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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
34/72

ダルシア帝国の継承者 34

 暗黒星雲の種族は、肉体を持たない。

 だから、宇宙空間でも様々な環境の惑星上でも生存可能だった。


 彼は、銀の月が使った巨大な魔法陣を、ヘイダール要塞から少し離れた宇宙空間で観察していた。

 その魔法陣は巨大ではあるが、美しい輝きを放っており、何とも言えぬ眺めだった。

 年を経た彼にとってもその巨大な魔法陣は初めて見るものだった。


 彼が以前ジル星団によく出没した頃は、このような魔法陣を使う魔法は見たことがなかった。

 とすると、これは魔法としては新しく作られた手法なのかもしれない。

 新しい魔法といえば、ガンダルフの魔法使いの大賢者『レギオン』を思い出す。


 あのレギオンと最後に出会ったのはいつ頃だっただろうか?

 確か、二千年前にガンダルフに出て、その後あまり見かけなかった。

 噂によれば、ナンヴァル連邦やゼノン帝国にも生まれたと聞いたことがある。

 だが、最近はふたご銀河では見かけた噂を聞かない。

 彼自身も、ここしばらくふたご銀河から遠ざかっていたのだ。


 それというのも、あのリドス連邦王国がジル星団にやってきた所為だった。

 ガンダルフの大賢者『レギオン』とリドス連邦王国が何らかの関係があるのではないかと、疑ったことがある。

 しかし、彼にしてその確証は得られなかった。


 彼にとって、リドス連邦王国の連中はたいしたことがないと思っていた。

 危険なのは、あの王族だ。

 あの王女たちなのだ。

 彼女達が使うのは、魔法か、それとも別の何かなのだろうか?

 リドス連邦王国の連中は、呪文など使っていなかった。

 まさしく暗黒星雲の種族と同じ手法で力を使ったが、そのパワーは桁違いだった。

 だから、彼が、いや同胞達が敗退したのだ。


 そのリドス連邦王国の連中を連れてきたのが、ダルシア人だった。

 いったいどこから連れてきたのか、それは暗黒星雲の同胞達の誰にもわからなかった。

 少なくとも、このあたりの銀河宇宙からではないことは確かだ。

 ダルシア帝国にはそのあたりの事情が必ず記録として残っているはずだった。


 これまでダルシア帝国のコア大使が生きていた時には、ダルシアに近寄ることもできなかった。

 だが、コアが死んだと言われる今、しかもコアが死んで間もない今だけが、ダルシアに近づけるチャンスだった。


 彼は慎重だった。

 ヘイダール要塞の中にも外にも、リドス連邦王国の王族の気配はなかったように思う。

 けれども、何かを感じていた。

 ここは何か別の者が存在している。それが何かはわからないが……。








 タリア・トンブンは、ヘイダール要塞の割り当てられた宿舎にいた。

 惑星連盟の議長であるマグ・デレン・シャが三時間休憩にするといったので、自室に戻って休んでいたのだ。


 これからいったいどうなるのか、タリアはそれを考えると不安でいっぱいだった。

 あの惑星連盟の議長の様子では、おそらくこのまま自分にダルシア帝国の継承が回ってきそうだった。

 そうなったらどうすればいいのだろう。


 タリアにとっては、タレス連邦から出てきた特殊能力者の仲間たちのことを第一に考えなければならないのだ。

 仲間の脱出した先は、ここヘイダール要塞だけではない。

 宇宙都市ハガロンにも、ナンヴァル連邦やリドス連邦王国にも行っているに違いないのだ。

 仲間のことをどうすればいいのかさえ思いつかないのにと悩んでいた。


 したがって、要塞に近づきつつあったタレス連邦とゼノン帝国の艦隊については、まるで気づかなかった。

 まして、先ほどいた審判の部屋で遭った妙な異星人のことなど気にしている余裕はなかった。

 タリアは、急に後ろを振り向いた。



「誰?」

と、タリアは言った。



 突然、何かの気配を感じたのだ。

 彼は、最初は霧のような状態で現れ、徐々に人型を取ってタリアの前に立った。



「誰なの?」

と、タリアは言った。



 相手は先程審判の間に現れた妙な人物だと思われたが、タリアはそれが何者なのかは知らなかった。



「これは、情けない言いようではないか。我々は初めて出会ったのではない。昔、ダルシアで会ったことがある」

と、彼は大仰に言った。


「昔、ダルシアで会った?私は、ダルシアには行ったことはないわ。あなたに会うのは初めてだわ」

と、タリアは言った。


「だから、その時おまえは、アプシンクスと名乗っていた。ダルシアの皇女だったのだ」

「何を言っているの?私にはそんな記憶はない」

と、タリアは警戒して言った。


「これだから、ダルシア人はつまらぬのだ。なぜ、あのような劣等種族と同じような人生を送るのだ?つまらぬとは思わないのか?」

「劣等種族で悪かったわね。私はタレス人よ。ダルシア人ではないわ」

「まだ、そんなことを言っているのか?おまえはダルシア人だ。その肉体はどうあれ、魂はダルシアの出自ではないか」

「魂ですって?何のことをいっているの?」

「なるほど、劣等種族として生れてしまうと、肝心の判断する知識も能力も不足しがちなのだな。あのサンシゼラ・ローアンが言っていたではないか?おまえはもともとダルシア人なのだと。銀の月もそうだと知っている。なぜなら、魔法使いはかつて生きた時の記憶をもっているものだからだ」

「銀の月が、ガンダルフの古い魔法使いであることは聞いたことがある。でも、それがどうしたの?私と何の関係があるの?」



 彼はタリアをゆっくりと眺めた。

 まるで品定めをしているようだった。

 そのような仕草はタリアにとっては不快なものだった。



「何をしにきたの?」

と、タリアは聞いた。気味が悪かったのだ。


「生まれ変わりとは、あまり効率がよくないものだな。最初からやり直さなければならないとは。そう思わないか?」

と、ため息をつくように彼は言った。


「それが普通のことよ。当たり前のことだわ」

「我々はそのような効率の悪いやり方はしないのだ。一からやり直して、前よりも程度が下がっては元も子もないではないか?」

「それで、あなた自身の程度が高いとでもいうの?」

と、タリアは呆れて言った。


「我々のような力を、おまえ達は持っているか?星々の間を駆け抜け、はるか遠くまで行き、様々な文化文明を垣間見、その知識を蓄える。そんなことがおまえ達にできるか?」

「私は、そんなことをしたいとは思わない。タレスの仲間が平和に暮らせることを願っているのよ」

「こんな小さな星団の小さな星の劣等種族のことなど、どうでもよいではないか。ダルシアはこんな小さな星団でただ暮らしていただけだ。それで終ってしまった。おまえもそんなことを望んでいるのか?」

「そうよ。私は、ここにいるのが望み。宇宙のはるか遠くまで行きたいなんて思わないわ」

「何と、つまらぬことだ。そのようなことは、誰でもできることではないか」

「そうは思わないわ」



 タリアは今回の事件で、自分の家族や仲間と平穏に暮らすというただそれだけのことが、どれほど難しいことかいやと言うほど分かっていた。



「なるほど、おまえは仲間が大事か。それなら、おまえ達をこんな目に合わせたのはタレス連邦とやらの大統領か?そいつを排除してやろう」

と、彼は言った。


「本気なの?そんなことが本当にできるというの?」

「できるとも。我々の力は、何でも可能なのだ」



 その時、何かおかしい、とタリアは思った。

 何でもできて、満ち足りているならば、こいつはどうしてこんなところにいるのだ?

 それに、何でも可能だというが、本当だろうか?

 タレス連邦の大統領を排除すれば、本当にタリアや仲間の安全が保証され、平穏に暮らせるのか?


 いや、違う。

 今回の騒ぎで、タレス連邦とゼノン帝国が裏で密約を締結しているのがわかった。

 とすると、タリアとその仲間が平和にくらすためには、ゼノン帝国の方も何とかしなければならない。

 それにタレス連邦とて、大統領一人を排除すれば望みがかなうというのもおかしい。


 大統領と同じ考えを持つものは沢山いる。

 そうした者たちも排除するとなると、どれだけの数の人を排除しなければならないのか。

 惑星連盟にはゼノン帝国の側につく政府も他にある。

 だから、そうした連中も排除しなければなるまい。

 一体、どれだけの人々を排除しなければならないのか。

 タリアは考えるだけで、気が遠くなりそうだった。


 だとすると一番速いのは、すべての種族を滅ぼすことかもしれない、という考えに行き着いて、タリアはぞっとした。

 これではまるで、すべてを排除するに等しいではないか。

 そんなことは、とうてい出来ないし、するべきでもない。

 その時、タリアは彼の目的に気づいた。



「そう、あなたもダルシア帝国の遺産が欲しいのね」

と、タリアは言った。


 彼の目が悪戯っぽく一瞬揺らめいて、

「我々はどんなものにも興味を持つのでね。たいしたことのない文明であっても、知りたいと思うのだ」

と、言った。


「とんでもないわ。タレス連邦にもゼノン帝国にも、そしてあなたにもダルシア帝国の遺産は渡さないわ」

と、タリアははっきりと言った。







 タリアの言葉を、要塞司令室にいたバルザス提督は聞き逃さなかった。

 あの暗黒星雲の種族が現れてから相手に気づかれないようにずっと注意を向けていたのだ。



「ディポック司令官。もう一度、あなたの力を貸してくれませんか?」

と、バルザス提督は言った。


「私の力?」



 ヤム・ディポックは、自分に何か力があるなど考えたことは無かった。

 自分が非力であるのは重々承知している。

 実際に腕力でケンカをすることを想像することもできない。

 人を殴れば、自分の手が痛むではないか。

 そのため、元新世紀共和国の士官学校での戦闘訓練の成績は最下位だったのだ。


 だが、バルザス提督――つまり銀の月が使う魔法になにか力を与えることができるということは今回の件でわかった。



「その前に、何をする積りか聞いてもかまいませんか?」

と、ディポックは聞いた。


「例の審判に現れた暗黒星雲の種族の一人が、今タリア・トンブンのところにいます」

と、バルザス提督は言った。


「何だって?」

と、言ったのはダズ・アルグ提督だった。



 言った本人は、自分のしたことに相手が驚いていることを気づかなかった。



 驚きを隠しているバルザス提督に、

「タリアが何か危険なのですか?」

と、ディポックが改めて聞いた。


「あの暗黒星雲の一人は、ゼノン帝国の連中と同じく、ダルシア帝国の遺産を狙っているようです」

と、バルザス提督は言った。


「しかし、あれは、いやあの人物は何なのかな。人間なのか、そうでないのか?」

と、ディポックは聞いた。



 普通の人間とも思えないのに、なぜダルシア帝国の遺産を欲しがるのか、それがわからないのだ。

 司令室にいるダズ・アルグ以下の者たちは、審判の間で起きたことを聞いていないので、余計に話が見えない。



「暗黒星雲の種族は、本来肉体を持ちません。彼らは持ちたいと思えば肉体を纏えるのです。ですが、それは本来の彼らではないということです」

と、バルザス提督は言った。


「すると、審判のときに現れた男は、本物ではないということなのかな?」

と、ディポックは聞いた。


「最初に現れた、霧状のキラキラ光ったものが彼らの実物に近いものです。ですから、彼らは死ぬということがないのです。どんな環境の下でも生存が可能です」

「不死ということかい?」

「まあ、そのようなものです。宇宙空間にいたいと思えば、可能ですし、水の中でも、毒ガスの中でも存在が可能です」

「すごい。そんな異星人がいるなんて聞いたことも無い」

と、ダズ・アルグは言った。


「でも、彼らにあまり興味をもっては危険です。そんなことをすると、この要塞に居ついてしまいます。彼らはとても悪戯好きで、そのためジル星団では彼らを恐れていました。何をするかわかりませんからね。宇宙船を故障させたり、惑星をちょっと動かしたり、軌道を逸らせたり、果ては恒星を爆発させようとしたこともあるようです。もっとも、それは未然にダルシア人が防いだといわれていますが。

 ただ彼らの弱点は、彼らは絶対に認めませんが、かなり寂しがり屋なんです。何しろ、目に見えない状態で宇宙空間をうろついているのですから、仲間に会うのだって、あまりないことです。ですから、我々のような肉体を持つもの、彼らの言うには劣等種族にちょっかいを出すのです」

「劣等種族だって?」

と、ダズ・アルグは抗議の声を挙げた。



 それを横眼で見ながら、バルザスはさらに言った。



「私が言っているのではありません。暗黒星雲の種族によれば、我々のような肉体を持つ種族は、すべて劣等種族に属しているのです」



 ディポックは、ヘイダール要塞がとんでもない危険にさらされていることに気が付いた。



「とすると、あの暗黒星雲の種族は、この要塞を破壊することも簡単にできるということかな?」

「彼がそうしたいと思えば、できないとは言えません」

と、バルザスはあいまいに言った。



 簡単にできるというと、そばで聞いている連中がどう反応するかわからない。

 もっとも、彼らがバルザスの話を信じるかどうかはわからないが。

 少なくとも、ディポック司令官本人は信じてくれそうだった。



「そういう危険なものが、タリア・トンブンのところにいるということか……。それで、私はどうしたらいいのかな?」

と、ディポックは聞いた。


「先程のように、特に何もする必要がありません。ただ、心の中で私を思い浮かべて、力を貸したいと思って欲しいのです」

「それだけで、いいのかい?」

「ええ。それだけでいいのです」

と、バルザスは言った。








 タリアは自分がとても危険な状態にいることを感じていた。

 このどこの誰ともわからない奇怪な人物は、暗黒星雲の種族だと誰かが言っていたことを思い出していた。



「別にダルシア帝国の遺産など、大した価値はあるとは思わないが、私は趣味でそうしたものを集めているんだ。だから、手に入れようと思っている」

と、表面は笑顔を浮かべながら、ずいとタリアに向って一足踏み出した。



 タリアは後ずさりをしながら、誰か助けを呼ぼうと考えた。

 だが、それにはせめて内線用の通信装置に近寄らなければならない。

 それは、その男の背後の壁に取り付けられていた。

 残念ながら、TPで誰かを呼ぼうとはこの窮地に思い浮かばなかった。


 タリアは悲鳴をあげる暇などなかった。

 突然、部屋の中を嵐のような風が吹き荒れた。



「誰だ!」

と、一瞬目を瞑ったタリアの耳に、誰かを誰何する声がした。



 あの男の声だ。


 次に目を開けると、目の前には誰もいなかった。

 タリアは周りを見回したが、やはり部屋の中には誰もいなくなっていた。


 バルザス提督――銀の月は、力を抜いて髪を掻き揚げた。



「大丈夫かい?」

と、ディポックが言った。


「ええ、何とか上手く行きました」

と、バルザス提督は答えた。



 いったい何をしたのか、と要塞司令室の中の人々は思った。

 要塞の仕官や将官たち、それからジル星団の魔法使いたちも一様に同じ思いを持った。

 特に、カール・ルッツ提督の副官ナル・クルム少佐は鋭い目つきでバルザス提督を見つめていた。

 しかし、何も言わなかった。



「あの、何をしたのか聞いてもいいかな?」

と、ディポックは慎重に言った。


「別に大したことはしていませんよ。暗黒星雲の連中は扱いが難しくて、今回のようにうまく隙を付かないとはぐらかされてしまいます。今、奴はここから遥かに離れた宇宙空間に浮かんでいるでしょう。つまり、できるだけ遠くに移動させたのです」

と、バルザスは言った。


「移動させた?それだけなのか?」

と、ダズ・アルグは聞いた。


「暗黒星雲の連中は死にませんから、殺すことは出来ません。できることは、どこか遠くへ飛ばすことくらいです」

「でも、すぐに戻ってきたりはしないだろうね」

と、ディポックは聞いた。


「もちろん、自分の居る座標がすぐにわかりませんから、それを調べるのに少しかかるでしょう。その間にこちらはタリアをできればダルシア帝国の継承者として認め、その地位を固めるしかありません。そうなった場合、いくら奴でもダルシア帝国の遺産を横取りすることは出来ないでしょう」

と、バルザス提督は言った。



 ダルシア帝国の遺産の継承者を決定する審判が開かれるのは、後一時間後だった。




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