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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
33/72

ダルシア帝国の継承者 33

 それは予告もなく始まった。

 ヘイダール要塞近くの宇宙空間に巨大な光り輝く魔法陣が浮き上がった。

 そのひと文字が宇宙船ほどの大きさがありそうだった。




「何でしょう、あれは?」

と、ヴィレンゲル少将が言った。


「あれは、魔法陣です。魔法使いが規模の大きい魔法を使う時に出るものです」

と、ゼノン帝国の宮廷魔術師ファールーレン・ディラが言った。



 嫌な予感がした。



「何をする気だ?」

と、ヴィレンゲルは言った。


「わかりません」

と、不安げに魔術師ディラが言った。



 魔法はそれぞれの種族ごとに違っているのだ。

 呪文だけではなく、そのかけ方も異なっている。

 何が起きているのか分かるまで、数分はかかった。



「閣下。ご覧下さい。向こうにいる惑星連盟の艦隊が減っております」

と、副官のグラム・デヒドル少佐が言った。



 スクリーンを見ると、ヘイダール要塞の周囲に留まっていた艦隊が一部居なくなっていた。

 次の瞬間、目の前で惑星連盟の艦隊が一つ消えた。

 艦一隻ではなく、一艦隊すべてである。



「こ、これは、どうしたことだ?」



 そして、一つ、また一つと惑星連盟の艦隊が減っていった。



「いったい何処へ消えたのだ?」

と、ヴィレンゲルは言った。


「閣下。それどころではありません。向こうの我が艦隊も居なくなっています」

と、デヒドル少佐が言った。


「こんな魔法があるのか?」

と、ヴィレンゲルは魔術師のディラに言った。



 宮廷魔術師のディラなら誰よりも魔法に詳しいはずだった。



「聞いたことも、見たこともありません。少なくとも、我がゼノン帝国の魔術書には書いてありません」

と、魔術師のディラは歯噛みして言った。



 ゼノンの魔術にないことは明らかだった。

 だが、他の種族の魔法ではあるかもしれない。

 ましてや魔法の始まりとされる惑星ガンダルフのあるあのリドス連邦王国なら、あのような魔法があるかもしれない。

 だいたい魔術や魔法というものは、古くから惑星上で使われるもので、宇宙空間で使われることは想定していないものだ。

 このような宇宙空間を想定して魔法を使うのは、惑星ガンダルフを首都星とするリドス連邦王国ではないかと思われた。



 ディラはわが身の力の足りなさを悔しく思うとともに、羨望の思いで消えていく惑星連盟の艦隊を見た。

 だが、ディラには大きな疑問がある。

 このような大魔法を使う力を奴らは何処から得ているのだろうか?

 そして、消えた艦隊はどこへ行ったのだろうか?








 ヘイダール要塞の司令室では、魔法使い達が円陣を組んで座っていた。

 その中央にディポック司令官が立っている。

 ディポックは立っているだけで、呪文を唱えているわけではなかった。

 呪文を唱えているのは円陣を組んでいる魔法使い達の方だった。


 バルザス提督は、円陣から少し離れて腕を組んで立っていた。

 顔は司令室の巨大スクリーンの方を向いている。だが、目は閉じられていた。

 口からは時折、呪文のような言葉が漏れる。

 要塞の他の将官や士官達は魔法使い達から離れて、壁際に立っていた。



「いったい何をしているんでしょうね?」

とダズ・アルグ提督がウル・フェリスグレイブ要塞防御指揮官に聞いた。


「さあ。だが、何か魔法をかけているのではないか?」

と、ウル・フェリスグレイブは言った。



 魔法と口にするのはばかばかしいが、他に言いようもないのだった。

 円陣を組んだ魔法使い達の中に大きなレンズのような光りの塊がしだいに生じた。

 ディポック司令官はその中にすっぽりと包まれてしまっているように見えた。



「司令官は、大丈夫でしょうか?」

と、ブレイス少佐が言った。



 光りの塊の中のディポック司令官は、別に変わりはないように思えたが、心配だったのだ。



「今は、仕方が無い。これが終るまでは……」

と、フェリスグレイブが言った。


 ふと、スクリーンに目をやったブレイス少佐が、

「あれを見て!」

と、叫んだ。



 だが、すぐに口を手で塞ぎ、

「惑星連盟の艦隊がいなくなっています」

と、小さな声で言った。



 驚いて皆がスクリーンを見ると、要塞の周囲にいた惑星連盟の艦隊が確かにいない。



「これが、魔法でやったことか?」

と、ダズ・アルグが言った。


「艦隊は何処へ行ったんでしょう?」

と、ブレイス少佐が聞いた。


「先程は、母国へ帰すと言っていたようだが……」

と、参謀のグリンが言った。



 魔法?

 これが魔法なのか、とグリンは信じられぬ思いだった。

 これまでバルザス提督は銀河帝国の軍人だと思ってきたが、これからは魔法使いと思うべきなのか?

 しかし、いつ、バルザス提督は魔法使いになったのだろうか?

 銀河帝国に反旗を翻し大逆人となったダールマン元帥について帝国から出て行ったのは、ほんの数年前のことではなかったのか。

 その数年でこれほどの魔法を使えるようになるのだろうか?

 それは、グリンだけの思いではなかった。

 司令室の中にいる要塞の将官や仕官たちが抱いた疑問だった。



 ヘイダール要塞の周囲にいた惑星連盟の艦隊はいなくなっていた。

 そこにいるのは、新たにやってきたゼノン帝国とタレス連邦の艦隊だけである。







「要塞から通信です」

と、通信員が言った。


「どこに所属している艦隊が明らかにせよ。明らかにできないときは、攻撃する」

と、言っています。


「いかが致しましょうか?」

と、タレス連邦艦隊司令官に副官のドノブ少将が尋ねた。



 あのような魔法を扱うとすると、魔法で自分たちを攻撃することも難しくはないはずだ。

 そうした時に艦隊を守ることができるだろうか、とガイウス・ブレヒト元帥は思った。



「仕方あるまい。こちらはタレス連邦の艦隊だと応答せよ」

と、ガイウス・ブレヒト元帥が言った。



 同じようにゼノン帝国の艦隊にもヘイダール要塞から誰何があった。



「いかが致しましょうか?」

と、副官のヴィレンゲル少将が艦隊司令官に尋ねた。


「タレス連邦艦隊はどうした?」

と、ドールズ・ゴウン元帥が言った。


「すでに所属を返答しています」

と、ヴィレンゲルが言った。


「仕方あるまい。こちらも応答せよ」

と、元帥は言った。



 それを聞きながら魔術師のファールーレン・ディラは、まだチャンスはあると思っていた。

 いくら魔法使いが強力で優秀であっても、あのような大魔法を連続で使った後で平気でいることはないだろう。

 かなり疲弊していると思ってよい。



「ディラ、おまえはどう思うのだ?」

と、ヴィレンゲルは聞いた。


「閣下、まだ終ってはおりません。あの要塞を攻略することはまだ可能であると考えます」

と、魔術師ディラは言った。



 宮廷魔術師ディラの面子にかけても、このままで済ませるわけにはいかなかった。

 このまま国に帰ったとして皇帝陛下に何と言えばいいのか?

 それはドールズ・ゴウン元帥も同じだった。

 何もしなければ、この艦隊の派遣は失敗だったに過ぎない。



「そう願いたいものだ」

と、元帥は低い声で言った。









 要塞では、タレス連邦とゼノン帝国の艦隊を誰何するとともに、訪問の理由を問いただしていた。



「連中は、要塞に来ている惑星連盟に派遣されている政府代表に用があるということです」

と、通信員が言った。


「そんなことは、嘘に決まっている」

と、ダズ・アルグが言った。


「まあまあ、惑星連盟の艦隊が消えたので、ここに来た目的がなくなってしまったということではないかな?それとも?」

と、ディポック司令官は言った。



 魔法の行使が終了した今、ディポックは部下の元に戻って来ていた。



「それとも、まだ何かを企んでいるということですか?」

と、フェリスグレイブ防御指揮官が言った。


「まあ、どちらとも取れるかな」

と、ディポックは言った。



 現に要塞内にいたタレス連邦やゼノン帝国の者たちは、要塞を攻略しようと密かに動いていたのだ。

 もっともそれは、バルザス提督とジル星団の魔法使い達によって阻止されたのだが……。

 外の両艦隊は彼らへの援軍だったと考える方が納得できると、ディポックは考えていた。







 先程まで円陣を組んでいた魔法使い達は、司令室の隅で休んでいた。

 バルザス提督は、何かを考えているようだった。


 魔法使い達はかなり疲弊していた。

 普段使ったことが無いほど強力な魔法を使った所為だった。

 疲れたとは言え、このようなスケールの大きな魔法の一端を担えたことは、彼ら魔法使いの誇りでもあった。


 だが、円陣の中央にいたディポック司令官は別段疲れているようには見えなかった。


 ナンヴァル連邦から来た魔法使いフェル・ラトワ・トーラは、他の魔法使い同様ディポック司令官を脅威の思いで見つめていた。

 いったい彼は何者なのだろうと、考えていた。

 ガンダルフの名だたる魔法使いの一人なのか?



 ガンダルフの魔法使いについては、ナンヴァル連邦では色々な伝説があった。

 その最たるものがガンダルフの大賢者といわれる『レギオン』のことだ。

 彼は呪文を綴るものであり、そのパワーも魔法使い中で最高を誇ると言われていた。

 この要塞の司令室にいるのが『銀の月』と言われるガンダルフの古い魔法使いの一人であるのなら、その可能性はある。

 だが、その表情や語り口から、伝説で語られているガンダルフの大賢者とは少し違う気がした。

 軍人と紹介されたが、どこか不思議な品格を感じる。


 フェル・ラトワ・トーラはガンダルフの大賢者が再誕したという噂を聞いたことがあるのだ。

 それならガンダルフ――今はリドス連邦王国の首都星であるから、リドス連邦王国に属しているに違いないと思った。

 『銀の月』もリドス連邦王国の宇宙艦隊の提督だと聞いていた。

 だが、このヘイダール要塞の司令官は、ロル星団の元新世紀共和国の軍人だったと聞いた。

 では、ここの司令官は何者なのだろうか?





 カール・ルッツ提督の副官ナル・クルムは、スクリーンで外の様子を眺めていた。

 スクリーンに映っているのは、新しく来たゼノン帝国とタレス連邦の艦隊で、惑星連盟の艦隊は影も形もなかった。

 十万を超える程の数の艦船を魔法で移動させるなど、彼も初めて見ることだった。

 彼は、このヘイダール要塞にカール・ルッツの副官として来るまで、いくつかのリドス連邦王国の魔法を見てきたが、このような大がかりなものは初めてだった。

 それよりも驚いたのは、この魔法のパワーがこの要塞の司令官であるヤム・ディポック本人から出たということだ。



 ヤム・ディポック本人は、魔法使いでも何でもない。

 本人がそう言っているし、あのバルザス提督もディポックを魔法使いとは言っていない。

 それなのに、この力はどういうことなのだろうか?

 もしかしたら、魔法以外にもこのような常識を超える何かの力があるのかもしれない、と考えていた。

 しかし、それが魔法でないとしたら、いったい何なのだろうか?

 ナル・クルムは新たな疑問が尽きなかった。




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