ヘイダール伯爵の帰還 4
ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊から降伏の申し出があったのは、降伏勧告後まもなくだった。
「彼らはこのまま帰ってもらうことにするけれど、それでいいかな?」
と、ディポックはバルザスに聞いた。
「かまわぬ。あのような者どもなど、近寄らせてはならぬ。早く帰らせるがよい。何をするかわらかぬでな」
と、アリュセアが替わって言った。
その言葉にバルザスも黙って頷いた。
ディポックはゼノン帝国とタレス連邦の艦隊にそれぞれ母国に戻るように命じた。
そして、堂々としたアリュセアに興味を持って、
「あ、あの、あなたさまは、どなたさまでいらっしゃいますか?」
と、ディポックは遠慮がちに聞いた。
「妾か?」
と、アリュセアは言った。
「はい、さようでございます」
と、ディポックは付き合って言った。
「妾は、ダルシア帝国皇帝、ライアガルプスじゃ」
と、アリュセアは重々しく言った。
二度ほど瞬きをして、少し間を置いた後で、
「ええと、ダルシア帝国のお方でしたか」
と、ディポックは丁寧に言った。
ダルシア帝国の皇帝と言うのを聞いて、ディポックは困ってしまった。
ダルシア帝国のことを何も知らないからだ。
しかも、タレス人のアリュセアがいつもとは違う言葉遣いで言うものだから、半信半疑で聞いているしかなかった。
もっともこの後、つまりゼノン帝国艦隊やタレス連邦艦隊が去った後にバルザス提督に事情を詳しく聞こうと考えていた。
「そうじゃ。ゼノンは信用できぬ輩である。やつらは遥かな昔、ダルシア帝国から出て行った者たちじゃ」
「どういう理由で出て行ったのでしょうか?」
と、興味を持ってディポックは聞いた。
「我らはかつて、文明の低い種族を食用にしていたことがあった。だが、それを止めることにしたのじゃ。食料は他の物を用いても健康に害はない。故に、そうすることに決めたのじゃ。だが、どうしても止められぬという者達がいた。他の種族を食用にするということに様々な理由を付けてな。だが、そのようなことはあまり意味のないことじゃ。それがわからぬのだ」
と、アリュセアは憤懣やるかたないという表情で言った。
「それは、いつ頃のことでしょうか?」
と、ディポックは聞いた。
「そうじゃな、やつらが出て行ったのは、ガンダルフにアルフ族が来るもっと前のこと、数千万年になるか……」
と、遠い目をしてアリュセアは言った。
「では、あのあなた様はいつ頃のお方でしょうか?」
と、ディポックは改めて聞いた。
「ダルシア人の寿命は本来三千年ほどだが、もっと長生きをするものもいる。わらわはかなり長生きであった」
「あの、ライアガルプス陛下はもうこの世にお出でではないので?」
と、ダズ・アルグが話しに割り込んで来て言った。
ほかの要塞幹部の者たちは、事の成り行きが理解できずに、話を聞いていることしかできなかった。
「当たり前じゃ。わ妾はダルシア人として一番新しいのでは七千年ほど前にダルシアに出たことがある。その次にガンダルフに生まれてサンシゼラ・ローアンと言った。そして、今回はタレス連邦に生まれ、アリュセア・ジーンという名である」
と、当然のようにアリュセアは言った。
「それは生まれ変わっているということなのでしょうか?」
と、ディポックは聞いた。
「そうじゃ。そなたはそのような理も知らぬのか?」
と、眉毛を片方上げて、アリュセアは不思議そうに言った。
「いえ、我々の文明では、お伽話としては聞いたことがありますが……」
「それは残念よの。これは真実である」
「つまり、アリュセアはあなた様の生まれ変わり、ダルシア人の生まれ変わりであるからダルシアの艦隊を動かせたということですか?」
「少々違うが、そういうことである。つまりアリュセアというよりは、わらわが動かしたのだ」
と、アリュセアではなく、ライアガルプスが言った。
「アリュセアでは動かせないということでしょうか?」
「いや、練習すればできるようになるであろう。そこのタリアも同じである」
「申し訳ありませんが、ダルシアの艦隊を動かすのに必要なことは、何なのでしょうか?」
と、ディポックは聞いた。
そこが肝心な所だった。
いつまでもダルシア帝国皇帝を呼び出していては双方ともに困ることになる。
「それは、ダルシア人の精神波長に合わせることができることじゃ。ダルシアの艦隊はダルシア人の精神に同調するようにできている。ゼノンの連中の言っていた肉体遺伝子に合わせているのではない」
「そうしますと、それぞれの種族には、それぞれの種族の精神の波長というものが違うのでしょうか?」
「当然である。ゼノンはゼノン。ガンダルフはガンダルフという精神の波長を持っているのだ。だからこそ、ゼノンの連中はダルシア人と波長が合わなくなったので、国を出て行ったということでもある」
「種族によって、そうしたものが違うのですね」
「そうじゃ。そなたは新世紀共和国とかいう国のものであるらしいが、妾の見るところまあ銀河帝国とそれほど違ってはおらぬな」
「それは、どういうことなのでしょうか?」
それは聞き捨てならなかった。
新世紀共和国と銀河帝国は、そもそも政治体制や考え方の違いで袂を分かったものである。
そのために、この百五十年もの間、戦争をしてきたのだ。
「つまり、新世紀共和国と銀河帝国とはそれほどの違いはない、ということじゃ。妾から見ればな」
「それは精神波長においてでしょうか?」
「それもある。だが第一、そなたたちが分かれて、まだそれほど経ってはおるまい」
「しかし、二百年は経っていますが……」
と、ディポックは言った。
彼にとっては、二百年という時間はかなり長いという気がするのだ。
「二百年など、大した時間ではない。ゼノンとダルシアの間はもう数千万年という時が違っている。そして時だけではなく、その間に多くの違いが生じてしまったのだ」
と言って、アリュセアは大きなため息をついた。
「ゼノンはダルシアから分かれて、彼らは進化したと思っているが、実は退化してしまったのじゃ。そのことにも気がつかぬ、愚か者よ」
「ライアガルプス、そろそろアリュセアに戻ってくださるよう、お願いいたします」
と、バルザスは言った。
「そうか、わかった。銀の月よ、次に妾が出るときには、ハローン酒を出して欲しいものじゃ」
という言葉を残して、アリュセアは目を閉じた。
すると、ライアガルプスはアリュセアに変わった。
「ひどいわ。私に何の許可も得ずに、こんなことをするなんて!」
と、アリュセアは戻るなり怒って言った。
「悪かった。でも、要塞が危険だったんだ。ダルシアの艦隊をすぐにでも動かせる人物が必要だったんだ」
と、バルザスは言い訳した。
ディポックはアリュセアを見ていた。
先程までひどく威厳のある人物だったので、言葉遣いや態度の差が明確に出ていた。
「ええとアリュセア、あなたには申し訳ありませんでした。バルザス提督の言う通り、要塞が危険だったのは本当なんです。でも、あなた自身は大丈夫ですか?」
と、思わずディポックは聞いた。
「大丈夫も何も、私、全部見ていたんです。いえ、司令官が謝ることはありません。みんなディラントが悪いんですもの」
と、アリュセアは言った。
「ディラント?」
「銀の月のことです。昔は、いえ私がサンシゼラのときはディラントだった。そういう名だったんです。それでつい……」
「そのサンシゼラは、いつ頃の人だったんです?」
「ええと、今から二千年前のガンダルフのロムアン王国の人でした」
要塞司令室の者たちはゼノンとタレスの艦隊の攻撃を撃退し、ホッとしたところで妙な話に吸い込まれていた。
バルザス提督とこのタレス連邦の二人の女性は、どうも変な関係だった。
「一つ聞いてもいいかな?」
と、ディポックはバルザスに聞いた。
「何でしょう」
「あのライアガルプス陛下というのは、あの話からすると、七千年前くらいのダルシア人らしいけれど、どうしてアリュセアに出て来たのかな?」
「それは、そのアリュセアやタリアと縁があるからです」
と、バルザスは言った。
「どんな縁なのかな?」
「ダルシア人にとっては珍しいことなのですが、コア大使はタリアとはアプシンクスのときに親子だったんですけれど、ライアガルプスはそのコア大使の母親、つまりタリアの祖母にあたるんです」
「タリアは孫ということか?」
と、ダズ・アルグは驚いて言った。
「正確にいうと、アプシンクスが孫にあたるんです」
と、バルザスは言った。
「それで、君はその二人とどんな関係なんだ?」
と、今度はダズ・アルグが積極的に聞いた。
「別に、わたしはダルシアに生まれたことはありません。ただ、ライアガルプスは私の知り合いだったということです」
と、バルザスは言った。
「七千年前の人と?」
俄かには信じがたいことだった。
だが、不思議でもなんでもないというようにバルザスは続けた。
「当時は、ガンダルフに宇宙船はありませんでした。でも、ガンダルフとダルシアとは行き来がありました」
「魔法で行き来ができたということなのか?」
と、ディポックは言った。
「まあ、そうです。ガンダルフには魔法で宇宙を渡ることができる魔法使いが、その頃はまだある程度いたということです」
魔法で宇宙を渡るなどという話は、ディポックを始め要塞司令室の者たちには御伽噺にしか聞こえない。
それが新世紀共和国と銀河帝国のあるロル星団とジル星団との違いである。
「で、今でも魔法で宇宙を渡るような魔法使いが、ガンダルフにはいるのかい?」
と、ダズ・アルグは聞いてみた。
「さあ、どうでしょう。私はまだ、ガンダルフに帰ってきたばかりですから」
と、バルザスは曖昧に言った。
まるで生粋のガンダルフ人のような言い方だった。
それが、何とも妙に思えて、
「帰ってきた?君は、銀河帝国の軍人だったのだろう?」
と、ダズ・アルグは聞いた。
「そうですね、銀河帝国の軍人だったことは確かです……。ただ今はあなたも知っているように、銀の月というガンダルフの魔法使いです」
そこが変なところなのだ。
バルザスは確かに銀河帝国の人間だった。
だが、今は違うという。
それが思想信条の違いではなく、職業の違いでもなく、単に亡命したから属している国が変わったというものでもないことが、ダズ・アルグにはわかってきた。
「ガンダルフの魔法使いは、みんな君のようなことができるのかな?」
と、ダズ・アルグは聞いた。
「そんなことはありません。私は銀の月、古い魔法使いだから、まあ今のガンダルフの魔法使いよりは、魔法に詳しいというだけです」
と、バルザスは言った。
「あら、謙遜しなくてもいいでしょう?銀の月といったら、ガンダルフの五大魔法使いの一人だわ。銀の月は魔法を使えるだけではないのよ。そうでしょう?」
と、これまで黙って聞いていたタリアが言った。
「そんなことはない……」
と、バルザスは言葉少なく言った。
「だって、銀の月という名前の由来は、霊を見る事ができることから来ているのでしょう?コア大使がそう言っていたわ」
と、タリアは言った。
「霊?幽霊が見えるというのかい?」
「幽霊ではなくて、霊よ。魔法を使うことと、霊を見る能力というのは、少し違うとコア大使から聞いたことがあるわ」
と、タリアは言った。
「魔法使いが皆、霊を見たりすることはできないということか」
と、フェリスグレイブが言った。
「そう。なぜなのかまではわからないけれど……」
タリアの属しているタレス連邦は、あまり魔法には詳しくない。
魔法については、ほんの僅か聞いた事があると言う程度の認識だった。
バルザス提督の宿舎では、要塞が静かになったのでカール・ルッツやアリュセアの子供達がホッとしていた。
「やっと終ったようね」
と、カールが言った。
「しかし、どうしてアリュセアが呼ばれたのか?」
と、カールの副官ナル・クルム少佐が言った。
「さあ?どうしてかしら」
カールには見当もつかなかった。
このふたご銀河で起きることは、彼女の生まれ故郷の銀河とは違うのだ。
ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊を退けたヘイダール要塞では、ジル星団の惑星連盟の各国政府へ超空間通信で、それぞれの政府代表を迎えにくるよう連絡をすることになった。
これは惑星連盟の議長であるナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャの要請であった。
ヘイダール要塞に降伏したゼノンとタレスの両艦隊は、すでに本国に帰還していた。
そうさせたのは、要塞司令官のディポックである。
もちろん、タレス連邦の艦隊には要塞にいたタレスの提督や大使なども移乗させた上でのことである。
いつまでも要塞に置いていては碌なことがないとバルザスが助言した所為でもある。
ヘイダール要塞の周辺には、惑星連盟の各国政府の艦隊が政府代表をジル星団の宇宙都市ハガロンに戻すために派遣されて来ていた。
各国政府の艦隊をぶつからないように配置するために、要塞の通信員は大忙しだった。
そして、ダルシア帝国の艦隊は、まだヘイダール要塞にいた。
「で、あのダルシアの艦隊はどうするんですか?」
と、ダズ・アルグが言った。
「そうだね。ただタリア・トンブンはまだ自分でダルシアの艦隊を動かせないというし、アリュセア・ジーンはあの時出たライアガルプスというダルシア人でなければ動かせないというんだ」
と、ディポック司令官が困ったように言った。
要塞の艦隊でもないのに、いつまでもいるというのは困ったものだとディポックも思っていた。
一番困るのは、今はいないにしてもロル星団の方から船が来た時だ。
銀河帝国の艦や元新世紀共和国の艦でも、あのダルシアの艦隊を見られるのは困るのだ。
まるでヘイダール要塞とダルシア帝国が同盟したように見えるではないか。
同盟ならいいが、要塞がダルシア帝国に属したと見られるのも困りものである。
それでなくても、惑星連盟の各国政府代表を迎える艦隊はあのダルシアの艦隊に気が付いて、あわてて大丈夫かと要塞に打診をしてくるくらいなのだ。
このままでは、遅かれ早かれ噂がロル星団の方へも伝わっていくだろうと思われた。
タリア・トンブンはタレス連邦から来た仲間を、このまま要塞に滞在させるか、それともリドス連邦王国に難民として連れて行くか悩んでいた。
しかし、それよりも差し迫った事として、ダルシアの艦隊をどうするかという問題があった。
寝台の上に横になっていると、部屋の通信機が鳴った。
「はい。タリア・トンブンです」
と、タリアは言った。
「わたしは、惑星連盟の議長、ナンヴァル連邦のマグ・デレンです。あなたにお話があります」
「マグ・デレン・シャ。あなたが私に話しがあるのですか?」
「そうです。これからこちらに来ていただけますか?」
と、マグ・デレン・シャは言った。
タリアはすぐに行くと返事をして、部屋を出た。
部屋の中で一人悩んでいても、仕方がないからだ。
外に出て、主通路に出ると、要塞の兵士や市民だけでなく、惑星連盟の様々な人々が行き交っているのがわかった。
皆、宇宙都市ハガロンに戻ろうとしているのだった。
だが、タリアにとっては、もう宇宙都市ハガロンは遠くの世界になってしまった。
もうあそこに行くことはないだろう。
なぜならもうコア大使はいないからだ。
タリアはコア大使の不在を寂しく思っている自分に気が付いた。
心が不安定なのは、コアがいないということにも原因があるのだ。
ハガロンにおいては、雇用主というだけではなく、コア大使がタリアの保証人でもあった。
あの頃は、コア大使のことがよくわからなくて、時々都市の店をうろついたものだ。
まさかコアがいなくなるとは、思いもしなかった。
ダルシア人が長命だということはジル星団では有名だったから、タリアが寿命を迎えても、コアはその先ずっと長生きすると思っていた。
通路の向こうから見知った顔が来た。
ヘイダール要塞に来て知り合った、ダズ・アルグだった。
まだ年が若いというのに、艦隊の提督だというのはタリアにとっては驚きだった。
軍人というものは、ハガロンでも良く見た。
その中で、一艦隊の提督となると、大概決まって年を取っていたものだ。
その種族のなかでも年長の人物が多いのはタリアでもわかった。
だが、ここヘイダール要塞では、軍人、それも高位の軍人に若い者が多い。
要塞司令官にして30代そこそこに見えるのだ。
口の悪い他の者によると、こちらのロル星団では長い間戦争を続けた結果、その間に年寄りたちは皆亡くなってしまって、若い者しかいなくなったからなのだという。
「あれ、どこに行くんだい?」
と、ダズ・アルグは言った。
それに、とタリアは思った。
目の前の人物は、将帥の地位に居るにしては、口が軽く、あまり上品とはいえない。
「あなたに関係ないでしょう?」
と、タリアは言った。
「それは、つれないね。ゼノンとタレスの艦隊を凌いだ仲じゃないか……」
「人に誤解されるようなことは言わないでちょうだい。それに、私は何もしなかったし、できなかった」
「そんなことはないさ。君がこの要塞にいてくれるだけでいいのさ」
「それは、どういうこと?」
「君がいれば、あのダルシアの艦隊もここにいるということさ。何も動かなくてもいいんだ。そこに存在しているだけで、いい」
その言い方にタリアは、腹が立った。
相手が悪気で言ったのではないと分かっていても、腹が立った。
「そう。言うことはそれだけなの?」
「え?そうだけれど……」
と、ダズ・アルグはタリアの不機嫌そうな言い方に驚いて、言葉が詰まってしまった。
「わたし、忙しいから……」
と、タリアは言うと、ずんずん歩いてダズ・アルグから離れていった。
「わからないなあ、何か悪いこと言ったのかな……」
と、ダズ・アルグはタリアの離れていく後ろ姿を見ながら嘆息した。
惑星連盟の議長である、ナンヴァル連邦の大使マグ・デレン・シャは、タリアが来るとすぐに部屋に招じ入れた。
「よく来てくれました」
と、マグ・デレン・シャは言った。
「あの、どんな要件でしょうか?」
と、タリアは聞いた。
「実は、あなたは、ダルシア帝国の継承者として一度はダルシア本国に行ってほしいのです
タリアは他の人からも似たようなことを言われたことを思い出した。
あれは、リドス連邦王国のバルザス提督だった。
「どうしてでしょう?」
「惑星連盟の審判であなたはダルシア帝国の継承者であることを決定しました。ジル星団ではそのことが公表され、今ではどの政府においても、ダルシア帝国の継承者はタリア・トンブンであることは知っています。ですが、あなたが継承者であることは、ずっと以前にコア大使が決定し、本国に知らせていたことでもあります。ですから、ダルシアの艦隊がこの要塞まで来たのです。あの艦隊は、あなたをダルシア本国に連れて行くためのものでもあります」
「あの艦隊は私を迎えに来たというのですか?」
「そうです」
「でも、私はタレス連邦から連れてきた仲間のことも考えなければなりません」
「そうですね。それは、私も知っています。でも、ダルシアではあなたが戻るのを待っているのです」
「私、どうしてもダルシアを自分の国だとは思えないんです。後継者と言われても、私にはピンと来ません」
「そうでしょうね。でも、それでもダルシアはあなたの国なのです。ダルシアに戻るということを考えてみてほしいのです」
「マグ・デレン・シャ、あなたがそれを望むのは、ダルシアの地を他の連中に渡さないためですか?」
「それもあります。ダルシアの技術と知識を特定の政府に渡すことは、ジル星団の平和と秩序を乱すことになりかねません」
「それは、私にもわかります。でも、それだけでは、単に現状維持だけということでしょう?」
「あなたは、何がしたいのですか?」
「私は、もっと別の事をしたいのです。何かわからないけれど、何か私にできること、ただダルシアに存在するというだけでは、意味がないような気がします」
「それを考えるのであれば、なお更、あなたはダルシアに戻るべきです」
「向こうに行けば、何かがあるということですか?」
「さあ、それは私にはわかりません。でも、何かヒントが得られるかもしれません」
タリアは、もっと確かな答えがほしいと思った。
しかし、マグ・デレン・シャといえど、ダルシアに行ったことがあるはずはなく、タリアの疑問に明確な答えを出すことはできないことはわかっていた。
戦闘が終了した後、ヘイダール要塞の外壁を守っている流体金属は元通りになったかに見えた。
だが、今回のゼノン帝国艦隊の攻撃によりかなり量の流体金属が消失し、これまでにないほど深い内壁の中にまで破壊が及んでいた。
ヘイダール要塞司令室では攻撃によってダメージを受けた個所の修復についての報告を受けた。
「そうか、内壁の中までダメージが及んでいるのか。それでそれを修復するのにどのくらいかかる?」
と、ディポック司令官は聞いた。
「それが、我々がこれまで知らなかった銀河帝国の技術が使われていて、このままでは完全に修復するのは難しいかと……」
「銀河帝国が我々の知らない技術を使っているだと?」
と、驚いてグリンが聞いた。
「そうなのです。これまではこれほどの損傷になることはなかったので、わからなかったのです。今回の損傷個所には我々の知らない技術が使われているのです」
「どんなものなのだ、その技術というのは?」
「それが、我々の側では見たことのないもので、何というか透明のクリスタルがたくさん使われているのです」
「透明のクリスタル?」
銀河帝国と元新世紀共和国は同じ文化文明だとこれまで考えてきたのだ。
それがどうも違うというのだ。
「我々も他の、例えば銀河帝国の艦などでこのようなものは見たことがありませんでした。初めて見るものなのですが……」
傷ついた銀河帝国の艦を修理して使うことは、新世紀共和国側にはこれまで何度もあった。
そんな時でも銀河帝国と新世紀共和国との技術の違いを感じた事は無かった。
それでなくとも、二百年前に新世紀共和国が別れたとは言え、それから異なった文化文明が育ったわけではない。すでに宇宙文明に到達していたし、別の文明に接触したわけではない。
だから、異なった文明が育つ謂れもない。
だが、このままでは要塞の損傷個所の修復が難しいという事を聞いて、ディポック司令官は困ったことになったとため息を付いた。




