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ジェスロとルフォーツが和解し、ようやくニュージャージーは落ち着きを取り戻した。
ある日、ジェスロ組長がヴィクターを連れ、久しぶりにリックをキャバレーに誘った。
「さっ、親父さん」
リックがビールを注ぎ、ジェスロは機嫌よく飲んでいく。ヴィクターも女の子に注がれて美味そうに飲み、実に寛いだ雰囲気だ。
「おう、ところで久しぶりに旅に行かんか?」
「…旅?」
「おう、そうじゃ。マイアミなんてどうじゃ?」
思ってもみない事を言われて、リックは困った。とっさに上手い言葉が出てこない。
「……でも、俺は…ニュージャージーが大好きですので…」
ようやくつぶやくように答えた。
「そうか…」
ジェスロ組長は少し残念そうだったが、すぐに話題を変える。
「ときに、お前、カロリーヌには会っとるのか?」
リックが首を振ると
「そうか…」
何か思案して、女の子を使って店長へ伝えに行かせた。
しばらくして、またジェスロ組長がリックに話しかけてくる。
「リック、実はな、お前に会わせたい女がおる…おい! 来てええぞ」
リックが振り返ると、一人の女性が近づいてくる。カロリーヌだ。彼女もリックに気づいて驚いている。
ジェスロ組長は二人の反応を見て、満足そうに笑う。
「まぁ、これからの事は、お前ら二人で決めろ」
そう優しく言い残すと、ヴィクターを連れて出て行った。
リックとカロリーヌはしばらくお互い黙っていたが、カロリーヌが先に話しかける。
「ごめんね。あの後、私…店の方も叔父さんに取られて…こんなキャバレーで働いて…」
突然リックが店の外へ駆け出した。店先にいたジェスロを見つけると、近寄り土下座する。
「…いや、気にするな」
そっと声をかけると、帰って行った。
これで、リックとカロリーヌは一緒になることが許された。
その後、リックとカロリーヌと娘のミクは一緒に暮らし、ミクが楽しげに走りまわるのを二人で温かく見守っていた。リックは組員としても認められて、文字どおりアメリカンドリームを手に入れた男だった。
だが、このあとにやってくる悲劇を誰も予想だにしなかった。
1979年9月、午前0時
リックとカロリーヌがベッドでむつみ合っている。このころリックは組の仕事をせずに、ミクと遊んだりぶらぶら過ごしていた。
満足したのかリックが枕元でタバコを吸おうとする。ライターがオイル切れで火がつかないでいると、カロリーヌが火をつけてくれた。ふと、タバコを吸わない彼女が何故ライターを持っているのか気になった。
「そのライター…」
「これ? これは…うちの人が持ってたものよ」
カロリーヌの視線の先には、戦死した夫の写真が立て掛けられていた。隣の写真は赤ん坊を抱いて三人で撮ったもの。赤ん坊はミクだろう…
「そろそろ…あの子の父親になって欲しいわ…」
独り言のようにつぶやく。
「…ならないと困るのか?」
「叔父さんが、旦那が死んで未亡人のままじゃ子供が可哀想じゃ、って言ってきてね。再婚するなら叔父さんの息子さんをとすすめられてるの」
リックには初耳だった。ジェスロ組長は自分たちの仲を認めてくれていると思っていたのに。
「籍を抜くとか入れるとか、そんなことしなくても一緒に暮らせばいいじゃないか…」
ごろりとベッドに寝そべって、言葉を続ける。
「…戦死した旦那さんは大切にしないと…」
「あんたもベトナム戦争に参加したの?」
カロリーヌに聞かれ、リックは首を振る。
「参加してない……訓練兵だったから、訓練中に戦争は終わったんだ…」
話しているうちに当時のことが思い出されてくる。
「訓練中、つらくて逃げたいと思ったこともあったんだ…」
黙りこむリックに、何も言わずカロリーヌは優しく頭を撫でた。
突然、電話が鳴った。
あわててリックが受話器を取る。
「はい! ……はい! ……はい! ……分かりました!」
ガチャン 電話を終えると、スーツに着替える。
「どうしたの? こんな夜中に…」
心配そうに聞いてくるカロリーヌに
「仕事だ」
そう言って出て行ってしまう。
バルチャーが残した三人の舎弟達は、ある計画のために武器の準備をしていた。その計画とは、ルフォーツの跡目を継いだスタンを殺してバルチャー連合会を乗っ取り、オックス組と抗争するというもの。ショットガンやリボルバーの銃口に油を差したり、鏡のように磨いたり、いつでも抗争できるように準備をしていた。
ふいに玄関のドアをドンドン、ドンドンと叩く音がする。
「なんじゃい!」
怒鳴りつけると、ドアの向こうから
「…あの…夜分に失礼します…隣の者ですが…」
か細い声が途切れ途切れに聞こえてくる。うるさくしてしまったかな、と思いドアを開けることにした。舎弟がドアを開けかけると、ぬうっとコルトのリボルバーが差し込まれた。リックが両手で構えていたのだ。目をむいた舎弟に
「おう、久しぶりだな…往生してくれよ」
「ぅわああぁ!」
ドンッ! 舎弟は即死。
物音を聞き付けて、もう一人の舎弟が玄関に向かう。リックが入ってきたのに気づいて、手に持った拳銃を向けるも、すかさずリックが撃ち殺す。
「リックさん、勘弁してください…どうか許してください…リックさん…許して…」
奥の部屋で武器の手入れをしていた最後の一人。ぶるぶる震えて必死に命乞いをするが、リックは銃口を向けた。
ドンッ! ドンッ!
外に出ると、リックはいつかのように思わず口笛を吹き、現場を後にする。
ところが、その帰りのこと、階段で二人組とすれ違ったところで、突然壁に押さえこまれた。
「なにしやがる!」
必死でリックは抵抗するが、完全に取り押さえられて、ついに手錠をかけられてしまった。
リック・コーネル 午前2時 逮捕
なぜリックが逮捕されたのか。それは、ジェスロ組長がリックとカロリーヌの関係を引き裂き、リックを追放するために仕組んだのだ。
この事件後、ジェスロ組長はスタンと手を結び、競馬場の利権を手に入れる。
そして、バルチャーの怒りは仲介人の長老エンリケに向けられるのだった。
ある夜、電車で寝ていたエンリケは、バルチャーの舎弟二人に襲われた。拳銃の安全装置を外し忘れて弾が出ないすきに、エンリケは他の乗客を盾に逃げ出す。舎弟達も追いかける。
ドンッ! ドンッ!
背後から撃たれ、エンリケは死んだ。
その後、記者達に聞かれたジェームズ・バルチャーは会見を開く。ヘンチマンが文章を読み上げる。
「ジェスロ組が利権をめぐり、いかに悪どい手段を講じてきたか…。今回のエンリケ氏の殺人は我々が関わっていると疑われていますが、そもそもジェスロ組が競馬場の利権を譲らないから抗争がおき、このような事件が起こっているのです」
「それで、あなた達はどうするんですか?」
質問してきた記者に煙草の煙を吹きかけると
「わしらは、まだこれから準備があります。勝負はこれからよ!」
そう宣言した。
「それは…まだ、戦うと?」
さらに質問してくる記者を、睨み付けると
「じゃかましい! わしらはやりたくてやっとるんやないぞ! ジェスロ組と警察の不正を暴くまで、この戦いは終わらんのじゃ!」
記者達を怒鳴り付けた。
「それで…凶器の拳銃はどこにあるの?」
この質問には、舎弟の一人が
「おう! 持っとるよ!」
拳銃を見せると、記者達は一斉に写真を撮る。
「おう! もっと撮ったれ!」
バルチャーは笑い、舎弟に拳銃を見せびらかすように指示した。
こうして、バルチャーはマスコミを利用して、ジェスロ組と警察組織との繋がりを潰そうと考えていた。そして[所払い5年]をあえて無視して、ニュージャージーに帰って来るのだった。




