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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
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ヘイダール伯爵の帰還 6

 リドス連邦王国のベルンハルト・バルザス提督は、惑星連盟の議長でありナンヴァル連邦の大使でもあるマグ・デレン・シャに呼ばれて、彼女の部屋を訪れていた。



「よくきてくれました。バルザス提督。いえ、銀の月、今回は、リドス連邦王国が惑星連盟及びジル星団の平和と秩序を守るために協力してくれたことを感謝します」

と、マグ・デレン・シャは始めに言った。


「われわれにとっても、それは重要なことですから……」

と、バルザスは言った。



 リドス連邦王国は、普段あまり惑星連盟に協力的ではなかった。

 目立つことを避けるのがリドスのスタンスなのだ、と他の惑星連盟の諸国には思われていた。

 特に艦隊を派遣することなどについては、ひどく慎重になるのが常であった。

 それが今回は珍しく積極的に動いたので、マグ・デレン・シャは不思議に思っていた。



「時に、ディポック司令官に惑星連盟をヘイダール要塞に移したいと私は要請しました」

「もう、ですか?」



 少し驚いたようにバルザス提督は言った。

 マグ・デレン・シャがそのような要請をするということを予期していたようだった。



「早過ぎるとは思いません。今を逃すと、私自身がこちらに来るような機会があるとは思えませんから」

「ですが、ディポック司令官はどうでしたか?」

「そうですね。あなたよりも驚いていたことは確かです。でも拒絶はされませんでした。私も、考えてくれるようにお願いしました……」

「そうですか」

と、バルザスは何か他に考えがあるように、言葉を濁した。


「ダルシア帝国は昔日の力はもうありません。惑星連盟の押さえとなる国が必要です。リドス連邦王国は、その点についてどう考えているのでしょう?」



 リドス連邦王国はジル星団に移住して二百年ほどになるが、惑星連盟の一員として存在しているもののダルシア帝国ほどの重責を担っては居ない。

 ダルシア帝国のコア大使が亡くなった今、その席にリドス連邦王国が着いてほしいというのがマグ・デレン・シャの望みだった。



「ですが、継承者であるタリア・トンブンが充分成長すればコア大使のような重責を担えるのではないでしょうか?」

と、バルザスは言った。



 最後のダルシア人であったコア大使もそれを望んでいるのではないかと、バルザスは思っていた。



「ですがそれには、時間が掛かると思います。それまでの間、不安定な組織にならざるを得ないのではないでしょうか?」

と、マグ・デレン・シャは言った。



 実際、タリア・トンブンが成長するまで待てないというのが、マグ・デレン・シャの考えだった。

 それに、状況は日々変わりつつある。

 今現在はそれでいいとしても、明日はどうなるかはわからないのだ。

 これは、コア大使の亡くなった時の遺言でもある。

 惑星連盟はリドス連邦王国の力を必要としているのだ。


 バルザス提督――銀の月は、惑星連盟にあまり関わりたくないのが本国の意向だと言うことを知っていた。

 リドス連邦王国の勢力範囲は、通常ジル星団で知られているよりもずっと広範囲なのだ。

 故に惑星連盟にそれほど力を入れることをしたくないと考えている。

 ナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャもそれをうすうす知っていた。



「ゼノン帝国などは、リドス連邦が惑星連盟に影響力を増やしたいと考えていると思っているようです。今回銀河帝国といち早く外交関係を樹立することに動いたことにそれが現れていると思われます」

と、マグ・デレン・シャは言った。



 ゼノン帝国はすでに大使を銀河帝国に派遣している。

 惑星連盟の他の諸国はそれに追随する形で大使を派遣することを決定したようだった。

 リドス連邦王国も表向き、その大勢に習っているように見えた。

 ヘイダール要塞はそうしたことについてはほとんど情報を得ていない。



「そのようですね。しかし、ナンヴァル連邦はともかく、それから古い種族は別として、惑星連盟においてリドス連邦王国はまだまだ力が足りないと思われているのではないでしょうか」

と、バルザスは言った。



 それが現実だった。

 タレス連邦など、新興勢力はリドス連邦王国については、何も知らないに等しい。



「ですが、このヘイダール要塞については、あなた方も別の考えをお持ちでしょう。ここを銀河帝国、いえそれでなくとも、ゼノン帝国、また元新世紀共和国の勢力であっても、彼らに占拠されることを望んではいないのではないのですか?」

と、マグ・デレン・シャは指摘した。



 このヘイダール要塞はふたご銀河のほぼ中央に位置している。

 だが、ロル星団からみると辺境にある。

 これまでは単なる辺境だと思われてきた。

 それが銀河帝国と惑星連盟諸国との間にある唯一の軍事要塞となった。

 それだけなら、単に地政学的に言う重要地点ということに過ぎないが、実はそれ以外の意味がこの要塞にはあるようだった。

 マグ・デレン・シャも今回この要塞に来て初めてそれを知ったのだ。



「ヘイダール要塞のヤム・ディポック司令官のことです。今回初めてお会いいたしましたが、確かにあなた方が執心するだけの方のようですね……」

と、意味深長にマグ・デレン・シャは言った。


「それは、何のことです?」

と、バルザス提督はとぼけて言った。


「我々ナンヴァル人にもある程度のことはわかります。あなた方ほどではないにしても……」

と、マグ・デレン・シャは言った。


 ディポック司令官に最初にあったときのあの眩しさを、マグ・デレン・シャはよく覚えていた。

 ナンヴァル連邦の司祭階級として生まれ育った彼女には、それが意味することをよく知っているのだ。



「確かに、この要塞を我々は何と呼んでいるか知っていますか?」

と、バルザスは唐突にマグ・デレン・シャに訊ねた。


「聞いたことはあります。確か、アライ・ディナリ・シンシャンとか。どこの言葉でしょうか?もしかしてガンダルフに伝わる伝説のアルフ族の言葉でしょうか?でも意味するところはわかります。三女神の神殿ということですね」

「さあ、それはどうでしょうか?ただ、貴方も含めればそうなりますね」

と、バルザスは不可思議なことを言った。


「すでに、ここには別にもう一人、存在しているのですか?」

と、マグ・デレン・シャは驚いて言った。



 リドス連邦王国というのは、ナンヴァル人のマグ・デレン・シャにとっても理解しにくい国だった。

 リドス連邦王国に行ったことはないのだが、伝説の魔法使いの国として名高い惑星ガンダルフを首都星とする星間国家だという事は知っていた。

 魔法だけではなく、超常的な能力は他のジル星団の諸国よりも彼らにとって身近なものらしかった。

 死者、つまり霊などの知識についてもかなり詳しいらしい。


 元々、惑星ガンダルフにあった太古の文明はリドスと似たような文明を持っていたと言われている。

 そうした言い伝えは、ジル星団の古い文明を持った種族にとってはおなじみのことだった。

 いやかつてのガンダルフの古代文明よりも、もっとその超常的な部分を強く持っているように思う者もいる。


 だが、タレス連邦のような若い文明はリドス連邦王国を理解するのは難しいだろう。

 あのゼノン帝国すらナンヴァル連邦ほどには理解しきれていない。

 それが分かる故に、リドス連邦王国は惑星連盟にあまり関わろうとしないのかもしれない、とマグ・デレン・シャは思った。



「確かに、あなた方は惑星連盟の多くの国々にとっても、理解し難い文明です。ですが、あなた方は惑星連盟、いえこのふたご銀河を守るために呼んだとダルシア帝国の亡きコア大使が話していました。今がそれを実行するときではないでしょうか?」



 リドス連邦王国の科学技術は惑星連盟のどの国々よりも高度であり、魔法についてもかなりの知識があるらしいということは、惑星連盟では暗黙の内に知られている事実でもある。

 もし、リドスが惑星連盟の主要な構成国となれば、様々な面においてその力を発揮することを求めることが可能になる。



「ですが、我々がそのような地位に就くことを望まない国も多いでしょう」

と、バルザスは言った。


「それは当然です。惑星連盟で名誉ある地位を得ることは、どの国にとっても名誉であり、誇らしいことであるからです。ですが、真に力を発揮するには、国の大きさや科学文明の高さだけではなく、その志も重要になります。リドス連邦王国の宇宙艦隊司令部に掲げられている言葉を私が知らないとお思いですか?」

と、マグ・デレン・シャは言った。



 ジル星団の古い文明に共通することは、目に見えないものの存在を信じているということだった。

 それは創造神の存在に関わることであり、また目に見えない価値である愛や正義などと言ったものを重要視していることだった。



「そう、ベルンハルト・バルザスという元銀河帝国軍人なら笑って済ませることかもしれませんが、惑星ガンダルフの古い魔法使いである銀の月だったら、それを信じるでしょう。『愛と正義』という言葉をね」



 ガンダルフの魔法使いにとって、目に見えないものの価値は確かに存在するものだった。

 大宇宙の創造神であっても、魔法使いにとっては当然存在すべきものだった。

 なぜなら、魔法使いは目に見えない力を駆使し、目に見えないものを物質化することを目的としているからだ。

 ガンダルフの正当な魔法使いはこの世が創造神によって作られたことを信じているのだ。

 そして、作られたということは目的があるのであり、それこそがこの世で最も重要なことであると考えられていた。

 しかもその目的は一つではなく、複数あると考えられていた。

 『愛』と『正義』はそのいくつかの目的の中にあるものと考えられていた。



「古い文明の国々にとって『神』は、確かに存在するものとして扱われています。ですが、新しく興った国々は、まだそこまでの探求に至っていないというのが私の考えです」

と、マグ・デレン・シャは言った。そして、ため息をついて、

「あの、ゼノン帝国においてもいまだ創造神の存在を完全には信じておりません。それがかの国の発達を阻害しているとさえ言えましょう」

と、言葉を継いだ。



 ゼノン帝国は遥かな昔ダルシア帝国から分かれた文明だったが、その途中でいつしか創造神を信じることに懐疑の念を抱くようになったのだ。

 それだけではなく、ジル星団の他の種族よりも自分たちは優れていると感じ、自分たちを神近いものと思って仕舞ったのだ。



「リドス連邦王国が、惑星連盟において枢要な地位を占めるということは、『愛と正義』がしっかりと根付くということを意味すると思うのです。惑星連盟に必要なものは、それではありませんか?」

と、マグ・デレン・シャは説いた。


 バルザスは考えながら、

「つまり、元新世紀共和国を含む、あの銀河帝国を惑星連盟に加盟させる事態に備えるということでしょうか?」

と言った。


「それもあることは否定しません。惑星連盟がこのふたご銀河のすべての政府を擁することになれば、将来予測される他銀河からの脅威を退けるのに大いに力となるでしょう」

と、マグ・デレン・シャは予言するように言った。


「ですが、我々のような、銀河帝国で大逆人と断じられた者達がいるリドス連邦王国がそのような地位にあれば、銀河帝国の加盟は難しいのではありませんか?」



 大逆人、ダールマン元帝国元帥が二人の部下とともにリドス連邦王国に存在することは、いずれ銀河帝国に伝わることだろう。

 そうなったら、銀河帝国がどのような反応をするか明らかだった。



「銀河帝国にリドス連邦王国の法を理解しろと言う方が無理でしょう。それでなくとも、ジル星団内でもそのことでトラブルが起きたことがあるのですから」

と、バルザスは昔のことをよく知る古老のように言った。



 リドス連邦王国の法は、他の国のものとは少し違っていた。

 それが、トラブルの元になったことがあったのだ。



「では、銀河帝国が惑星連盟に加盟し、さらにその矛先をリドス連邦王国に向けたらどうするつもりでしょう?」

と、マグ・デレン・シャは聞いた。


「もちろん、我々は平和を愛する種族ですので、できるだけ戦闘行為は避けるでしょう。ですが、どうしてもということなら、できるだけ彼らの戦力を殺がぬように努力します」

と、バルザスはぬけぬけと答えた。



 それは、リドス連邦王国が、たとえ銀河帝国と惑星連盟の両勢力と対立するようになっても、悠々と対処することが可能だという自信を表しているように思えた。



「それは、まだリドス連邦王国が惑星連盟で枢要な地位を占める段階にはないということでしょうか?」

「そうお考えになられても、かまいません」

と、バルザスは言った。









 マグ・デレン・シャはリドス連邦王国のバルザス提督が帰った後、

「私には、リドス連邦王国の考えがわかりません。彼らは何を考えているのでしょう」

と、珍しく側近の者に零したのだった。


「バルザス提督は銀河帝国の出身です。彼ではリドス連邦王国政府の意向はわからないのではありませんか?」

と、側近の一人が言った。


「でも、彼は銀の月なのです。ガンダルフに属する古い魔法使いの一人なのです」

と、マグ・デレン・シャは言った。



 古い伝説によれば、他国に生まれたガンダルフの魔法使いが戻ってきたとき、かつての記憶を取り戻し、魔法が使えるならば、それはすでにガンダルフに属するものだというのだ。

 今のバルザス提督がまさにそれに当たるとマグ・デレン・シャは考えていた。









 ゼノン帝国艦隊とタレス連邦艦隊に受けたヘイダール要塞の損傷を修復するために元新世紀共和国の技術者たちは困惑していた。

 とりあえず外側から見る限り、流体金属が覆っているので損傷がどの程度のダメージなのかはわからない。

 流体金属の下にはよく宇宙船の外皮に使われている硬化した鋼鉄が数層に亘って使われていた。

 ここまでは元新世紀共和国でもお馴染みなのもので特殊な技術ではない。

 それに流体金属が大抵の損傷を庇うので要塞の外皮を少し傷つけるぐらいがこれまでの損傷だった。


 実は今回はその数層に亘る外皮を突き抜けて、大きな穴が開いていた。

 その穴の部分からこれまで見たことも聞いたこともないような技術が使われている部分が発見されたのだ。


 損傷個所からでてきたのは大量のクリスタルでできたものだった。

 一体それが何のために使われているのか皆目見当がつかない。

 これまでそのようなものは銀河帝国製のものから出てきたことはなかったのだ。


 元新世紀共和国の技術主任カルス・マグニアス大尉の傍らには、損傷個所から出て来たクリスタルを山のように積んであった。

 中には壊れているものもあったので、それは一応分けて置いてある。

 損傷個所から出て来たクリスタルを一つ摘まみ上げて、彼はため息を付いた。



「一体これは何のために使われていたんだ?」



 マグニアス大尉にはそのクリスタルが何のために使われていたのかさっぱりわからなかった。

 これは元新世紀共和国にはなかったもので、もちろんこれまで銀河帝国のものにも見た事は無い。


 その時、ふらりと一人の老人がマグニアス大尉のいる所へやって来た。

 最初そのことに気づかなかった大尉は誰何することも忘れていた。


 その老人の来ている服はマグニアス大尉の来ている元新世紀共和国の軍の作業服とは違う、民間人が普段に着るようなものだった。

 白い髭を蓄えた白髪の老人はしっかりとした足取りでやって来て、山のように床に置いてあるクリスタルのなかから一つを摘まんだ。

 摘まんだクリスタルをじっくりと見て、やおら片手を壊れているクリスタルの上に翳した。



「さて、では修復作業に入るとするか……」

と、老人は誰にともなく口にすると、クリスタルをいくつかとり、損傷個所に並べ始めた。


「お、おい、何をしているんだ。お前は誰だ?」

と、マグニアス大尉は老人に気づいて驚いて言った。



 見たことのない老人がこれまで何をしたらいいのかわからなかったものを、まるで考えもせずに嵌めて行くのを大尉は見ていた。


 この損傷個所を修復するために大尉は他の者が誰にも入らないように、入り口を警備の兵士に見張らせていた。

 それなのにどうしたことか、その兵士はその老人を止めなかったらしい。



「何をしているだと?直しに来たんじゃよ。お前さんにはできんのだろう?」

「……!」



 老人は目にも留まらぬ速さで、クリスタルを損傷個所にあてはめていた。



「爺さん、あんたこれが何かわかっているのか?」

「わかっているとも」

「もしかして、爺さん、あんたは銀河帝国のものなのか?」

「そうでもあり、そうでもない……」



 見る間にクリスタルは損傷個所にはまって行った。

 そう言えば壊れているクリスタルがあったとマグニアス大尉が思ってそちらを見ると、壊れていたクリスタルがなくなっていた。

 いや正確にはなくなっていたのではなく、壊れたクリスタルが壊れていないクリスタルになっていたのだ。



「これは一体どうなっているんだ!」

と、マグニアス大尉は驚いて手早くクリスタルを嵌める老人を見た。



 この老人はどこから来たのか、そして誰なのか。大尉にはわからなかった。

 大尉は警備の兵士を呼ぶのも忘れて、損傷個所を修復する老人の手を見つめていた。

 大尉のできなかったことをしている老人の動きを止めようともしなかった。


 けれども、しばらくしてこれはまずいのではないかと大尉は思った。

 本当に損傷個所を正しく修復できているならいいが、万が一適当にクリスタルを嵌めているとしたならとんでもないことになるのではないかと思ったのだ。

 老人を止めようと言葉を掛けようとすると、大尉は声が出ないし、体も動かない。

 大尉はただ冷や汗をかいて老人の手を見ている事しかできないことに気が付いたのだ。



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