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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
35/72

ダルシア帝国の継承者 35

 ゼノン帝国の艦隊旗艦アゼンダ上で宮廷魔術師ファールーレン・ディラは言った。



「向こうにはかなり強力な魔法使いが居ます。先程の巨大な魔法陣を見ればわかります」



 あのようなものはこれまで見たことがなかった。

 宇宙空間に浮かんだ魔法陣によって起きたことは、ゼノン帝国の魔術師の想像を超えていたと言ってもいい。

 あのような強力な魔法使いがいるとは思わなかったのだ。



「あのような力を持つものは、どこの魔法使いか知らぬが、めったにおるまい」

と、ドールズ・ゴウン艦隊司令官が言った。


「おそらく、ガンダルフの五大魔術師、いえ魔法使いでしたか、その一人ではないでしょうか」

と、ディラは言った。


「とすると、かの噂で聞くガンダルフの魔法使いが生まれ変わってきていると、そのようなことがあるとでもいうのか?宮廷魔術師のおまえでもそう言うのか?」

と、ドールズ・ゴウン元帥が馬鹿にしたように言った。


 生まれ変わりというのは、ゼノン帝国では民衆の戯言に過ぎないと考えられているのだ。

 地位も身分もある、学問もある人物が言うことではないのだ。

 まして宮廷魔術師という地位にあるディラが口にするとは思わなかったといいたげだった。


 だが、少なくとも一流の魔術師は口には出さなくても、それを信じている者が多い。

 魔術や魔法そのものが、目に見えないものを肯定し、目に見えない世界のあること、そして生まれ変わりがあるという思想に繋がっているのだ。


 ガンダルフは魔法の生まれた星だと言われている。

 どんな魔法使いもガンダルフの魔法使いを知っている。

 昔からガンダルフでは生まれ変わりということが殊更強く信じられていると言われて来た。

 だから、どこの魔術師も魔法使いもそれについては知識もあり、信じるものがいる。

 特にゼノン帝国では魔術師として力の強いものほど、その影響を受けている。


 ガンダルフの魔法使いの第一は、大賢者と呼ばれ、魔法を創成した者、呪文を綴る者として『レギオン』という呼称で呼ばれる者。

 二番目は白髪の魔法使いで、『塔の長』と呼ばれていた。

 『銀の月』と呼ばれる魔法使いは三番目に当る。

 このほかに女の魔法使いとしてガンダルフの守り手と言われる『サラマンダー(火竜)』、女賢者と言われる『フェリシア』がいた。

 この五人がガンダルフの五大魔法使いとして有名だった。

 この五人の魔法使いは、いつも同じ時代に生れるという伝説があった。

 それもガンダルフの危機の時代だ。



「つまり、ガンダルフは危機の時代を迎えているとでもいうのか、ディラ?」

と、ヴィレンゲル少将が揶揄するように言った。



 少しは魔術が使えるが、彼は生まれ変わりという思想は信じてはいなかった。

 それが、ゼノン帝国の普通の貴族であり、軍人である。



「もし、我々がガンダルフを征服することに成功するならば、それは当っているではないか?」

と、ゴウン元帥はこともなげに言った。



 だがディラは少し異なった考えを持っていた。

 ガンダルフの五人の魔法使いが出る時代というのは、あの闇が胎動する時代と聞いていた。

 それはゼノンでは魔術師の間でのみ伝わる伝説でもあった。

 従って普通人は知らないことなのだし、信じてもいないことなのだ。


 しかも、その説には何の根拠もなかった。

 単なる伝説、説話にしか過ぎない可能性もあった。

 魔術師以外の者には言ってはならないことでもある。

 だからディラは黙っていた。



「それで、ディラよ、そなたに何か策はあるのか?」

と、ゴウン元帥は言った。



 返事をしようとして、ディラは妙な気配を感じた。



「何者!」

と、大きく腕を振り回し、ディラは結界の呪文を張った。



 だが、その魔術は跳ね返されてしまった。

 そこに現れたのは、霧状のキラキラしたものだった。



「これは?」

と、ゴウン元帥は言った。


「危険です。閣下。これは、おそらく……」

と、ディラは古い知識からある種族を導き出して言おうとした。


 それはキラキラ光りながら、

「あまり騒ぐものではない」

と、声を発した。



 そして、それはゆっくりと時間をかけて人型に変じた。



「おまえは、誰か?」

と、ヴィレンゲル少将は言った。


「私か?私は、その女魔術師の思っている通りの者だ」

と、その人型となった者は言った。


「ディラ、これは何なのだ?」

と、ゴウン元帥が聞いた。


「これは、おそらく、暗黒星雲の種族だと思われます」

「暗黒星雲の種族だと……」



 ヴィレンゲルは、その名を聞いたことがあった。

 古老が恐ろしげに使う種族の名だった。

 かつてジル星団で乱暴狼藉の限りを尽くしたという。

 かのダルシア帝国でさえも手を焼いた者たちなのだ。


 ディラは緊張した。

 だが、心の奥底で少しホッとしていた。

 その彼も闇の者ではなかったのだ。

 ディラの見た古文書には、闇の者の名に暗黒星雲の種族は入っていなかったのだ。



「これは、これは、ゼノン帝国艦隊の提督閣下とお見受けする。私はその女魔術師の言う通り、暗黒星雲の種族に属する者。初めてお目にかかるが、ご機嫌はいかがかな?」

と、機嫌よく彼は言った。



 彼にとって『銀の月』が使った魔法など、児戯に類するものだった。

 たとえどんなに遠くへ飛ばされようと戻るのは容易いことだ。

 しかし、あの力は軽く見てはいけないことを知っていた。

 やりすぎて下手をすれば動きを止められる、――封印されるという事態に陥りかねないのだ。

 ガンダルフの『銀の月』ならやりかねないことだ。


 封印されると、暗黒星雲の種族だから不死ではあるものの、移動の自由を奪われてしまうのだ。

 一つところに存在することを強いられることになる。

 それに意識ははっきりしていても、思うようにその力を使うこともできなくなる。

 そして、相手がそれを解除してくれるまで、いつまでもその状態が続くのだ。

 それは未開の劣等種族がよく言う、地獄にいるようなものなのだ。



「暗黒星雲の種族というと、あのダルシア帝国でさえ、手を焼いたという種族のことか?」

と、ゴウン元帥は言った。


「その通り!元帥は博学ですな。あの要塞にいたゼノン帝国大使ボルドレイ・ガウン閣下とは大違いだ」

「おまえは、要塞からきたのか?」

と、ヴィレンゲル少将は驚いて言った。


「面白いショーをやっているので見に行ったまでのこと。ゼノン帝国のお歴々は、ヘイダール要塞を占拠するのがお望みかな?」

「あの要塞から来たのなら、今どうなっているのかわかるのではないか?審判はどうなっている?」

と、ヴィレンゲルは聞いた。


「ふむ。審判のことか?今は休憩中だ。あのナンヴァル人の女大使はあと一時間ほどで審判の結果を下すことになっている」

「あと一時間か?」

と、元帥は言った。



 もう時間が無い。

 審判の結果はわからないが、ゼノン帝国の候補者に決まるかどうかはわからない、とゴウン元帥は考えていた。



「だが、大勢は決まっている」

と、彼は言った。


「ほう、誰に決まりそうなのか?」

と、元帥は聞いた。


「多分、タレス連邦のタリア・トンブンという者だ」


 ゼノン帝国艦隊のゴウン元帥、ヴィレンゲル少将、魔術師のディラはお互いに顔を見合わせると、

「なぜ、タレス連邦の者に決まるのだ?」

と、ヴィレンゲルが聞いた。


「それは、難しい質問だ。だが、ナンヴァル連邦のデレン大使閣下によると、タレス連邦のタリア・トンブンがダルシア帝国の後継者にふさわしいということのようだ」

「それは、おかしいではないか……」

と、ゴウン元帥は言った。


「ゼノンの候補者は、ダルシア人の血を確かに受け継いでいる者たちばかりだったはず。なぜ、そのような者に?それとも、タレス人の中にもダルシア人の血を受け継ぐ者がいるのだろうか?」

と、ヴィレンゲル少将は言った。


「いや、タリア・トンブンはダルシア人の血を受け継いではいない。何の血縁もない。しかし、コア大使はタリア・トンブンにダルシア帝国籍を与えたのだ。従ってコア大使亡き今は、最後のダルシア帝国籍を持った者というわけだ。そして確かなことは、かのダルシアのコア大使が、タリア・トンブンを後継者として指名しているというのだ」

「コア大使が?そんなばかなことがあるか。第一、何の血族でもない、どこの何ものとも知れぬものにダルシア帝国の遺産を継がせるなど、笑止ではないか」



 彼は、タリア・トンブンがかつてのダルシア帝国皇女アプシンクスの生まれ変わりだということをおくびにも出さなかった。

 もっとも例えそれを言ったとしても、ゼノン帝国の慣習ではそうした生まれ変わりなどということを心情的にも法的にも認めることはない。

 ゼノン帝国では生まれ変わりをするという考えは、庶民のいかがわしい言い伝え程度のことに過ぎないということを彼は知っていた。


 それはジル星団の古い文明を継承する国を除く、他の国で一般的なことだった。

 生まれ変わりについては、それを立証することが不可能に近いので、法律で認められてはいないのだ。

 だが、それは単にまだ証拠を示す技術がないだけに過ぎない、ということでもあった。


 ジル星団の古い文明は別にして、他の多くの文明はいまだ目に見えぬものを探索研究するような段階に達してはいないのだ。

 そのようなものがあると考えてもいない文明がまだ多かった。

 そして、そこに行くまでに滅びの道を辿る文明が数多くあるのだ。







 特殊能力者でタリア・トンブンとともにタレス連邦から出てきたアリュセア・ジーンは、バルザス提督の宿舎で子供達と一緒に休んでいた。



「あと一時間でまた審判が開かれるのね」

と、アリュセアはため息をついた。



 ダルシア帝国の継承者問題など早く終わってほしいとアリュセアは思っていた。

 これはジル星団の惑星連盟にとって重要なことではあるが、アリュセア自身にどれだけ関係があるのだろうか?

 確かに、かつて惑星ガンダルフでタリア・トンブン、当時はダルシア帝国のアプシンクス皇女に会った記憶があるので、今回証人になったのだ。

 だが、そのために子供達まで巻き添えになるところだった。


 アリュセアに割り当てられたヘイダール要塞の宿舎は、タレス連邦の大使とその警護に来た兵士によって襲われたのだ。

 扉が熱線銃によって破られそうになり、済んでのところで魔法でバルザス提督を呼び出し、彼の宿舎へ魔法を使って逃げ込んだのだ。

 その後も不安が続いたが、死んで霊となりヘイダール要塞に来ていたダルシア帝国のコア大使が、魔法陣でバルザスのいるところへ行ってから、やっとその不安が徐々に消えていったのだ。


 アリュセアは今世の記憶と過去世の記憶がそれぞれ蘇ってきて、混乱しそうだった。

 まして、銀の月であるバルザスがいるので、記憶が複雑になる。

 過去惑星ガンダルフで生きた時の記憶が何かと前面に出てきそうになるのだ。

 かの惑星ガンダルフの五大魔法使いはいつもこんな風だったのだろうか、とアリュセアはサンシゼラ・ローアンの記憶から思い出していた。


 再びアリュセアはため息をついた。

 すると自分の最も古い記憶に子供のころ絵本で見たドラゴンの姿が見えたような気がした。

 不思議にそのドラゴンは恐ろしくはなくどこか親しみがあって、まるで自分を守ってくれるような安心感を呼び起こした。


 惑星連盟のそれぞれの政府が派遣した艦隊は銀の月――バルザス提督が魔法を使ってそれぞれの国へ返していた。

 また、ヘイダール要塞を乗っ取ろうとする動きも、ジル星団の古い国々の魔法使いたちの協力で、回避することができた。

 そのヘイダール要塞の司令室での騒ぎは、ここまで及んでは居なかった。

 心配ではあるが、あれから不安の気分はほとんど一掃されたので、ホッとしていた。

 アリュセアの子供達もやっと人心地が付いたようで、出されたお菓子を口にしていた。

 だがホッとしたのも束の間、アリュセアの知らぬ間にヘイダール要塞にゼノン帝国とタレス連邦の別の艦隊が近づいてきていた。








 それは、突然のことだった。

 アリュセアの目の前に、あの審判に現れた男がいた。

 バルザスがリード・マンドと妙な名で呼んだ男だ。

 彼女の昔の記憶の中では暗黒星雲の種族に属していた。

 目にするだけで何か嫌な予感がする。



「な、何なの?」

と、アリュセアが驚いて呟くと、他の光景も見えてきた。



 よく見ると、男はこの部屋に来たわけではなかった。

 アリュセアが男のいる場所を見ているのだ。

 それはゼノン帝国の艦の中のようだった。



――

「コア大使が?そんなばかなことがあるか。第一、何の血族でもない、どこの何者とも知れぬ者にダルシア帝国の遺産を継がせるなど、笑止ではないか」

と、ゼノン帝国艦隊の将帥と思しき人物が言った。


「だが、大勢は決まったも同然だ。第一、あのナンヴァル人の女大使がそれを支持しているのだから」

と、男は言った。


「何とかならぬものだろうか?」

と、ゼノン帝国艦隊のもう一人の将官が言った。



 他にゼノン帝国の魔術師と思われる女がいた。



「おまえは暗黒星雲の種族であろう。それがなぜ、我らの味方のような振りをするのだ?」

と、女魔術師が言った。



 かつて、ゼノン帝国と暗黒星雲の種族は協力関係にあったこともあるが、結局それは決裂して終わったと歴史にある。

 ゼノンの魔術師はそのことをよく覚えていた。



 だが、それには答えずに、

「ダルシア帝国と言えば、このジル星団でもかなり古くからある文明だ。このゼノン帝国も元を辿れば、ダルシアから分かれたのではなかったのか?」

と、男は言った。


「ふむ。かつては、確かにそうだった。だが、今は違う。我らはゼノン帝国として新たな国を作り、育てたのだ。我がゼノンはあのダルシアよりもはるかに大きく、また優れている」

と、年上の将帥が言った。



 その態度、表情から真実そう思っていることがわかる。



「そうだな。ダルシア帝国はいまや滅びたも同然だ。コア大使は最後のダルシア人だった。」

と、男は淡々と言った。


「だからこそ、今が好機なのだ。ダルシア帝国は今主がいない。我らの別の艦隊がダルシアに既に向っている……」

と、年上の将帥が言った。


「元帥閣下、そのようなことを……」

と、女魔術師が疑り深い目を男に向けて言った。



 元帥にしては軽はずみだと女魔術師が思っているのがアリュセアにはわかった。



「かまわぬ。例えリドス連邦王国がそれを阻止しようとしても、もう遅い。間に合わぬ。それよりも、何としてもあのヘイダール要塞を占拠する必要がある。でなければ、その継承者となるタリア・トンブンを抑える必要がある。どこの馬の骨であるかはわからぬ者であっても、もし正式な継承者と惑星連盟が認めるのであれば、それを翻すことは難しい。だが、その女を我々に従わせることはできるではないか」

「なるほど、ゼノン帝国の方々はそのような計画をお持ちということか。それなら、それに協力することができないこともない……」

と、暗黒星雲の種族の男は言った。


「何?それは、誠か?」

「元帥閣下。このような者の言うことを信じてはなりませぬ。あの暗黒星雲の者がかつて何をしたかお聞き及びでございましょう」

と、ヴィレンゲル少将が言った。


「それは昔のことだ」

「それならば、よいことをお教えしましょうぞ……」



 その時、男がアリュセアの方を見たように思えた。

 顔が一瞬こちらを見たのだ。その顔が妙に歪んで見えた。

――



 映像はそこで、途切れた。



「アリュセア、アリュセアどうしたの?」

と、近くで声がした。カール・ルッツの声だった。



 心配そうにアリュセアを見ている。



「あ、ああ。ここは?」



 少しの間、アリュセアはボーッとしていたようだった。



 けれどもすぐに我に返ると、

「大変だわ。要塞の司令室に連絡が取れない?」

と、アリュセアは言った。


「どうしたんです?」

と、ドルフ中佐が言った。


「ゼノン帝国の艦の中に、暗黒星雲の男がいたの」

「暗黒星雲?あの審判のときに現れた……」

「そう、彼がゼノン帝国の人たちと何か企んでいるの。それに、ダルシアにゼノン帝国の艦隊が向っているそうよ」

「何だって!」

と、ドルフ中佐が言った。


「私を銀の月のところへ送ってくれない?」

と、アリュセアはドルフ中佐に頼んだ。



 アリュセアは何か嫌な予感がするのだった。

 これまでよりももっと大変なことが起きそうな予感だ。




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