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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
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ヘイダール伯爵の帰還 8

3月22日一部修正しました。

 マグニアス大尉はまるで金縛りにあったように体が動かなかった。


 目の前にいる老人は損傷個所にクリスタルのようなものを矢継ぎ早に入れて行った。

 その動きに慎重さはなく、単に必要なものを置いているだけのようにも見えた。

 だが、よく見るとそのクリスタルのようなものは損傷個所に嵌められると他のものとくっついていた。



(えっ……)



 マグニアス大尉は驚きのあまり、目を大きくして心の中で声を出した。

 少なくとも手のひらサイズだったクリスタルのようなものは老人に損傷個所に嵌められると、元のサイズを失って嵌められたものは前のものとくっついていた。

 しかもくっついたものは透明だが弾力のある別の物質に変化していた。

 まるでもともと別の物質だったように見えた。

 その老人はそんなことになろうとお構いなくクリスタルのようなものを嵌めて行くのだ。



 くっつくと弾力のある別の物質に変化するなど、マグニアス大尉はそんなモノなど見たことも聞いたこともない。

 また、老人は加工するような装置を持っているわけではない。

 ただ単に損傷個所にはめ込んでいるだけなのだ。

 いつしか大尉は食い入るように老人の手の動きと変化するモノを見ていた。








「マグニアス大尉、どうかしたのか?」

と、不意に声がした。



 それはヘイダール要塞司令官のディポックの声だった。

 いつの間に来たのか気づかなかったのだ。

 それほど大尉は老人の手作業に見入っていたのだろう。



(し、司令官……)



 マグニアス大尉は体が金縛りにあったように動かなかったので振り返ることはできなかったし、声も出せなかった



「未知の技術が使われていると言っていたが、何かわかったのかい。だいぶ修復できてきたようだね」



 ディポック司令官は老人が素早い手さばきでクリスタルを嵌めて行くの見て言った。

 老人をマグニアス大尉の部下か何かと勘違いしているのだ。

 それで修復が進んでいると思ったらしい。



(い、いえ、それは違います。その老人は私の部下でも知り合いでもないのです)

と、マグニアス大尉は声なき声、心の中で言った。



 しかし、その声がディポック司令官に聞こえるはずはなかった。



「どうかしたのかい?」

と、何も言わない大尉に不思議そうにディポックは言った。



「司令官、もしかして……」

と、他の人物の声がした。



 マグニアス大尉は振り返れないのでわからなかったが、ディポック司令官の他にメイヤール提督とその副官ロング中佐が来ていたのだ。


 大尉の様子が何かおかしいのをロング中佐が気づいたのだった。

 自分のことに気づいてくれたことにふと気が緩んで、大尉はっその場所に倒れてしまった。



「ど、どうしたんだ。大尉、マグニアス大尉!」



 その騒ぎを聞きつけて、警備の兵士がやってきた。



「どうされました?」

「やや、あの者はどこから来たのです……」

と、警備の兵士が老人を見て驚いて言った。



「君たちは知らないのかい?」

と、ディポックは聞いた。


「我々の所をあの老人は通っていません」

「通っていない?それなら、どうやってここへ来たんだろう」



 警備兵の前を通らずにこの場所へ来ることはできない。



「おい、お前は誰だ!」

と、遅ればせながら警備の兵士が誰何したと同時に腰にある光線銃を手にした。



 老人は誰何に何も言わず、手も止めなかった。



「おい、お前は誰だ!」

と、再度警備兵が誰何した。



 すると、警備兵が手にしていた光線銃がその手を離れた。



「えっ、あれっ……まっ待て!」

と言うと、警備兵はその光線銃を追った。



 ディポックはその光景に緊張して周囲を見回した。

 こんなことができるのはあの暗黒星雲の種族か、それともジル星団のどこかの魔法使いしかないと思ったのだ。








「ごめんなさい司令官、私よ……」

と、言う声がしてディポックの前に以前司令室に現れた少女がいた。



「あの、あなたはリドス連邦王国の……」

「ええ、ヘイダール要塞の修復が難しいと聞いたので手伝おうとしたんだけど、その前に彼が来ていたの」

「彼?あの老人のことですか。彼は誰ですか」

「彼はこの要塞の設計者ヘイダール伯爵なの……」

「ヘイダール伯爵?」



 いや待て、要塞の設計者ヘイダール伯爵は確か百年前に暗殺か病死かと言われて亡くなったのではなかったのか、とディポック司令官は思った。

 少なくとも元新世紀共和国の記録にはそう記されていた。



 メイヤール提督とロング中佐は顔を見合わせて、

「そんなはずはない。ヘイダール伯爵はもう百年前に死んで伯爵家は絶えている」

と、ロング中佐が言った。



 ヘイダール要塞を設計したヘイダール伯爵のことは銀河帝国の軍人なら誰でも知っていることだった。

 その情報は銀河帝国でも新世紀共和国でも同じだった。



「銀河帝国では公式の記録にヘイダール伯爵は死んだとあることは知っているわ。でも、本当は死んではいなかったの……」

「なぜですか?」

と、ディポックは聞いた。


「だって、彼は他の銀河からきた異星人だったからよ。そもそも彼は百年やそこらの寿命ではないから。もちろん、当時はそんなこと誰も知らなかったけれど……」

「つまり……」

「そう、ヘイダール要塞を建設するのに必要な人を私たちが呼んだのよ」

「どうしてそんなことをしたんですか?それに私たちというのは誰のことですか……」

「ここに、新しい要塞が必要だと思ったからよ。それに呼んだのは、ダルシア人とガンダルフの魔法使いとリドスの女王、つまりお母さま……」



 それは初めて聞くことだった。

 むろん、その話はこの要塞を建設した銀河帝国の者達も知らなかったに違いない。



「それで新しい要塞が必要だということは、もしかして古いものが何かあったということでしょうか?」

「そうよ。ここには古くから『レギオンの城』と言う要塞があったの」



 ガンダルフの五大魔法使いの中でも『大賢者』と言われるレギオン、彼は銀河帝国の大逆人となったダールマン提督だとディポックは聞いていた。

 何か嫌な予感がした。



「アズミ姫、その話を詳しく聞きたいのですが……」

と、ディポック司令官は言った。


「そうね。もう話した方がいいかもしれないわ」

「できれば、場所を移してくれますか?」

「いいわよ」



 その瞬間、アズミ姫とディポック司令官、それにメイヤール提督とロング中佐は要塞の司令室に移動していた。

 突然現れた彼らにブレイス少佐を始めとする司令室の者達は驚いていたが、ディポックが手を振って黙らせた。



「おっと、倒れていたマグニアス大尉を忘れていた……」

「大丈夫。医務室の方へ移動しておいたわ」

「それはどうも」



 とすると、あそこには妙な老人いやヘイダール伯爵だけか、とディポックは思った。



「要塞の修復はできるだけ急いだほうがいいでしょう。彼に任せておけば大丈夫よ」

と、アズミ姫は言った。








 メイヤール提督とロング中佐は魔法で移動したのは初めてなので少々眩暈を覚えていた。

 もっともディポック司令官は魔法での移動を見るのは初めてではないが、自身が移動するのは初めてなので眩暈を感じていた。



「アズミ姫、できれば会議室のような場所の方がいいのだが……」

と、ディポックはしばらくしてから言った。


「そう。なら…」

「いや、場所はこちらで指定するので、ちょっと待って……」

と、慌ててディポックは言った。



 定例会議がナンヴァルの大使の都合で中止になっていたので、ちょうど良いのではとディポックは思った。



「ブレイス少佐、いつものメンバーを会議室に呼び出してくれないか……」

「わかりました」



「いつも使っている会議室はどこなの?」

「いや、自分の足で行くから、その魔法は使わないでくれると……」

と言う言葉の途中で、ディポックの姿が消えた。



 同時に定例会議に出るメンバーが司令室だけではなく、あちこちで姿を消していた。

 彼らは定例会議の行われる会議室に呼び出しよりも早く現れていた。

 魔法での移動は皆初めてなので驚いていたが、眩暈を感じて額に手を当てていた。



「司令官、いくら何でもこちらの了承をとってから移動させてください」

と、ダズ・アルグ提督が文句を言った。



「いや、その急いでいたので悪かった……」

と、ディポックは言って、アズミ姫に文句を言うことは控えた。



 ディポックは明確にはアズミ姫の力は知らないが、ヘイダール要塞を一瞬で移動させるだけの力を持っていることは知っていた。

 そんな相手をいたずらに怒らすことは控えるべきだと思ったのだ。



 いつも定例会議の開かれる会議室に現れたのは、いつものメンバーだった。

 初めは文句を言いたげだったが、アズミ姫がいるのを認めると特にダズ・アルグ以外の者は何も言わなかった。



「ともかく、座ってくれ」

と、ディポックは言った。


「司令官、我々がいてもいいのだろうか?」

と、控えめにメイヤール提督が言った。


「もちろん、構いません。何か気づいたことがありましたら、発言していただけると助かります」



 メイヤール提督とロング中佐は要塞の定例会議にいつも出ているわけではなかった。

 定例会議にから排除されているわけではないが、銀河帝国からの亡命者と言う立場上、あまり要塞の機密部分には関わらない方がいいと考えていたからだ。



「今回は定例会議が流れたこともあるので、この機会に話をすることにした……」

「というと、何か重要なことでもあったのでしょうか?」

と、ダズ・アルグ提督が聞いた。



「そうだ。懸案だった、要塞の損傷の修復の目途がたった」

「それは朗報ですね」

「コホン、現在損傷個所はヘイダール伯爵が修復作業を行っている、ということですねアズミ姫……」

と、ディポックが言うと、一斉に視線がアズミ姫に集まった。



「ええ。ヘイダール要塞の設計者の彼なら安心して任せられるから大丈夫でしょう」

「ということは、あのヘイダール伯爵はどこから来たのでしょうか」

と、フェリスグレイブの副官ダヤン・ガル中佐が聞いた。



 少なくともヘイダール伯爵がヘイダール要塞の設計者であることは元新世紀共和国の者であっても知らぬ者はない。

 ただ、ヘイダール伯爵が生きていたのは今から百年前のことだということも誰でも知っている事だった。



「ちょっと遠出していたけれど、ヘイダール要塞が損傷したと聞いて戻っていらしたの……」

「それで、どこから来られたのでしょうか?」

「さあ、遠出というからどこかの銀河に行っていたのだと思うわ」

「どこかの銀河?銀河帝国からではないのですか」

「銀河帝国ではないわ。元々彼は白銀銀河の出身ですもの……」



 司令室の者達はヘイダール要塞に新たに宇宙船が入港したと言うことは聞いてはいなかった。

 つまり、ヘイダール伯爵は宇宙船に乗らずに来たことになる。

 そんなおかしなことがあるかとダヤン・ガル中佐は思った。

 彼は司令室にいたわけではないので宇宙船に乗らずに宇宙を移動できる者がいるとは知らなかったのだ。



「白銀銀河というと、あのルッツ提督の言っていた銀河ですか?」

と、ディポック司令官が言った。


「ええ」

「何のために来たのでしょうか」

「もちろん、ヘイダール要塞の修復のためよ」

「どうしてヘイダール要塞に修復が必要だと知っていたのでしょうか」

「たぶん、彼が以前にこの要塞を建設するために設計した時、ヘイダール要塞が修復困難なほど損傷したら彼に知らせが行くように設定していたのだと思うわ」

「なるほど、それで伯爵がいるのですね」



 ディポックは納得したわけではないが、ある程度理解できた。

 実は他にもっと聞きたいことがあった。



「ところで、先ほどここには古くには別の要塞、いえ城があったと言われましたが、そのことについて話していただけませんか?」

と、ディポック司令官が促した。


「古くからあった城は『レギオンの城』と呼ばれていたわ。その名の通り、惑星ガンダルフの五大魔法使いの一人『大賢者レギオン』が作った城のことだけれど、今でもここにあるのよ」

「ここにあると言われましても、銀河帝国がここにヘイダール要塞を建設した時に、そのような城か要塞があったと言うことは聞いたことはないのですが……」



 元々そんな城のようなものがあれば、ここに要塞を建設しようなどと考えるはずがない。

 それなのに要塞を建設したということは、ここには何もなかったということではないかと他の者は思った。



「今でもあるのよ。ただ、目には見えないだけだわ」

「今でもある?しかし、そんなものがあれば要塞など作れませんし、そんなものがあるなどと言う事は聞いたこともないですが、……」

と、ダズ・アルグ提督が今度は言葉に気を付けて言った。


「そうね。普通の者には見えないから、仕方がないわ」

と、アズミ姫は言った。


「普通の者には見えないというのは、どういうことでしょうか?」

と、ダヤン・ガル中佐が聞いた。


「普通の魔法使いでも見えないのよ。見えるのは、銀の月のような魔法使いだわ。ダルシア人は大抵見ることができたけれど、ゼノン人やゼノンの魔術師でも見えない者が多いわ。ナンヴァル人では、そうね。見える者と見えない者は半々だわね……」

「それはどういう基準なのでしょうか?」

「いわゆる霊力を持つ者が見えることができると言われているの」

「霊力?魔法ではなくて、ですか?」

「魔力と霊力は違うものだから。詳しくはこちらに銀の月がいるから、彼に聞くといいわ」

「銀の月というと、バルザス提督のことですか?」

「そうよ。彼は魔法だけではなく、霊力もあると言われているから……」



 アズミ姫の話はディポックとその部下たちにはよくわからなかった。

 魔法でさえよくわからないというのに、霊力と言われても困惑するしかなかった。



「それで、あなたの仰るヘイダール伯爵は魔法使いなのでしょうか?」

と、ディポックは聞いてみた。


「彼は魔法使いとは言わないわね。白銀銀河のアンダイン種族はその銀河ではダルシア人のように最強と言われていたけれど……。どちらかと言うと暗黒星雲の種族に近いわね」

「暗黒星雲の種族……」



 すでに彼らにとって、暗黒星雲の種族と言うのは最悪の名だった。

 連中が何をやったのかは知られている。



「でも、彼らのような悪戯はしないわ。もっと、そうね大人なのよ。ダルシア人のように……」

と、アズミ姫は言った。



 大人という事がどういう意味なのか、悪戯しないと言われても暗黒星雲の種族と言う名が出たのではあまり良い気持ちはしなかった。



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