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第1章の主人公ヴィト・サリバンは今回は脇役です
1969年 アメリカ最悪の戦争、ベトナム戦争がおこった。若者が戦いに行き、英雄として帰ってくる者、骸となり帰ってくる者、しかし、ほとんどが後遺症を持ったまま帰ってくる者だった。
1975年 ベトナム戦争が終わり、若者たちが国へ帰って来た。しかし、彼らを待ち受けていたのは社会という壁だった。
1976年終戦後、ニュージャージーでは、ジェスロ・オックスを組長にするオックス組と、ルフォーツ・BJ・バルチャーのバルチャー組の抗争がおこっていた。
ベトナム訓練兵リック・コーネルは、故郷のニュージャージーに帰って来たが定職につかず、ぶらぶらして賭博場で博打を打っていた。
ディーラーが山札からカードを出す、ダイヤの6。次々とチップが賭けられていく。
ディーラーがさらに山札からカードを出す、スペードのキング。
各プレーヤーが手札を見せ、嬉しそうに見せた男の手札は6のスリーカード。勝者だ。周囲がざわめく。
リックも手札を見せる。手札はキングのスリーカード。
「おい! お前、何か袖に隠してるだろ!」
組員に詰め寄られ、リックは驚いた様子。
「袖って…何も隠してないよ…」
「いいから! 調べさせてもらうよ」
なおも組員がリックの袖をまさぐると、パラリと配ったカードが出てきた。イカサマだ。
「…てめぇ…なめやがって」
怒りをあらわにした組員達がリックを取り囲む。おどおどしながらリックも言い返す。
「それが配られたものだって証拠はあるんか? 勝ったんだから、因縁つけずに俺の勝ちにしなよ!」
隙を見て逃げようとしたが捕まってしまい、裏口へ連れていかれて顔を殴られ腹を蹴られボコボコにされた。
「カタギに免じてこれで許してやるが、今度ツラ見せやがったらただじゃおかねぇ…くそが!」
持ち金を全部取られてしまった。動けないリックに「このクソガキが!」とさらに一発蹴りを入れて組員達は去って行った。
しばらくしてようやく動けるようになり、ふと裏口の扉が少し開いているのに気づいた。覗くと誰もおらず、キッチンのようだ。痛む体を引きずって、流し台で血まみれの口をすすぐ。
「うう…くそっ…ううっ…」
痛みと怒りと悔しさと……
すると、流し台の横に包丁が置いてあった。
リックは包丁を握りしめると、喧騒に包まれているポーカーのテーブルに向かう。さっきリックをボコボコにした組員達もいた。皆ゲームに気をとられて、リックには気づかないようだ。
「さぁ、座ってください」
ディーラーが客達とゲームを始める。その瞬間
「どりゃあぁぁ!」
リックは包丁を振りかざしてディーラーと組員達を切りつけた。店は阿鼻叫喚と化し、リックは組員と客の区別がつかないまま暴れた。すぐに警察に通報されて、逮捕。傷害罪で5年の懲役となった。
刑務所でもリックの素行は悪く、事あるごとに囚人、看守と喧嘩になってしまっていた。
丁度この頃、ヴィト・サリバン、ジョニー・ラッツォがフレッド・シナトラを中華街で殺害した罪で服役していた。
ある時、リックは手枷をされたまま懲罰室に入れられてしまった。
「くそ…ぶっ殺す…ぶっ殺してやる……ぶっ殺してやる! うううっ…」
ぶつぶつと恨み言を呟き続けるリック。そこへ看守の目を盗んで、ヴィトが皿を差し入れてきてくれた。
「おい、それでも食べて元気つけろ」
皿には牛乳に浸したパンが乗せられていた。残飯だが何も食べられないよりずっとマシだ。
「すいません」
皿に顔を突っ込むようにむさぼり食べた。
1978年、リックは仮釈放された。
リックは空腹に堪えきれず安食堂で食事をしていたが、実は無一文だった。食事が終わり女店主に声をかける。
「ねえさん」
呼ばれた女店主は「はい?」と近寄ってきた。
「実は…金が無くて…ここで働かせてくれないかな」
気まずさにボソボソとリックは頼みこんだ。しかし、忙しそうな女店主はリックの風体を見ると、小首をかしげた。
「うちは今人手が足りてるから、ほかの店に聞いてくださいな」
さっさと去ろうとする女店主に、リックはあわててポケットから金の腕時計を出して渡した。
「ここで働いて返すから…金はもって無いけど、代わりにこれを預けるから」
女店主は金の腕時計を即座にリックに返すと、
「何? こんなものにはお金をかけられるんですね。もういいから、出て行ってくださいな」
話は終わりとテーブルを片付けだす女店主。リックはその腕をつかんで食い下がる。
「ちょっと! 俺は乞食じゃないよ」
「何? 無銭飲食しといて、因縁つけるの?」
二人が言い争いになっているところに、チンピラ二人組がやってきた。
「なんや? かっちゃん、わしらに任しとき」
チンピラに気づくと女店主はあわてて何でもないと手を振った。
「あんた達は出てこなくていいから!」
チンピラの一人がリックに近寄ると睨みつける。
「このバカタレが! このねえさんはな、オックス組長の姪にあたる人じゃ!」
そう言うと、見せしめとばかりに金の腕時計を外に投げて踏み壊してしまった。
「なにすんだ!」
怒ったリックは飛びかかるが、角材で頭を殴られて倒れる。チンピラ二人組はリックを立たせると、廃材置き場に引きずって行く。そこにはいかにも武闘派の男が待っていた。男は出刃包丁で角材を切断すると、取り押さえられて逃げられないリックの顎に先端を突きつけた。
黒のジャケット、赤いシャツ、カーキ色のズボンに黒ブーツ、サングラスに黒帽子の男。
「わしがバルチャー連合会のジェームズ・バルチャーや。文句あるんやったら、表出ぃ。相手しちゃる」
ジェームズ・バルチャー。人呼んで[ニュージャージーの暴れ馬]と恐れられている男だった。学生の頃から日本の空手道を習っていて、これを使って暴れたこともある。
リックは外に出され、角材でこれでもかと殴り飛ばされる。必死で逃げ回るうち、そこにあった角材を拾うとこれを振り回して応戦。しかし、後ろから部下に押さえつけられて、バルチャーの前に連れてこられた。
「このアホガキャ! おりゃっ! うおりゃ!」
何度も何度も殴打する。リックは必死で振り落とされる角材から逃げ回り、ネズミのように車の下へ逃げこもうとする。だが足をつかまれ引きずり出され、またもや殴られ続ける。
「やめて! そのぐらいにして!」
女店主が血相変えて走ってきた。
「やめてちょうだい! 相手はカタギの人なのよ、やめてちょうだい!」
必死で止めるが、一度火がついたバルチャーは止まらない。
リックは血まみれで女店主にかばわれながら、それでも毒づいた。
「殺せや! お前らの顔、忘れんからな。殺さんかったら、お前ら一人ずつぶっ殺してやるからな!」
「このクソガキャ!」
バルチャーはブチギレ、女店主からリックを引き剥がすと、再び殴りつける。
「やめて! やめてー!」
もう逃げる力もないリックは殴られるまま、蹴られるまま。
このままでは本当に殺されてしまう。
「若! 止めや」
ふいに部下がバルチャーを止めた。
「組長です」
「じっちゃん?」
怒りの形相のままバルチャーが見ると、数人の男達を連れて老人がこちらへ走ってくる。
「ええい! くそじじい!」
盛大に舌打ちすると「引き上げじゃ」と部下達を連れて逃げて行った。
この老人は、バルチャーの祖父であるルフォーツ・BJ・バルチャーである。
「ジェームズ…馬鹿たれが…また不良達で愚連隊作りおって!」
ボロボロになって倒れているリックに気づくと、部下に指示して女店主の家まで連れて行くことにした。この時、ルフォーツの横にいたのはバルチャーの腹心の部下のヘンチマン、後にバルチャー連合会2代目になるスタンだった。




