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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
36/72

ダルシア帝国の継承者 36 

 ドルフ中佐の魔法陣が出現すると、アリュセアは次の瞬間ヘイダール要塞の司令室にいた。

 周りにいる者たちは、魔法陣とアリュセアが現れたのに気づくのに少し時間がかかった。

 皆、大スクリーンの方を向いて、迫り来るゼノン帝国とタレス連邦の艦隊に気を取られていたのだ。



 最初に気づいたのは、バルザス提督だった。



「どうしたんだ?アリュセア?」



 その声に、要塞の幹部たちもアリュセアの方を向いた。

 皆一様にアリュセアを見て、いつの間に来たのだろうと思った。

 司令室へはそう簡単に来られるとは思えない。

 タレス人の亡命者達は要塞に来たばかりだし、要塞司令室の場所など知っているはずがない。

 それに、外に立っている衛兵は許可も取らずにどうして要塞の兵士でもない彼女を中に入れたのだろうか?



「あ、あの、その……」



 アリュセアはタレス連邦の普通の市民だった。

 だから、こんな地位の高い軍人ばかりの場所など近づいたことがないし、彼らと話をしたこともない。



 けれども、その後ろに見える大スクリーンにゼノン帝国の艦隊を見つけた時、

「あの、暗黒星雲の男が、ゼノン帝国の艦隊の旗艦にいるのを見たわ。それで、彼らに協力すると言っていたの」

と、アリュセアは勇気を出してバルザス提督に言った。


「奴が向こうにいるだと?」

と、バルザス提督の声が剣呑に響いた。



 今現在のアリュセアの特殊能力について詳しく知っているわけではないが、彼女が見たと言っている以上それは現実にあったことだとバルザスにはわかった。

 彼女がサンシゼラ・ローアンと言われた時代に持っていた能力は予知だけではなかったのだ。

 サンシゼラ・ローアンの時の記憶が蘇ったなら、おそらくその力も同じく蘇っただろうと銀の月でもあるバルザス提督は考えていた。



「それで、この要塞を占拠するのに協力して、ダルシア帝国の継承者になるタリアを捕まえて、彼らに従わせるつもりだと言っていたの」

「それで、どんな計画だった?」

と、バルザスは聞いた。



 その様子があまりにも相手のことを信じていることが明白だったので、他の者たちは唖然としていた。

 いったい、この突然現れたこの女は何者か?

 バルザス提督は、なぜこんなわけの分からない話を簡単に信用するのだろうか?

 そうした他の連中の思いとは無関係に、バルザスとアリュセアは真剣に話していた。



「そこまではわからないわ。その計画を話す前に、見えなくなったから……」

「他には?」

と、バルザスが聞いた。


「ええと、そうダルシア帝国に今ゼノン帝国の艦隊が向っているそうよ」

「ダルシアに?」

「大丈夫かしら?」

と、アリュセアは心配そうに言った。


「ダルシア本国の方は大丈夫だろう」

と、バルザスは言った。


「なぜ、そんなことが言えるんだ?」

と、ダズ・アルグが聞きつけて言った。


「ダルシア帝国には『ダルシアン』がいる。コア大使が亡くなっても、帝国の中枢を統べるのは『ダルシアン』、つまり中央脳だからだ。ダルシアの艦隊は健在だ」

と、バルザスは言った。



 このアリュセアというタレス人の女性が何者なのかはわからないが、ダズ・アルグはタリア・トンブンのことを思い出していた。

 TPではないが、彼女も何か特別な能力を持っているのかもしれない。


 一方ディポック司令官は、アリュセアのことをよく覚えていた。

 審判の間でタリア・トンブンの証人になるために後から一人でやってきたからだ。

 それに暗黒星雲の種族とかいう妙な異星人がアリュセアのことを予知者サンシゼラと呼んでいたのだ。

 予知者ということは、先のことがわかることではないのか?



 TPや魔法使いとも違った能力だろうということはある程度わかったので、

「ちょっと質問してもいいかな?」

と、ディポックは言った。


「え?あなたは?」

と、アリュセアはディポックの方を向いて聞いた。


「サン、こちらはヘイダール要塞司令官だ」

と、バルザスは言った。



 アリュセアはその時初めてしみじみとディポックを見た。

 彼に気づいたとき、彼の身体全体から光が出ているのが見えたのだ。

 その光は尋常の輝きと大きさではなかった。

 この時、アリュセアはかつてのサンシゼラ・ローアンの時の記憶が大きく表に出てきた。

 そのためその光の意味がわかったのだ。



「あの、あなたがこのヘイダール要塞の司令官ですか……」



 アリュセアはディポックから出る光に魅せられて、一歩二歩と吸い寄せられるようにディポックに近づいて行った。



「審判の間で、あなたを見かけました。タレス連邦の方でしたね。あなたの能力は予知なのですか?」

と、ディポックは聞いた。


「ええと、それはサンシゼラ・ローランの能力の一つです。私は予知夢を見たり、霊を見たりする力を持っているだけです」

と、アリュセアは言った。


「でも、サンシゼラとあなたは同じ人物だということですよね」

と、ディポックは聞いた。


「それは少し違うと思います。個性が違うのです。だから同じではありません」

「そうですか、で、先ほどの話ですが、あなたには向こうのつまりゼノン帝国の艦の中が見えたのでしたね。それはあなたの意志で見たのですか?」

「いいえ、突然見えたのです」

とアリュセアは答えた。


「それで、向こうが何をするか具体的な話になる前に、また見えなくなってしまったのですね」

「ええ、そうです」

「突然何かが見えたり、見えなくなったりするのは、よくあることなのですか?」

と、ディポックは慎重に尋ねた。


「よくあります。私のような予知夢を見たり霊を見たりする力は、突然目の前に映じることが多いのです」

「なるほど……」

と、ディポックは言って何かを考えているようだった。



 単に、アリュセアと言う者の特殊能力で見えたのならいいが、もしかしたらあの暗黒星雲の男がわざとその映像を見せたのなら、別の危険があるとディポックは思ったのだ。


 その間にも、ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊はヘイダール要塞に近づきつつあった。



「で、こちらのゼノン帝国とタレス連邦の艦隊の方はどうします?」

と、ダズ・アルグが言った。


「たぶん、あのタレス連邦の艦隊と連絡を取り合って、何かをしかけてくるだろうが、具体的にはわからない」

と、バルザスは言った。



 今近づいてくる艦隊をあの惑星連盟の艦隊のように本国へ返すことができるならいいのだが、残念ながらバルザス提督自身の力ではしばらくはそうしたことはできそうもなかった。

 宇宙で魔法を展開するにはかなりの力が必要だった。

 多くの艦隊を転移させるような魔法は銀の月の力だけではできなかった。

 ジル星団の他の魔法使い達とディポック司令官の力が必要だったのだ。



「通信員!近づいてくる艦隊同士の通信はどうなっている?」

と、ダズ・アルグが言った。


「さあ、別にこれと言って通信はありません」

と、通信員が言った。


「おそらく向こうに居る能力者と魔術師が連絡を取り合っているということでしょう」

と、バルザスが言った。



 それならば、要塞の通信機に気取られる恐れはない。








 タレス連邦艦隊司令長官ガイウス・ブレヒト元帥に旗艦所属のTPテオ・フィリウスは、

「ゼノン帝国艦隊から魔術師ディラが連絡してきました」

と、報告した。


「何と言って来た?」

「このまま通常航行で要塞に近づくように。特に何もしないでいいそうです」

と、テオ・フィリウスは言った。



 ディラは暗黒星雲の種族の男については、何も連絡しなかった。

 それについてはゼノン帝国艦隊だけの秘密として口を閉じていたのだ。



「やつらは何をするつもりでしょう」

と、ファウリ・ドノブ少将が不安そうに言った。


「少なくとも、我々はダルシア帝国の遺産を手にするまでは協力関係を持つ事になっている」

と、ブレヒト元帥は言った。


「ですが、我々を出し抜いて、やつらがダルシア帝国の遺産を独り占めするかもしれません」

と、ドノブ少将は言った。



 その可能性は充分あるのだ。

 いつ、裏切るかわからない危うさがゼノン帝国にはあった。



「わかっている。だが、今は他にどうもできないのだ」



 ガイウス・ブレヒト元帥は、タレス連邦政府による暗黒星雲の種族をこの案件に関係させるという企てを知っていた。

 それを知っているのは、元帥と大統領の二人だけである。

 それが今回どのような影響をこの作戦に与えるかは、未知数だった。

 ただ、それはゼノン帝国によるダルシア帝国の遺産の独占を阻止するたった一つの手段でもあった。


 かの暗黒星雲の種族については、ダルシア帝国は昔から手を焼いていたと聞いている。

 同時にかの種族は一時期、ゼノン帝国と手を結んでダルシアに敵対していたことがあるのだった。

 その協力はゼノン帝国の裏切りによって、挫折したと言われている。

 時代や世代が変わってゼノン帝国の人々はそのことを忘れたかもしれないが、暗黒星雲の種族は不死である。

 だから、今でも当時の苦い思いを覚えているに違いないとタレス連邦の大統領と元帥は考えていた。









 ディポック要塞司令官は、忍耐強く状況を観察していた。

 いったいこれから何が起きるのやらわからない。

 銀河帝国と新世紀共和国との戦争とは、事態の推移が違うのだ。

 これから艦隊戦が起きるのだったら、それほど困りはしない。

 この要塞は外からの敵には無敵を誇るのだ。


 だが、今回の件は、外交と戦いが結び付いているのは同じだが、別の星団の国や文明が関わっている。

 そこでは別の価値観があり、思いもかけない対応の仕方がある。

 だが、基本は相手を信用するか、しないかだった。


 これまでの経緯から、惑星連盟の議長は信用できるように思えた。

 それに、リドス連邦王国は謎めいているが、ある程度信用できるようだった。

 ゼノン帝国とタレス連邦というのは、どうも信用できそうになかった。

 片方は銀河帝国と同じ帝国で、もう一つの方は選挙によって首長を選ぶ民主主義の国だった。

 両国は政治的には間逆に位置にあるのだが、ダルシア帝国の遺産を欲しがっているという点ではあまり信用できなかった。


 ロル星団では政治制度の違いを重く見ていたが、どうもジル星団ではそれはあまり考慮にいれないようだった。

 何しろ、一番信用できそうなナンヴァル連邦というのが、神聖政治をしているという。

 それはロル星団では存在しない政治制度であるし、古臭い古代の未熟な文明の政治形態だと片付けられてしまうものだ。

 リドス連邦王国というのは、王制と民主主義の両方をとっている変わった国らしい。

 それにダルシア帝国は帝国と名の付く国だが、たった一人しか住民のいない国だった。

 そして、少し前にそのたった一人の住人すらもいなくなったのだ。



「司令官、ゼノン帝国の旗艦から通信です」

と、通信員が言った。


「わかった」


 ディポックは司令官席に坐りなおすと、

「こちらはゼノン帝国艦隊旗艦アゼンダ、艦隊司令官ドールズ・ゴウン元帥である。ヘイダール要塞にいるわがゼノン帝国政府代表に会うために、要塞に入港を要請する」

と、スクリーンに白髭姿のがっしりした背の高い、華やかな軍服を着たゼノン人が映じて言った。


「こちらは、ヘイダール要塞司令官、ヤム・ディポック。返事には少々時間が欲しい」

と、ディポックは応答した。



 同じようにタレス連邦艦隊旗艦より、艦隊司令官ガイウス・ブレヒト元帥が要塞に入港を要請する通信が来た。ディポックはこちらも同じ返事をして対応した。



「さて、どうするかな?」

と、ディポックは頭を掻きながら言った。



 突然アリュセアがやってきてから聞いた話は、判断が難しいものだった。

 これまでディポックが経験してきたこととはかなり違う展開が予想されるのだ。

 魔法や特殊な力を使う者にどうやって対処すればいいのか。

 先ほどはバルザス提督の力を頼ってしまったが、そういつまでも頼るわけにもいかない。

 それに、自らまた魔法を使うと言いださないと言うことは、先ほどのような魔法を再び使うことはすぐにはできないのではないかと思われた。


 惑星連盟の艦隊をそれぞれの国に返すという魔法はジル星団の他の国の魔法使い達にも驚きをもたらした。

 彼らにとってもその魔法は未知のものだったのだ。

 ただ、その魔法を使った後の魔法使いたちの疲弊を見るにつけて、そう何度も使えるものではないことがわかった。

 振り返って、彼は要塞の幹部やバルザス提督、アリュセアを見やった。



「司令官、断ってはどうでしょうか?」

と、ダズ・アルグ提督が言った。


「そうだな……。それもいいが、他に何かいい考えはないかな?」

と、ディポックは言った。



 こういう時は素直に人の意見を聞いてみるのが、ディポックらしいところだった。



「まず、その前に、タリア・トンブンを司令室に来させてください」

と、バルザス提督は言った。


「タリア・トンブンを?」

「そうです。彼女に何かあってはまずいので……」



 ディポック司令官は素直にタリア・トンブンを呼びにやらせた。



「で、次は?」

と、ディポックが言った時、ヘイダール要塞が振動した。



 激しい揺れだった。

 それほど長くは無かったが、立っていられないほどの揺れだった。

 その時、少し離れて立っていたアリュセア・ジーンが倒れそうになって、司令官席に座っているディポックの肩に思わず手を出して身体を支えようとした。

 瞬間、絹を裂くようなアリュセアの悲鳴が要塞司令室に響き渡った。


 誰もがスクリーンを振り返った。

 だが、そこには変わったものは何も映じては居なかった。



「どうしたんだ、サン?」

と、慌ててバルザス提督はアリュセアの昔の名を呼んだ。



 その時、アリュセアの片手はディポックの肩を掴んでいた。

 そして、二度、三度と悲鳴を上げた。

 何が起きているのかバルザス提督はアリュセアの手を見て気が付いた。

 そして、急いでアリュセアの手を掴んでディポックの肩から引き剥がした。



「落ち着いてくれ、サン。何も起きてはいない」

と、バルザスは言った。


「いいえ、これから起きる。これから起きるの」

と、アリュセアはバルザスを睨むように見て言った。


「何が起きるんだ?」

「恐ろしいこと。こんなこと起こるはずが無いわ」

と、アリュセアは手で顔を覆って言った。


「何が起きるんだ?」

と、バルザスは再び聞いた。


「どうしたんです?」

と、ディポックが聞いた。


「わからない。何か、何かがここへやってくるのが見えた。あれは、どこかの宇宙艦隊なのかしら?」

「どこの宇宙艦隊なんだ?」

と、バルザス。


「わからない。見たことの無い形だわ。でもジル星団の艦隊よ。それだけはわかる。色は黒ではなくて、赤黒いような色。形は円盤ではないけれど、あまり厚みの無い楕円形のもの。数は、数百、いえ数千かしら」

と、アリュセアは言った。


「それで、どうしたんだ?」

「その艦隊がこの要塞を攻撃して破壊するの。ものすごい大爆発をして、この要塞が消し飛んでしまう」

「何だって?」

と、ディポックは言った。



 その艦の形に、バルザスは覚えがあった。

 ジル星団に様々な国の色々な形の艦があるが、アリュセアの言ったような特徴を持つ艦は、おそらくダルシア帝国の艦だろう。



「サン。いつ、その艦隊が来るのか分からないか?」

「わからない。でも、あまり時間がないと思う」

と、アリュセアは、首を振って言った。




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