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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
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ヘイダール伯爵の帰還 21

 ナンヴァル連邦の大使であるマグ・デレン・シャを奇襲した部隊を、要塞司令室では補助スクリーンに映すと、奇襲部隊がまるで氷ついたように動かなくなっていた。



「あれは、どうしたんです?」

と、ディポックは聞いた。


「たぶん、マグ・デレン・シャの魔法使いが魔法をかけたのだろう。今、こちらの兵を動かすのは危険だ。同じ魔法にかかってしまうことになる」

と、アリュセアが言った。



 だが次に何かを聞こうとした時アリュセア――ライアガルプスは、どうしたわけか中空の一点を見つめているのにディポックは気づいた。



「どうしたんです。アリュセア?」



 そこに浮かんでいたのは、亡きダルシアの大使コアとナンヴァル連邦の調整官マグ・クガサワン・シャだった。

 二人はナンヴァル連邦の首都星からヘイダール要塞へやって来たのだ。

 コア大使はアリュセア――ライアガルプスに会釈すると、ナンヴァルの調整官を紹介した。



(こちらは、ナンヴァル連邦の調整官だった、マグ・クガサワン・シャです)



 マグ・クガサワン・シャはアリュセア――ライアガルプスに同じく会釈した。



(初めてお目にかかります。ダルシアのライアガルプス皇帝陛下……)

(そのようなことはかまわぬ。ナンヴァルで何が起きているのだ?)

と、アリュセア――ライアガルプスは聞いた。



 目に見えぬ二人が話し始めると、

「今、コア大使とナンヴァルの指導者である調整官が来て、今回の理由聞いている。ちょっと待ってもらえるか?」

と、ライアガルプスは言った。



 その言葉に、意味が分からずライアガルプスの視線の先の空間をキョロキョロと見る者もいたが、意味がわからず唖然としているものの方が多かった。



「一体それは、何の話なんです…」

と、グリンが言うのをディポックは押しとどめた。


「まあ、それほど長くはかからないだろう。それにマグ・デレン・シャの方もすぐに変化はないだろうし……」



 アリュセア――ライアガルプスがディポックの方を向くまでには、それほど時間がかからなかった。



「簡単に、説明しよう。ナンヴァル連邦ではクーデターが起きたのだ。これまで調整官だったマグ・クガサワン・シャを廃して、商人階級出のクラウ・トホス・トルが調整官となった。彼が他の階級の代表である評議会の議員と謀ってゼノン帝国と同盟関係を締結することにしたのだ。それで、邪魔となる次期指導者とされているマグ・デレン・シャを亡きものにしようとしているのだ」

「では、ナンヴァル連邦の兵士を排除しても構わないのですね」

と、グリンが言った。


「いや、排除するのは容易い。できれば、マグ・デレン・シャの味方に何人か引き入れたいものだ。どうだ?銀の月よ、何か良い知恵はないか?」

と、アリュセア――ライアガルプスは呼びかけた。



 銀の月――バルザス提督はマグ・デレン・シャの宿舎近くのオーリエ中佐の所にいた。

 ライアガルプスはTPで自分とナンヴァルからやって来た二人を繋いでいた。

 司令室には銀の月はいないのだが、TPでその状況を知らされたのだ。

 銀の月は魔法使いだが、特殊能力者でもある。

 それをライアガルプスや二人は知っていた。



「まず、マグ・デレン・シャの魔法使いフェル・ラトワ・トーラと連絡を取って、今掛けている魔法を解除してもらいましょう」

と、バルザス――銀の月は言った。



 要塞内の通信は傍受されるので、バルザスは魔法陣を使う通信を用いた。



 マグ・デレン・シャはフェル・ラトワ・トーラの傍に銀の月の使う魔法陣が浮かぶのを見た。



「トーラ。もしかしてこれは銀の月からの連絡ではありませんか?」

と、マグ・デレン・シャは言った。


 フェル・ラトワ・トーラは目の前に浮かんだ魔法陣を見て、

「わかりました」

と、言った。


「仰る通り、銀の月から連絡でした。私の魔法を解くようにということです」

「しかし、安全なのか?」

と、タ・ドルーン・シャが言った。


「すでに彼らナンヴァルの奇襲部隊の背後に要塞の攻撃部隊が待機しているそうです。それに、幻覚作用のある私の魔法だけを解くので、攻撃を防御する結界を解くわけではありません。それと、ナンヴァルではやはりクーデターが起きたとのことです。詳細は後ほど司令室でということでした」



 通信の内容を話すと、フェル・ラトワ・トーラは静かに呪文を唱えた。



 ケル・ハトラス・ナン大佐は、

「まだ、あの幻覚は解けないのか?」

と、イライラしながら聞いた。


「幻覚作用の魔法が解けました。ですが、攻撃を防御する結界は張られたままです」

と、魔法使いは言った。


「まて、まさかその魔法が解けたのは向こうが解いたのではあるまいな?」

「そ、それはわかりません」

と、魔法使いのデル・カロイス・フーラが動揺して言った。



 これまで敵の幻覚魔法を解こうとしていたので、こちらの方の力で解けたのかそれとも、向こうが解除したのかわからないのだ。



「クル・ラコス・ラン、後ろから攻撃がくるぞ!」

と、ケル・ハトラス・ラン大佐は怒鳴った。



 その声と同時に、熱線銃の発射音がした。

 魔法使いが上腕を抑えて倒れた。



「デル・カロイス・フーラ!大丈夫か?」

「だ、大丈夫です。まだ動けます…」

と、ナンヴァル人の魔法使いは息絶え絶えに告げた。



 次の瞬間足音を発てて、オーリエ中佐とその部下がナンヴァル人には見たことのない、長い柄のついた斧のような武器を奮って襲って来た。

 ナンヴァル連邦の兵士は、近接戦闘の武器は剣を用いていた。

 おのおの腰の剣を抜いて長い柄のついた斧に立ち向かっていった。


 数としては劣勢ではない。

 それに傷ついたとはいえ、魔法使いもいる。

 だが、相手の長い柄のついた斧に対処する方法に迷いがあったため、苦戦を強いられた。

 剣では対処しにくい武器だったのだ。

 しかし、それにしても何か変だとケル・ハトラス・ラン大佐は思った。


 味方の奇襲部隊の者達の動きが鈍い気がした。

 逆に、要塞側の兵士たちは身軽に彼らの武器を振るっている。


 確か、人間とナンヴァル人では体力的に後者が1.5倍強いはずだった。

 それならもっと容易く相手を倒すことができるはずなのだ。

 だが、そううまくは行かなかった。

 これはどういうことなのだ、とケル・ハトラス・ラン大佐は首を傾げていた。



 ケル・ハトラス・ラン大佐にはわからなかったが、銀の月がオーリエ中佐とその部下にナンヴァル人と同じ力を発揮できるように身体強化の魔法を掛けていたのだ。


 ナンヴァルの奇襲部隊は人間族の連中が強いことに驚いていた。

 彼らの知っている魔法では身体強化と言う類の呪文はなかった。

 そんなものを必要としていなかったからだ。

 これはガンダルフの魔法使い『大賢者』レギオンが人間族の為に綴った呪文だった。

 比較的新しい魔法の呪文であり、ゼノン人やナンヴァル人などは知らないものだった。


 次第にナンヴァルの奇襲部隊の数が減って行った。

 そのことにケル・ハトラス・ラン大佐は気づき、自分の腰に帯びている剣を見た。

 ここで使うのは躊躇われたが、一刻も早く任務を終えて要塞を脱出する必要がある。

 大佐は魔法使いではなかったが、彼の家に伝わる唯一の魔法の呪文を唱えた。



「ココカハルグニツ……」



 すると、彼の手の中の剣が倍の大きさになり、その重さがずしりと堪えた。

 普通の剣ではない、ガンダルフならこの剣は魔剣と呼ばれる部類にはいるのだ。

 その重さに耐えながら、一気に前方の壁に向かって彼は剣を奮った。


 激しい光と共に、轟音が耳をつんざいた。

 そのせいで、要塞側の攻撃が途絶えた。

 前方の壁に大穴が空き、ナンヴァル人が数人見え、悲鳴も聞こえた。

 その奥に、マグ・デレン・シャの姿が見えたような気がした。



 ケル・ハトラス・ラン大佐はその穴から中に入ると、

「マグ・デレン・シャ閣下はおられるか?」

と、声を掛けた。


「何者だ?」

と、聞く者があった。


「おまえはナンヴァル連邦軍の者であろう。なぜ、マグ・デレン・シャ様を襲うのだ?」

と聞いたのは、ナンヴァル連邦艦隊の提督の軍服を身に着けた人物だった。


「タ・ドルーン・シャ提督か?」

と、ケル・ハトラス・ラン大佐は聞いた。


「そうだ。ナンヴァルで何が起きているのだ?」

「それに答える必要はない。マグ・デレン・シャはどこだ?」

と、持っていた剣を床に立て、仁王立ちになりケル・ハトラス・ラン大佐は再び訪ねた。








 要塞司令室では、ナンヴァルの兵士たちの攻撃の様子を見聞きしていた。

 ナンヴァル人にオーリエ中佐の部下たちが果敢に立ち向かっているのを見ていた。

 彼らがなぜかいつもよりも強い気がしたが、勝っているので誰も何も言わなかった。

 ナンヴァルの指揮官が何やら呪文を唱えると、持っていた剣が大きくなり、それを奮って壁を壊すのを声も出さずに見ていた。



 それはオーリエ中佐の部下に混じっていたバルザス提督――銀の月も同じだった。



(あれは?なんと、懐かしい…)

と、バルザス――銀の月は思った。


(懐かしいとは、どういうことだ?)

と、アリュセア――ライアガルプスはTPで聞きつけて銀の月に問うた。


(あれは、私の剣だ。こんなところで再び目にするとは思わなかった)

(お前の剣だと?いつ、無くしたのだ?第一あの剣は、お前しか使えないのではなかったのか?)



 スクリーンに映ったナンヴァル兵と要塞の兵との戦闘は、フィーガル・オーリエ中佐の部隊がかなり有利になっていた。

 戦闘用の長い柄のついた斧と厚い防護服を着た要塞の兵士は身体強化の魔法を掛けられ、薄い宇宙服と剣で戦うナンヴァル兵士を圧倒しつつあった。


 だが、壁を壊したナンヴァルの指揮官らしき人物は、悠然と目的のマグ・デレン・シャを見つけようとしていた。



(あの剣を何とかしないと、マグ・デレン・シャが危ない)

と、アリュセア――ライアガルプスは言った。


(確かに……)

と言うと、バルザス――銀の月は、マグ・デレン・シャの部屋の中へと魔法でジャンプした。









 突然眼前に現れたリドス連邦王国の軍服を身に着けた人物に、ケル・ハトラス・ナン大佐は言った。



「お前は魔法使いか?」

「そうだ」

「だが、この剣にはむかうことはできまい。知っているか?かのガンダルフの五大魔法使いの一人、銀の月の剣のことを…」

と、ケル・ハトラス・ナン大佐は誇らしげに言った。


「なるほど、その剣が、かの銀の月の剣だということか」



 ケル・ハトラス・ナン大佐の手にした剣は、不思議な輝きを見せた。

 まるで、バルザス提督の言葉に反応するかのように思えた。

 しかし、ケル・ハトラスは気が付かなかった。

 だが、相手から視線を自分の剣に移動させると、手にした剣が次第に輝き増すのに気づいた。



「こ、これは?」



 やっと剣の不思議な輝きに気づいたケル・ハトラスは言った。



「わかったようだな、その剣が、自分の主に気が付いたのだ」

「何?それは、どういうことだ」

「お前の持っている呪文は、仮の主の呪文にすぎない。本来の正当な主が来ては、もう使うことはできない」

「何だと?お前が、この剣の主だというのか?あの銀の月だというのか?」


 バルザス――銀の月はその問いに、余裕の笑みを見せて

「そうだ」

と短く答えた。


「銀の月が現れたという噂など聞いていない。確かに、この剣は本来の正当な主が現れれば私の言うことは聞かなくなる。だが、お前が銀の月だという証拠などあるまい」

と、ケル・ハトラスは言った。


「証拠などいらぬことだ。お前はもしかして、ケル・ラトラス・ナンを知っているのではないか?」

「ケル・ラトラス・ナンは私の祖父だ。この剣は祖父が銀の月より預かったものだ」

「あの時、ケル・ラトラスは重傷を負っていた。だから、私は故郷へ帰れるようにその剣を貸してやったのだ」



 ケル・ハトラスはまじまじと相手を見つめた。

 その話は、祖父から聞いたことがある。



「なぜ、それを知っている。その話は我が家の秘密だ。誰にも話したことはない」

「知っているのが当たり前だ。私がケル・ラトラスに貸してやったからだ。だが、今ここでマグ・デレン・シャを弑することに使おうとするなら、その剣を返してもらおうか」

「何だと?どうしてそれを……」

「ふむ。お前は誰に命令されてきた?マグ・クガサワン・シャ調整官が亡くなったことを聞いているか?」

と、バルザスは言った。



 そのことは、聞いたばかりなので、ケル・ハトラスが知らないはずの情報だった。


 その話を聞いて、ケル・ハトラス・ナン大佐は動揺した。



「まさか、そのようなことはあるはずがない。まだ、マグ・クガサワン・シャ閣下は寿命には至っていない」

「ナンヴァルでは大評議会が開かれ、調整官閣下は毒杯を仰いだと本人が先ほど来て、話しをした」

「まさか……」

「新しい調整官には、クラウ・トホス・ホルが就任したということだ」

「クラウ・トホス・ホルだと?あの商人がか?」

「どうする?ナンヴァル連邦の軍人よ。今現在お前の任務の遂行に何か意味があるのか?」

と、バルザスは言った。



 ケル・ハトラス・ナン大佐は動揺が収まらなかった。



「大佐!何をしておられます、もう時間がありませんぞ」

と、宿舎の外から仲間の声がした。



 宿舎の外ではオーリエ中佐の部下によってナンヴァルの奇襲部隊は追い詰められていた。

 そのため、ケル・ハトラス・ラン大佐が宿舎の中にいるマグ・デレン・シャを早く仕留めることを待っていたのだ。


 ケル・ハトラス・ナン大佐は剣を持つ手に力を込めた。

 もう一度、先ほどの呪文を唱えれば、マグ・デレン・シャやタ・ドルーン・シャのいるあたりは一度で破壊できると感じていた。



「ココカ……」

と、ケル・ハトラスが呪文をつぶやき始めると、銀の月と名乗った魔法使いが、利き腕を伸ばして、

「来い!」

と言った。呪文でもなんでもない、ただの一言だった。



 ケル・ハトラスの手に有った剣が消えた。

 そして、銀の月と名乗った魔法使いの手に剣が現れた。



「こ、これは……」

「別に驚くことはない。本来の主の元に戻ったということだ」

「で、では本物の銀の月?」

「初めからそう言っている」

「では、ナンヴァルの大評議会の異変も本当のことか?」

「そうだ」


 ケル・ハトラスは、

「戦闘を止めよ!」

と、後ろにいる部下に向かって叫んだ。


「何が起きたのです?」

と、負傷したが戦闘中であるので身を隠していた魔法使いが言った。


「デル・カロイス・フーラ。戦闘を止めるのだ。そう後ろの連中に伝えてくれ」

と、ケル・ハトラスが言った。


「ですが、……」

と言いながらも、リドス連邦王国の軍服を着たバルザス提督を油断なく見ていた。


「ナンヴァルの魔法使いよ。戦闘を止めるのだ。今は戦いの時ではない」

と、銀の月は言った。


「お前は、何者だ?その手にあるのは、ケル・ハトラス・ナン大佐の剣ではないか?なぜ、それを持っている」

「これは、元々私の剣だ。だから、返してもらっただけのこと」

「フーラ、二度言わせるな。クル・ラコス・ラン少佐に戦闘を止めるように伝えよ」

と、ケル・ハトラスは命じた。








 ナンヴァル連邦からの奇襲部隊を投降させると、その場の始末を司令室に来ていた要塞防御指揮官のフェルスグレイブを魔法で呼び寄せて任せ、銀の月は、タ・ドルーン・シャとマグ・デレン・シャを連れて、司令室にジャンプした。



「マグ・デレン・シャ大使、御無事で何よりです」

と、ディポックは言った。


「今回のこと、感謝しております。ただ、本国のことについて不安が残ります」

と、マグ・デレン・シャは言った。


「ナンヴァルのことについては、迂闊なことに情報不足だ。まず、あのナンヴァルの奇襲部隊の大佐に聞いたらどうか?」

と、アリュセア――ライアガルプスは言った。



 その時、通信員が言った。



「ナンヴァル連邦の艦隊が、先ほどのとは別の艦隊が近づいてきます。その旗艦から、通信が入っています」



 マグ・デレン・シャとタ・ドルーン・シャは顔を見合わせた。今奇襲部隊が失敗したばかりなのだ。

 本国の艦隊が来るのは早すぎる。



「スクリーンに出してください」

と、マグ・デレンは言った。


「私は、ナンヴァル連邦艦隊副司令官セ・カマーン・シャ提督である。マグ・デレン・シャ惑星連盟大使、およびタ・ドルーン・シャ提督に、新調整官クラウ・トホス・ホル閣下よりの命令を伝える。

 両者ともに、至急本国に帰還を命ずる。」

と言うと、通信は切れた。


「これは、いったい何が起きたというのだ?」

と、タ・ドルーン・シャが言った。




 ナンヴァル連邦の新旧調整官の交代について、銀の月からある程度聞いてはいたが、タ・ドルーン・シャはまだ納得していなかった。

 なぜ、前調整官は毒杯を仰いで死んだのか、新しい調整官は誰が決めたのか。

 少なくとも、ナンヴァル連邦の習慣では前の調整官が新しい調整官を任命するのだ。

 前調整官マグ・クガサワン・シャがクラウ・トホス・ホルを新調整官に任命するはずがない。


 タ・ドルーン・シャが首都星にいた時に聞いた限りでは、前調整官は新調整官にマグ・デレン・シャを任命するはずだったのだ。



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