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仁義の死闘 ~Mafia War~  作者: レイ・R・チャールズ
ベトナム帰還兵 死闘編
15/44

15・最終話

 イタリアンマフィア、スカレッタファミリーは警察の苛烈な尋問、捜査により、窮地におちいっていた。

 そんな中、ヴィトはフランク・サンダ組長から呼び出された。

 組長室に入ると、そこには腰巾着のヘンリー・クルツもいた。

「おやっさん、なんでしょうか」

 フランクは見るからに不機嫌そうな顔で、いきなり怒鳴りつけてきた。

「ヴィト! こんのマヌケ! なんでお前はソーサを刺し違える覚悟で殺らなかったんだ! お前が自分の命惜しんだばっかりに…見てみろ! サンダ組は毎日警察に見張られてるんだ! この腰抜けが!」

 どんどん顔が紅潮していき、その怒りは凄まじかった。

 一方的に怒鳴られるままで、ヴィトには返す言葉がなかった。

「わからんか…この、俺の悔しい悔しい気持ちが…」

「ヴィト、親父さんは毎日毎日悔しい思いして、朝から晩まで泣いてるんやぞ。気の毒やと思わんのか?」

 ヘンリーが気の毒そうに組長を見て、ヴィトを責めてくる。

 フランク組長と同日に主要幹部数名が逮捕され、釈放された姿は皆かなり憔悴しきっていた。何があったのか聞けないが、おそらく尋問が過酷だったのだろう。サミュエルは留置所、トニーの親父も先日逮捕された。

「わかりました。おやっさん、ソーサは俺が殺ります。これで恩は返したものとしてください!」

 そう言って頭を下げると、席を立とうとした。

 すると、ヘンリーが呼び止める。

「おいっ、待て。ソーサの居場所分かるのか?」

 ヴィトが黙っていると、メモ用紙にペンで書いて渡してくる。

「最近いきつけにしとる店や」

 ヴィトはメモを受け取ると、ボソリと低く問いかけた。

「……アントニオ兄貴の隠れ家、警察にチクったのは…」

 その目付きは不穏で、ごまかしを許さないといっていた。

 しかし、組長はあっさりと流す。

「おいおい、そんな昔のこと誰が覚えてるんだ?」

 ヴィトが帰った後、すぐにフランク組長の指示でヘンリーがある人物に電話した。

 

 サンダ組事務所を出た足で、ヴィトはメモのレストランに向かう。

 向かいの通りから見張っていると、ほどなくしてソーサが部下を連れて入っていった。

 ヴィトは愛銃のM19を取り出すと、シリンダーを確認する。弾は6発。部下は二人。

 一般人を巻き込まずに殺るには……

 小一時間して、ソーサが店から出てくる。

 前後に部下を連れて歩くソーサを、後ろからそっと尾行する。

 素早く拳銃を引き抜くと、後ろの部下の肩を撃つ。

 ドシュッ、

 倒れこんだ部下の側にソーサがいる。真っ直ぐに胸を狙い、

 しかし、もう一人の部下にヴィトは突き飛ばされてしまった。

「殺すな!」

 ソーサが部下に命令する。

 さっき拳銃を向けた時のソーサの顔に、怯えがなかった。バレていたのか…

 取り押さえられたヴィトに近づくと、ソーサが言った。

「お前一人で殺しにくるとは、なかなかいい度胸してるな。まぁ、なにかあったら俺の所にこいよ」

 そう言い残して、去って行った。

「くそっ!」

 ヴィトは拳を地面に叩きつけて、歯噛みするしかなかった。

 

 

 ジョニーは、耳を疑った。

「ヴィトを殺れ、ジョニー」

 何を…なに言ってるんだ…

 フランク組長に呼び出されて行くと、難しい顔で組長が待っていた。

 いつも引っ付いてるヘンリー、今日もかよ。イヤな野郎だ。

 憮然とした態度のジョニーに、フランクが命令する。

(裏切り者のヴィトを殺せ)

 ヴィトはソーサに寝返った。サミュエルと一緒に対ソーサにあたっていた時から、ソーサと内通していたようだ。スカレッタを見捨てて逃げたんだ。それが証拠に、さっきソーサを殺るように命令して、場所も教えて任せたのに、失敗して行方不明だ。こうなったら弟分のお前が落とし前をつけろ、と。

「…いやだ…兄貴を殺すなんて…俺には出来ないっすよ!」

 叫んで、部屋を出て行こうとした瞬間。

 ドシュッ!

 背後からヘンリーに撃たれた。

 ジョニーはドアの前で倒れて動かなくなった。

「チッ! 出来損ないが! おいっ、掃除しとけ!」

 フランクはジョニーの死体を一瞥すると、ヘンリーに命じて出て行った。

 残されたヘンリーは、しぶしぶ両脇に手を入れて引きずる。

 ゴスッ!

 息を吹き返したジョニーが、一瞬の隙をついて頭突きを見舞う。

 気絶したヘンリーのジャケットから鍵を奪うと、ふらつく足取りで車に乗って逃げる。撃たれた傷口から血があふれ、みるみる服を赤く染めていく。

 兄貴……兄貴…!

 

 一方、ヴィトはアイリスの部屋に隠れていた。

 弟分のジミーも呼んで、これからどうするか話し合っているのだ。

 すると、外から車のクラクションが鳴らされる。

 ジミーは拳銃を握ると、様子見に出て行く。間もなく、

「兄貴っっ!」

 大声で呼ばれてヴィトが見ると、両手を血で汚したジミーが車の側に立ち尽くしている。顔は蒼白だ。

 まさか!

「……ジョニー」

 あわてて車に向かうと、そこには瀕死のジョニーが横たわっていた。

「ジョニー!」

 ヴィトが叫ぶと、わずかに瞼が開いた。

「…兄貴…フランクが…殺しに…く…」

「言うな…わかったから、何も言うな!」

 血まみれのジョニーの手を強く握りしめ、必死でヴィトが呼びかける。

 血の気を失った唇を震わせて、なおも話そうとする。

「…俺…兄貴の……役に…たちたかっ……」

 瞼が閉じられ、ジョニーの身体は力を失った。

「ジョニー……ジョニー! 死ぬな! 死ぬな!」

 ヴィトはジョニーを抱きしめ、悲しみに肩を震わせた。ジミーは顔をぐちゃぐちゃにして号泣し、アイリスも溢れる涙をとめることが出来なかった。

 ようやく顔を上げたヴィトに表情は無く、頬には乾き切らぬ涙のあとがあった。

 

 翌朝、朝日が昇るのを眺めながら、ヴィトはタバコを吸っていた。

「決めたの?」

 そっとアイリスが声をかける。

 それが合図だったように、ヴィトは彼女を見つめて答えた。

「ああ、行こう」

 彼女と一緒にニューヨークを離れる。フランクが口封じのために動いている以上、一刻の猶予も無い。荼毘に付したジョニーの遺骨も、一緒に連れていってやるのだ。

 まとめた荷物をヴィトが車に積み込み、アイリスは遺骨の箱を抱きしめて寄り添っていた。

 その時、一台の車が走ってきた。

 バンッバンッバンッ! バンッ! バンッ!

 激しい銃撃に襲われる。

 ヴィトはとっさにアイリスをかばって地面にふせ、ジミー達も銃で応戦する。

 車は猛スピードで走り去っていった。

 追撃がないと感じて、ようやくヴィト達は息をついた。

 そして、アイリスを見ると、彼女は死んでいた。流れ弾に当たったのだ。

 震える手で彼女の顔を撫でると、ヴィトは彼女を抱きしめる。涙が頬を伝う。

 地面に散らばったジョニーの遺骨が、涙で見えなくなった。

 

 

 逮捕後も無言を貫くトニー・ヴェルセティの元に、今日も取調担当刑事がやってきた。

「トニー……サミュエルが死んだよ。獄中自殺だ」

 哀れむように、トニーに告げられる。

「可哀想にな…奴は組織のために身を尽くしたのに…こんなものを書き残していたよ」

 それは「破門書」の裏に、血で書かれていた。

 ……兄貴、ばかばかしくて、やってられません……

「なぁ、トニー……これでもまだ、トーマスに仕えると言うのか?」

 血文字を見つめていたトニーの肩が、やがて小刻みに震えだす。

「…うっうっ…ううっっ……」

 うなだれて声を押し殺して泣いていたが、突然がくりと倒れてしまった。

 すぐにトニーはフランクリンのいる病院に救急搬送された。

 トニーの心臓病は悪化しており、これ以上の取り調べには耐えられない、とフランクリン医師は診断した。

 翌日、トニーは病室を抜け出すと妻アンナに付き添われて、トーマス会長の病室を訪ねた。

 久しぶりの来訪に驚いているトーマスに、深々と頭を下げる。

「会長……俺、組を辞めようと思います…」

 パシッッ!

 平手打ちされ、よろめくトニーをアンナが支える。

「許さん! トニー、お前が辞めるなんて絶対に許さん!」

 息を荒げて怒るトーマスの言葉を、トニーは苦悶(くもん)の表情で受けとめている。

「トニー、もしお前が辞めたらスカレッタ…いや…俺はアメリカに負けたことになる。それだけは絶対にダメだぞ」

 そう言うと、トニーの肩を強く握った。

「いいな、お前は息の続く限り、俺について来ればいいんだ、トニー」

 病室のドアがノックされ、フランクリン医師とマイケルが入ってきた。

 フランクリンは病室にトニーがいるのを見てホッとしている。トニーが自分の病室にいないので、慌てて探していたようだ。

「こんなボロボロになって……先生、すぐに休ませてやってください…」

 トーマスの言葉にフランクリンは頷いて、そっとトニーを促した。

 すっかりやつれてしまったトニーの姿に、トーマスの胸に後悔が押し寄せてくる。

(あいつがあんなになるほど大変なら、今こそ俺がやらねば!)

 

 フランクリン医師とマイケル、アンナに付き添われて病室に戻る途中、ふとトニーが歩みを止める。

「……先生、家で休む訳にいきませんか?」

「あなた!」

 アンナは信じられないという顔で、マイケルも驚いている。

 フランクリンはトニーが無理を言う胸の内を考えてしまい、とっさに何も返答できなかった。絶対安静が必要な身体でなお、やり遂げたい事があるのだろう……

 一人で歩こうとするがふらつき、あわててアンナが支える。

「あなた! 無理しないでくださいな…」

 フランクリンはマイケルに声をかけた。

「急いで病室に運んでください」

 

「先生! なんとかならないんですか!」

 ベッドで痛みに苦しむトニーに、アンナは顔色を失っている。

「注射で抑えましょう」

 フランクリンは痛み止めにモルヒネを打った。徐々にトニーの呼吸が整ってくる。

 ようやく発作が落ち着いたころ、トニーはマイケルに言った。

「マイケル、紙を持ってこい。解散する」

「…親父さん、それは…」

 さすがにその命令には是とは言えない。マイケルは何も言えず、何もできずにいた。

 アンナが濡れタオルで、トニーの汗を優しく拭う。

 やがてモルヒネの効果で身体が楽になり、トニーは静かに寝息をたてていた。

 フランクリンはマイケルと共に出ていき、トニーとアンナの二人だけになった。

 

「アンナ…いろいろと迷惑かけたな…」

 ベッドで横たわっていたトニーが、アンナに話しかけた。

 アンナは一瞬驚いて、すぐに笑った。

「何が迷惑ですか? 私はこうしてあなたと一緒にいられるだけでいいんです。トーマスさんが本当にあなたのこと理解してるかどうか、私には分からなかった……でも、それももう済んだこと。後は二人でのんびり暮らしましょう」

 アンナの表情はとても穏やかで、嬉しそうだった。

 トニーは決心した。

「アンナ、解散状を書くぞ!」

 その眼には力強さが戻っていた。

 紙とペンを用意させて、文章を書いていく。しかし、やはり病魔は刻一刻と進行し続けており、字を書くことさえも体力を奪っていく。指先が震え、脂汗を浮かべながらも必死で書き進める。おそらく、トニー自身が体力の限界を一番わかっていた。

 ようやくあとは名前を書くところまで書き上げた時、ついに発作が襲う。

「う! うぅぅぅぅ」

「あなた! あなた!」

 痛みに身体を丸め苦しむ背中を、アンナは必死でさする。

 荒い息づかいに見てられなくなり、アンナは声をかけた

「…あなた…先生呼びましょう」

 しかし、トニーはアンナの袖口を握り、かすかに首を横に振る。

「あなた!」

 お願い…と泣きながらトニーの手を握りしめる。

「…頼む…アンナ……これを書かなきゃ、俺は……死んでも死にきれない…」

「あなた…」

 

 数分後、フランクリン医師とマイケルが病室にかけつけた。

 痛みに悶えるトニーには、もはや声も届かない状態だった。だが、右手にはペンが握りしめられ、倒れ伏した机には解散状があった。すぐさまフランクリンは背中からモルヒネを打つ。

 だが、発作が治まる気配が見られず、フランクリンは決意する。

「モルヒネの量を増やしましょう」

 そして、一瞬のためらいの後モルヒネの量を倍にして注射する。

 やがて、トニーの呼吸は落ち着き、フランクリンはそっとベッドに寝かせる。その安らかな呼吸を繰り返しながら、トニーは息をひきとった。

「4時28分ご臨終です…」

「あなた…あなた!」

 ベッド脇に泣きくずれるアンナ。

 涙を拭っていたマイケルは、解散状を見ると何も言わず丸めてポケットにしまった。

 医局には刑事達がやってきた。病院内に見張りがいるのか、トニーの動向に敏感だ。

「トニーさんはつい先程亡くなりました」

 フランクリンの言葉に、刑事達は顔を見合って驚いている。

「君、また嘘をつくつもりかね、どこだ?」

 刑事達が3階の病室に行くと、そこには冷たくなったトニーが横たわっていた。

 ついてきたマスコミは病室の外で止め、そうそうに刑事達は引き上げていく。。

 ドアの側で待機しているマイケルに、マスコミはマイクを向ける。

「解散はしますか?」

「しません」

 強くマイケルは答えた。

 二人きりになったアンナは、そっとトニーの頬を撫でながら泣いていた。

「辛かったわね……でも、もう誰もあなたをいじめる人はいませんよ……」

 そう話しかけて、泣きくずれていた。

 

 トーマスの病室にフランクリンが訪れた。

「最期は?」

 トーマスが尋ねるが、フランクリンは黙っていた。

「処置はしてやったのか!」

 思わず怒鳴ってしまうと、フランクリンは苦笑いを浮かべていた。

「…お義父さん、私もスカレッタファミリーの一員ですよ」

 あの処置は安楽死的処置だ、医師には許されない行為。トニーを全ての苦しみから救い、スカレッタファミリー解散を防いだ行為。

「……そうか、よくやった」

 うなだれたトーマスが口にできたのは、その言葉だけだった。

 

 

 フランク組長は逃亡先として、マイアミに向かおうとしていた。そこに男が現れる。

「ほぅ、ヴィト。何しに来た?」

 ヴィトは黙りこんで、じっと睨み付けている。

「あぁ、思い出したぞ…確か、お前の出所後は全財産をやると言ってたな」

 胸元の財布から5千ドルを出すと、ヴィトに投げて寄越した。

「あばよ」

 馬鹿にしたようにニヤリと笑い、フランクは歩き出す。

「おいっ!」

 振り返ると、ヴィトは片膝をついて拾った金を握りしめている。

「この金で俺がお前らを殺す、と言ったらどうする?」

 気迫のこもった声で聞かれて、フランクは不敵に笑い

「やれるもんなら、やっ・て・み・な!」

 ゆっくりと歩き去っていった。

 ヴィトはただ悔しさを噛みしめて、その場にたたずむしかなかった。

 

 こうして一人の男を弱肉強食の闘いにいざない、抗争は激変するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

読んでいただいて有難うございました。

次章はまとまり次第投稿します。

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