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トミー、マーティ、強制施設で知り合ったチコ、エンゼルの四人で車に乗り、取引を行うマイアミのモーテルまで飛ばしていた。
途中、赤信号で横断歩道前に停まっていると、運転手のマーティがチコに車の前を歩いていく水着の美女二人を見るように言う。
「見なよ、あの女、イチコロだぜ!」
チコは上の空な様子で返事する。
「お前はアホか、103歳のババアだろ」
チコが見ているのは、美女の後方に歩いている老婆二人連れだ。会話のかみあわなさにマーティはため息をつくと、美女を指差して教えてやった。
「…どこ見てる。あっちだ」
「お、おぅ」
そんな会話をしているうちに
「車を出しな」
後部座席のトミーが声をかけてきた。
車を走らせながらマーティの軽口は止まらなかった。
「いいか、ビクつくことはねぇ」
「心配すんなよ」
サングラスを鏡のようにしているチコ、後部座席でタバコを吸っているエンゼル。そんな落ち着かない空気の中で、トミーだけは何かを感じていた。マーティが陽気に話しかける。
「ここは、マイアミ・ビーチだ!」
彼らを乗せた車は目的地のモーテルに到着した。車を止めるとトミーは三人を呼び寄せて、作戦会議を始める。
「金はトランクに入ってる」
「持ち出すのは俺だ」
「15分で戻らなければ、殴りこめ」
「9号室だ」
マーティとチコを車に待機させると、トミーはエンゼルを連れて9号室に向かう。赤のアロハシャツに黄土色のズボン、後ろベルトにはベレッタM9を隠し持つ。三階まで上がると車の二人に合図。9号室のドアをノック。コンッ! コンッ!
まもなくドアが開き、黄色いシャツの男が現れた。
「おうっ、どうも」
ニコニコと愛想良く笑っている。トミー達が黙っていると、やがて
「入んなよ、入んなよ」
部屋に入るようにうながしてきた。トミーは両手を上げて、ぐるりと回って見せながら部屋に入る。そんなトミーの仕草を面白そうに見ていた男は、真似るように回りながらついてくるとドアを閉めに向かう。しかし
「いや、ドアは開けておく。弟が心配する」
トミーが制止し、男は気分を害することも無く、ドアは開けたままで交渉が始まった。エンゼルは神妙な顔でトミーの後ろに立っていた。男はテレビのある部屋にトミー達を案内する。女がベッドに寝そべってテレビを見ていた。
「妻のマルタだ」
トミーは黙って自分を見てくるマルタに挨拶するが、反応はなかった。
「俺はヘクトル」
「トミーだ」
自己紹介をすると、沈黙が流れる。トミーが口火をきった。
「ヘンリーから話を…」
即座にヘクトルから言葉が返ってくる。
「奴はいいヤツだ」
「あぁ…」
トミーは答えると、テレビに映る警察とのカーチェイスシーンを見る。不意にヘクトルがパンッと手を叩いた。
「oh! ゼニは持ってきたか?」
聞かれてトミーも聞き返した。
「ブツは?」
「あるとも。ここにはないが、近くにある」
「こっちもだ。近くにある」
この答えに、ヘクトルは一瞬黙り、トミーの表情を読むように尋ねる。
「…どこだ?」
トミーが黙っていると、ニヤリと笑う。
「車だな」
「違うぜ。あんたのブツは? どこだ?」
トミーの質問に、ヘクトルは真面目な顔で「近くだ」と答えた。
突然、車のクラクションが鳴る。ヘクトルはエンゼルに意味ありげに笑いかけると、トミーを見る。エンゼルがマーティ達の車を見ると、二人は水着の美女とたわむれていた。
「仕切り直すか?」
なかなか取引に進まないことに焦れたトミーが言葉をかける。しかし
「あんた、故郷は?」
ニヤニヤしたヘクトルの返答は的外れなものだった。
「関係ねぇだろ!」
「カッカすんなよ…相手を知りたいんだ」
怒鳴るトミーを、なだめるようにヘクトルが話す。
「相手なんか取引すりゃイヤでも分かる」
不意にエンゼルの背後から男達が現れ、拳銃を突きつけられた。気付いたトミーもベレッタを出そうとするが、マルタが布団からマシンガンを出す方が早かった。
「動くな!」
ヘクトルにベレッタを奪われた。「きたねぇ奴らだ」「殺してやる」悪態をつくしかトミーにはできなかった。ヘクトルはトミーの頭に拳銃を突きつける。
「ゼニをよこせ」
口にガムテープを貼られたエンゼルが、男達にバスルームへ連れていかれていく。
「弟を殺るぜ。次はてめえだ」
脅しにトミーは無言だった。何をやっても殺られる。
「…てめえのクビを、ケツの穴につっこんでやる」
それを聞くとヘクトルはトミーから離れていった。逃げるなら今だが、マルタのマシンガンがこちらを狙っている。やがて、ヘクトルが鞄を持って戻ってくる。拳銃をしまい、麻薬の入った鞄から出したのは、チェーンソーだ。ヘクトルはチェーンソーを持ち、トミーをバスルームに連れていく。部屋に残されたマルタはテレビの音量を最大に上げた。それは、これから起こる惨劇の音をカバーするものだった。
そのころ車では、カーラジオの音楽に乗ってチコが踊り、マーティは水着美女を口説いていた。さりげなく水着の紐に手を伸ばすがバレて、怒った美女はどこかへ行ってしまった。ふと、時間が気になって三階を見上げた。
「トミー、見とけよ。ゼニをよこさなきゃ、次はてめえだ」
後頭部に拳銃を押し当てられ、身動き取れないトミーの目の前には、両手を鎖でひとまとめにされてカーテンレールに吊るされたエンゼルがいた。なおも口をつぐんだままのトミーを一瞥すると、ヘクトルはチェーンソーの刃をエンゼルに向けた。くぐもって動物のような鳴き声が何度も何度もあがり、断末魔の絶叫がバスルームに響き渡る。生きながらに切りつけられる様を、トミーは目を反らすことも許されず見つめていた。あまりの残酷さに、たまらず目をつぶるのが精一杯だった。
正気を失うような音の洪水が止んだ。血飛沫に汚れたバスルーム、横たわるエンゼルの死体。血まみれのヘクトルがトミーに狙いを定める。
「次はてめえだ、切り刻んでやるぜ」
マーティは腕時計を見て、約束の時間を確認する。
「おい、チコ。行くぜ」
Uziのマシンガンを持ち、チコはリボルバーを手にモーテルに入って行った。
トミーはエンゼル同様に両手を鎖で拘束され、チェーンソーの不気味な回転音にさらされていた。恐怖に顔色を失った姿を見て、満足そうにヘクトルは笑っている。
「クソったれが!」
ヘクトルを睨み付けて、トミーは唾を吐いた。怒ったヘクトルはモーター音を上げて、トミーに近づく。
(ここまでか…)
「さぁ、いくぜ!」
テレビから大音量で、地震で家が崩れていく映像が流れている。
ドドドドドドッ! ドドドドドドッ!
マーティがマシンガンでガラスドアを打ち砕いた。さらにマシンガンを構えるマルタを撃ち殺し、とひだしてきた部下も撃ち抜く。
この隙にトミーは鎖を部下の拳銃に巻き付けて、必死で抵抗していた。ヘクトルがチェーンソーで切りつけようとするが、マーティが撃ち込んだ弾が肩に当たり倒れた。とどめをさそうとするが弾切れで撃てない。
ドキュン!
倒れるマーティ。背後から肩を撃たれた。マルタと共にマシンガンで死んだはずの部下が、血を流しながらも拳銃を握っていた。部下はマルタの側にあるマシンガンを拾うと、玄関へと向かう。肩を撃たれたヘクトルも麻薬の入った鞄を持つと、玄関へと逃げた。
チコはマーティとは違う方向から9号室に向かっていた。念のためだ。大音量のする部屋に到着するやいなや、玄関にヘクトルがとひだしてきた。チコに気付くと鞄を投げつけてベランダへ逃げた。チコが追いかけようとすると、部下がマシンガンを撃ってくる。
ドドドドドドッ! ドドドドドドッ!
撃ちまくっていたマシンガンはやがて弾切れになり、この一瞬にチコはリボルバーで反撃し撃ち殺した。
ベランダづたいに隣の部屋に逃げたヘクトルは窓ガラスを壊し、部屋へ進入すると悲鳴をあげる女性を物ともせず施錠された玄関ドアを体当たりでぶち壊して転がり出る。銃弾の傷に加え、体当たりの衝撃で満身創痍だった。
一方、トミーは抵抗の末、部下から拳銃を奪うと射殺した。バスルームを出るとマーティが傷口を押さえている。
「大丈夫か?」
「あぁ、貫通した」
そこへチコが合流する。トミーはチコが持っている鞄が麻薬だと気付いた。
「チコ、そのブツを…」
マーティに肩を貸しているチコは、うなづいて言った。
「トミー、わかったから行け」
トミーもうなづき返すと、ヘクトルを追って外へ走り出した。階段をかけ降りると、ヘクトルが足を引きずりながら逃げていく。トミーは追い付くと引きずり倒した。
「…言いたいことはあるか?」
拳銃を突きつけると、ヘクトルは血まみれで叫んだ。
「クソ野郎!」
銃声が鳴り響いた。
トミー達の車が走り去って間もなく、現場には見物人が集まり、パトカーがやって来るのだった。
その日の夕方、トミーは海の見える電話ボックスからヘンリーに連絡する。
「とんだ祭りだ、ワナだったぜ」
そして事の詳細を説明した。
「さっそく調べる」
「そうしな、ヘンリー。よく調べな」
トミーにはヘンリーに対して不信感がわきおこっていた。
「ゼニは?」
「預かってる。ブツも一緒だ」
「…ブツも?」
「あぁ」
「持ってこい」
(やはり、こいつは信用ならねぇ…)
「おれがサンダのところへ持っていく、自分でな」
トミーが強い口調で答え、フランク・サンダの元に直接届けることになった。




