ヘイダール伯爵の帰還 14
アロウド・ヴィン大佐は呆れていた。
突然現れた白髭の老人はヘイダール伯爵だと言う。
その人物が、タレス人の女性アリュセア・ジーンにヘイダール要塞の兵器と成ってくれと言ったのだ。
不思議なのはディポック司令官がそれを全否定しなかったことだ。
ディポックはアリュセア――ライアガルプスが何をしたのかを思い出していた。
確か、あの時はタレス人のタリア・トンブンに替わってダルシア帝国の艦隊を動かしたのだ。
ということは、ヘイダール要塞にダルシア帝国の艦隊を常駐させて守らせると言うことなのだろうか。
「ヘイダール伯爵、それは、ダルシア帝国の艦隊を要塞の守備に就かせると言うことでしょうか?」
「ふむ。それもある。先ほどは言葉があまりよくなかったが、ともかくこの要塞を守って欲しいと言うことじゃ。何しろ本来ダルシア人は強力な力を持っておる。例えばそうさな、ガンダルフの魔法使いのような力だ」
「それは、ライアガルプスが魔法使いだと言うことですか?」
「まあ、レギオンや銀の月ぐらいの魔法を使えると言うことじゃ」
「ちょっと待て、私を魔法使いと呼ぶのは気にいらぬ」
ジル星団のダルシア人は魔法使いと呼ばれることを好まない。
ダルシア人にとってはその魔法の力は当然誰でも持っているものだったから、魔法使いと言う者はいなかったし、そのような職業もなかったのだ。
第一、ダルシア人は魔法の呪文など使わない。
「しかし、ヘイダール伯爵、彼女はモノではないのだから、いつまでもこの要塞にいるわけにはいかないでしょう」
と、バルザス提督が言った。
アリュセアはタレス連邦からの難民という立場なので、いずれこの要塞を出て行くことになる。
それに三人の子供もいるのだ。
いつまでもこの要塞にいるわけにはいかない。
「ふむ。別にずっとというわけではない。臨時にと言うことだ」
「臨時?すると、ヘイダール要塞の本格的な強化を考えているという事でしょうか?」
「当然じゃ。わしの設計したこの要塞、簡単に破壊されたり別の奴に盗られたりするなど、ごめんなのじゃ」
「いや、すでに銀河帝国から私たちに所属が変わっているのですが……」
「ふむ。同じロル星団の者じゃから別に構わん。わしの言うのは、例えばゼノン帝国の奴らなどのことじゃ」
ヘイダール伯爵はまるで銀河帝国や新世紀共和国に愛着を感じているかのように言った。
「ええと、ヘイダール伯爵は確か銀河帝国の貴族でしたね……」
と、ヴィン大佐は言った。
ヴィン大佐の考えでは、銀河帝国の貴族なら新世紀共和国のことを宿敵と思っていても不思議ではない。
それに、銀河帝国との新世紀共和国との戦争は前者の勝利に終わっている。
だから、新世紀共和国のことなど鼻から無視したとしても可笑しくはないと思った。
しかし、伯爵は新世紀共和国の者たちを排除しようとは思っていないらしい。
「なるほど、私は臨時ということなのか?」
「そうじゃ。いくら何でも一生ここで要塞を守っていて欲しいとは考えてはおらん…」
「それなら、考えてもよいぞ……。アリュセアと子供たちが世話になっているからの……」
話が付きそうなので、ヴィン大佐は慌てて言った。
「司令官、彼女が要塞を守ってくれるというのはどういう事でしょうか。私にもわかるように話していただけませんか?」
「そうだね。君には知っておいてもらってもいいだろう。まだ帰って来たばかりなので、留守の間に要塞に何が起きたのか聞いてないだろうが……」
と言って、ディポック司令官はこれまでの事を掻い摘んで話した。
特に銀の月の使った魔法とゼノン帝国艦隊との交戦のことを話した。
アロウド・ヴィン大佐は驚き呆れていた。
ディポック司令官の話は、どれもこれまで聞いたことのないような話だった。
ディポック本人が話したのだとしても、とても信じられないことだった。
「つまり、ジル星団の惑星連盟というのがヘイダール要塞でダルシア帝国をタレス人のタリア・トンブンに渡すという事を決めたということでしょうか……」
「そうだ。それを不服としたゼノン帝国の艦隊が来て、要塞を攻撃したのだ」
「で、要塞がかなり損傷して、それを修復に来てくれたのがヘイダール伯爵なのですね」
「そうだ。伯爵は無料で修復してくれた。最初はどうなることかと思っていたのだが……」
ヘイダール伯爵が来て要塞を修復すると聞いた時、ヴィン大佐はどうも妙な気がした。
いくら貴族とは言え、一個人にそのような力があるとは思えないのだ。
しかもかなりの老人だ。
ヘイダール要塞はかなり大きな損傷を受けていたことは此処へ戻ってきてから聞いている。
普通なら技術者の一団や工兵隊が来てかなりの時間をかけて修復するものだ。
それを個人がやったと言うのだ。
「あのヘイダール伯爵お一人で修復をされたのですか?」
「当然じゃ。他にできる者は居らんでな……」
「つまり、伯爵はガンダルフの魔法使いと言われている人たちと同じような力を持っているということでしょうか?」
「ま、まあそうだと思うのだが……」
ということは、ヘイダール伯爵は銀河帝国の貴族ではないと言うことなのだろうかとヴィン大佐は思った。
「それで、ヘイダール伯爵この後要塞の強化についてどんなことを考えているのか教えていただけますか?」
と、ディポック司令官が丁重に聞いた。
バルザス提督――銀の月は嫌な予感がした。
「うむ。わしが考えておるのはあの『レギオンの城』と合体させることじゃ」
「『レギオンの城』と合体?その『レギオンの城』と言うのは何でしょうか?」
「その名の通り、『レギオンの城』じゃ。大昔からここ、つまりこの要塞と同じ座標に存在しておる城じゃ……」
『レギオンの城』その名はディポック司令官やブレイス少佐やヴィン大佐は初めて聞く。
「いやいや、同じ座標にあると言われても私たちは見たことがないのですが……」
「あれは、誰でも見られるものではないのじゃ。と言っても、ないわけではない……」
そんなことを言われても、ロル星団出身の者達は理解できなかった。
だが、『レギオンの城』とはジル星団の者達にとって、ここに存在していると長年言われてきたのだ。
曰く、誰でも見れるものではない。
見ることができる者は、強い魔法使いか霊能者かと。
特別な力を持つ者しか見ることができないと言われてきたのだ。
「簡単に言えば、同じ場所なのだが別の次元にあると言うことじゃ」
「別の次元?」
「次元が違うと、同じ場所にあっても見ることも触ることもできんと言うことじゃな」
「しかし、次元の違う場所に城を築くのは不可能ではありませんか?」
宇宙航行をする種族なら、次元が違うと同じ場所にあっても触ることができないというのはある程度理解できる。
だが、これまで違う次元に何かを作って置くなどと言うことができると考えた者はなかった。
「そのことで、先だってレギオンが来ておってな、それで奴とその話をしていた……」
「え?レギオンがここへ来たというのですか。私は聞いていませんが……」
と、ディポック司令官が驚いて言った。
「まあ、宇宙船で来たわけではないのでな。ここの司令官に断って要塞に入ったわけではない」
だが、ディポック司令官やヴィン大佐にとっては宇宙船でしかこの宇宙は移動できないと考えている。
「何を言っているのじゃ。レギオンはガンダルフの五大魔法使いの一人。ここへ来るのに宇宙船に乗ってきたりはせん……」
「じゃ、どうやって来たのです?」
「ふむ。単に転移してきただけじゃ」
「強い力を持った魔法使いなら大抵できるものだ。別に驚くには当たるまい」
と、ライアガルプスが言った。
「ま、まあ、それでそのレギオンがここへ来たのはなぜですか」
と、ディポック司令官が聞いた。
「ヘイダール要塞がゼノン帝国艦隊に大分やられたと聞いて心配してきたのじゃ」
「そうですか、心配して……。いや、そのできれば来た時は私の方にそれがわかるようにして欲しいのですが……」
「お前さんのところへ出頭して欲しいということかな」
「そこまでしなくてもいいのですが、来たと言うことがわかるようにして欲しいのです」
「そうか、ならレギオン、お前そこで聞いておるじゃろう。出て来てはどうかな……」
「え?レギオンがいるのですか?」
「そうじゃ……」
レギオンがいると聞いて、ヴィン大佐など元新世紀共和国の者たちは周囲を慌てて見回した。
しかし、この司令官室には彼らの他に人はいなかった。
「レギオンというのは、ガンダルフの魔法使いと言うことですが、リドス連邦王国の者でしょうか……」
周りに注意をしながらヴィン大佐は言った。
すると、
「私を呼んだろうか……」
と、唐突に声がして、人の気配がした。
それも、扉の方からではなく、部屋の奥の方からだ。
司令官室の司令官の机の向こうから、声がした。
そちらを見ると、灰色の長いローブを着た人物がいた。
顔は見えなかった。
灰色のローブのフードで、顔が隠れてしまっているのだ。
突然現れたようだが、最初から部屋の奥に隠れていたと言われても可笑しくはない。
それほど奥行きのある部屋ではないが、隠れようと思えば隠れることは可能だ。
「ああ、レギオン。ヘイダール要塞のディポック司令官が要塞に来た時はわかるようにして欲しいと言っておる」
「わかった」
短い答えだったが、その声はヘイダール伯爵とは違って若かった。
「では、後程また……」
レギオンはそう言うと、一瞬で姿を消してしまった。
急いでいるのか、それとも話をすることがないのか、まだ自分の事を知られたくないのか、それはわからなかった。
「もう、行ってしまったようじゃ……」
「え?もう、これだけですか……。あれが魔法ですか……」
と、ヴィン大佐は言った。
目の前で人が一人消えたのにそれほど驚いてはいなかった。
けれども、アッと言う間だったので、何も聞けなかったことがヴィン大佐には残念だった。
知りたいことがたくさんあるのだ。
ディポックはここでまた騒ぎが起きるかと案じていたが、思ったよりレギオン――ダールマン提督の登場と退場が呆気なかったのでほっとした。
まだヴィン大佐には話していないことが多いのだ。
彼は情報将校なので大抵のことは話してあるのだが、かといってすべてを話すわけにはいかない。
なぜか、以前よりも秘密が多くなったような気がした。
話をし始めると、ジル星団の政府のことなどはともかく、魔法についてはなかなか府に落ちないだろう。
それを説得するのも面倒なのだ。
今の前で見た魔法であっても、魔法でない方法で同じようなやり方が出来るのではと言い始めると思うと、話をするのが面倒になるのだ。
バルザス提督やアリュセア達とヘイダール伯爵は、ヴィン大佐の手前、そろそろと言う風体で司令官室から退散した。
今度はきちんと扉から彼らは出て行った。
「何ですか、あれは……」
と、珍しくヴィン大佐は口にした。
その言葉には苛立ちが感じられた。
そしてその後、残されたヴィン大佐は珍しく何か考え込むようにしていた。
彼は人前でそのような様子を見せることはあまりなかった。
まして、司令官であるディポックの前では特に。
向こうで何かあったのかな、とディポックは思った。
もともとアロウド・ヴィン大佐は情報部門にいた冷静な人物だっだ。
これでは、留守中のことについて話をするのは無理ではないかと思った。
何しろ、霊の話どころか、魔法使いの話までしなければならないのだ。
「まあ、この要塞も君の留守中に色々あったものだから、色んな連中が来ているからね」
と、ディポックは言った。
「聞きました。ジル星団の惑星連盟とかいう連中が押しかけてきたとか……」
「それで、まあ大変だったんだが……」
「先ほども話に出てきていましたが、何でも、魔法使いがいるとか……」
「聞いたのかい?」
「みんな、噂していますよ。あのベルンハルト・バルザス提督が魔法使いだとか……」
「君には理解できないだろうが、それは本当なんだ。君も見ただろう。レギオンが消えたのを……」
「司令官、あなたまでおかしくなってしまったんですか?魔法使いなんて、おとぎ話じゃあるまいし……あんなこと魔法使いでなくてもできるでしょう。例えば、手品師や魔術師のように…」
「今すぐに理解できなくても、そのうちに分かると思うよ」
ディポックは、今相手を説得しようとは思わなかった。
信じるとか信じないというのは本人がよほど納得しないと難しいのだ。時間を掛けるしかない。
ヴィン大佐はため息をつくと、
「それよりも、大事な話があります」
と、話題を変えた。
「向こうに、やつが帰ってきていました。あのケアード・ゴンドラスです。一応、帝国の役人という体裁ですが、首都星だったジアドで、はやくも帝国の駐留軍を取り込んでいました」
「しかし、独立運動でも始めようというわけではあるまい?」
「もちろんです。やつは我が新世紀共和国ではもう売国奴と呼ばれて、権威も人気も地に落ちています。それが何を思ったか、古巣に戻ってきて、どうも総督にでもなる運動を始めようとしているようなんです」
「総督だって?それはいくらなんでも無理なんじゃないか?」
「そうでしょうか。これまでだって、やつは正当な手段だけで新世紀共和国の最高評議会議長になったわけではありますまい」
「しかし……」
ケアード・ゴンドラスは新世紀共和国最後の最高評議会議長だった。
彼の政治には常に賄賂の噂が付きまとっていた。
今回帝国の役人になったことも、おそらく裏から色々な手を回したのだろう。
と言っても銀河帝国と新世紀共和国では、勝手が違うだろう。
制度だけではなく、出自も問題にされるはずだった。
つい先日まで敵であった反乱軍の指導者など、帝国でそれほど重用されるとは思えない。
新世紀共和国は百五十年間銀河帝国と戦ってきたが、彼は最後の最後に帝国軍に屈して、自分だけ助かろうとして母国を帝国に売ったのだ。
どんな取引がなされたのか、細かいことはわからない。
ただ当時ヤム・ディポック宇宙艦隊司令長官が気が付いた時には、手遅れだったのだ。
「閣下、お話し中申し訳ありませんが、惑星連盟の議長がお見えです」
と、ブレイス少佐が言った。
「マグ・デレン・シャが?どんな要件だろう」
と、ディポックが言うと、
「それでは、私はこれで……」
と言って、ヴィン大佐は敬礼をすると部屋を出て行こうとした。
するとディポックは、
「あっ、ちょっと待ってくれないか……」
と、言って呼び止めた。
ブレイス少佐が案内して入ってきたマグ・デレン・シャに、ディポックは挨拶した。
「どうも、今日はどんなご用件でしょうか?」
マグ・デレン・シャはヴィン大佐を見ると、軽く会釈をして、
「今日は、この間の話、銀河帝国のバルザス提督とほかの二人の話について、何かわかったことはないかと思って参りました」
と、言った。
マグ・デレン・シャは、ナンヴァル人特有の緑色の肌をして、顔の半分には鱗があった。
ヴィン大佐は顔色も変えずに、
「私は、ヘイダール要塞のアロウド・ヴィン大佐といいます」
と、言った。
「初めまして、私は惑星連盟の議長を務めます、ナンヴァル連邦の大使マグ・デレン・シャと申します」
と言って、マグ・デレン・シャはヴィン大佐をじっと見た。
「ヴィン大佐、マグ・デレン・シャ議長に銀河帝国のバルザス提督、ダールマン元元帥、ヨナン・スリューグ提督の家族について、調査したことを話してくれないか」
と、ディポックは言った。
「ベルンハルト・バルザス提督だけではなくて、ですか?」
「そうだ」
「わかりました」
ヴィン大佐が装置をいじっている間、マグ・デレン・シャは興味深そうに見ていた。
ディポックは思い出したように
「そう言えば、常々不思議に思っていたことがあるのですが……」
と、切り出した。
「何でしょう?」
と、マグ・デレン・シャが聞いた。
「あなた方ジル星団の方々と我々は何の苦も無く同じ言葉を話しているようですが、あなた方は我々の言葉に詳しいのですか?」
と、ディポックは聞いた。
「言葉のことですか?そう言えば、まだ詳しい話をしたことはなかったのですね」
と言って、マグ・デレン・シャは言語フィールド発生装置について話をした。
「すると、我々とあなた方は、実際は違う言葉をしゃべっているというのですか?」
「そうです。ですが、この装置……」
と言って、マグ・デレン・シャは自身でも身に着けている小さなブローチに見える装置を指さした。
「言語フィールド発生装置が、あなた方の言葉と我々の言葉を相互翻訳しているのです。もっと正確に言うと、あなた方の想念と我々の想念を翻訳しているということでしょうか。つまり、想念の波長事態は生物による相違があまりないのです。怒りの波長、喜びの波長はどの種族も同じと言えましょう。それが基礎になっています。ただ、言葉の緻密な作業である、交渉事や専門分野の研究等においては、翻訳が困難になってきます。従って、そういう場合は、本人が相手の言葉を知らなければなりません。または、TPがそばにいることが重要になります」
「TPがジル星団で重要なのは、そうした意味もあるのでしたか……」
「そうです。それにこの装置は、相手が持っていなくても使えるのです。言語を相互翻訳するフィールドを発生させ、その範囲内での翻訳をします。これは宇宙船の通信波に乗せて使うことができるので、異種族との出会いがあった場合でも翻訳が可能です」
「なるほど、だから初めてやってきたタレス人の宇宙船の通信が、我々に理解できたのですね」
「それに、お互いにこの装置を持っていると、その範囲が増幅されます。今ジル星団の者はたいていこの装置を身に着けていますから、ジル星団の者が多ければ多いほどこの要塞においては大抵の場所で皆話が通じるということになるのです」
ヴィン大佐は作業を続けながらマグ・デレン・シャの話に耳を傾けていた。
彼にとっては、言語フィールド発生装置は初耳だった。
ロル星団ではそのようなものはない。
新世紀共和国の言語と銀河帝国の言語の二つしかないのだから、必要性がなかったと言える。
その二つの言語も元は一つだったのだ。だから、まるで話が通じないと言うことはない。
「閣下。終わりました」
と、ヴィン大佐が言った。
「それでは、説明してくれないか」
と、ディポックは言った。
「それでは、簡単に……」
と言ってヴィン大佐は始めた。
銀河帝国の皇帝暗殺未遂犯の大逆人であるオルフ・オン・ダールマン提督は、新世紀共和国総督解任、元帥号を剥奪されていた。
彼には兄弟はなく、母親は貴族出身だったがすでに亡く、商人だった父親が一人残っていた。
だが、その父親は大逆事件が起きて数か月後病死していた。
他に親戚もなく、貴族ではないものの、商家として財をなしたダールマン家は途絶えたことになる。
ダールマン提督の副官だったヨナン・スリューグ提督は、大将号を剥奪されていた。
スリューグ提督は平民の出で、老母と兄と弟がいた。
ヨナンは三人兄弟の真ん中だった。
兄と弟はヨナンよりも早く軍で戦死しており、老母は、大逆事件の後、病死した。
ダールマン提督の部下だったベルンハルト・バルザス提督は、前ジェグドラント伯爵の末子で、現ジェグドラント伯爵の腹違いの末の弟だった。
母親は平民の出身で、彼が10歳の時に亡くなった。
その後、伯爵家に引き取られた。
軍の幼年学校に入り、ダールマン元帥の大逆事件の時までに中将になる。
事件後、中将の称号は剥奪されたが、実家の伯爵家は罪を問われていない。
そして、実家の伯爵家からは勘当になっている。
また銀河帝国ではナルディア・ゲルマと結婚し、アンナという娘がいた。
しかし、事件後、相次いで死亡。ナルディアは交通事故死、アンナは病死である。
ヴィン大佐は、できるだけ簡潔に説明した。
「わがナンヴァルの言い伝えによりますと、かのガンダルフの五大魔法使いたちは、今世生まれた土地で親兄弟がいなくなると、もちろん例の死んで蘇った後ですが、魔法使いとしてのすべての力を覚醒させることができるといいます。私が彼らに会った印象としては、ダールマン提督とスリューグ提督はガンダルフの魔法使いとして完全に復活していました。ですが、バルザス提督は少し違いました。それは、まだ血の繋がった親兄弟が銀河帝国にいるからなのでしょう」
と、マグ・デレン・シャは言った。
「失礼ですが、惑星連盟の議長閣下は、銀河帝国の大逆人たちが、ジル星団では有名な魔法使いだとおっしゃるのでしょうか?」
と、ヴィン大佐は聞いた。
「そうです。それが、何か?」
「彼らはジル星団ではなく、ロル星団の銀河帝国の出身なのですよ。私にはそんな話は、到底信じられません」
「別に信じろとは、申しません。あなたが信じなくても、私にとってそれは事実なのです」
と、マグ・デレン・シャは不思議そうにヴィン大佐を見た。
魔法や特殊能力を信じない者は、ジル星団にはいない。
だが、ロル星団ではそれが常識だと聞いていた。
だからと言って、他人に自分の意見を表明する必要はない。
マグ・デレン・シャはヴィン大佐が何か困っているようにも思えるのだった。
その時、
「ディポック司令官、船籍不明の宇宙船が二隻、近づいているそうです」
と、ブレイス少佐が言った。
「わかった、すぐ行く。それではマグ・デレン・シャ、お話はこれでいいでしょうか…」
「かまいません。でも、どちらの船なのでしょうね」
ディポックとヴィン大佐は急いで司令室に向かった。




