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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
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ヘイダール伯爵の帰還 7

 ジル星団のナンヴァル連邦の大使であり惑星連盟の議長であるマグ・デレン・シャは、ヘイダール要塞の司令室にいるヤム・ディポック司令官を再び訪れた。



「今日は、この間の話の答えをお聞きになりにおいでになったのですか?」

と、ディポックは聞いた。



 まだ返事は決まっていないので困ったとディポックは思った。



「いいえ、そのことではありません。ベルンハルト・バルザス提督についてお聞きしたいことがあって来たのです」

「バルザス提督のことですか?」

と、ディポックは聞き返した。


「銀河帝国にいた頃のバルザス提督のことを知りたいのです。どなたかご存知の方はおられませんでしょうか?」

と、マグ・デレン・シャは言った。


「そうですね、ちょっと待ってください」

と言って、ディポックは元銀河帝国のメイヤール提督を呼んだ。








 副官のイルーク・ロング中佐を伴ってメイヤール提督はやってきた。

 彼は、かなり年配の人物で、今でも旧帝国時代の軍服を着ていた。



「メイヤール提督、もう顔はご存知でしょうけれど、こちらは惑星連盟の議長であり、ナンヴァル連邦の大使マグ・デレン・シャ閣下です。実は、元銀河帝国のバルザス提督について知りたいと仰るので、あなたに来てもらったのです」

と、ディポックは紹介した。


「バルザス提督の何をお知りになりたいのでしょうか?」

と、メイヤール提督は聞いた。


「できれば、バルザス提督の履歴と御家族のことを知りたいのです」



 メイヤール提督は少し考えてから答えた。



「私は、バルザス提督とは、銀河帝国にいたときに個人的に知っていたわけではありません。彼が今回ここに来たというので、銀河帝国のデータに残っているバルザス提督の情報を見ただけなのですが、それでいいでしょうか?」

「それでかまいません」



 それを聞いてメイヤール提督はイルーク・ロング中佐に促した。



「ベルンハルト・バルザス提督は、前ジェグドラント伯爵の末子で、現ジェグドラント伯爵の腹違いの末の弟です。母親は平民の出身で、彼が10歳の時に亡くなったようです。その後、伯爵家に引き取られ、帝国歴563年に帝国軍士官学校を卒業、准尉として帝国艦隊に配属されました。その後、ダールマン元帥の大逆事件の時までに中将にまで昇進しました」

と、イルーク・ロング中佐が淡々と話した。


「結婚はされなかったのですか?」

「結婚はしていません。バルザス提督に婚約者がいたかどうかはわかりませんが、……確か、現在はジェグドラント伯爵家からは勘当されています」

「それは、大逆人の部下であるため、御家族に罪が及ぶことを防ぐためでしょうか?」

と、マグ・デレン・シャは聞いた。


「前王朝においては、それが当然のこととして行われました。大逆人の家族であれば、親子や兄弟に類が及びます。ですが、新王朝になってから、それは緩和されたと聞いておりますが、詳細はわかりません」

「となると、ダールマン元元帥の御家族については帝国で何をされたかわかりませんね」

「大逆人本人であるので、その可能性は大きいでしょう。ですが、今詳細についてはわかりません」

「あの、それが何か気になることでもあるのでしょうか?」

と、ディポックは聞いた。



 惑星連盟の議長が、なぜ銀河帝国の大逆人の家族に興味を示すのかわからなかったのだ。



「できればベルンハルト・バルザス提督だけでなく、ダールマン元元帥ともう一人の部下、ヨナン・スリューグ提督についても、その御家族のことを調査していただきたいのです」

と、マグ・デレン・シャは言った。


「それはかまいませんが、なぜですか?」

と、ディポックは尋ねた。


「それは、ガンダルフの古い魔法使いについての言い伝えを確かめたいのです」

「ガンダルフの魔法使い?あのバルザス提督が『銀の月』と呼ばれる魔法使いであるということと、何か関係があるのでしょうか?」

「私も、それほど詳しいわけではありません。ですが、我がナンヴァルの言い伝えによると、ガンダルフの魔法使いは、様々な星々に生まれてくるのですが、ある条件の下に生きている時に本国であるガンダルフに戻ってくることがあるのです」



 マグ・デレン・シャはナンヴァルの言い伝えを話し始めた。



「ガンダルフの魔法使いは、必ず何かの使命を帯びて生まれるといいます。それが果たされずに死を迎えた場合、彼らは死から蘇り、その使命を果たすのです。その時、生まれた土地の家族がいなくなった場合、その蘇りは完全となると言われています」

「それは、まさか、あの死なないということですか?」

と、ディポックは聞いた。


「いえ、一度死んでまた蘇るということです」

と、マグ・デレン・シャは当然のことのように言った。


「死んでから蘇る?つまり死体が蘇るようなことですか?」

「いえ、バルザス提督を見る限り、彼は死人とは思えません。ダールマン元元帥もスリューグ提督もそうです」

と、マグ・デレン・シャは断言した。



 マグ・デレン・シャは詳しくは知らなかったが、言い伝えでは死ぬ直前に蘇るようにあらかじめ生まれる前に魔法を掛けてあるのだと言う。



「ということは、マグ・デレン・シャ、あなたは他の二人とも以前にお会いになったことがあるのですね?」

「ええ。ハガロンで会った事があります。彼らは一応、元の名を名乗っていましたが、彼らはもうガンダルフの魔法使いでした」

「ガンダルフの魔法使い?バルザス提督は『銀の月』でしたね。あとの二人の名は何というかご存知ですか?」

と、ディポックは聞いた。


「おそらく、ダールマン元元帥は『大賢者レギオン』、スリューグ提督は『塔の長』という名だと思います」

「それは、あのガンダルフの五大魔法使いということですか?」

「そうです。大賢者レギオン、塔の長、そして銀の月はガンダルフの五大魔法使いの内の三人です」

「ちなみに後の二人は、どんな魔法使いなんですか?」

と、ディポックは興味を持って聞いてみた。


「ガンダルフの『守り手』と、『治癒者』の二人の魔女です」

と、マグ・デレンは言った。


「魔女?女性の魔法使いですか」

「そうです。『守り手』はエルレーンのエリン、火竜または炎の魔女とも呼ばれます。『治癒者』は『女賢者』でもあり、フェリシア・グリネルダ、緑の魔女と言われています。二人とも、他の三人の魔法使いの妹分とも言われることが多いのです」

「ガンダルフの五大魔法使いですか……。彼らはいつ頃から存在しているんです?」

「古くはナンヴァル連邦の始まりから古代書に出てきます。今からおよそ、数千万年前から、レギオンの名がナンヴァルでは知られていました。ナンヴァルがダルシアから分かれた際に、祖先が相談したのがガンダルフの大賢者レギオンだと記されています」

「数千万年前ですか……」



 本当だと言うには、あまりにも遠い年月だった。

 検証もするわけにはいかないだろう、とディポックは思った。



「彼らは、長い寿命を持つというのとは少し違います。長く生きた時もあるようですが、何百年あるいは何千年と生きるわけではなくて、たいていは普通のガンダルフの人々と同じ寿命を生きました。ですから長くても百年ほどです。ただ違うのは、彼らは死んで生まれ変わった時に、前世の記憶を持っていることだと言われています。そして、その記憶がはっきりとするのが、死ぬような目にあって蘇った時だと言われています」

「つまり、魔法使い以外は、そのようなことはないということですか?」

「正確には、ガンダルフの古い魔法使いにしかそれはありません。何か特別の魔法があるらしいのです。ガンダルフの魔法使いの秘儀だというので、もちろん、すべての魔法使いに当てはまるわけではありません」



 ディポックは、まるで御伽噺を聞いているように思えた。ガンダルフの魔法使いは死んでも蘇るという魔法が使えるというのだ。



「ともかく、ダールマン元元帥とその二人の部下については、帝国にいる家族についても調査してみましょう」

と、ディポックは約束した。


「ありがとうございます」

と、マグ・デレン・シャは言った。








 マグ・デレン・シャが去った後、ディポックはメイヤール提督に残ってもらった。

 メイヤール提督ならもしかして、ヘイダール要塞のことについて多少は知っているのではないかと思ったのだ。特に、あの損傷個所から出て来た未知の技術のことについて。



「他にお聞きになりたいことがあるとか?」

と、メイヤール提督が言った。


「実は、先日ゼノン帝国艦隊に攻撃されて損傷した要塞の個所に、今まで見たことのない技術が使われていたのです。それは元新世紀共和国では知られていないものでした。それで、提督なら何かご存知なのではないかと……」

「どんなものですかな?」

「たくさんのクリスタルが内壁の数層の硬化鋼鉄の下から出てきたのです。我々では何に使われていたのかわからないものでした……」

「クリスタル?」



 メイヤール提督は傍にいた副官のイルーク・ロング中佐を見た。

 二人とも何だかわからないと言う表情だった。



「私もそのようなものは存じませんが……」

「そうだ。これからその場所へ行って見てもらうと言うのはどうでしょう」

と、ディポックが思いついて言った。


「なるほど、一応見てみれば何かわかるかもしれませんな……」



 そこでディポック司令官は、メイヤール提督と彼の副官を伴ってマグニアス大尉の居る損傷修復の個所へ行くことにした。









 タリア・トンブンは、要塞の展望室で外の宇宙空間を眺めていた。

 とは言っても、周囲を流体金属で覆われた要塞では直接外を見る窓はない。

 展望室では、巨大なスクリーンが壁中に取り付けられていて、要塞を覆う流体金属に浮かぶセンサーから外の映像を転送させて、見た目にはまるで展望室に見える仕様にしているということだ。


 その展望室で、派手な色のダルシア帝国の艦隊が一望できた。

 要塞の周りに浮かんでいるその艦隊は、ジル星団のどの艦隊とも違う形状と色彩をしている。

 一番異なっているのは、ダルシアの艦が機械ではなく、有機体と機械の混合物であることだ。

 タリアは詳しくは知らないが、リドス連邦王国のバルザス提督からその成り立ちを多少聞いていた。

 彼の言うところによると、ダルシア艦はタレス連邦の宇宙船とはまるで違うと言うのだ。


 もちろん、まだ乗ったことはないので、それがどんなことなのかはわからない。

 惑星連盟の審判によりダルシア帝国の継承者となったタリア・トンブンは、惑星連盟の議長であるマグ・デレン・シャやリドス連邦王国のバルザス提督からダルシア本国に行くようにと言われていた。


 遠いダルシア帝国本国に行くとなると、ダルシアの艦に乗る必要がある。

 ダルシア本国にはあいにくどんな宇宙船も行かない。

 定期航路に含まれていないのだ。

 そのことを考えるとタリアは、憂鬱になるのだった。


 ダルシアの地はタリアにとっては見知らぬ国。

 故郷であるタレス連邦とはかなり異なった惑星だと聞いている。

 ダルシアはジル星団でも古い恒星系であり、その惑星はかなり年を取っていた。

 その大気は普通の生物では呼吸困難で、赤く水のない大地に覆われていると言われていた。

 そんなところに住まなければならないのかと思うと、ため息が出る。

 ダルシア本国には本物のダルシア人は既になく、『ダルシアン』という中央脳がダルシア本国とダルシアがかつて支配していた宇宙空間を統括しているのだ。









 ふと気がつくと、リドス連邦王国から来たカール・ルッツ提督の副官ナル・クルム少佐が、タリアを見て立っていた。



 それに気がつくと、

「あなたは、ええと……」

と、タリアは名前が分からずに途中で言葉をとぎらせた。


「ごめんなさい、あなたの名前がわからないの。でも、あなたはリドス連邦王国の宇宙艦隊にいるのよね。要塞の司令室であなたを見かけたわ。私のことは知っているでしょう?」

「知っている。君は、タレス連邦からきたタリア・トンブンだろう。私はリドス連邦王国艦隊のナル・クルム少佐だ」

「あのクルム少佐、あなたはダルシア帝国に行ったことはないかしら?」

「いや、私はまだ行ったことはない」

「そう」

「何か気になることでもあるのだろうか?」

「ちょっとね。ダルシアはもう人が誰も住んでいないと聴いているので」

「なるほど。だが、ダルシア帝国の後継者としてはダルシア本国に行かなければならないということか」

と、クルム少佐は今気づいたように言った。


「そう。私、本当はダルシア帝国の後継者になんて、成りたくなかった。でも、仕方がないわ。ゼノン帝国の連中になんて、渡せない。もちろん、タレス連邦にだってね」

と、タリアは素直な心情を口にした。



 言ってしまってから、タリアは相手を見た。

 どうして、簡単に自分の思いを口にしてしまったのか、不思議だった。

 彼は、リドス連邦王国の人間なのだ。だが、他のリドスの人々とはどこか違う感じがした。



「それでは、リドス連邦王国については、どう思っているのだろうか?」

と、クルム少佐は聞いた。


「リドス連邦王国については、あなたの方が詳しいでしょう?」

「それはどうかな?私は、よそ者だから」

「リドス連邦王国の人ではないの?」

と、驚いてタリアは言った。


「今、一時的に世話になっているということだ」

「故郷の星に帰れなくなったのかしら?」

「そうだ。今は、まだ帰ることはできない」

「いずれは帰れるということ?」

「そうだ」

「それはよかったわね」

と言って、タリアはため息をついた。


「あなたの祖国というのは、タレス連邦なのだろう?別に滅びたわけではないのだから、帰ろうと思えば帰れるのではないか?何も悩むことはないように思えるが……」

「昔はそうだと思ったときもある。でも、今はそんなこととても思えない。今回のことだって、勝手過ぎるわ。やっていいことと、悪いことがある。そう思わない?」

と、タリアは急に怒りを感じて言った。


「だが、タレス連邦は国だ。個人の判断と一国の判断は違うのではないか?」

「それなら、国のためなら、一人や二人の人間のことなど、犠牲にしてもいいというの?そんなこと、自分がそういう目に会わないと思っている人が考えることだわ。もし、自分自身、いえ、家族にその災いが及んだら、それでもかまわないと考える?」

「それは、そうだが……」

「あの銀河帝国だってそうよ。冤罪で大逆人にされたレギオンや銀の月のこと、聞いているでしょう?本当に自分の仲間だとしたら、もっときちんと調べるべきだったのよ。そのせいで、彼らだけじゃない、彼らの家族だった人たちも、ひどい目にあったと聞いたわ」

と、タリアはまるで自分のことのように怒って言った。


「それは、……」



 クルム少佐はタリアの言葉に黙り込んだ。



「べっ、別にあなたを責めているんじゃないわ。あなたには関係ないもの。銀河帝国が悪いのよ。あそこは皇帝陛下がいるのよね。その皇帝陛下がヘボだから、そういうことになるのよ。問題の事件は皇帝暗殺事件だというじゃない。自分が暗殺されるって勝手に想像したんでしょう?碌に調べもせずに。まったく迷惑よね。タレス連邦も同じだわ。あの大統領がバカだからこんなことになるのよ」

と、タリアはさらに怒りを感じて言った。


「そ、そうだな……」



 クルム少佐は歯切れ悪く応じた。










 銀の月が借りている将官用の宿舎には、アリュセア・ジーンとその子供達がまだいた。

 将官用の宿舎はかなり広く、部屋数も多いのでアリュセアと子供達がいても困らなかった。

 それにアリュセアの借りていた部屋の扉が壊されてしまい、居住用にはできなくなったのでとりあえず、安全を兼ねて、バルザス提督と部下達のいるこの宿舎にいることにしたのだった。


 タレス連邦から来た能力者たちのなかに、まだスパイがいる可能性が考えられるからでもある。

 ドルフ中佐やルッツ提督は、アリュセアとその子供達について、特に気にしていないようだった。



「あら?ルッツ提督、あなたの副官のクルム少佐はどこにいるの?」

と、アリュセアはクルム少佐がいないことに気が付いて言った。


「そういえば、要塞の中を見に行ったのかな?」

「あの、彼について聞いてもいいかしら?」

「彼のこと?」

「あなたの副官であるクルム少佐のことよ」

と、アリュセアが念を押した。


「何か気になることでもあるのかな?」

「何だか、外見が本当の彼とは違うような気がして……」

「本当の彼?どういうことなのかしら」

「何だか、重なって見えるの。彼の今の姿と、金髪で背が高くて、それにくるぶしまでの肩からケープをかけた軍服姿の人物と……」

「それは、誰のことかしら?」



 彼女もそんな人物に心当たりはなかった。

 しかし、クルム少佐が金髪で背が高いというのは本当のことである。

 今は魔法で姿を変えているのだ。ただし、ケープと軍服については心当たりがなかった。



「誰かはわからないわ。でも、雰囲気からしてかなり地位も高そうだから」

「そ、そうなの?」

「知っているのでしょう?それとも、正体をバラしてはまずいのかな?」

「そんなことはないわ」

「ふふん。女言葉になっているわよ」

「え?」



 アリュセアは、ルッツが女性の姿を重ね合わせているのも見えているのだ。

 その女性は、金髪で青い目の人で、リドス連邦王国の軍服とは違うものを着ていた。

 しかし、アリュセアの目から見てもなかなかの美人である。



「確かにあなたは、よその銀河から来たのね。それに女性だわ、それもかなりの美人だわ」

「そ、そうなの本当は私、女なの。でも美人というのは言い過ぎよ」

「で、あなたの副官は誰?」

と、再びアリュセアは尋ねた。


「それは、……」

と、ルッツが言いよどんだ。



 知らないと言ってもすぐに嘘だとわかってしまうだろう。

 しかし、本当のことを言ったら、本人に危険を招くような気がするのだ。



「ごめんなさい。言えないわ」

と、ルッツは正直に言った。



「ということは、かなり重要な地位にある人、ということかしら?」

「さあ、そこまでは私は知らないの。ただ、ここでは名を知られてはまずいことになると聞いているだけ」



 アリュセアはそこまで言われると、返ってクルム少佐に興味が湧いてきた。




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