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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
41/72

ダルシア帝国の継承者 41

 魔法陣でヘイダール要塞の司令室に無許可で侵入したカール・ルッツは、目の前に沢山の人が居るのを見て、

「あ、あの、無断ですみません。バルザス提督に話があって来たのですが……」

と、言い訳をして、バルザスを見上げた。



 バルザス提督が司令室の空中で固まっているのを見て、

「これは?」

と、言いつつ、カール・ルッツは懐から機械のようなものをすばやく取り出して、バルザス提督のすぐそばで数値を確認していた。


「何をしているの?」

と、アリュセアが聞いた。


「ちょっと、待って……」

と、言いながら、カール・ルッツはその装置をバルザスに翳したりしていた。


 そして彼女は、

「大丈夫。まだ生きている」

と、アリュセアに言った。


「生きている?本当?」

「ええ。こういうことに、彼は慣れているから」

「慣れている?」

と、ダズ・アルグが聞いた。


「たぶん、身体から抜け出しているのではないでしょうか……」

「それは、どういうことかな?」

と、フェリスグレイブが聞いた。


「身体と中身は別なのです。でも、これをやったのは、あのリード・マンドという変な男なのでしょうね」

「リード・マンド?」

「ええ。暗黒星雲の種族の男のことをバルザス提督がそう言っていたと思いますけど……」

「あの男は、確かに自分の事をリード・マンドと言っていました……」

と、マグ・デレン・シャは審判の時の事を思い出して言った。


「多分。変な名前だけれど、昔、そう名乗ったことがあると言っていました」

「聴くのはどうかと思うが、カール・ルッツ提督、あなたの言葉遣いは何だか変だと思えるのだが、その帝国軍人としては……」

と、グリンが言った。


「え?ああそうかもしれない。私は、そのカールであって、カールじゃないのです。つまり、……」

と、言葉を捜すようにルッツは言いよどんだ。


 その時、

「あの男は、あなたのことをこの銀河に属していない、と言っていましたね。どこの銀河に属しているのですか?」

と、マグ・デレン・シャが聞いた。


「そう言えば、そう言っていたな……」

と、ディポックも言った。


「それは、その……。ええと、私、私の属している銀河は白金銀河と言われています」

と、ルッツは仕方なく言った。


「白金銀河?私は、聞いたことがありません。それはどちらにあるのでしょうか」

と、マグ・デレン・シャは言った。


「このふたご銀河から、かなり離れているので、こちらでは知られていないと思います」

「どのくらい、離れているんだ?」

と、ダズ・アルグが興味を持って聞いた。


「それは、その、六億光年くらいかしら?」

「六億光年?それは、本当か?」

と、ダズ・アルグが言った。



 信じられない、という声だった。



「本当よ。私の銀河はこのふたご銀河から少なくとも六億光年離れています」

と、ルッツは言った。


「あなたの言葉からすると、もしかして、あなたは女性なの?」

と、タリアは言った。


「ええ、そうです。私は男性ではありません。ルッツ提督は男性ですけれど、私は女性です。でも、この身体はルッツ提督の身体で、私は精神だけ彼の身体に入っているんです」



 その言葉の意味がすぐに分かる者は、あまりいないようだった。

 ただ、呆然とルッツを見ている者が大半だった。



「カール・ルッツ提督という人物は実在しているのですか?」

と、マグ・デレン・シャは聞いた。


「実在しています。カール・ルッツは、確か元銀河帝国の軍人だったと聞いています。ただ、今は、白金銀河の私の体の中にいます」

と、ルッツは言った。


「あなたの身体の中?」

と、マグ・デレン・シャは言った。


「その、私とルッツは、精神を交換する装置に誤って掛かってしまったのです。それで、なかなか元に戻れなくて、リドス連邦王国の人達に助けを求めにきました」

と、ルッツは言った。


「あなたの属している銀河宇宙では、精神を交換する機械があるのですか?」

と、マグ・デレン・シャは聞いた。


「正確には、私たちの祖先にあたる種族が作った装置です。今はもう影も形もない種族ですが、かつては高度な文明を誇る、白金銀河最強と歌われた種族でした。彼らは、銀河のあちこちに遺跡を残していて、私たちはその遺跡を調査し、かつての彼らの科学技術を現代に蘇らせようとしているのです」

「そのようなことができるとは、確かに私たちナンヴァル人よりも優れているかもしれません」

「ただ、私たちはまだ文明のレベルはそれほどではなくて、このようなことが起きた時に、解決できないのでリドス連邦王国に助けを求めに来たのです」

「それで、直るのですか?」

「それが、彼らにもわからないと言われました。わたしとルッツは特殊な関係にあるからだと言われました」

「特殊な関係?」

「ええ。わたしとルッツは精神波の波長が非常に似ているのだそうです。本当なら、元に戻せるのだけれど、波長が似ているために、一旦交換が起きると、なかなか元に戻らなくなってしまったのだそうです」



 マグ・デレン・シャはもっと聞きたそうだったが、アリュセアのことに気が付いた。



「ごめんなさい。私はこうした事に関心があるので、今は、それどころではなかったのですね。それで、銀の月はどうなっていると、あなたは考えているのですか?」

と、マグ・デレン・シャは言った。


「いいえ、私の方こそ気がつかなくてすみませんでした。ええと、バルザス提督は、ガンダルフでも古い魔法使いの一人で、力も強いと聞いています。以前にも、私の銀河でこのような状況にあったことがあります。身体はそこで動きませんが、中身である精神体つまり霊の部分は多分、まだ自由なはずです。彼は、通信を送れる相手を探しているのだと思います」

と、ルッツは言った。


「通信を送れる相手?それは魔法使いのことですか?」

と、マグ・デレン・シャは聞いた。


「魔法使いでなくても、TPでもよいのです。ここにTPの方はいませんか?」

と言うと、ルッツは他の人を見渡した。



 ルッツに見られると、皆首を振って答えた。



「こちらにはTPは居ないのですか?」

と、ルッツはディポックの方を向いて聞いた。


「私のいるロル星団と呼ばれるところではTPという能力は知られていないんだ」

と、ディポックは言った。


「タリア・トンブン、あなたはTPでしたね」

と、ルッツは言った。


「ええ。でも、今はとてもだめだわ。あの妙な男と会って、とてもじゃないけれど内心ビクビクしているから」

と、タリアは正直に言った。



 タリアの心臓は今でも破裂しそうなくらい、鼓動していた。

 この状態ではTPなど彼女にはまだ使えないのだ。



「そうですか。ではアリュセア、あなたは?」

「私は、TPではないし、魔法使いでもないの」

「でも、あなたは何がしかの能力を持っているのでしょう?」

「それは、そうだけれど。私は、魔法使いとしての修行や訓練をしたことがないのです」

「でも、魔力はあるのではないかしら?だとすれば、彼が通信を送れると思うのだけれど……」







 司令室での会話を聞いていて、バルザス提督はこの状況をどうすれば解決できるか考えていた。

 バルザスの身体は要塞司令室で動かなくなってしまったが、バルザスの思考する精神体のほうは同じ司令室の天井近くに浮かんでいた。


 そんなバルザスを見ることができる者がいないわけではなかった。

 例えば、アリュセアなどは思わぬ事態に驚愕して精神的に不安定になっているので、その能力を完全に使うことができないでいるのだ。

 それは、他の者にも言えることだった。

 ナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャも見ることが可能だったが、バルザス自身が彼女に見られないようにしていた。

 あの暗黒星雲の種族の男、バルザスがリード・マンドと呼んだ男が何をするかわからなかったので、かえって誰にも見られないようにしたほうが安全だと考えたのだ。


 ルッツをこの司令室に呼んだのは、バルザス提督だった。

 ルッツと呼ばれている人物はTPをはっきりと認識はしないが、予感として送った意味を感じることができた。

 それに、万が一の時には彼、すなわち彼女にかけられている強力な結界が本人を守護するだろうからだ。

 ルッツの素性がバレてしまったが、この際は仕方がなかった。

 本物のルッツも分かってくれるだろう、とバルザスは思った。


 バルザス提督が要塞司令室の空間で留まっているのは、あの男が銀の月にリドスの王族を呼び寄せる召喚の呪文を使わせないためだった。

 今回は警告としてこのようなことをしたのだ。

 もし、もう一度同じことをしようとするなら、今度はどうなるかわからない、ということなのだ。

 こうしている間にも、要塞の揺れが続き、要塞が彗星などの大きな物体に衝突して、破壊される時間が刻々と近づいていた。







 要塞は揺れが起きるたびにその軌道を変えていた。

 そして、要塞はいずれ大きな天体と衝突して破壊されるというのが、あの男の考えた筋書きだった。

 自分の手を汚さずに、邪魔者を始末するうまい手段だった。

 もちろん、その前に何かが起きて、現状を解決するかもしれない。

 だが、そんなことが起きる確率はかなり低い。


 要塞の周囲に浮かんでいるダルシア帝国の艦隊は要塞と同様に軌道を変えていたが、その筋書きを無効にするような活動などしないことをあの男は知っていた。

 ダルシアの艦隊は、ダルシア人であるタリア・トンブンだけしか助けはしないのだ。

 コアが生きてここにいれば、ヘイダール要塞を守るよう命じたかもしれない。


 だが、コアは死んだ。

 死んで今はあの宇宙都市ハガロンで、自らの非力さを嘆いていることだろう。

 ヘイダール要塞にコアが来ているような気配は感じなかった。

 もしかしたら、コアはこの要塞に来ているかもしれないと男は思ったのだが、それは杞憂に過ぎなかった。

 やはり、ダルシア人程度では、死んだ後もその生前の肉体に縛られて離れることはできないのだろう。

 まして、肉体を離れたら機械も使えない。

 宇宙船を使わずにハガロンからヘイダール要塞まで来ることは不可能なのだ。

 タリア・トンブンも今はまだ覚醒は不充分でタレス人としての記憶しかなく、本来のアプシンクスとしての能力を駆使できない。

 そして彼女にはダルシア帝国の艦隊に要塞を守るよう命じるような知恵などはないと、その男は考えていた。



 真っ暗な宇宙空間の何もない空間に、その男はいた。

 ヘイダール要塞の最後を見届けるという楽しみの最上の座席となる場所だった。

 もちろん、目に見える姿ではない。

 そこではまるで霧のようなガス状のものとして存在していた。

 本来は、そうした姿もない、単なる精神だけの存在なのだ。


 だが、多少とも目に見えるような、物質として存在していたほうが、安心感があるというのも妙なものだった。

 単なる精神だけだと取っ掛かりが無いので、この広い宇宙空間では、自分がどこにいるのかもわからなくなりそうだった。

 そんな不安感があるのは、まだ年が若く、未熟だからだと、同じ暗黒星雲の他の仲間から言われていた。

 彼は、暗黒星雲の種族の中でも、珍しく年若であった。

 彼には、未だ数万年ほどの年数の記憶しかない。

 記憶だけが、彼の存在を証明するものなのだ。

 仲間の中には、数億年という記憶を持つ者も少なからずいるのだ。







 ヘイダール要塞が元浮かんでいた場所では、ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊は、動きを停止していた。

 突然ヘイダール要塞自身が移動して、探知装置に引っかからなくなったのだ。

 通信も途絶している。



「いったいどうしたのでしょうか?」

と、タレス連邦のドノブ少将が言った。



 何かあったのではないかと思うのだが、何が起きたのかは不明である。



「ゼノン帝国の艦隊に聞いてみたらどうだろうか?」

と、ガイウス・ブレヒト艦隊司令官が言った。



 ガイウス・ブレヒトはもしかしたら、ゼノン帝国の艦隊ではなく、あの暗黒星雲の種族が何かしたのではないかと推測した。

 あの種族のすることは、見当もつかないが、やるとなったら、ヘイダール要塞のような軍事要塞を破壊するなどいとも簡単なことだと思われるのだ。

 それに、同じく探知装置から消えたダルシア帝国の艦隊も不気味だった。






 ゼノン帝国艦隊は、突然消えたヘイダール要塞を探していた。

 同様に、ダルシア帝国の艦隊も消えたのだ。何か起きたに違いない。



「いったい、どうしたのでしょうか?」

と、同じくヴィレンゲル少将が言った。


「あやつが何か企んでいるのだろうて、ただ、何を企んでいるのかはわからぬが……」

と、ドールズ・ゴウン艦隊司令官が言った。


「危険ではありませんか?」

と、宮廷魔術師のファールーレン・ディラが不安を感じて言った。


「危険ではあるが、仕方あるまい。他に手はないのだ」

「閣下。タレス連邦の艦隊から何が起きているのかと、言ってきました」

と、ヴィレンゲル少将が言った。


「こちらにも、わからぬと言っておけ。正確なことは我らにもわからぬのだからな」

と、ドールズ・ゴウンが言った。







 そうした声も、あの暗黒星雲の種族の男のところへ聞こえていた。

 彼がこの銀河のジル星団に興味を持ったのは、ダルシア帝国がかなり高度な文明を持ち、惑星ガンダルフに魔法使いという、妙な連中がいることを知ったからだった。

 暗黒星雲の種族が欲するのは、知識だった。

 この宇宙のすべての知識を我が物にすることができたなら、おそらく仲間の中の最も古い連中も満足するだろう。

 この広い宇宙には、彼ら暗黒星雲の種族が知らない高度な文明や遺跡がまだたくさんあることを、彼らは知っていた。

 しかし、そうした者たちと出会うことは広大な宇宙ではなかなか難しいものだった。

 ふたご銀河のあるこの辺の銀河宇宙では、彼ら暗黒星雲の種族に匹敵するような文明を持つ種族は、滅多に居なかった。

 そうした者たちは、巧妙に姿を隠し、滅多に姿を現さないのが普通だった。







「ゼノン帝国艦隊から、何が起きているのかわからないと言ってきました」

と、通信員からの報告をドノブ少将が言った。


「なるほど、むこうにもわからないということか……」

と、言いつつ、ガイウス・ブレヒトは、妙な感じを受けた。



 本当にゼノン艦隊は今起きていることが何かわからないのだろうか?知っていて、わざと知らない振りをしているのではないだろうか?

 疑問を感じると、日頃から信頼関係のない相手のことだけに、疑いが膨れ上がってくるのだった。


 こうしたゼノンとタレスの艦隊同士のやりとりも、暗黒星雲の種族の男は、すべて聞き知っていた。

 そして、それを楽しんでいた。

 彼には格好の暇つぶしなのだ。

 ヘイダール要塞だけを破壊するのはつまらなかった。

 それでは一つの目的しか達せない。

 彼を利用しようとした連中、そして昔赤恥を掻かせられた連中を同時に料理するのは考えただけで痛快だった。

 できるだけ、じらして相手に恐怖を味合わせて、それから破壊するつもりなのだ。

 暗い宇宙空間に、暗黒星雲の種族の男の高笑いが聞こえてきそうな気がした。







 バルザス提督は、あの男の姿は見えないが、必ずヘイダール要塞の近くにいることを確信していた。

 だが、それにしては妙だった。

 何か足らない気がするのだ。

 ヘイダール要塞は大きな要塞だが、それだけを破壊するというのも、興が足りない気がする。

 昔から知っているあの男は、もっと欲深のような気がするのだ。



 多くの者が不安を感じている要塞司令室で、ルッツ提督は何か足らないという気がしてきた。

 それが、何なのか、考えてもわからない。

 こうした思案の意味は、おそらくバルザスが自分にイメージを送ってきているのだとルッツは気づいていた。



「あの、司令官。惑星連盟の艦隊はもう要塞の周りには居ないのでしたね」

と、ルッツは聞いた。


「惑星連盟の艦隊は、バルザス提督が魔法で移動させた。待てよ、そうだ。忘れていた。その後、またゼノン帝国の艦隊とタレス連邦の艦隊が接近しつつあった。そちらは、どうしたのだろう?」

と、ディポックは言った。


「ゼノンとタレスの艦隊はどうだ?近くにいるのか?ダルシア帝国の艦隊は、どうだ?」

と、ダズ・アルグ提督が確認を示唆した。


「ダルシア帝国の艦隊は要塞の近くに居ます。要塞の動きについて来ているというのでしょうか。ゼノンとタレスの艦隊は、近くには、いません。我々が元いた位置のあたりに居るのではないでしょうか」

と、探知装置を確認して担当の兵士が言った。


「近くにはいない?前のまま……」

と、ルッツは呟いた。


「惑星連盟の議長マグ・デレン・シャ閣下。確か、ゼノン帝国は以前暗黒星雲の種族と同盟していたことがあったのでしたね」

と、ルッツは言った。


「そうです。確かリドス連邦王国が来る前でしたから、二百年かそれ以上前のことになります。もっとも、ゼノンはかの種族を裏切ったのですが……」

「タレス連邦は、暗黒星雲の方と同盟というか、何かつながりがあると聞いたことがありますか?」

「いいえ。タレス連邦は最近ワープ航法を開発して惑星連盟に加盟した政府です。彼らが暗黒星雲と通じているとは思えませんが……。ただ、審判のときに突然現れたのが腑に落ちません。あの時、ゼノン帝国の政府代表は何も知らないようでしたから……」

「では、もしその情報を得たのが、……」

と、ルッツは言った。


 マグ・デレン・シャは、

「まさか……」

と、言いかけた。



 バルザス提督――銀の月はあの男の目的にやっと気が付いた。

 要塞の破壊だけが目的だとばかり思って、二つの艦隊のことを忘れていたのだ。

 この際、ダルシア帝国の艦隊のことはそれほど重要ではない。

 ダルシアの艦隊はゼノンやタレスの艦隊よりも強力だが、あの暗黒星雲の種族の男は歯牙にもかけないだろう。

 ヘイダール要塞にダルシア帝国籍に入ったタリア・トンブンがいるので、ダルシアの艦隊は彼女を守ることに徹するはずだった。


 間違えてはいけない。

 ダルシアの艦隊はタリア・トンブンを守るためにいるのであって、ヘイダール要塞を守るためにきたのではない。

 もちろん、ゼノンとタレスの艦隊を助けるつもりなどはない。

 もし相手が有機生物であったなら交渉の余地があるだろうが、ダルシアの艦隊旗艦にある指揮脳は、残念ながら交渉の余地など考慮しないだろう。

 ただダルシア人の安全を守ることのみを考えるようにプログラムされているのだ。

 つまりヘイダール要塞に加えて、ゼノンとタレスの二つの艦隊をあの男から守る必要があった。

 それは銀の月の手には余ることだった。

 要塞一つを守ることさえ、荷が勝ちすぎる。


 その上、自分の身体から離れたままでは、強力な助っ人を呼ぶ召喚術を行うのも難しいのが実情だった。

 銀の月はまだ生きている人間なので、肉体から抜け出した状態では、あまり遠くへは行けない。

 まして、宇宙空間に浮かんでいることも、あまりよくない。

 普段は身体という固定したものにいることに慣れているので、何の取っ掛かりもないということは、非常に不安を感じるのだ。

 しかし、この際、どうしてもやらなければならなかった。

 召喚術が封じられてしまった今、できることは、ヘイダール要塞の近くに置いてある、彼の艦隊と連絡を付けることだった。







 その男は要塞の中の動かなくなった銀の月の身体を、時折見ていた。

 彼が封じたのだ。

 封じた結果、銀の月がどうなっているのかまでは、彼は気付いていない。

 彼にとっては、肉体から離れた彼に何の力もないというだけで充分だった。

 暗黒星雲の種族は、一人一人能力の違いがかなりあった。

 彼の能力は、まだ肉体から抜け出した精神――魂が見えるというレベルには達していなかった。

 銀の月はその男にとって、単なる目障りに過ぎなかった。

 ガンダルフでも強力な魔法使いの一人であると言われているのは知っている。

 だが、その程度では彼にとって宿敵になどなれない。

 彼とでは力が違いすぎるのだ。

 あのリドス連邦王国の連中とは違う。


 ジル星団のガンダルフにやってきたリドス連邦王国というのは、異彩を放っていた。

 彼らがどこから来たのかわからないのだが、その文明は優に暗黒星雲の種族に匹敵すると思われた。

 それに、もしかしたら、凌駕しているかもしれない部分を持っていたのだ。

 リドス連邦王国は、当初は単なる宇宙航行技術をもった何処にでもいる種族にしか見えなかった。

 彼らが出会った時には、自分達と同じか、それ以上とも思える、それほど高度な文明を持っているとは思えなかった。



 ルッツは、心の中でバルザス提督の姿を思い描いた。

 訓練されたTPではない彼女にできることは、それだけなのだ。

 ただ、それだけのことでも、バルザス提督に伝わるということをこれまでの経験から知っていた。

 ふと、ルッツの心の中にイメージが浮かんだ。

 リドス連邦王国の艦隊の姿だ。位置も具体的に数値が浮かんでくる。



「ディポック司令官。すみませんが、リドス連邦王国の艦隊と連絡を取りたいのですが……」

と、ルッツは言った。


「それはかまいませんが、どこにいるのかわかりますか?」

と、ディポックは言った。


「わかります」

と言って、ルッツはすぐに位置とリドス連邦王国の使う通信波長を伝えた。


「それで、あの、電文を『6』とだけ、してもらえますか?」

「6?何のことです。数の6ということですか?」

「そうだと思います。多分、むこうにはそれで意味が通じると思います」

と、ルッツは言った。



 そのルッツの動きをあの男はあまり注意しなかった。

 どこの銀河の者とはわからぬが、ルッツからは特別な力の匂いは感じなかったからだ。


 暗黒星雲の仲間の間では、リドス連邦王国とは単にパワーの潜在力が違うだけだ、という者もいた。

 リドス連邦王国の人々のようなエネルギーを持つのは、宇宙文明の多いふたご銀河の星団のなかでも二つとなかった。

 彼らの知っている他の銀河にもない。

 ただし、リドス連邦王国の者たち全員が優れているのではなく、王族と言われる者たち、その中でも王女と呼ばれる者たちの力が異常に強力だったのだ。

 ところが、その王女たちに匹敵するような存在を、彼は発見したのだ。


 そいつの名は、ゼノン帝国の連中の言うところによると、ヤム・ディポックという元新世紀共和国の軍人だった。

 現在新世紀共和国は銀河帝国に併合され、そのどさくさにまぎれて、ヤム・ディポックは、ヘイダール要塞という、以前は銀河帝国の軍事要塞だったところを占拠して今日に至っている、ということだった。

 暗黒星雲の種族の彼が、初めてヤム・ディポックを見た時感じたのは、恐ろしいほどの光りだった。

 背後に光源を隠しているのではないかと感じたほどの光りだった。

 それに興味を覚えたのだ

 。だが、それも、あの要塞とともに、消えるだろう。

 もし、消えないとしたら、それは、暗黒星雲の種族にとって、真に脅威となるものだと言えるのだ。




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