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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
43/72

ダルシア帝国の継承者 43

 いつも「ふたご銀河の物語(改訂版)」を読んでくださって、ありがとうございます。

「ダルシア帝国の継承者」は43で終了します。

 次回からは「ヘイダール伯爵の帰還」とし、令和4年1月7日より投稿いたします。



〇令和3年12月13日

『今の惑星連盟は・・・・五百年前に・・・・』を『今の惑星連盟は・・・・一万年前に・・・・』に訂正しました。


 ヘイダール要塞が突然消えたようになった時、ゼノン帝国艦隊は動かずにその場に待機していた。

 それはタレス連邦艦隊も同じだった。

 そもそも何が起きたのかわからなかった。

 ゼノン帝国艦隊の司令長官ドールズ・ゴウン元帥は、もしかしたら暗黒星雲の種族のあの男がヘイダール要塞を移動させたのではと思ったが、この事態について肝心のあの男は何も言っては来なかったのだ。



 そして、ゼノン帝国艦隊司令長官ドールズ・ゴウン元帥はそのヘイダール要塞が再び突然現れたと報告を受けた。



「いったい何が起きたのでしょうか。あの暗黒星雲の種族の男は、こちらの意を汲むようなことを言っていましたが、何かしたのでしょうか?」

と、ヴィレンゲル少将が言った。



 ファールーレン・ディラは、嫌な予感が別の意味で当たったと感じていた。

 あの男は失敗したのだ。

 もし、あの男が何かに成功したなら、ゼノン帝国艦隊司令長官の前に現れて、その戦果を滔々と自慢したに違いない。

 しかるにあのヘイダール要塞は何の破壊の痕跡もなく、依然と同じ姿を見せているのだ。

 だが、ダルシア人さえ敵わなかった暗黒星雲の種族を退けたのは、何者なのだろうか?

 あの惑星連盟の各国政府の艦隊を移動させた魔法使いなのだろうか?


 しかしディラは、魔法使いが暗黒星雲の種族を退けたという話は聞いたことがなかった。

 かの種族の力は魔法使いの力を超えているというのがゼノン帝国だけでなく、ジル星団の魔法使いや魔術師たちの間での一致した見解である。

 たとえ、ガンダルフの五大魔法使いがいたとしても同じことだ。

 だとしたら、どうやってあの男を退けたのだろうか。

 もしかしたら、かの種族のいつもの気紛れが出たのかもしれない。

 それしか、考えられないではないか、とディラは思った。



「ダルシア帝国の艦隊はどうなっている?」

と、元帥は尋ねた。



 ダルシア帝国の艦隊はヘイダール要塞と同じく姿を消していたのだ。

 もっともそれはダルシア帝国の艦隊がヘイダール要塞について行ったと言う訳ではなく、暗黒星雲の種族の男がヘイダール要塞と共に移動させていたからだった。



「要塞の周囲に展開していますが、動きはありません」

と、担当の仕官は言った。


「で、タレス連邦の艦隊は?」

「こちらも前と同じ位置にいます」



 ダルシア帝国の艦隊がどう動くのかわからないのが、ゼノン側にとってはまことに不気味だった。



「ダルシア帝国の艦隊は何をするつもりなのでしょうか?」

と、ヴィレンゲル少将は言った。


「もうダルシア人はいないというのに、なぜここへ来たのだろうか……」



 ゴウン元帥にもわからなかった。

 ダルシア帝国の艦隊はダルシア人にしか動かせない。

 それは長年対立し、戦ってきたゼノン帝国の得た知識から分かっていることだ。

 そして今、ヘイダール要塞には本物のダルシア人はいないはずなのだ。



「閣下、確か今回のダルシア帝国の継承者として名が挙がっているのは、ダルシア人ではなくても、ダルシア帝国に籍のある者がいると、あの暗黒星雲の男が言っておりませんでしたか?」

と、ディラは言った。


「だが、我々の方の候補者にはダルシアの形質を遺伝している者たちがいる。その者達を守りに来たのやもしれぬではないか」

と、ゴウン元帥は言った。


「それならば、我々に攻撃することはないでしょうが、それが確かとは言えますまい」

と、ヴィレンゲルは苦々しげに言った。


 ダルシア帝国の艦隊の威力は、戦ったことのあるゼノン帝国では充分知られていた。

 小競り合いはあったものの、正式な戦闘はここ数百年なかったが、昔の資料は残っている。

 それによれば、ゼノン帝国艦隊は常にダルシア帝国艦隊に完敗していた。



「今、ダルシア帝国の艦隊がどう動くかわかりませんが、タレス連邦の艦隊もいます。今がチャンスなのではないでしょうか?」

と、ヴィレンゲルは言った。


「タレス連邦の艦隊など、ダルシア帝国の艦隊の敵ではないぞ」

と、ゴウン元帥は言った。


「確かにそうでしょう。ですが、奴らを上手く使えば、我々に有利に運ぶこともできるのでは?」

と、ヴィレンゲルは言った。


「何か案があるのか?」

「ここに至っては、恐らくあの暗黒星雲の種族の男は目的を果たさなかったと、失敗したと考えるべきです。ただあのヘイダール要塞はダルシア人の作ったものではありません。そのロル星団の科学技術はどの程度であるか、我々の調査済みです。おそらくあの要塞の防御能力は我々の艦隊の攻撃を退けることはできないでしょう。まして、今現在、要塞のもつ艦隊は未だ要塞の中にいます。とすれば、ダルシア帝国の艦隊が何もしないと仮定すれば、わが艦隊で充分要塞を攻略できると考えます」

と、ヴィレンゲルは自信ありげに言った。



 ヴィレンゲルには勝算があった。

 惑星連盟諸国にはまだ知られていない新兵器がこの艦隊には装備されている。

 強力な攻撃のみを主とする艦だ。

 それを使えば、ヘイダール要塞を攻略することができるはずだった。

 ただドールズ・ゴウン元帥は、ダルシア帝国の艦隊が動かないという不確かな前提での作戦はあまり取りたくはなかった。

 それに、あの暗黒星雲の種族の男がなぜ失敗したのかわからないのだ。

 単に失敗しただけなのか、何者かの介入によって失敗したのかがわからない。



「あのダルシア帝国の艦隊が絶対に動かぬという保証が欲しいものだ」

「それでは、要塞にいる我々の政府代表をダルシア帝国の継承者候補ともどもこちらの艦隊に戻せばよいのではありませんか?」

と、ディラが言った。


「いや、それだけでは不十分だ。あの暗黒星雲の男の言っていたダルシア帝国籍のタリア・トンブンとかいう者をなんとかこちらに来させる必要がある」

と、ゴウン元帥は言った。


「そのタリア・トンブンについては、私めにお任せください」

と、ディラは言った。



 リドス連邦王国の魔法使いについても懸念はあるのだが、あの惑星連盟の艦隊をすべて移動させてからそれほど時間が経っては居ない。

 あれほどの力を使ったあとで、ゼノンやタレスの宇宙艦隊とやりあう余力が残っているとは、ディラにはとうてい考えられなかった。







 元の位置に戻ったヘイダール要塞では、惑星連盟の審判が再開され、その結果が言い渡されようとしていた。



「これまで、ダルシア帝国の継承者の候補となる者たちの話を聞いてきました。ですが、ダルシア帝国の継承者は一人とするように亡きコア大使より言い付かっております」

と言って、惑星連盟の議長であるナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャは、審判の間にいるジル星団の各政府代表者を見回した。



 ジル星団の各国政府代表のほかに、議長から少し離れた席にヘイダール要塞のヤム・ディポック司令官が座っていた。

 審判の間の席にはいないが、リドス連邦王国のアズミ姫はまだヘイダール要塞の司令室にいた。

 これからまだ何が起きるか分からないので、審判が終るまでの間マグ・デレン・シャが要塞に留まるように要請したのだった。



「それでは私の決定を伝えます。ダルシア帝国の継承者は、タリア・トンブンとします」

と、マグ・デレン・シャは言った。



 ざわざわと一般席の間から呟きが漏れた。



「これが惑星連盟議長である私の決定です。そして、これはコア大使の意志でもあります。他の者の継承は認めません」

と、念を押すように会場を見渡して言った。


「それでは、これで審判を終了します」



 マグ・デレン・シャはナンヴァル連邦の提督を従えて、その場を去った。

 他の惑星連盟の政府代表達は、それぞれの席にまだいた。

 今回の結果に不満を持っている者たちがいるのは確かだった。

 しかし、彼らはその不満を公けに示すことは抑制していた。


 審判の結果を歓迎するジル星団の古い国の代表達は席を立って、タリア・トンブンの居るところにやってきた。



「ダルシア帝国の継承者よ。これから我々と共に、ジル星団や惑星連盟のために尽くしてほしい」

と、ハイレン連邦の代表が言った。


「ええと、あのできるだけ、そのように努力するつもりです」

と、タリア・トンブンは固くなって言った。



 まだ、タリアにはダルシア帝国の代表としての自覚はなかった。

 ダルシア帝国を継承したということすら、信じられないことであったのだ。



「アプシンクスよ。別に特別な事をする必要はない。我々も、あなたとの協力を惜しまない積りだ」

と、デルフォ共和国の代表が言った。


「ありがとう、ございます。でも、私はアプシンクスではなくて、タリア・トンブンです」

と、訂正するのをタリアは忘れなかった。



 タリアには、アプシンクスとしての記憶はほとんどないのだ。

 だから、アプシンクスと呼びかけられても困る。



「まあ、少しずつ、記憶が戻ってくるだろう。今はまだだろうけれどね」

と、バルザス提督が言った。



 バルザス提督には、タリアの困惑が理解できた。

 タリアの場合は、今世の記憶がまだ大部分なのだ。

 やがて少しずつかつての記憶や力が蘇ってくるにしても、時間がかかるものだった。

 バルザスの場合は、元々銀の月という魔法使いだったので、記憶も力もスムーズに蘇ってきたのだが、それでもそれを受け入れることが簡単だったわけではない。

 ただ、銀の月が生まれる前の記憶を取り戻すのは、今回初めてではなく、これまで何度と無く繰り返してきたことなのだ。


 ガンダルフの魔法使いすべてではないにしても、ある条件の下にある魔法使いは、生まれ変わる度にかつての記憶を取り戻すのだった。

 それは、何代にも渡って繰り返されてきたことだった。

 それによって自身の魔法の知識や技術や力そのものに磨きをかけるのである。

 少なくとも、ガンダルフの五大魔法使いと呼ばれる者たちはみなそうして強力な魔法使いとなったのだ。



「でも、アプシンクスとしての記憶が戻っても、私はタリア・トンブンだわ」

と、タリアは言った。


「もちろんそうさ。君はガンダルフの魔法使いじゃないのだからね」

と、バルザスは言った。


「でも、どうしてなの?私がダルシア帝国の継承者となったから?」

「それもあるが、コア大使が死んだからだろう。それがスイッチだったかもしれない」

「そうなのかしら?コア大使に一度聞いてみたかった」

「そうだね。いずれ、それもできるんじゃないかな……」

「それは、どういうことなの?」



 けれども、それ以上バルザス――銀の月は言わなかった。

 バルザス自身は、銀河帝国の軍人としての意識や記憶はあるにも関わらず、それとは何の関係もない、魔法使い『銀の月』としての意識や記憶がそれを押しのけて出てくる。

 初めは戸惑いながらも、やがては魔法使い『銀の月』としての意識や記憶が大部分になり、銀河帝国の軍人としてのベルンハルト・バルザスの意識と記憶がその一部分となるのは、何とも頼りない気分だった。

 本来なら、ベルンハルト・バルザスとしての意識と記憶は時間が経つに連れて、ほんの僅かな痕跡として存在するしかなくなるのだが、まだそうはなっていなかった。

 なぜなら、銀河帝国にはまだバルザスの血の繋がった親・兄弟が存在していたからである。

 肉親の縁というのは、ベルンハルト・バルザスとしての意識を存在させるかなり強力な力だといえた。








 ヤム・ディポック司令官は、要塞司令室に戻ると、

「ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊に、審判が終了したと伝えてくれ」

と、通信仕官に命じた。



 ダルシア帝国の遺産の継承者を決める審判が終るまでは、何人もヘイダール要塞に出入りは許さないと、惑星連盟の議長であるマグ・デレン・シャの宣言があったが、終了したので、それを伝達したまでである。

 これによって、ゼノン帝国とタレス連邦がどう動くかはわからなかった。

 これから惑星連盟の各国政府代表がそれぞれの国に戻るために、一旦移動させた艦隊を呼び戻す必要がある。

 それがすべて終るのはいつになるのだろう、とディポックはため息をついた。



「ゼノン帝国艦隊から通信です」

と、通信員が報告した。


「わかった。チャンネルを開けてくれ」

と、ディポックは言った。


「私は、ドールズ・ゴウン元帥である。審判が終ったと聞いた。今この宙域にいるのは、ゼノン帝国ではわが艦隊だけだ。したがって、政府代表を迎えにそちらに行きたいのだが、要塞に入る許可がほしい」

「今、現在は一隻だけ、要塞にゼノン帝国の艦がいます。それで、政府代表をそちらへ行かせましょう」

と、ディポックは言った。



 ゼノン帝国やタレス連邦の艦を必要以上に要塞に入れるのは、できるだけ避けたかった。



「わが政府代表を一隻だけに乗せ、守らせるわけにはいかない」

と、ドールズ・ゴウン元帥は言った。


「ほんの僅かな距離です。他の政府代表にも、同じようにしてもらう積りです。それで、納得していただきたい」

と、ディポックは言った。


「わがゼノン帝国は、ジル星団でも由緒ある広大な宙域を支配する帝国である。そのような扱いは無礼であろう」

と、ゴウン元帥は言った。


「私は、ゼノン帝国よりももっと広大な宙域を支配する政府に対しても、同じようにする積りです」

「今、この宙域にいるのは、我がゼノン帝国艦隊と、タレス連邦の艦隊である。それだけで、そちらの要塞など粉砕することなど容易いことだ」

「おや?確か他に、ダルシア帝国の艦隊がいるのではありませんか?ダルシア帝国の艦隊はどうするのです?」

「ふん。ダルシア帝国の艦隊など恐れるに足らず。第一、指揮するものなど居らぬではないか。ダルシア帝国の継承者が決まったとはいえ、その者が艦隊の指揮を取れるのか?」

「さあ、どうでしょうか?やってみなければわかりませんが……」

「やってみなければわからないなどというような、あやふやなことを言うのは、軍人の風上にも置けぬやつだ。そんなことよりも、ヘイダール要塞自体の防御が我が艦隊の攻撃に対してもつと思うのか?」

と、ゴウン元帥は恫喝した。


「そうですね。でも、やっぱり、やってみなければわかりませんよ」

と、ディポックは言った。







 リドス連邦王国のバルザス提督は、ため息をついた。



「どうしたの?」

と、それに気が付いてルッツ提督が聞いた。


「いや、さっそくゼノン帝国の連中が難癖を付け始めたのでね」



 バルザス提督をはじめ、リドス連邦王国の代表たちは、審判が終ったので宿舎へ戻っていた。

 アリュセア・ジーンも子供達と一緒にいた。



「あのゼノン帝国というのは、ジル星団でもかなり大きな国ではないのか?」

と、ルッツの副官ナル・クルム少佐が聞いた。


「確かに、ジル星団では領土としてはダルシア帝国に次ぐ大きさです。もっとも、同時にかなりの嫌われ者でもありますがね……」

「例の、異星人を食料にするということか?」

「それだけではありません。どうも、力を誇示することを好む傾向があります。その軍事力に任せて横紙破りをするのです。その上、自分達がすることが正しいと思い込むところもあります」

「つまり、本当の正義とはならない、ということか?」

「ゼノン帝国にとっては力が正義なのです。弱いということは、正義を追求できないということですから……」

「弱い者には、正義がないということね」

と、ルッツが言った。



 彼女――ルッツの属する銀河でもそうだった。



「だから、ダルシア帝国とナンヴァル連邦が惑星連盟を作ったのです。その最初の創設はもう何十万年も前だと言われています。今の惑星連盟は宇宙都市ハガロンにと共に一万年前に作られました。ジル星団の力の弱い種族を守るために、秩序を守るのがその使命なのです。それは確かにこれまでは何とか機能してきました」

「今回の審判も、同じ理由によるのだな」

「問題は、惑星連盟の中枢ともいうべき、ダルシア帝国とナンヴァル連邦の一角が崩れたということなのです」

「だが、リドス連邦王国がいるではないか」

「暗黒星雲の種族を追い払うには充分なのですが、いかんせんジル星団でリドス連邦王国の全貌を知る国はダルシア帝国しかなかったのです。他に国にとっては、リドス連邦王国は他の星間王国と同じにしか見えては居ません」

「しかし、ジル星団の古い種族の中には、理解しているものもいるのではないか?」

「居るかもしれませんが、彼らはダルシア人と同じく、滅びていく種族でもあるのです」

「それならば、ゼノン帝国の艦隊でも、一蹴してやればよいのではないか?」

「それは、ゼノン帝国とリドス連邦王国との紛争ということになりますね」

「だが、艦隊戦でもあれば、リドス連邦王国の強さはわかるではないか」

「しかし、そんなことをすれば、ゼノン帝国の艦船が減ってしまいます。今、そのようなことをするのをわれわれはあまり望みません」

「それは、他に強力な敵がいるとでもいうことだろうか?」

「さあ、それはどうでしょうか」

と、バルザス提督は曖昧に言った。




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