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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
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ヘイダール伯爵の帰還 19

 ヘイダール伯爵はナンヴァル人の兵士と要塞の兵士の戦闘を見ながらため息を付いた。



「やはりのう、彼らではナンヴァル人には相手にならんか……」



 フェリスウグレイブの部下たちのさんざんな結果を見ていたのだ。

 ナンヴァル人とやり合うのはロル星団の者達にとっては初めてだった。

 そもそも、異種族と戦うのは彼らにとって初めてなのだ。


 人間族よりも1.5倍ほど力があると言っても、手を合わさなければわからない。

 しかも、相手は多少とも魔法を使える者もいるのだ。

 正式な魔法使いと言われるものでなくても、厄介なものなのだ。



 ヘイダール伯爵は要塞に潜入したナンヴァル人がフェリスグレイブの部下たちをあっという間に倒したのを見て、少々手を加えようと思った。

 ナンヴァルの兵士たちが司令室や要塞にいるナンヴァル連邦の大使の部屋に向かっているのなら、必ずどこかでリフトを使うので、リフトの転送機能で一番遠い場所へと飛ばしてやるのだ。

 単なる嫌がらせ程度にしか過ぎないが、彼らが彼のしていることに気づくまで多少とも時間を稼ぐことができる。


 ヘイダール伯爵の力は魔法とは異なっていたので、ナンヴァル人の兵士たちは何が起きているのかすぐにはわからなかった。



 何度目かリフトを使った司令室に向かっているナンヴァル人の兵士が目的と違う場所に着いたのに気づいて、

「おかしい……」

と、言った。


「しかし、……」

「まさか、要塞に魔法使いでもいるのだろうか?」

「ここにはいないと聞いていたが、……」



 もし、このヘイダール要塞に魔法使いがいて、その者がナンヴァル人たちを目的の場所に行けないようにしているのだとしたら、とナンヴァルの兵士の指揮官が考えた。



「何か、幻惑の魔法でも使っているのでしょうか?」

「いや、魔法を使っているような気配はない……」

「だが、このリフトは使うと一瞬リフトの中が光るのはなぜなのだ?」



 そうしたものはここがロル星団の連中が建設した要塞だからなのかと思った。

 けれどもナンヴァルの兵士の中の多少とも魔法を使える者が言った。



「だが、我々はこの要塞の見取り図を持っていて、それを使っているのだ。それなのに、一向に目的地に着かないではないか」

「確かに……。どうもリフトを使うと見取り図の場所に着かないのではないか……」

「では、リフトを使うのを止めたらどうでしょうか?要塞にある非常用の階段を使うのです」

「ふむ。それもいいだろう。我々にそれほど多くの時間があるわけではない。やってみるのもいいだろう」



 中々目的地に着かない理由をいつまでも考えても埒が明かないと考えた指揮官はリフトを使わない方法で行くことにした。



 ヘイダール要塞の司令室は球型の要塞の上半分の位置にある。

 最上階にあるのではないが、艦で入って来た場所から見ればかなり上の階にある。


 ナンヴァル人の指揮官はいつまでも迷わなかった。

 階段を使うことに決めた。



「これまでじゃな……」



 ヘイダール伯爵はあまり自分の力を使おうとはしなかった。

 彼がその力を使えばナンヴァル人など敵ではない。

 しかしそれでは、現在要塞を占拠している者たちにジル星団の者達の力を知らせることはできない。

 ジル星団の連中と遣り合うには、ロル星団で使っていた武器ややり方が使えない場合があると言うことを知って欲しいのだ。



「ふむ。銀の月が戻って来たようだ……」

と、レギオンが言った。

「そうか、ならもうわしの出る幕ではないな…」

「さあ、どうだろうか……」



 見ると、銀の月が要塞司令室に現れた。







「銀の月、待っていたぞ。どうやら司令室にやってくるナンヴァル人を阻止することはできなかったようだ」

と、ライアガルプスが言った。


「そのようですね。こちらは私が相手をしましょう」

「これから行くのか?」

「いや、私はここで、相手をしましょう」

「その方が良かろう」

「でも、あの、数が少ないのではありませんか?」

と、司令室のブレイス少佐が言った。



 タレス連邦から来た船から降りたのは、おおよその数でも百人はいたはずだった。

 とすると、司令室に向かっている奇襲部隊自体の数がやはり少ない。



「確か、司令室とナンヴァル連邦の大使の部屋と二手に分かれていると思いましたが…」

と、銀の月が言った。


「おそらく、こちらに来る連中は我らの中に魔法使いがいないと知っているから、ナンヴァルの大使の方に数多く行かせたのではないか?」

「そうでしょう。ナンヴァルの大使なら魔法使いが何人か付いてきているはずですから…」

「魔法使いとはそれほど戦力になるのですか?」

「それは魔法使いの使える魔法の種類にもよりますが、……」



「大変です。ナンヴァル人が司令室近くまでやって来ています!」

と、要塞内を映すスクリーンを見ていたブレイス少佐が言った。



 銀の月――バルザス提督はちらっとブレイス少佐の見ているスクリーンを見た。

 特に呪文を唱えているようには見えなかったが、スクリーンに映じているナンヴァル人が突然続けざまに倒れた。



「これは、何が起きているの?」

と、ブレイス少佐は驚いて言った。


「ほう、久しぶりじゃのう。銀の月は氷雪系の魔法もすぐれていたな…」

「氷雪系?」

「まあ、ここは要塞内だからそれほど拘る事は無いと思うが、艦内だと火術系の魔法だと危険だと言うことは想像が付くであろう。だから、艦隊に属する魔法使いは氷雪系の魔法を使う事が多い。ただ、こちらはかなり強いものでなければ、相手を倒すことが難しいがな……」



 銀の月の使った魔法は小さな氷柱の形をした氷を高速で打ち出して相手を倒すものだった。

 倒した後は解けて消えるので跡が残らないのが特徴である。

 多少の魔法を使える者がいても、これは中々回避することができない。

 ナンヴァルの兵士の中には魔法を使える者もいたので、これが有効だった。


 それは一瞬で終わってしまう攻撃であるから、それを回避するためには相手に強力な魔法使いがいると考えて防御の手段を講じて置く必要があるのだ。

 但し、これは数多く固い氷で作る必要があるので、かなり上級の魔法である。


 同じように司令室に向かっていた別のナンヴァル人の奇襲部隊も銀の月の魔法で音もなく倒されたのだった。










 ナンヴァル連邦の大使であり、惑星連盟の議長を務めるマグ・デレン・シャは自室に戻っていた。

 ナンヴァルの魔法使い、フェル・ラトワ・トーラは嫌な予感がした。



「あの、閣下、先ほど要塞司令官を訪ねて行かれた時、要塞に何か近づいて来たという連絡はありましたか?」

と、トーラは言った。


「そう言えば、ディポック司令官に別れ際、要塞に船が二隻近づいているとか連絡が来ましたが……」

と、マグ・デレンは言った。


「やはり、あっ!」

と、トーラは目を大きくして黙り込んだ。



 トーラの目に映ったのは偽装したタレス連邦の船と新世紀共和国の船だった。

 それが、突然偽装が溶けて、船体にナンヴァル連邦のマークとゼノン帝国のマークが見えた。



(気を付けろ!敵が攻め込んでくる…)

と、トーラの心に何者かの声が響いて来た。



 すぐに心の中でトーラは呪文を唱えた。

 まず、宿舎の外に結界を張る呪文を、次に仲間の魔法使いと護衛の兵士を呼び寄せる呪文を。



「どうしたのです?」

と、マグ・デレン・シャは聞いた。



 トーラの態度は普通ではなかった。



「敵が来ます」

と、トーラは正直に答えた。


「敵?どこから来るのです?」

「あの二隻の船は、ナンヴァルとゼノンの艦でした」

「え?何ですって、それは、…」

「声がしました。あれは、先日のリドスのバルザス提督、いいえ銀の月の声でした。その声が警告したのです」



 マグ・デレン・シャは驚愕するとともに、最悪の事態を予見した。

 本国に何か起きたのだ。

 マグ・デレン・シャのいるこのヘイダール要塞にゼノン帝国と共に攻撃を仕掛けるとしたら、ナンヴァル連邦でクーデターが起きた可能性がある。



 ゼノン帝国とナンヴァル連邦は建国の目的の相違から、昔から仲が悪かった。

 従ってこれまで二国が同盟か、それに近いことをしたことはない。

 ジル星団の宇宙都市ハガロンに惑星連盟ができてからは特に紛糾することはなかったが、交易は成立しても、政治外交的には対立を維持してきた。


 それがここ数年、ナンヴァル連邦とゼノン帝国の両国政府が秘密裏に会合をしていると言う噂が立っていた。

 マグ・デレン・シャは宇宙都市ハガロンにいながら、密かにその噂の出所を調べさせた。

 驚くことにそれは事実だった。

 そのため、両国が手を取り合う日が来るだろうと予測していたのだ。



「一体、何があったのだ?」

と、異変を察知して同じ宿舎の別の部屋にいたタ・ドルーン・シャが慌ててやってきて言った。



 その後から、ナンヴァルの他の魔法使いや兵士が続いてやってきた。



「敵の攻撃が予想されます」

と、フェル・ラトワ・トーラが言った。


「敵の攻撃とは?」

と、タ・ドルーン・シャが聞いた。


「ゼノン帝国と、おそらくナンヴァル連邦からの攻撃です」

「何だと?そんなことはあり得ん。どうかしたのではないか?我が祖国から、なぜ我々が攻撃されねばならぬ」

「でも、本当なんです」

と、困ったようにフェル・ラトワ・トーラが言った。



 説明しようにも、情報がほとんどないのだ。



「ばかげている……」

「落着きなさい、タ・ドルーン・シャ…」

と、マグ・デレン・シャは言った。


「しかし、マグ・デレン、私には信じられません」

「信じられなくても、いずれ事実は分かるでしょう」

と、マグ・デレン・シャは静かに言った。



 フェル・ラトワ・トーラは呼吸を整えた。

 魔法使いの初歩の初歩は呼吸を整えることから始まる、とナンヴァルの見習い魔法使は教えられるのだ。

 それが終わると、心持少し落ち着けた気がした。


 ナンヴァル連邦の魔法使いは、心を澄ませることを重要視している。

 いわゆる白魔法と言われる部類に属していた。

 だから、できるだけ私心をなくし、今この場にいるナンヴァル人および、この要塞にいる人々についても助けたいという気持ちを強く持つことが大切なのだった。







 タレス人に偽装したナンヴァル人の指揮官は兵を、要塞司令室に向かう隊とマグ・デレン・シャを襲撃する隊に分けた。

 もちろん、後者の方に人員を多く割いた。

 なぜなら、ナンヴァル連邦の大使には直属の魔法使いが数名付けられているからだ。

 その上、現在マグ・デレン・シャのもとにはタ・ドルーン・シャ提督がいた。


 タ・ドルーン・シャはナンヴァル連邦軍でも一、二を争う優秀な指揮官であり、軍人である。

 兵士は少ないとはいえ、彼がいる以上、奇襲とはいえ簡単に制圧できると考えるのは禁物だった。


 ただ一つこちらに有利なのは、このヘイダール要塞の戦力に魔法使いはいないということだけである。

 ロル星団には魔法使いはいないというのが定説だった。

 要塞には難民としてやってきたタレス人の特殊能力者がたくさんいるという話だったが、特殊能力者などこのような作戦においては大した対抗勢力にはならないと考えていた。

 魔法使いと特殊能力者とを比べたら、前者の方が優れているからだ。

 それが、ナンヴァル連邦の今回の奇襲部隊の指揮官、ケル・ハトラス・ナン大佐の考えである。


 マグ・デレン・シャがヘイダール要塞で惑星連盟の審判を行った後、惑星連盟の各国政府の魔法使いがそれぞれの国へ戻ったと言うことは確認済みである。

 だから、魔法使いについてはこの要塞にいないと考えていた。


 ケル・ハトラス・ナン大佐は銀の月の存在については、まだ報告を受けていなかった。

 惑星連盟のそれぞれの政府の艦隊がヘイダール要塞から魔法陣を使った強力な魔法で移動させられたと言うことは、まだナンヴァル連邦政府まで報告されてはいなかった。

 それはナンヴァル連邦の艦隊はマグ・デレン・シャが要塞にいるために、移動することがなかったからである。




 要塞司令室に向かった部隊の指揮官エク・バルート・ナン中佐は途中で邪魔が入ったが、何とか目的地に向かっていると魔法で連絡が入っていた。

 残念なことにその後、銀の月によって魔法で倒されたことは連絡されてはいない。

 彼の者の魔法で一瞬にしてやられたからだ。


 基本的に要塞内では、司令室占拠が成功した場合のみ、通信機での連絡が可能になる。

 傍受される危険がなくなるからだ。

 それまでは魔法での通信が使われるのだ。

 奇襲部隊の者達が一瞬で全員やられてしまえば、誰もそれを知らせることはできない。



 ナンヴァル人の魔法使いはマグ・デレン・シャに対して重点的に向けられている。

 マグ・デレンに付けられている魔法使いはナンヴァルでも一、二を争う使い手であることはわかっていた。



「結界が張られています」

と、ケル・ハトラス・ナン大佐が連れてきた魔法使いが言った。



 ケル・ハトラス・ナン大佐は合図を出して、兵士の前進を止めさせた。



「どの程度か?」

「強度は大したことありませんが、接触すればこちらの情報が取られます」

「已むをえない。結界を破れ!」

と、大佐は命じた。



 できれば作戦を急ぎたかった。

 長引けば、ゼノン帝国の兵士がやってくる。

 今回協力するとはいっても、ナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャを襲撃する仲間としては、大佐は受け入れることはできなかった。


 ゼノン帝国はナンヴァル連邦にとって常に敵として認識されてきた。

 全面戦争はなかったが、いつそうなってもおかしくない関係だったのだ。

 特に軽んじているわけではなかったが、要塞の兵力についてはあまり計算には入っていない。

 ナンヴァルの奇襲部隊を止めるような力はないというのが、大佐およびナンヴァル連邦軍の認識である。

 それは、魔法使いのいない同じジル星団内のタレス連邦等の本来純粋の人間型種族の軍や兵士に対する認識でもある。


 ナンヴァル人は本来かのダルシア人の末裔でもあるのだから、人間型種族よりも強いのが当然とされている。

 科学技術や文化だけではなく、身体能力においても他の人間型種族よりも高いと考えられていた。










 ヘイダール要塞司令官ヤム・ディポックはナンヴァル連邦の奇襲部隊の要塞司令室への侵入を銀の月によって阻止することができた。。

 そしてナンヴァル連邦のもう一つの目的である惑星連盟の議長でありナンヴァル連邦の大使であるマグ・デレン・シャへの襲撃は予想外でもあり、対応に苦慮していた。



「で、マグ・デレン・シャの方はどうするのだ?」

と、アリュセア――ライアガルプスは聞いた。


「すでにマグ・デレン・シャの宿舎の近くまで敵は迫っていますが……」

と、ノルド・ギャビが言った。



 銀の月はフェリスブレイブとナル・クルム少佐に現在の状況を知らせて、ナンヴァルの兵士に倒されたフェリスグレイブの部下達の救助に当たらせた。

 その後、ヴィン大佐とオーリエ中佐とルッツ達に魔法で転移して合流した。

 彼らはまだ、ナンヴァル人の奇襲部隊とぶつかってはいなかった。








「つまりナンヴァルの兵士の中に、魔法使いがいるというわけですね」

と、司令室にいるディポックは聞いた。


「そうだ。もちろん、マグ・デレン・シャのところには専属の魔法使いがいるから、こちらに向かっていた連中とは違い、本物の魔法使いが同行しているだろう」

「我々には魔法使いがいないので、対抗しづらいと言うことでしょうか」

「そうだ」

「一つ聞いておきたいのですが、特殊能力というのは魔法と比べてというか、魔法に対抗できないということでしょうか?」

と、グリンが聞いた。



 魔法と特殊能力の違いが今一つわからないのだ。



「そうではない。タレス人は特殊能力を持っているが、残念ながらそれを武器として使えるほど訓練されていない。魔法使いというのは、特殊能力の一つを武器として使えるようにした者たちともいえるのだ。現に我々ダルシア人は魔法使いなどというものはいなかった。特殊能力をある程度自分の思い通りに使えたからだ」

「それで、我々が使えるそうした力の保持者は、あなたとかの銀の月だけということですか?」

「いや、タリア・トンブンもどうやら使えるようになってきたようだ」

「タリアもですか?」

と、グリンは驚いた。


「そうだ。あのペンダントが補助してくれている」

「ペンダント?リドス連邦王国の王女が置いていったあのタリアのペンダントのことですか?」

と、ディポックが聞いた。


「そうだ。リドス連邦王国は面白い技術を色々と持っているのだ。昔のガンダルフもそうだったが、特殊能力を補助する装置や器具を作れる。そうしたものは、ゼノンにもナンヴァルにも、ダルシアにもなかったものだ」




 要塞司令室に向かったナンヴァル人の奇襲部隊の指揮官エク・バルート・ナン中佐がすでに失敗したことはまだハトラス大佐まで連絡は来ていなかった。

 そしてそのことをマグ・デレン・シャも知らなかった。


 銀の月はオーリエ中佐の部隊と合流して、マグ・デレン・シャの宿舎へ近づいて行った。



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