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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
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ヘイダール伯爵の帰還 5

 ヘイダール要塞にやっと平和な日々が戻って来た。

 惑星連盟の人々は、それぞれの政府の艦でジル星団の宇宙都市ハガロンに戻って行った。

 今ヘイダール要塞にいるのは、ダルシアの艦隊とナンヴァル連邦とリドス連邦王国の艦隊だった。


 但し、ダルシアの艦隊は要塞の周囲に居座り、まるで要塞の守護についたように動かなかった。

 リドス連邦王国の艦隊は、異次元の空間にいるので、傍目には見えなかった。

 要塞側もその存在をバルザス提督から聞いただけで、正確な位置はつかめなかった。


 ナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャは、休養したいとして、滞在を伸ばしていた。

 そのためナンヴァル連邦の艦隊がダルシアの艦隊と同じく、要塞の周囲に待機した状態だった。








 ヘイダール要塞司令部は、月に一度の幹部による定例会議を開いた。

 会議の冒頭、要塞参謀のグリンが言った。



「司令官、あのダルシアの艦隊をどうするおつもりでしょうか?」

「困ったことにダルシアの艦隊は、そう簡単には動かせそうもない」

と、ディポックはため息をついて言った。


「ダルシアの艦隊がこちらを攻撃することはないとわかっていますが、もし銀河帝国や元新世紀共和国の連中がやって来たら、何と言えばいいのでしょう」

「そうだね。もし来るなら考えて見るとするよ。それまでには何か言い考えが浮かぶといいのだけれどね……」

と、ディポックは言った。


「ナンヴァル連邦の艦隊は惑星連盟の議長が宇宙都市ハガロンに帰るときには、動くと思いますが。あと、目にも見えず、レーダーにも反応しないという、どこにいるのかよくわからないリドス連邦王国の艦隊は、本当に我々を攻撃しないのでしょうか?」

と、グリンが疑問を口にした。



「リドス連邦王国というのは、もし攻撃をするとしたら、銀の月、いやバルザス提督が魔法を使って要塞を無力化するのは簡単だと思う。だから、わざわざ艦隊を使って攻撃することはないだろう」

「魔法ですか……」

と、ウル・フェリスグレイブ要塞防御指揮官が言った。



 魔法を使われるとすると、それに対抗する手段は要塞側にはない。

 これは、大問題だった。



「ジル星団でも、魔法を使うところと使わないところがあるらしいですね」

と、ダズ・アルグ提督が言った。


「リドス連邦王国というのは、ナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャによると、ジル星団でも魔法発祥の地であり、多くの魔法使いと様々な呪文のあるところらしい」

と、ディポックは言った。


「でも、あのリドスの第五王女というお姫様は、呪文は使っていないようでしたが……」

と、リーリアン・ブレイス少佐が言った。


「リドス連邦王国の王族は呪文を使わずに、強力な力を振るうことが可能だということだ。あの暗黒星雲の種族と同じようにね。聞いたところによると、元々リドスの王族はどこか他の銀河から来たと言われている」

「だいたい、あの暗黒星雲の種族というのは、何なんですか?」

と、ダズ・アルグが聞いた。


「マグ・デレン・シャによると、このあたりの銀河の出身ではないらしい。暗黒星雲と呼ばれる銀河の出身だと言われているということだ」



 そう言われてもふたご銀河から出たことのない彼らではあまり重要なことには思えなかった。

 それよりもジル星団の様々な種族に驚く事の方が多かったのだ。



「あの、一つ疑問があるのですが、これまで我々は銀河帝国と戦ってきましたが、ジル星団の人たちや暗黒星雲の種族という連中を見たことも聞いたこともありませんでした。どうしてですか?」

と、ダヤン・ガル中佐が聞いた。


「私も正確なところはわからない。だがそれは、戦争をしているような連中とは付き合えないといことかもしれないね。だから、戦争が終った途端、銀河帝国にゼノン帝国が接触しているのは聞いただろう」



 とはいえこれからジル星団の連中と付き合っていくというのは、ディポックとってもかなり困難が予想された。

 新世紀共和国は銀河帝国との戦争に敗れ、現在は銀河帝国の新領土として総督によって統治されている。

 しかし、どちらも文明を同じくする者達だった。

 もし、ジル星団の連中と揉め事が起きたとき、銀河帝国はあの魔法を使ったやり方に対処できるのだろうか?

 もしかしたらリドスの王女は、銀河帝国の艦隊など、たった一本の指をパチンと鳴らすだけで全滅させることができるかもしれないのだ。

 そう思うとディポックでも得たいのしれぬ不安が膨らんでくる。

 銀河帝国も元新世紀共和国の連中も、今はまだそのようなことを想像することもできないだろう。



「まあ、確かに、ジル星団ではかなり魔法も現実として戦力になるらしいことはわかった。ただ、ゼノン帝国以外の国は、それほど好戦的でも領土欲が旺盛でもないようだ」

と、ディポックは言った。


「それに、魔法があるなんて、いくらなんでも説明したって、こちらの連中は信じませんよ」

と、ダズ・アルグが言った。


「そうだろうね。じかに見て、体験しても、なかなか信じることは難しいかもしれない」

と、ディポックは再びため息をついた。



 会議中に司令室から連絡が入った。



「惑星連盟の議長である、ナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャから司令官に話があるそうです。今日は会議中だと話しましたら、どうしても話があると言って、会議が終った後でいいということでしたが、どうしましょうか?」

と、通信員が報告した。


「わかった」

と、ディポックは答えて、

「聞こえたかい?惑星連盟の議長が私に話があるそうだ。今日の会議はこれで終わりにする」

と、会議室の一同に言って、会議を終わりにした。








 要塞司令官室に戻って、ディポックは惑星連盟の議長であり、ナンヴァル連邦の宇宙都市ハガロンの大使であるマグ・デレン・シャが来るのを待った。

 マグ・デレン・シャはナンヴァル連邦の艦隊司令官タ・ドルーン・シャを伴ってやってきた。



「会議中に申し訳ありませんでした」

と、マグ・デレンは会議の中断を謝って言った。


「いえ、定例の会議でしたし、それほど重要な案件はありませんでしたので、それで、どんなお話でしょうか?」

と、ディポックは言った。


「実は、前々から考えていたことでもあります。宇宙都市ハガロンは、惑星連盟の居場所としてはかなり手狭になってしまいました。それに、これからのことを考えると、もっと広くて、それに銀河帝国のことを考えると、もっとロル星団に近い場所にあったほうがよいのではと考えているのです」

「確かに、こちらの戦争も終わりましたし、銀河帝国も大分落ち着いてきたことと思います。彼らがいずれ惑星連盟に接触してくることは充分に考えられることです」

「それで、惑星連盟を宇宙都市ハガロンから、こちらヘイダール要塞に移したいと想うのです。その許可を司令官に得たいと想うのですけれど、どうでしょうか?」

「え?何ですって!」



 突然の申し出に、ディポックは驚いた。

 惑星連盟をヘイダール要塞に置くなど、考えたことは無かった。

 いったいどうすれば、そんなことを考え付くのだろう、とディポックは思った。



「し、しかし……。あの、他の政府の代表は、どう考えているのでしょう?」

「そのことについては、皆私の意見を尊重すると言っていただけました」

「ですが、あの……」

と、ディポックは言葉に詰まった。


「あとは、貴方に許可をいただければ、惑星連盟をここへ移すのは簡単です。こちらは、人づてに聞いたところによると、別に新世紀共和国の臨時政府が置かれているわけではありませんのね」

「もちろんここは新世紀共和国から出てきた者たちが集まっているところです。ですが、特に政府の樹立などは考えてはいません」



 それどころではなかったというのが、本当のところだ。

 だが、要塞に何らかの政治組織を作ることはいずれ考えなければならないことだった。



「それなら、惑星連盟を置いたとしても、誰に憚ることもありませんわ」

「しかし、そのここは軍事要塞ですし……」

「広さは充分すぎるくらいです。宇宙都市ハガロンに比べると、その十倍でしょうか?こちらは軍事要塞といいますが、宇宙都市であるハガロンも一応艦隊で守っています。惑星連盟そのものは他の政府から独立した存在でなくてはなりませんからどうしても軍備はいるのです。こちらは、艦隊もありますでしょう?」

「ですが、ジル星団の艦隊とは、かなり差があります」



 それはゼノンとタレスの艦隊が攻撃して来た時に、ディポックが感じたことだった。

 主に艦隊同士の戦闘になった場合、ヘイダール要塞の今の艦隊ではかなり見劣りがする。



「そんなことはありません。他の政府に働きかけて、それぞれ守備する艦隊を出させることも可能です。たとえば、リドス連邦王国やダルシア帝国もこちらに艦隊を出すことを渋るとは思いません」



 ジル星団最強の艦隊といわれるダルシアの艦隊がヘイダール要塞に駐留することになるとすると、戦力としてはかなりのものになるはずだった。

 ディポックも、この前の艦隊戦でも、ゼノン帝国の艦隊がダルシアの艦隊に完封負けしているのを実際に見ている。まして対銀河帝国艦隊という事を考えると、それはかなりの戦力になるに違いない。



「すぐに結論を出してほしいとは申しません。このことを考えてほしいのです」

と、マグ・デレン・シャは言って、帰って行った。



 だからといって、ディポックにとってはそう簡単に結論を出せることではなかった。








 ディポックは自室に戻ると、居間に当る部屋の長椅子に寝そべった。

 疲れた、というのがディポックの正直な感想である。ここのところ急に色々なことが起きた所為だった。



「今、お茶をお持ちします」

と、ディポックが帰ってきたのに気づいたキルフ・マクガリアン中尉が言った。



 これまでは銀河帝国と新世紀共和国のことを悩んでいればよかった。

 惑星連盟がこのヘイダール要塞に居を構えるとしたら、ジル星団内の様々なもめごとまで悩まなければならなくなる。

 デメリットを考えると数限りないが、さりとてメリットもある。



 テーブルの上にお茶を置いて、そのまま下がろうとするキルフを、

「夕食の支度かい?」

と、ディポックが聞いた。


「いえ、夕食はもう出来ています。もう食べますか?」

と、キルフが言った。


「いや、今はまだいい。ちょっといいかな……」



 ディポックの頭の中は、惑星連盟の議長であり、ナンヴァル連邦の大使であるマグ・デレン・シャの言った話で一杯だった。

 何しろ、考えたこともない内容なので、どこから考えていいのか迷っていた。



「何か、困った問題でもありましたか?」

と、恐る恐るキルフは聞いた。



 聞いていいことなのかわからないが、ディポックが話し始めたことなので聞いてみたのだ。



「うーん、あの惑星連盟というのは、どう思う?」

と、ディポックは言った。


「惑星連盟?あのジル星団のですか?」

「そうだ」

「僕にはよくわかりませんけれど、面白そうな人たちですね」



 キルフは惑星連盟の政府代表達とは会わなかったが、その側近の部下達、例えば各国政府代表たちが要塞滞在中に求める様々な雑事をこなす人たちとは会っていた。

 ヘイダール要塞には惑星連盟の各国政府代表たちが求めるような食材、日常品があまりにも不足しているので、彼らの悩みは深かった。

 たいていは乗艦してきた艦まで取りにいくことになるのだが、それを運んだりするのが結構大変だったのだ。



「でも、それぞれ一生懸命にやっているのがわかって、少しは気持ちがわかったように思いました」



 各国政府代表もそれぞれ性格が違っていてユニークだった。

 見かけが人間とかけ離れた種族には近寄りがたいものがあったが、大抵は人間型に近かった。

 その中でもゼノン帝国の連中は横柄だったし、ナンヴァル連邦の人たちは礼儀正しかった。



「彼らがもし、もしだよ、ヘイダール要塞に来たとしたら、上手くやって行けるだろうか?」

「え?惑星連盟がヘイダール要塞に来るんですか?」

「いや、もしもの話をしているんだ。どうだろうか、上手くやっていけると思うかい?」

「そうですね。でも、やってみなければわかりません。ただ、その言葉の問題はどうなるのでしょうか?」

「言葉の問題?」



 このところ、当たり前のようにゼノン人やタレス人、それにナンヴァル人と話をしていたので、ディポックは彼らが同じ言語で話していないことを失念していた。



「大抵は僕たちと同じように話すことができましたが、できない場合もあったので……。みんながみんなこちらの言葉を理解しているわけではないようなので……」

「いや、そんな事は無いだろう。確かタリアに聞いたのだが、ジル星団の者達は皆言語フィールド発生装置と言うものを持っていて、それが翻訳してくれると聞いたのだが……」

「それは、本当ですか?という事はみんながその装置を持っているわけではないということでしょうか」

「うーん、聞いて見なければわからないが、こちらの言葉を理解しない者たちもいたと言うことはどうなのだろうか。そうした者達は装置を身に着けていなかったということなのか……」



 やはり、再度ナンヴァル人のマグ・デレン・シャやバルザス提督と話をする必要があるとディポックは思った。



「もっともその話は急いでいるわけではないんだ。それに、要塞の修理についても色々問題が出てきているからすぐには返事をするつもりはない」

「要塞の修理はかなり日数がかかりそうですか?」

「これまでにないほど損傷したから仕方がないが、それだけではない別の問題が出てきているんだ」



 最大の問題は元新世紀共和国では使われていない技術が使われているという点だった。それが今回初めてわかったことだった。

 あのゼノン帝国艦隊の強烈な攻撃でいつもは流体金属で覆われた内壁の内側まで損傷した。そこにこれまでロル星団では見たことのない技術が使われていたのだ。

 これについては、銀河帝国にいたメイヤール提督やバルザス提督に聞いてもわかるかどうか疑問だった。彼らは軍人で有って技術者ではないからだ。

 とは言うものの、銀河帝国と元新世紀共和国の技術がそれほど乖離していたのかどうか、ディポックにはわからなかった。

 この問題はまだ司令室の中でも一部の者しか知らないことである。この問題が広く知られたら大騒ぎになりそうなので黙っているのだ。


 こんな時に突然銀河帝国の艦隊がやってきたら、非常に困ったことになる。

 だから可及的速やかに損傷個所の修理をしなければならないのだ。


 今回の修理が無事終わり、惑星連盟がヘイダール要塞に来るとすれば、例え銀河帝国の艦隊が来たとしても、もう要塞を取り戻すことはできなくなる。

 これは確かだ。

 ヘイダール要塞は軍事的にも政治的にも、銀河帝国やジル星団とは別個の独立した存在になるだろう。

 だが、要塞の今に関しては、惑星連盟の議長の意向を重視しなくてはならなくなるだろう、とディポックは思った。


 第一、惑星連盟の議長はどうやって選出されるのだろうか。それさえもまだわからないのだ。

 今現在ヘイダール要塞は、銀河帝国ではないが、元新世紀共和国とも違った独立した勢力のつもりだった。

 けれども武力はあるもののまだ経済的な基盤がないという弱点があるのだった。

 もし、惑星連盟が要塞に来るとすると、その経済的な部分が解消される可能性があった。


 なぜなら、ジル星団との交易が始まるからである。

 惑星連盟が必要とするものを、正確には惑星連盟の各国代表が必要とするものをそれぞれの国から輸入しなければならなくなるからだ。

 経済活動が始まれば、一つの独立した勢力から政治勢力に格上げされる。

 そうなると、元新世紀共和国と完全に離れることになるし、銀河帝国とは一つの独立した政治勢力として対峙できるのだ。

 ヤム・ディポックは自分がそれを本当に望んでいるのかどうか、今一度考える必要があった。




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