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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
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ヘイダール伯爵の帰還 15

 ナンヴァル連邦は、ふたご銀河を形成する二つの古い銀河のジル星団と呼ばれる外側の渦巻きの中にあった。

 ゼノン帝国はその反対側に位置し、ダルシア帝国はその中央に位置していた。

 ナンヴァル連邦では、祖先は遥かな昔ダルシア帝国から分かれた人々だった、という言い伝えが残っていた。


 それが事実だと分かったのは、科学技術が発達し、遺伝子の解析が進んだからだった。

 もっとも、司祭階級の人々はナンヴァル人の先祖がダルシア人であることを知っていた。

 彼らは特殊な能力を持っていた。

 それは超能力や霊能力とも呼ばれるものだった。

 それを使って、ダルシア人と意思疎通をしていた。

 それは司祭階級の秘中の秘であった。


 ナンヴァル連邦はジル星団でも特異な政治制度をとっていた。

 それがナンヴァルの神聖政治である。


 かつて、最初に惑星マクヴァ―ンに移住してきた最初のナンヴァル人は、マルディアフス・カフカス・シャという指導者に率いられてやってきた。

 彼ら最初の移住者はダルシアの女神の一人、マグ・ナルディアス・シャを信奉していた人々だった。

 五千万年前、女神マグ・ナルディアス・シャがマルディアフス・カフカス・シャに『マクヴァ―ン』に移住し新たな国を建てるように神託を降ろしたのだった。


 その国はジル星団の他の種族と調和する文明を目指していた。

 つまりダルシア人がまだ止められない、食人の風習を改め、植物中心に摂取する文明を目指していたのだ。

 そのために、植物摂取にふさわしい肉体構造を持った新しいナンヴァル人として、草食型ダルシア人を創造したと言われている。

 実際ナンヴァル人は主食として植物を取っている。

 完全な草食とは言えないが、たんぱく質を取る必要がある場合だけ、肉食をするのだ。


 その結果、ナンヴァル人は先祖のダルシア人とは異なった人間型種族となっていったと言い伝えられている。

 最初の指導者マルディアフス・ガフカス・シャにダルシアの女神マグ・ナルディアス・シャは、政治において重要な判断をする場合には神託を降ろすのが常だった。

 これをナンヴァルの神聖政治という。


 この神託を受けることができる人物を輩出させるのが司祭階級に課せられた仕事だった。

 ナンヴァル連邦は神聖政治であるとともに、階級制度が敷かれていた。

 そのトップが司祭階級である。

 その下に軍人階級、商人階級、労働者階級があった。

 ナンヴァル連邦の司祭階級の人々は、先祖のダルシア人の能力を失うことなくそのまま受け継いでいた。

 ただ何千万年という時が過ぎるとともに、その能力は少しずつ失われていったが、それでも一番その能力を残しているのが司祭階級の人々だった。


 この司祭階級がとびぬけて別格であり、その他の軍人・商人・労働の三階級は同じ並びだった。

 しかし時が経つにつれて、司祭階級の次に軍人階級が、その次に商人階級がつき、労働者階級は最下位に位置していると考えられるようになっていった。

 階級内外の人々はもともと交流があり、流動性があった。

 親の職業をその子が継がなければならないという決まりもなかった。

 どちらかと言うと、子供の能力に応じて職業が決まり、階級が定まるものだった。


 ただ、近年その階級制度は固定化しつつあった。

 親の職業をその子が継ぐのが当たり前になったのだ。

 同時に司祭階級においてもかつてのダルシア人の能力の多くを失くしていった。

 それがナンヴァル連邦の衰退の始まりだった。








 マグ・クガサワン・シャは、ゆったりとしたローブの中で身じろぎをした。

 彼は、現在ナンヴァルの最高指導者、四大階級の調整官だった。



「ダルシアの継承者がタレス人に決まったというのか?」

と、マグ・クガサワン・シャは言った。


「はい」

と、相手が言った。



 相手は、ナンヴァル連邦駐在のゼノン帝国大使、ダルマエル・ドルウだった。



「マグ・デレン・シャ自身が審判を司ったのだな」

「さようでございます」



 マグ・クガサワン・シャは目を閉じてしばらくの間動こうとしなかった。

 傍目にはまるで瞑想しているようにも見えるその姿は、彫像のようだった。



「マグ・デレン・シャが審判をした結果なら、それが正しいのであろう」

と、マグ・クガサワン・シャは目を閉じたまま言った。


「何をおっしゃるのです。マグ・デレン・シャはダルシアのコアに騙されているのですぞ。あのコアというのはとんでもない詐欺師です。本物のダルシア人でもないのに、ダルシア人だと僭称していたのですぞ」

と、ダルマエル・ドルウは言った。


「ほう、あのコアがニセモノのダルシア人だというのか?」

と、マグ・クガサワン・シャは目を開けて言った。


「はい。私どもはコアの遺体を手に入れて、それを確かめたのです」



 マグ・クガサワン・シャは、黙ってそれを聞いていた。



「調整官閣下もご存知の通り、ダルシア人というのは竜種でした。最盛期にはゼノン人の数倍の背丈だったと記録にあります。それなのに、コアの死体は人間型種族のものでした」

「なるほど、ゼノンの大使ダルマエル・ドルウよ。我はそなたの言葉を信じよう。確かにコア大使は人間型種族の身体を持っていた。だが、それがどうしたというのか?」



 ダルマエル・ドルウはマグ・クガサワン・シャがその事実をすでに知っていたということに驚いた。



「なぜ、それをご存じだったのです?」

「ゼノンでは忘れられたのかな?コア大使が人間型種族の肉体を持っていたのは、それこそゼノン帝国が原因なのだが……」

「ば、ばかな。そんなはずはありません。これは今回初めて明らかにされたことなのですぞ」

「そのようなことは、我々はすでに知っている。もっとも調整官にしか知らされぬことなのだがな。もちろん、マグ・デレン・シャもそのことは知らなかったはず」



 マグ・クガサワン・シャは、遠い目をして言った。



 本来竜種である、ダルシア人が人間型種族の形に変化したのは約五千年前のことだった。

 竜種の形を保つことができなくなったからなのだ。

 ゼノン帝国の大使は知らなかったが、ダルシア帝国とゼノン帝国の艦隊が戦ったフロゴン星域の会戦に原因がある。


 当時ゼノン帝国は、第三期ダルシア戦争の末期にあたっていた。

 第一期も第二期もゼノン帝国はダルシア帝国に負けたのだった。

 今度こそと考えるゼノン帝国は、ある筋からダルシア帝国の辺境にあたる恒星フロゴンに重要な秘密基地があるとの情報を得た。


 恒星フロゴンの第五惑星クエトは、知的生物が居住するのに適さない星だった。

 地上は凍てついた氷原が広がっている。

 その地下に、ダルシア人は種族の繁殖のための卵子や精子を貯蔵する施設を密かに作っていた。


 ダルシア人は本来卵生で、夫婦、親子、兄弟等の社会的なつながりは薄かった。

 卵から孵った個体はすぐに動き始め、その巣を去る習性があった。

 かつては生存競争が激しくて、そうしなければ、他の大きな兄弟に食われる危険があったからである。

 文明が高くなるにつれて共食いは減り、卵から生まれた子供はみな同じように育てられた。


 また、ダルシア人は卵を産むために女性が男性よりもかなり大きく、寿命も長かった。

 だからダルシア人という場合には、卵を産む女性である場合がほとんどだった。

 男性は弱く生まれてきてもすぐ亡くなるので、三億年も前から人工授精が行われ、人口の調節や女性や男性の調節も早くから行われていた。

 従って、惑星クエトの施設が破壊されると、ダルシア人そのものが消滅するという危険があった。そのため、その場所は何重もの秘密で守られていた。


 それを破って秘密を暴いたのは、かの暗黒星雲の種族だった。

 彼らはこれでジル星団のダルシア人が滅びるものと考えたのだ。

 当時のダルシア帝国皇帝はライアガルプスだった。

 ライアガルプスは、暗黒星雲の種族の介在を察知していなかったので、遅れを取り、気づいた時には、惑星クエトが炎に包まれていた。

 すぐに艦隊を派遣し、ゼノン帝国の艦隊を退けたが、貯蔵施設が破壊された後だった。


 ダルシアはこれまで最盛期のころに比べて、人口を数千人にまで減らしていた。

 ナンヴァル連邦への移住やゼノン帝国への移住等もあったが、ダルシア本国の人口はかつてないまでに減っていたのだ。

 それが、この事件により、ダルシア人そのものが滅亡する際に立たされた。

 問題は、当時のダルシアには男性はいなくなっていたことだった。

 惑星クエトの貯蔵施設が破壊されたので、人口授精ができなくなったのだ。


 その時、救世主のように現れたのが、惑星ガンダルフの魔法使い『銀の月』だった。

 彼のしたことは唯一つ、人口授精のための精子を提供したのだ。

 ゼノン帝国艦隊のダルシア帝国攻撃の報を受けて、急いでやってきた銀の月は、ライアガルプスにとっては長年の盟友だった。


 当時の彼の名は、キール・トルセンと言った。

 キール・トルセンは、惑星ガンダルフの魔法使いだった。

 ライアガルプスと銀の月は協力して、卵生のダルシア人と胎生のガンダルフ人との間の子孫を作ることにした。

 だが、繁殖方法の異なる種族の子孫作りは難航したのだった。

 その最初の成功例がアントルーク・コアだった。コアはダルシア史上最初の男性皇帝となる。

 しかも、竜種とは言えない人間型のダルシア人だった。二例目はアプシンクスで、それが最後となった。

 従って、銀の月――五千年前のガンダルフ人の銀の月は現在のダルシア人の肉体的な父祖と言えるのだった。







 マグ・クガサワン・シャは、ナンヴァル連邦の指導者である調整官として、ダルシアの事情についてはゼノン帝国の者よりもよく知っていた。



「時に、ロル星団の者たちが作ったヘイダール要塞にかの『銀の月』が現れたと聞いたが、本当であろうか?」

と、マグ・クガサワン・シャは聞いた。


「確かに、そう言う者がいると報告にありました。ですが、そのようなこと信用できません。ただその名を使っているだけかもしれません」

と、ダルマエル・ドルウは言った。


「そうかな?」



 銀の月が現れたということは、ガンダルフの五大魔法使いが生まれ変わっているということを意味しているのではないか。

 だとすると、このナンヴァルも何らかの変化をせざるを得なくなるのではないか、ということを意味しないか。

 かの五大魔法使いが生まれる時代というのは、いつもそうした時代だと伝えられている。



「と、ともかく、我々はあのような審判を下すマグ・デレン・シャを惑星連盟の議長として認めるわけには参りません」

「では、誰を推すというのか?」

「ダルシア人がいなくなった今、ナンヴァルと並ぶことができる国はわがゼノンのほかにはありますまい」

と、何の衒いもなくダルマエル・ドルウは言った。


「なるほど。だが、他の国の代表者たちがそれで納得するのだろうか?」

「納得するのではなく、させるのです」

「つまり、ゼノン帝国の力でか?」



 とうとうここまで来てしまったか、とマグ・クガサワン・シャは思った。

 惑星連盟が創設されてからも長年、虎視眈々とゼノン帝国はこの機会を狙っていたのだ。

 ダルシア帝国が弱り、ナンヴァル連邦が折れるまでを。

 だが、このままでよいはずがない。

 ゼノン帝国の支配するジル星団は、多くの種族を不幸にするだろう。



「あのリドス連邦王国はどうなのだ?彼らの影響力を排除できるというのか?」

「あのような者たちなど、取るに足りぬことです」

と、自信ありげにダルマエル・ドルウは言った。



 ゼノン帝国にとってリドス連邦王国は、ジル星団の単なる新参者にすぎなかった。

 高度な文明を持っているとは考えているが、ゼノン帝国の武力には到底及ぶまいと見ているのだ。

 ゼノン帝国の艦隊はダルシア帝国やナンヴァル連邦に次ぐ数と規模と武力を誇るものだ。

 それに、ロル星団の新興勢力である銀河帝国が彼らの友好国として登場しようとしている。

 銀河帝国の科学技術はともかく、艦船の数は多かった。

 ジル星団のすべての政府の艦隊を合わせた数よりも多いかもしれない。



「それはロル星団の覇者である銀河帝国を取り込んだということか?」

と、マグ・クガサワン・シャは言った。


「リドス連邦王国は、銀河帝国の大逆人を抱えております。それだけでもいずれ問題になるでしょう」



 マグ・クガサワン・シャは、大逆人がリドス連邦王国にいたとしても、それが誰であるかをゼノン帝国は知らないのだと気づいた。

 そのようなことでは、とてもリドス連邦王国と同等に遣り合うことなどできないだろう。



「調整官閣下、我々ゼノン帝国はナンヴァル連邦との一刻も早い同盟締結を望んでおります。ダルシア帝国が滅びた今、惑星連盟にとってもそれは喫緊の課題でありましょう」

と、ダルマエル・ドルウは力説した。


「ダルシア帝国が滅びたとは思わぬが、そのことについて、検討はしてみよう。ファルトゥ・シグナ・デュよ。ゼノン帝国大使がお帰りだ。お送りするように」

と言って、マグ・クガサワン・シャは会見を終わりにした。










 ヘイダール要塞の司令室のスクリーンには、見たことのある船が映っていた。



「どこの船だって?」

と、ディポックは急いで司令室に入り、通信員に訊ねた。


「それが、一隻はタレス連邦からの亡命者だと判明しましたが、もう一隻の方がわかりません」

と、通信員が言った。


「みたところ、新世紀共和国の船ではないかな?」

と、ディポックは言った。


「おそらく、そうではないかとおもうのですが、通信不能なのです」



 だんだん大きく映るその船は、かなりの損傷があることが確認された。



「これでは、乗員が無事かどうかわからないな」

と、ヴィン大佐が言った。



 コランド・アルガイがあたふたと司令室にやってきた。



「船が来たそうだな?」

「かなり、損傷が激しいようだし、通信不能だ」

と、ディポックが言った。


「銀河帝国とこのヘイダール要塞との間の宙域のパトロールが強化されているらしい。それに引っかかったんじゃないかな」

と、コランド・アルガイが言った。


「君の船は無事だったんだろう?」

「うちの船は慣れているからな。でも、今回は危ないと思ったのは以前より数が多かった。初めてここへ来るとなると、かなり危険が大きいと思う」

「すると、やはり帝国軍にやられたということかな……」



 ディポックは、要塞艦隊から一隻調査に出すことにした。

 船が危険な状態なら、早くその乗員を移動させようというのだ。

 もちろん、その船が帝国軍の偽装ということもありうる。

 そのため十分注意するように艦長に命じた。

 もう一隻のタレス人の船は要塞に入港を許可した。







 タリア・トンブンは、タレス連邦から新しい船が入ったという連絡を受けて、駐機場にやってきた。

 ヘイダール要塞方面にはジル星団の交易航路は設定されてはいないので、おそらくタリアの仲間の船だろうと思ったのだ。

 駐機場に着くなり、タリアは嫌な気分に襲われた。

 そしてタレス連邦から来た船を見ると、その気分がさらに強くなった。



「タリア、あなたも来たんですね」

と、声がするので、そちらを見ると、イオ・アクナスが立っていた。


「あ、あなたも来たの……」

と、タリアは驚いてイオ・アクナスを見た。


 彼はダルシア帝国の継承者の審問がなされているとき、アリュセア・ジーンの部屋で倒れていたのだ。

 その理由はすでにアリュセア自身から聞いてタリアは知っている。

 イオ・アクナスはタレス連邦政府のスパイだったのだ。

 そのことは、まだアリュセアとタリアの秘密にしていた。

 要塞司令官のディポックには話をしたが、他のタレス人の能力者には話していなかった。

 仲間の中に、他にもタレス連邦政府のスパイがいる可能性があるからだ。


 タリアはイオに自分の心を読まれないように、緊張した。

 もっとも、その点については、リドス連邦王国の五の姫にもらったペンダントがあれば大丈夫だと、銀の月が話をしていた。

 そのペンダントは今タリアの首から下げられている。



「そのペンダントは、どうしたんですか?」

と、イオが聞いた。


「これは、バルザス提督にもらったの。お守りだそうよ」

と、咄嗟にタリアは誤魔化した。


「バルザス提督は、あなたにずいぶん親切なんですね」

「ええ。ハガロンでできた友人なの…」



 二人が話しているうちに、船から人々が下りてきた。







 バルザス提督とアリュセア・ジーンは宿舎に戻ってくると、顔を見合わせた。

 二人にはヘイダール要塞に近づいた二隻の船が見えたのだ。



「あれは、あの船はどうしてここへ来たのか?」

と、アリュセア――ライアガルプスが言った。



 二人には二隻の船の真の姿が見えたのだ。



「しまった!油断した」

と、バルザスが言った。



 バルザス提督とアリュセアと一緒に付いてきたヘイダール伯爵は二人と同じものを見ることができた。

 姿を消したまま二人について来たレギオンもまたそれを見ていた。


 ヘイダール伯爵とレギオンはお互いに顔を見合わせると、姿を消した。

 彼らには何が起きたのかわかったのだ。



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