉を聞いてマーティもただ事じゃないと悟った。

「何だ?」

「…ちょっとな」

 言葉数は少ないが、だが緊急事態だということは分かる。

「わかった、すぐ行く」

「早く電話切れ!」

「怒るなよ。すぐ行く」

 電話はすぐ切られてしまった。

「クソッ!」

 マーティは受話器に毒づいた。

 

 ヴィト・サリバンはフランクには内密でトミーのアジトにかくまわれていた。舎弟のジミー達も一緒にいる。

「兄貴…こんな雨の降る夜に出かけるんですか?」

 357のM19に弾をこめてホルスターに入れるヴィトに、ジミーが声をかける。

「少し出かけてくる」

 それだけ言い残して、さっさと出かけようとする。あわててジミーが

「それなら、俺と何人かついて行きます」

 あわててジミーが申し出るが、ヴィトは首を振る。

「一人で動きたいんだ…いいな」

 ジミー達が動けば相手に悟られるし、足がつく。フランク殺しはトミーと自分だけで完遂したいのだ。

 ヴィトは車に乗り込むと、トミーのアジトに向かった。

 

 ヴィトが到着し、マーティに連絡したトミーは、舎弟のニックに声をかけた。

「ニック、頼みがある。フランクに電話してくれ、3時きっかりに。奴にこう言うんだ…」

 聞き間違えないように、ゆっくりとセリフを言う。

「…ドジった。奴は逃げた。…さぁ、言ってみろ」

 ニックは真剣な顔で、一言一句間違えないようにセリフを復唱する。

「ドジった。奴は逃げた」

 トミーはうなずき、もう一つ確認する。

「何時に電話する?」

「3時」

 これが、フランクを殺害する合言葉だ。

 

 

 

 

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