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 マイアミの工業地帯には工場とともに家々が並んでいる。工場に勤めている人達が住んでいるのだ。

 町が夕焼けにつつまれる頃、トミーとマーティはキャデラックを工場地帯の一軒の家の前に止めた。マーティは車に残り、トミーだけ玄関に向かう。ドアを叩くと、四十後半の女性が出てきた。トミーの顔を見て驚く。

「ママ」

「…アントニオ」

 彼女はトミーの母親だ。

「ママ、久しぶりだね」

 トミーの挨拶に対して、彼女は複雑な表情だった。

「刑務所から何の連絡もなく…」

 出所後、トミーが家に帰って来ず、何の連絡もしなかったことをなじっているのだ。トミーが黙っていると、母親の後ろから若い女性が現れる。

「ジェーンか…」

「兄さん?」

 彼女はトミーの妹、ジェーン・モンタナ。嬉しそうに笑うトミーに、ジェーンは驚いている。家の中へ入ってからも、トミーはまじまじと妹を見ていた。

「綺麗になったな。目元が俺に似てる」

 普通は父か母に似ているというところ、何故自分に似ているなのか…

「最後に会った時は、こんなガキだった」

 手でジェーンが子供だった頃の背丈を示して

「驚いたよ」

 何度もうなずいて感心する。そして、手に持っていた小包をテーブルに置く。

「みやげを…」

 さらに、右ポケットから小さな箱を取り出して、ジェーンに渡した。

「これはお前に…たいしたもんじゃない」

「兄さん!」

 嬉しくてジェーンは抱きついた。そんな風に自分を待ってくれていた妹を、トミーも抱き締める。

「会えないかと思ってた」

 小さくつぶやくジェーンに、トミーがたずねる。

「俺が殺られるとでも?」

「そうじゃないけど…」

 あわてて首を横に振るが、胸のうちは不安でいっぱいだったのだろう。そんな気持ちを切り替えるように、トミーが明るく話しかけた。

「さぁ、開けてみなよ」

「私に?」

 本当に自分がもらっていいのか、ジェーンは信じられない様子。

「あぁ、お前にだよ。そんな大層なもんじゃない」

 肩を抱いて、優しくうながしてやる。そっと箱を開けると、ハートのペンダントが入っていた。

「ほら、裏に文字がある」

 トミーに言われて、ジェーンがペンダントを裏向けるとメッセージが、(永遠の愛を)

「素敵ね!」

 喜んでいるジェーン、トミー、その横で母親は何か物言いたげな嫌な顔をしている。真面目に働いて貯めたお金で買った物なのか心配なのだ。しかも、妹へのプレゼントにはなんだか変な気がする。

 

 場所を台所に移して、トミーはジェーンから今の二人の生活ぶりを聞かされていた。

「ママは今も工場。私はパートで美容院で働いてるの。ゴンザレスさんを覚えてる? 彼の店よ」

 冷蔵庫にリンゴを仕舞いながら、嬉しそうに話す。

「学校にも通ってるの。二年で美容師の免許を取って、自分の腕で…」

 ダンッ! 突然、座って葉巻を吸っていたトミーがテーブルを叩く。

「もういい! 今日限りでそいつは終わりだ。妹に美容院勤めはさせない、母親の工場勤めも終わりだ」

 急に一方的にまくし立てられて、ジェーンもママも驚いている。

「俺はやったぜ! 成功したんだよ! それで連絡できなかった。どれほどの成功か見せてやるよ」

 トミーはポケットに手を突っ込むと、無造作にお札の束を出してテーブルに置いた。

「1000ドルだ、ママに」

 ジェーンは兄の話を目を輝かせて聞いていたが、母親は違っていた。

「誰を殺したお金なの?」

 息子がまともに稼いだお金じゃないことぐらい、すぐ分かる。白のスーツに黒のワイシャツ姿なんて…

「ママ!」

「殺してない!」

 二人に否定されても、母親の固い表情は変わらない。

「じゃあ、何を? 銀行強盗かい? それとも倉庫荒らし?」

「違う! 今は違うよ。俺は反カストロ組織のまとめ役だ」

 政治犯だと嘘をつく。

「だから資金が集まるんだ」

「なるほどね…銃で脅すんだろ? 新聞はお前のようなケダモノの記事ばかり。[人殺しのキューバ人]皆が迷惑してるんだよ。真面目に働いているキューバ人が…」

「やめて、ママの息子よ」

 さらにトミーを悪く言おうとするのに耐えられず、ジェーンが止めに入った。

「こんな息子ゴメンだね!」

 しかし、吐き捨てるように怒鳴る母親の腹立ちは、とても治まりそうもなかった。

「昔も今もろくでなしだ。どういうつもりだい? この五年の間、便りひとつよこすわけでもない。突然現れたら金をばらまく。私が褒めるとでも? カタギじゃない服装、その態度、見損なうんじゃないよ!」

 ことさら厳しく叱られて、ようやくトミーは自分の過ちに気づいた。

「ママ、俺はママの息子だ…」

 なんとか許してもらおうと話しかけるが…

「私はお前と同類じゃない、ジェーンもだよ。妹を汚さないどくれ!」

 そう言うと、テーブルの札束から顔をそむけた。

「せっかくだけど、お金は返す。私は働くよ。二度と私とジェーンの前に現れないどくれ! 出ておいき!」

 玄関を指差して怒鳴る。ジェーンは母親の兄に対するあまりの態度に悲しくなった。

「ママ、ひどすぎるわ…」

 話し合うことをあきらめてトミーは黙って席を立ち、玄関に向かう。すると、母親は札束を投げつけた。

「持っておかえり。けがらわしい…」

「ママ!」

 たまらずジェーンは母親の手を振りほどくと、お金をつかんでトミーのあとを追いかけた。

「兄さん、待って!」

 後ろから母親の声がするが、どうしても兄に言いたいことがある。キャデラックに乗ろうとしていたトミーに追いつくと、懸命に話しかけた。

「兄さん、許して…パパが出てってからママは…」

「俺達にパパはいない」

 トミーの声は驚くほど冷たかった。ジェーンは気にせず話し続ける。

「兄さんが軍隊で何かやったことは知ってるわ」

「共産主義者が頭を押さえつけた」

 トミーは葉巻をふかしながら答える。ジェーンはうなずくと

「ママは分かってない。私はそんなこと、何も気にしてないわ。五年、十年会えなくても大丈夫よ。兄さんは家族よ、永久に…」

 ジェーンはトミーを家族として受け入れると言ってくれた。その温かい想いが嬉しくて、トミーは妹を抱きしめた。

「ありがとう…分かってるよ」

 抱き合う兄妹の姿を、キャデラックの中でマーティは見ていた。トミーは妹が手に持っているお金に気づくと

「これはお前に渡しておく」

 お金ごと妹の手を両手で握ってやる。

「でも…こんな大金もらえない。ママには?」

「ママには何も言わず、少しずつお前から渡せばいい。お前も何でも好きなことに使いな。人生を楽しむんだ。かわいいコが19歳で老けこむことはない」

 トミーの優しい言葉に、ジェーンはまた抱きついた。

「また連絡する。…金は隠しとけよ」

 キャデラックに乗ると、名残惜しげにジェーンを見つめる。

「連絡するよ…よし行こう」

 うなづいて見送る妹をのこして、車は走り出した。運転しながらマーティが話しかける。

「美人だな」

「おい! 妹に手を出すな! いいな!」

 予想外に本気で威嚇されて、マーティもすぐに

「わかった…」と答える。

「絶対だ。覚えとけよ…」

 腹立ちがおさまらないのかぶつぶつ言っている。トミーは妹を大事にしているが、その愛情はどこか度を超えているようだった。

 

 

 

 

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