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仁義の死闘 ~Mafia War~  作者: レイ・R・チャールズ
ベトナム帰還兵 死闘編
14/44

14

 それは、ある夜のことだった。

 イタリアンマフィア、スカレッタファミリーのサミュエル・ジュデスの部下ネイルが、バーのトイレでソーサの放った殺し屋に殺された。背後から不意討ちに2発拳銃で撃たれ、なんとか拳銃を取り出して反撃を試みるも、さらに2発浴びたのだ。

 死体安置所に駆けつけたサミュエルは、冷たくなったネイルの顔を触り、立ち尽くしていた。

 やがて、腹心の弟分の死が受け入れられると「うおおぉぉぉ! うおおぉぉぉ!」獣のように泣き叫んだ。

「いいか、お前達が来たせいでこんな事件が起こったんだ。これ以上大事にならんように、今すぐ部下達を引きあげさせろ! これは命令だ!」

 刑事に言われて、大人しく従うサミュエルではない。

「…ほぅ、どうも警察の方はソーサの肩を持つみたいですな!」

 警察の動きは早かった。サミュエル達のいるホテルは、すぐさま警察が包囲網を敷いていた。部下達を撤収させない場合は、一斉逮捕も辞さない構えだ。

 怒ったサミュエルは、幹部のトニー・ヴェルセティに電話した。

「夜の12時までに部下全員撤収しろ、なんて訳分からんこと言うてきました。どうなるか分かりませんけど、こうなったらソーサにカチコミかけようか思います」

 戦闘モードに入っているサミュエルに、トニーは静かに話す。

「話はよく分かった。悪いが、サミュエル、カチコミはいつでも出来る。それよりもオリバー先生の葬式に、俺は行かんとダメなんだよ」

「兄貴…そりゃフランクとかが代理で行ったらいいでしょう」

「いや、それじゃあ会長が自分が行く、言うてきかんからなぁ」

 今トーマス・スカレッタ会長は入院中だ。しかし、親交の深い政治家オリバーが脳出血で倒れた時は、病室から自ら見舞いに行くと言い張るのを、トニーが代理で見舞うと説得した。他の誰でもない、代理がトニーだから任せたのだろう。

「わかりました、兄貴。ここにはヴィト達を残して、俺が兄貴と葬式について行きます」

 

 

「ほぎああぁぁ!」

 赤ん坊の泣き声に、カトリーヌはハッと目覚めた。見ると、アパートに戻ってきたショーンが、上着で赤ん坊を絞め殺そうとしている。

「やめて!」

 叫ぶとショーンを突き飛ばした。床に転んだショーンは狼狽して怒鳴ってくる。

「あほ! お前、なんやこの子! お前なぁ、俺子供欲しい言うたけど…これ、俺の子違うやろ!」

 赤ん坊の肌は白く、髪はプラチナブロンド。ショーンにもカトリーヌにも似ていない。しいて言うならブラウンの瞳はカトリーヌ似なのか。カトリーヌ自身はショーンの子供だと思っていただけに、無事に生まれてきた我が子の容姿には困惑した。けれど、いくらショーンに責められても何も答えられないし、日毎にいとおしさは増していく。

「カトリーヌ、お前俺と一緒にいたかったら、この子殺してこい! お前の手でな! ……お前、何考えとるんや」

 ショーンは言い捨てると出ていってしまった。

 

 バー「かもめ」ではショーンが今夜も酒に逃げている。

「おいお前、もうその辺にしとけよ」

 見かねて店主がたしなめるが、

「うるさい!」コップを投げつけた。

 その様子に驚いた客がこちらを見る。

「…なんだぁ? 何見てんだよ!」

 睨みつけて怒鳴るショーンを、あわてて店主が止める。

「お前なぁ…いいじゃないか、金髪でも何でも。無事に生まれてきてくれたんだから。第一、カトリーヌに逃げられたら、お前明日からどうやって生活するんだ?」

「うるせぇ!」

 また酒に溺れるのだった。

 

「あんた、どこまで行くの?」

 気のいい運転手の兄ちゃんが尋ねる。

 カトリーヌは赤ん坊を抱いて、大型トラックの助手席に乗せてもらっていた。

 もう、ショーンとは一緒にいられない。この子と一緒に生きて行くのだから。

 決意して荷物をまとめて家を出ると、ヒッチハイクで大型トラックに乗った。

「どこへでも…」

「俺、カナダまで行くけど、ついてくかい?」

 どこか嬉しそうな兄ちゃんにつられて、カトリーヌもうなずいて微笑んだ。

 彼女の腕の中で赤ん坊はすよすよと眠っている。

 大型トラックはニューヨークから遠ざかっていく。

 

 次の日の夜、ショーンはバー「かもめ」に呼びつけられた。

 店の奥の部屋には男が待っていた。

「なんですか? 兄貴、用事って」

「おぅ、お前に殺して欲しい奴がいるんだよ」

 ショーンは兄貴分の顔を食い入るように見る。殺しとは物騒なことを。

「…誰です?」

「トニー・ヴェルセティ」

 テーブルに拳銃がゴトリと置かれる。

 超大物の名前に、ショーンは闘志がみなぎってくるのを感じた。

 

 

 オリバーの葬式の帰り道、参列者達の後ろから一台の黒い車が近づいてきた。

 トニーの隣にはサミュエル、後ろに部下のジャック、ヴィトがついて歩いている。

 ふとサミュエルが車に視線をやると、スナイパーライフルが

「危ない!」

 サミュエルは瞬時にトニーを突き飛ばす。

 ドキュッン! 

 ジャックが撃たれてくずおれ、周囲は悲鳴で騒然とする。

「おい! あの車だ!」

 サミュエルがヴィトに追跡するよう指示するが、パトカーに追われて殺し屋の車は走り去って行った。

「さぁ、兄貴。大丈夫ですか?」

 サミュエルにかばわれて座り込んでいたトニーを立たせると、ヴィトに警護を任せようとする。

「うああぁぁ! 死ね、トニー!」

 ザッと周りの人々が逃げまどい、走ってきたショーンがトニーに拳銃を向ける。

 瞬時にヴィトはショーンに走り寄ると、拳銃ごと腕をひねる。

 ドキュッン! ドキュッン!

 サミュエルの撃った弾は2発ともショーンの胸を撃ち抜いた。

 倒れたショーンにゆっくりと近づくと、怒りに声を震わせる。

「兄貴にチャカ向けやがって!」

 ドキュッン! ドキュッン!

 そのまま階段から蹴り落とした。

「親父! お怪我は!」

 ヴィトがトニーにかけ寄ると、手で押さえた肩から血が出ている。

「大丈夫だ、たいしたことない」

 ショーンの撃った弾がかすったようだ。念のためヴィトが付き添って、トニーを病院に連れて行くことになった。

 サミュエルにはまだやる事があった。

 

 雇った殺し屋が逮捕され、だがソーサはマスコミに対し、自分は関係無いと話した。

「今回の事件について、皆さんは政治的な争いだの、天下分け目の抗争だのと勘ぐっていますが、私には一切関係ありません」

 マスコミの一人が質問する。

「警察に逮捕された殺し屋は、あなたが雇ったものだと聞きました。本当なんですか?」

「いえ。まったくのデタラメです」

 堂々としらを切った。

 その帰り道でのこと、ようやくマスコミをまいたところで、ソーサは呼び止められた。

 振り向くと背後に立っていたのは、サミュエルだ。

「ソーサ……てめぇ、よくも兄貴にハジキ向けやがったな!」

 手に握られた拳銃はソーサに狙いを定めている。

 ソーサは不敵に口元をゆがめると、胸元を叩いた。

「外すなよ!」

 ドキュッン!

 ソーサの身体が地面に倒れこんだ。

 銃声を聞きつけたソーサの部下達と揉み合いになり、誤って撃った弾が不幸にも一般人の女性に当たってしまう。

 駆けつけた警察にサミュエルは逮捕された。

 ところが、ソーサは防弾チョッキを着ていたため無傷だった。警察をも利用する狡猾(こうかつ)さは、ソーサの方が上手だったのだ。

 

 サミュエルの逮捕後、トニーはトーマスの病室に呼ばれた。

「怪我はどうだ?」

「大丈夫です」

「……そうか。良かった…」

 そう言うトーマスの顔色はあまり良くない。最近の出来事はスカレッタファミリーにとって、かんばしくないことばかり続いている。安静にして欲しくて入院してもらっているのに、これでは気が休まらない。トニーは自分の不甲斐なさをかみしめていた。

「…トニー、サミュエルのことだがな……破門にしろ」

 信じられない、驚きで表情がこわばる。

「今の一万人いるファミリーに、ああいう人間はいらない。俺達のため、世間のためだ」

「兄貴! それは違います! 確かに今回は一般人に当ててしまったけど、サミュエルは誰よりもファミリーのために一番血を流してくれたと思います」

 必死で言いつのるトニーを、黙って見つめるトーマス。

「それは違うぞ、トニー。俺のために、ファミリーのために一番血を流したのは、お前だ、トニー」

 トニーは返す言葉がなかった。

 

 

 警察署ではエイシアの社長と、ギデス氏の取り調べが行われていた。

「サミュエルさんには、以前ヴィクター・ジルバさんの紹介で何度か会いました。初めは友好な関係を築いていたのですが、次第に資金集めの片棒を担がされていました。関係を切るべきでしたのに、大変申し訳ありません。深く反省しております」

 ギデス氏は深く頭を下げた。刑事は提出された書類をじっと見ていた。

 

 留置所のサミュエルのもとに、トニーが面会に訪れた。

 面会室にて数日ぶりに話す。先に口を開いたのはサミュエルだった。

「破門の件なら、もう聞きました。今朝警察署にこんなもん貰いました」

 机に置かれた「破門書」に、トニーは言葉を失った。

「兄貴、俺は仲間を見捨てるような組に入った覚えはないですよ! 人間偉くなったら、人よりも組織を大事にするんですね……兄貴、嫁さんと子供のこと、どうかよろしくお願いします」

 そう言って頭を下げる。面会は数分で終わった。

 

 ついに警察はスカレッタファミリー壊滅に乗り出した。

 主要幹部のマイケル、ヴィクター、フランク等が捕まり、強引な尋問が行われる。

「おいっ! お前らエイシアとつるんでたことは分かってんだぞ。暴力事件も起こしたんだろ!」

 ダンッ! 机を叩かれて、ヴィクターがビクッとする。

「ちょっと待ってくださいよ。そんな訳ないでしょう」

 心底驚いた素振りに、イライラして刑事が怒鳴る。

「ふっざけんなっ!」

「……おぉ怖、これ自白の強要ですよね?」

 自分の身体を抱きしめて、怯えた様子で刑事を見つめる。

 

「おいっ! いい加減に吐きやがれ! この野郎」

 刑事は容疑者の口にボールペンを突っ込み、めちゃくちゃにつきまくり、更に傷だらけで痛む口にお茶を飲ませる等、拷問ともいえる尋問を強いる。エイシアのギデス氏が提出した書類から、金銭の取引は証明されるが、それだけではファミリーを解散させることは出来ない。抗争事件の関与を立証するために警察も必死だった。

 トーマス会長の妻マリアが、重要参考人として呼び出される。

「奥さん、あんた娘にジーナさんっているね」

 何を言われても聞かれても、マリアは無言を貫く。

「ジーナさん、また逮捕されたよ。今度はコカインだって……でも、あんたが吐いてくれたら、すぐにでも娘さんを助けることも出来るがね」

 マリアの表情に動揺は無く、無言のままだった。

 

 フランクリンの勤める病院にも刑事達が来た。入院中のトーマスを取り調べるためだ。

「先生、私達も仕事で来てる以上、会うまで帰れませんよ」

 玄関口でフランクリンと押し問答する刑事達。

「何度言われも、会わせられませんね。お帰りください」

 今のトーマスは取り調べができる病状ではない。そんなことは医者として許可出来ない。

「なんだ! あんた警察の言うことが聞けないっていうのか?」

 我慢しきれなくなった刑事は、圧力をかけてきた。

「警察だろうと何だろうと、私の患者に無断で会わせることは出来ません」

 フランクリン医師はその信念を曲げることはなかった。

 

「トニー・ヴェルセティ逮捕状だ」

 そして、警察はトニーの事務所にも来た。

「なぁ、トニー。もうお前も疲れただろう? トーマスについていても何も良い事が起こらない現状に、お前もばかばかしく思うだろう?」

 取り調べに対し、トニーは黙ったままだった。 

 

 

 

次回最終回です

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