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トミー・モンタナ達がフリーダムタウン(強制施設)に入所して1ヶ月がたった。施設とはいっても、ハイウェイの下にテントが張られているだけで、周囲はフェンスに囲まれていた。
「おいっ、トミー。おいっ、モンタナ」
テントの外でバスケットボールでシュートをしているトミーに、ウキウキした様子でマーティが駆けよってきた。
「トミー来なよ。大事な話だ」
シュートをはずしたトミーは気を削がれ、マーティについて行く。
「おい、もう行くのか?」
一緒にゲームしていたエンゼルが残念そうに声をかけるのに、またなと手を振る。
「いい話があるんだよ」
抑え切れないようにマーティが話す。
「なんだよ。言ってみろよ」
「30日でここを出て、永住権をもらって、マイアミで職にありつく」
素晴らしい計画を打ち明けたマーティに、トミーは呆れ顔だ。
「…カストロでも暗殺するのか?」
「奴じゃねぇよ! レベンガって奴だ」
「レベンガ? …聞いたことある名だ…政治犯だ!」
「そうだ! カストロに追い出されてここに来る」
話しながらマーティが目線をうながすと、一人の男が施設に入って来る。レベンガだ。小太りの男で、白シャツに黒ネクタイ、水色のズボンに白い帽子、眼鏡をかけている。怯えているのか、周囲を警戒しながら歩いていた。
「カストロに嫌われてブチ込まれた。昔は相当の大物だった。大物だった頃に何人か殺していて、そのうちの一人の兄弟が復讐したがっている」
マーティの話を聞きながらトミーはじっとレベンガを見ていた。
「まずい面だ」
タバコを吸いながら歩くレベンガを見て呟くトミーの言葉に、マーティは笑う。
「こう返事しな。喜んで引き受けます、と。共産主義者ならいつでも殺るぜ。その上、永住権付きなら、腕によりをかけるよ」
早速トミーはレベンガ殺しを計画するのだった。
1980年8月11日 マイアミの収容施設でキューバ難民により暴動が発生。
暴徒は施設に放火、警備員を襲った。警備員達がホースの水で難民を追い払い、警棒で押さえ込む中、難民はフェンスを揺らして自由を求める。何人かはフェンスをよじ登ろうとするが、ホースで水をかけられて落ちる。
レベンガは電話ボックスに隠れていたが、ボックスごと倒されて壊され、外に引き出された。ふらふらと歩いてテントに入っていく。自分の寝床に向かうと荷物を持って逃げようとする。
「レベンガ! レベンガ! レベンガ!」
叫び声がして声の方を振り向くと、
「自由をよこせ! 自由をよこせ!」エンゼルが叫んでいる。
恐怖にかられて急いで荷物をまとめていると
「レベンガ!」
後ろからまた叫び声。振り向くとマーティがナイフを持って立っていた。
「レベンガ、レベンガ、レベンガ!」
一刻も早く逃げようとレベンガは出口に走る。
「自由をよこせ! 自由をよこせ!」
後ろからマーティ達が叫びながら追いかけてくる。じょじょに迫ってきているのか、声が近付いてくる。出口は目の前だ! その時…
「レベンガ、殺った奴の礼だ」
そう耳元にささやくと、トミーはレベンガの腹にナイフを突き立てた。一瞬のことに驚くレベンガを残して、トミーは走り去っていく。数歩よろめくと、ゆっくりとレベンガは群衆に倒れ込んだ。腹から血があふれ出していた。
1980年 レベンガ 死亡
警察官がトミーに入国許可の書類を渡す。
「よく撮れてる」
トミーは書類の顔写真に満足そうに笑うと、先に行ってしまう。
次にマーティが書類をもらうが、顔写真が気に入らないのか不満げだ。
「お、本物よりハンサムだよ」
後ろからエンゼルが言い、マーティはしぶしぶ歩き出す。エンゼルは書類を見て歓声を上げている。
マイアミの夕陽は美しい。まさに、アメリカン・ドリーム。
しかし、それは屋台型フード店[リトル・ハバナ]の看板の絵だった。トミーとマーティはそこで販売等雑用の仕事をしていた。
マーティが客の注文を受けて料理を渡している間、トミーは食器を洗っていた。コーヒーメーカーで淹れたコーヒーをマーティが客に渡している間も、トミーは愚痴をこぼしていた。
「クソ…ふざけやがって!」
洗った皿を拭きながら愚痴っているトミーに、
「どうした」マーティが聞く。
「奴らは、いつ挨拶に来る? なぜこんな仕事を?」
皿洗いに嫌気がさしている、不満でいっぱいだ。
「じきに顔を見せるって…」
マーティがトミーを落ち着かせようとするが、イライラはおさまらない。
「ちくしょう! クソ…クソ!」
ぶつぶつ言いながら、皿を洗っている。そんなトミーを気にしながら、マーティは客のクレームに答えていた。
仕事の休憩にトミーとマーティは店の隣のクラブを見ていた。マーティはコーヒーを飲みながらトミーに話しかける。
「おい、見ろよ。ピンクの女、いいオッパイしてるぜ」
トミーが笑いながら返す。
「ツレを見ろ。俺の方がマシだ」
「あんなにハンサムかよ」
マーティに笑われる。マーティはツレを指差しながら
「服を見ろよ、バチッと決まってる。ギンギンだ。コカインで稼いだ金だ」
そう言ってコーヒーを注ぎ直す。トミーは皿洗いで汚れた自分の手を、マーティに見せる。
「見なよ、玉ねぎでこれだ。黄金を拾う手なんだ…」
愚痴をこぼしていると、店長が呼びにやってきた。
「おい、表に男が二人訪ねて来てるぜ」
マーティがハッとしてトミーを振り返った。
「見ろ、来ただろ」
表に向かう二人を、店長が呼び止める。
「すぐ戻れよ。仕事が残ってるんだ」
トミーとマーティが店の裏口に出ると、紫色の車が停まっていた。車の中には男が二人乗っていて、ラテン音楽を聴きながら笑いあっている。マーティは車の窓をノックすると声をかける。
「ワルド、来たな」
そして、トミーに紹介する。
「ワルド、これが話をしたトミーだ。トミー、ヘンリーさんとワルドだ」
ヘンリー・クルツはトミーを一瞬だけ見ると話し出した。
「仕事がある。マリファナを船から運ぶ。一人500ドルだ」
「500? 悪くねぇ」
マーティは乗り気だ。だが、トミーは
「ふざけるな。500? 俺達は小荷物の配達人か?」
その言葉にヘンリー達の目付きが変わった。トミーは話し続ける。
「船からの運びは、一晩1000が相場だ」
「初仕事は500だ」即座にヘンリーが答える。だが、トミーもすぐ言い返す。
「レベンガを始末してやったのは、お遊びか?」
場の雰囲気は険悪になり、マーティが止めに入るのに
「だまれ! だまれ!」
トミーは怒鳴りつける。さらにヘンリーにも怒鳴る。
「だまれ! 聞け!」
「お前がだまれ! 皿洗いが! レベンガなら請け負う奴は大勢いたぜ!」
「皿洗いはよせ。ぶっとばすぞ」
ヘンリーは脇から拳銃を出そうとしてワルドが止め、マーティは必死で怒るトミーを落ち着かせようとする。何度もヘンリーは深く息を吸って、やがて話ができるようになってきた。
「分かったよ。デカく稼ぎたいんだな。コカインには詳しいか?」
トミーにたずねる。黙っているトミーに、もう一度たずねる。
「どうだ?」
「ナメんなよ」憮然と答える。
その返事を聞いて、ヘンリーが話し出す。
「金曜にコロンビア人からブツを買う。上物のブツ2キロ、マイアミのモーテル。ブツを確かめ、金を払って戻る。駄賃は5000ドル」
ヘンリーの説明を黙って聞いているトミー、マーティは「行って、払って、戻る」とつぶやいている。
「マシンガンを?」
ヘンリーは鼻を掃除しながら二人に聞く。
「軍隊出だ」マーティが答える。
「あと二人ほど集めろ」とヘンリーに言われ
「簡単だ」マーティが答える。
「金曜の正午、ヘクター、金を預ける」
金、に反応するトミーを見ると、ヘンリーが軽口をたたいてきた。
「…その金をネコババでもしやがったら、ボスがてめえらのクビをケツにつっこむ」
運転席で笑うワルド、ヘンリーはタバコをトミーに投げつけると車は走り去って行った。
「強気はヤバいぜ」
車が去った後、マーティがトミーに言う。だが、トミーは平然としていた。
「お前は心配しすぎるんだよ。ビクつくな」
「コロンビア人か?」
ヘンリーとのやり取りで、妙だったトミーの態度がマーティには気になる。
「コロンビア人と聞いて、嫌な顔をしてたな」
それには答えず、トミーは乱暴にエプロンを脱ぎ捨てる。
「虫が好かねぇ」ぼそりとつぶやくと、さっさと帰ろうとした。
「おい! どこへ行く! 皿が残ってるぞ」
店長が呼び止めるが、
「辞める」
そう言って、エプロンを投げつけた。
「どうやって食っていくんだ!」
怒鳴る店長に「投資信託だよ」と返す。ファッキュー! 叫ぶ店長を尻目に二人は店を後にした。
ヘンリー・クルツはイタリアンマフィア、スカレッタファミリーの幹部フランク組長の部下です。第1章では泣いたり、ヴィトの弟分ジョニーを騙し討ちしたり、小ずるい奴でした。




