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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
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ヘイダール伯爵の帰還 10

 惑星ガンダルフの五大魔法使いの一人、『大賢者』レギオンは久しぶりにレギオンの城にやって来た。

 暫く留守にしていたので、様子を見に来たのだ。

 前に来た時は確か銀河帝国に行く前だったと、レギオンは思った。

 多分、今から40年前くらいだろうか、と思いつつ城に入ろうとした。



 だが、宇宙空間の同じ場所に球形の黒々とした要塞があるのに気づいた。

 それぞれ次元の異なる場所にあるのでぶつかる事は無いが、まさにレギオンの城と同じ場所にその要塞は浮かんでいた。



「何だこれは?」

と、レギオンは呟いた。



 ヘイダール要塞は、形は違うものの、レギオンの城と同じ位の大きさだった。


 そこでやっとレギオンの城と同じ場所に百年前に銀河帝国が要塞を建設したのをレギオンは思い出した。


 改めてジル星団にある宇宙都市ハガロンと比べるとかなり大きい。

 ただ、現在ゼノン帝国艦隊の攻撃で大きなダメージを受けて、修復中であった。



「ふん。ヘイダール伯爵が戻ってきているのか……」



 魔法使いである彼は、要塞の中にヘイダール伯爵の姿を見ることができた。


 レギオンの姿はいつもより若かった。

 白髪で白い髭を長く伸ばし皺だらけの魔法使いと言う姿が長くレギオンの定番の姿だった。

 本来なら、ヘイダール伯爵よりもずっと年を取っているし、そうした姿でいることが多かった。


 けれども最近、銀河帝国に出て軍人をやっていたため、魔法使いの灰色のローブを着ていても若く見えるのだ。

 レギオンは30代後半で精悍な顔つきをしており、背も高い。

 彼はこれまで典型的な魔法使いの姿を好んでいたが、今回はかなり異なっていた。

 白い髭もないし、腰も曲がっていないことが、本人には違和感があるようだった。



 レギオンは次の瞬間にはヘイダール要塞のヘイダール伯爵の隣に立っていた。



「修復はかなり時間がかかりそうなのか?」

と、レギオンは修復を続けているヘイダール伯爵に言った。


「む?レギオンか……。そうじゃな、簡単にすぐ終わるとは言えん。それよりお前さんは戻って来ていたのか?」

「この辺でゼノン帝国の連中が騒ぎを起こしたと聞いたのでやって来た…」

「そうなんじゃ。奴らはこの要塞の内壁まで貫くエネルギー砲を使いおった。このままではまたゼノン帝国艦隊が来たら、また同じことになりそうじゃ」

「ここは銀河帝国が作ったものだから、それも仕方あるまい」



 ジル星団とロル星団の技術の差はまだあるのだ。

 けれどもそれは乗り越えられぬほどのものではない。



「だがな、これからはそうも言っていられぬのではないか。ロル星団のもめ事は終わったし、ジル星団の連中は銀河帝国と交易を始めたがっているからのう…」

「だが、あれが残っている」

「あれか?あのことなど、もう記憶にある者たちは居るまい。今回もそのことに言及するものなど居らなかったはずじゃ…」

「他の者達の記憶に無くなっても、奴は存在している。いずれ、厄介なことになるだろう」

「それなら、まずここの連中に話してやらなければなるまい。ここには例のあの者がいるのだろうに」





 警備兵は奥の方から人声がするので不思議そうに見やった。

 けれども奥へ行こうとはしなかった。

 ディポック司令官が見に来た時に言われたからだ。



「人声がしても、見に行かないでいい」

「なぜですか?」

「あの老人が奥で修復しているが、その邪魔になるからだ」

「しかし、……」

「ようするにお前さんたちの前を通らずに奥へ行くことができるような者は、とても我々の手に負えないからだよ」

「……」



 だが、それでは警備にならないではないかと警備兵は言いたかった。



「だから、老人の邪魔をするような者が入らないように警備を頼むよ」

と、ディポックは付け加えた。



 警備兵はそれを守っているのだ。

 そしてその方が安全なのだと思った。









 その晩、ディポック司令官は悪夢を見た。

 詳しくは覚えていないが、悪夢だったと言う記憶がある。

 それに、起きた時あまり気分が良くなかった。

 これは悪夢を見た後の状態なのだ。



「大丈夫ですか?」

と、ブレイス少佐は心配して言った。


「夢見が悪かっただけなんだ…」

「体の具合が悪いのかと思いましたよ」

と、ダズ・アルグ提督が言った。


「どんな夢を見たんです?」

「それが、よく覚えていないんだ」

「それなら、忘れてしまった方がいいですね」

「そうだろうか……」

「それより、そろそろアルガイ船長が来る頃ではないですかね」

「そう言えばそうだね……」







 ヘイダール要塞にロル星団からたまに商船がやってくる。

 それは、辺境航路を渡り歩く交易商船で、ふたご銀河ではいわゆる独立商人と言われており、商品の他にロル星団の情報も要塞にもたらした。



「やあ、よくきてくれたね。無事に着くか、心配していたよ」

と、ヘイダール要塞のヤム・ディポック司令官はいつものように執務室で船長を歓迎して言った。



 ジル星団方面とは違って、ロル星団方面の航路は銀河帝国軍のパトロールが頻繁にあり、商船がヘイダール要塞に行くのを妨害しているからだった。

 その警戒の中をかいくぐってやってくるのは、なかなか大変なことなのだった。



「なんだか、大変なことになっていたようだな」

と、商船ドルイド号の船長、コランド・アルガイが言った。要塞に来る途中で出会ったジル星団の船から、要塞で起きた事を聞いたのだった。



 彼は、ヤム・ディポックの幼友達でもあった。



「まあ、いろいろあるさ。ここは何しろ辺境なんだからね」

と、ディポックは言った。


「しかし、あの要塞の外に展開している妙な艦隊はどこのなんだ?ジル星団のどこかの国と同盟でも結んだのか?」

と、アルガイが言った。



 要塞の外の艦隊とは、ダルシア帝国の艦隊のことである。

 アルガイには見たことのない形態の艦だったのだ。



「そういうわけではないんだが、何しろ、そう簡単に動かせないのでね」

「まさか、どこの誰ともわからない連中に占領されたというわけではないだろうね。もっともそれなら、うちの船が要塞に入港できないか」

「そうそう。だから、大丈夫さ。それで、向こうの様子は?」

と、ディポックは聞いた。


「まあ、相変わらずさ。帝国は元新世紀共和国の新領土については、少しずつ統治を強めているがね。あのダールマン総督の失脚以来、新しい総督は来ていない様だが、あのスワングラード提督は総督代理として上手くやっている」



 要塞に来る前に、船長は色々調査してきたのだ。

 少しでもディポックの役に立ちたいと、心の中では思っている。

 ただ、現実は商人であるから、利益もださなくてはならない。



「そうか」

「それはそうと、この要塞にベルンハルト・バルザス提督がいるかな?」

と、アルガイ船長は聞いた。


「ベルンハルト・バルザス提督というと、あのダールマン提督の部下だったという……」

「そうそう。実は、ある筋からバルザス提督宛に手紙を預かってきた」

「手紙?ある筋というのは、誰からだい?」

と、ディポックは興味を持って聞いた。


「バルザス提督には帝国に妻子がいたらしいな。知っていたか?独身だったダールマン提督やヨブナルド提督とは違ってな。それで、バルザス提督の妻だと言う人から人づてに預かってきたんだか……」

「しかし、ここにバルザス提督がいるなんて、どこから聞いてきたんだ?」



 バルザス提督がジル星団にいるということは、これまでディポックも知らなかったのだ。

 かの大逆事件の後、銀河帝国が追討の艦隊を差し向け、その艦隊との会戦の際にダールマン元帥以下ほとんどの者達が亡くなったと聞いていたのだ。

 それがダルシア帝国の継承者の問題で突然バルザス提督がヘイダール要塞に現れたのである。

 その時にはバルザス提督はリドス連邦王国に帰属していた。



「それはもちろん、内緒の話さ。だが、ぶっちゃけどうなんだ、いるのか、いないのか?」

と、アルガイは畳み掛けた。


「それは、まあいることはいる」

と、ディポックは言った。


「ダールマン提督もか?」

「まさか、いるのはバルザス提督だけだ」

「一人か。何しに来たんだ?」

「まあ、ちょっとあってな……」

と、ディポックは言い難そうにした。



 ディポックはその名に不安を感じた。

 そう、昨日の夢の中でダールマン提督――ガンダルフの魔法使いレギオンに遭ったような気がしたのだ。

 だが、アルガイ船長にその話はできない。

 アルガイ船長にとってダールマン提督は、銀河帝国の大逆人のことでしかないからだ。



「何だ?俺には話せないのか?」

「そうじゃない。話が複雑なんで、そう簡単に話せないのさ」



 ここのところのジル星団の惑星連盟の騒ぎは、簡単には説明できないことだった。

 バルザス提督もからむその話は、たとえ話しても信じてくれるかどうかも怪しいとディポックは思っていた。



「それはもしかして、外の艦隊も関係しているのか?」

「まあ、そうだ」

「あれは、普通の艦隊じゃないだろう。どこの艦隊なんだ?」

「あれは、ジル星団のダルシア帝国の艦隊だ」

「ダルシア帝国?ジル星団にあると言われているあの帝国か?」

と、アルガイは驚いたようだった。


「ダルシア帝国を知っているのか?」

と、ディポックも驚いて言った。



 ディポックでさえ、ジル星団があることを知ったのは、最近のことで、ましてダルシア帝国などこれまで聞いたこともなかったのである。



「名前だけは聞いたことがある。公式には他の星団などに文化文明のある国があるなんてことは認められていないし、知らないことになっているが、辺境を渡り歩く交易商船にはジル星団の国の噂も良く聞くんだ。それを表立って政府などに知らせることもないがな。

 つまり、我々以外にも文化文明のある惑星があるということは独立商人なら知っていることだ。

 特に、ダルシア帝国と言ったらジル星団最古の、そして最強の帝国だと聞いている。だが、あそこはもう滅びたとか聞いたことがあるんだが……」

「滅びてはいない。ただ、後継者にちょっと問題があって、それでジル星団がゴタゴタしたんだ」

「なるほど。その話は、後でゆっくり聞かせてもらえるんだろうな」

「いいとも。もう終わったことだし……。それで、バルザス提督に渡す手紙というのは?」



 コランド・アルガイは一枚の小さなディスクを取り出した。



「これを渡せばいいのか?」

「そうだ。それで、悪いが渡したところを確認させてほしい」

「確認というと?」

「まあ、つまり頼まれた人にバルザス提督に本当に渡ったかを話さなければならないんだ」

「要するに、ここにバルザス提督を呼んで、これを渡すということか?」

「まあ、そういうことになるかな」

「わかった。バルザス提督を呼ぼう」

「そんなに簡単に呼べるのか?」

「もちろん。呼べるさ」



 要塞内の通信機で司令室を呼び出すと、

「バルザス提督に、私の執務室まで来るように言ってくれ。至急にだ」

と、ディポックは命じた。



「了解しました」











 その頃、ベルンハルト・バルザス――銀の月は、タリア・トンブンを探して展望室にやってきた。

 タリア・トンブンにはダルシア帝国の継承者となったから、一日も早くダルシア帝国の本国へ行かなければならないと話す必要があった。

 そのために、外のダルシア帝国の艦隊がやってきたのである。

 バルザスは、展望室でタリア・トンブンとルッツ提督の副官がいるところに出くわした。



 クルム少佐を見て、軽く目で会釈をすると、

「こんなところにいるなんて、どうしたんだタリア」

と、バルザスは言って、展望室に入って行った。



「別に、何でもないわ。それより、私に用があるのかしら」

と、タリアは不機嫌そうに言った。


「分かっているだろう。ダルシア帝国の本国に君が行く件だ」

と、バルザスは言った。



「今すぐでなければ駄目?」

「もちろんそれは、速いほどいいんだ」

「私、まだダルシアに行くだけの気分じゃないの」

「それは、わからないでもない。でも、『ダルシアン』のことも考えてくれないか?彼は、いや彼らは君を待っているんだよ。それに心配してもいる」

「『ダルシアン』て機械なのでしょう?」

「正確に言うと、機械ではない。ダルシア帝国では、有機的なものと金属的なものとが融合して我々の言う、機械や宇宙船と言ったものを形作っているんだ」

「要するに、タレス連邦の宇宙船とは技術的にかなり違うということ?」

「そういうことだね。ゼノン帝国はダルシア帝国の技術や知識を欲しがっているが、彼らがダルシアの技術や知識を解析することはかなり難しいだろうね。何しろ、根本の考え方から違うのだから。だから、元々彼らにダルシアの文明を理解するのは無理だったのさ。もちろん、時間をかければ可能だと思うけれど……」

「どのくらいかかると思う?」

「そうだな、少なくとも二、三十年は掛かるだろうね」

「彼らは、すぐにも利用できると思っているようね」

「だから、困るのさ。彼我の差を理解できないというのは、……」

「それじゃ、リドス連邦王国はどうなの?」

「リドスでは、色々な技術の経験と蓄積がある。タレス連邦やここの要塞のような技術、ダルシアのような技術、他にも色々ある。それぞれの特徴や特質は様々だけれど、本来は同じものだからね」

「同じもの?何が同じなの」

「それは、……」

と言いかけた時、携帯用通信機が鳴った。



 腕に付けられたブレスレットの形のそれを、バルザス提督は耳に当てて、

「了解した。すぐ行く」

と、言った。


「悪いが、ここの司令官に用事ができた。この話は、また後で……」

「分かったわ」

と、タリアが言うと、バルザス提督は片手でパチンと指を鳴らして消えた。



 バルザス提督は魔法で要塞司令官の執務室近くの通路に出ると、そこから歩き出した。

 魔法を使い出すと、楽なのでつい使いたくなるが、それは魔法に慣れるためでもあった。

 この要塞ではバルザス提督が魔法使いであることは、ある程度知られてしまった。

 先般ジル星団の惑星連盟の件で様々な魔法を使ったのだが、それは要塞の兵士まで知られている。

 魔法と魔法使いについては緘口令が敷かれているものの、バルザス提督が魔法使いであるということは、要塞ではすでに既定の事実だった。



 要塞司令官の執務室のインターホンを鳴らして、

「ベルンハルト・バルザスです」

と言うと、

「早かったね。どうぞ、入って」

と、ディポックが言った。



 司令官の執務室には、応接セットが置かれていて、そこに見慣れぬ人物をバルザスは見た。



「こちらは、自由商船ドルイド号の船長、コランド・アルガイだ。私の友人でもある。実は今回要塞に来るに当って、バルザス提督、あなたの御家族からの手紙を持ってきてくれたのだ」

と、ヤム・ディポック司令官は言った。


「私の家族というと?」

「確か、あなたには帝国に奥方とお子さんが居られるということだった。その奥方から手紙を人づてに預かってきたらしい」

と、ディポックは言った。


「そうですか、それは大変でしたでしょう」



 コランド・アルガイは不躾にジロジロとバルザス提督を見ていた。本人を見るのは初めてだったが、見たところ銀河帝国の大逆人の手配映像にそっくりだった。



 ディポック司令官は、

「これがその手紙なんだけれど……」

と、テーブルに出された小さなディスクを示した。



 バルザスは、そのディスクを見て、手を伸ばして取り上げた。

 その時一瞬目を閉じたようにディポックには思えた。



「どうもお手数をおかけしました。お礼を言わせていただきます。それで、他に何か用事でもあるのでしょうか?」

と、バルザスは言った。


「質問があるんだが、ディポック」

と、アルガイが言った。


「バルザス提督、構わないかな?」

と、ディポックは言った。


「どうぞ。」

「それでは、今あなたはどこに属しているのか知りたいんだが……」

と、アルガイが聞いた。


「私は、現在はリドス連邦王国の宇宙艦隊に属しています」

と、バルザスは言った。


「ええと、ダールマン元元帥はどうしているか、知っているかい?」

「元帥も私と同じくリドス連邦王国の宇宙艦隊に属しています」

と、バルザスは答えた

「そのリドス連邦王国というのは、ジル星団にあるのかな?」

「そうです」

「その国は、その君たちが銀河帝国の大逆人として追われていることを知っているのかな?」

「もちろん、知っています」

「しかし、それでよく雇ったもんだな」

「コランド、そこまでにしてくれないか」

と、ディポックは遮った。


「構いませんよ、司令官」

と、バルザスは全然気にする様子はなかった。


「まあ、帝国の方でもまだ彼らがどこにいるのかを掴んではいないようだがね」

と、アルガイは言った。


「それなら、どうしてここがわかったんだい?」

と、ディポックは聞いた。


「それはもちろん、蛇の道は蛇というやつさ。辺境を行く自由商船の連中の噂話に今回でてきたのでね。それでもしかしたらということで、頼まれたのさ」

「もし、いなかったらどうするつもりだったんだ?」

「いなかったら、いなかったで済んだ話さ」

と、アルガイは無責任に言った。


「それでは、用が済んだようですので、私はこれで下がってもよろしいですか?」

と、バルザスは言った。


「構わないよ。コランド、君も用は済んだだろう?」

「そうだな」




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