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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
31/72

ダルシア帝国の継承者 31

 ディポック要塞司令官が司令室に戻ると、

「司令官、今お呼びしようとしたところでした」

と、副官のリーリアン・ブレイス少佐が言った。


「何か起きたのかい?」

と、ディポックは聞いた。


「未確認の艦隊が近づいて来ます。誰何しているのですか、どこの艦隊か応答しないのです」

「未確認の艦隊?銀河帝国の艦隊ではないのか?」

「それが、違います。形が違うので分かるのですが、もちろん新世紀共和国の艦隊でもありません」

「今、要塞の付近に居る艦隊に似たような艦隊はないだろうか?」

「調べてみます」


 スクリーンの映像から接近してくる艦隊は、要塞付近の様々な政府の艦隊の配置から形を検索して、

「近づいて来る艦隊は、ゼノン帝国艦隊とタレス連邦艦隊のようです」

と、ダズ・アルグ提督が照合して言った。


「ゼノンとタレス?」

と、バルザス提督は呟いた。



 やはり、という思いがした。



「要塞付近には惑星連盟の艦隊がひしめいている。連中は何を考えているのか」

と、フェリスブレイグ要塞防御指揮官が言った。



 もしこのまま近づいてくる艦隊が発砲すると、要塞付近にひしめいている艦隊が混乱して、大変なことになる。



「それが目的か?」

と、ディポック司令官は言った。



 一気に惑星連盟の艦隊を潰すつもりなのだ。

 そのときにはヘイダール要塞も危険が及ぶだろう。



「でも、こちらには、ゼノン帝国とタレス連邦の艦隊もいるのではありませんか?」

と、ブレイス少佐が言った。


「多分、それは最初から共同作戦を取るつもりなんだろう……



 要塞側は他の艦隊に当るので主砲を撃つわけにはいかなかった。

 それに、他の艦隊を動かそうとすると、惑星連盟の中にいるゼノン帝国とタレス連邦の艦隊が邪魔をする可能性がある。



「このままでは、やつらのいいようにされてしまいます」

と、ダズ・アルグが言った。



 バルザス提督は、『銀の月』として考えた。

 今のこの状況を魔法の力で解決できないことはない。

 ただ、問題は『銀の月』の魔法の力だけではこの危機を脱することはできないという事実だ。

 ガンダルフの五大魔法使いのうち、銀の月は様々な種族の魔法の呪文に通じているが、パワーにおいて他の四人に劣ると言われていた。








 バルザス提督の宿舎では、アリュセアは胸騒ぎが次第に大きくなっていくのを感じていた。



「『銀の月』は何が危険なのか分かったかしら?」

「なぜ?」

と、ルッツ提督が聞いた。


「だって、不安が、胸騒ぎがどんどん大きくなってくる。この要塞に大きな危険が迫っているのよ」

と、アリュセアは言った。


「ドルフ中佐でしたっけ、バルザス提督にもう一度連絡してくれる?何が起きているのか聞きたいの」

「しかし、……」



 ドルフ中佐はためらった。

 バルザス提督の邪魔になるのではないかと考えたのだ。



「中佐、お願い。そうしてあげて。今は、危険を回避することが重要だから」

と、ルッツ提督は言った。



 アリュセアはルッツの言葉遣いが変な事に気が付かなかった。

 不安で一杯なのだ。

 その時、アリュセアは横を向いた。



「え?今なんて言ったの?」

と、アリュセアは言った。



 アリュセアはあの元の部屋からコアとロルフが一緒に来ているのを知っていた。

 そのコアが言ったのだ。



(銀の月の魔法が必要だ。だが銀の月だけでは、この危険は回避できないだろう)

と、コアが言った。


「でも、他に方法は?魔法を使わなくても、ここには味方の艦隊がいるでしょう?」



 魔法を使わなくても艦隊がいれば、何とかなるのではとアリュセアは考えていた。

 一魔法使いよりも艦隊の方が強力に決まっているではないか。



(必要なのはパワーだ。銀の月は技術と呪文は沢山持っている。だがパワーが足りないのだ)

「パワー?でも、それはどこにあるの?宇宙船や要塞のエネルギーを流用するわけにはいかないでしょう?」

と、アリュセアは言った。



 魔法のエネルギーと宇宙船や要塞に使われているエネルギーが同じでないことはアリュセアにもわかる。



(強力なパワーを持っている者がこの要塞にいる。その人物に協力してもらうのだ)

「この要塞にいる?」



 アリュセアは、ジル星団の他の国の魔法使いのことを言っているのだと思った。






 バルザス提督の周りに、魔法陣が浮き上がった。

 困ったことに、その魔法陣は普通人にもよく見えた。

 まるで夜光塗料を空中に浮かべたように、文字自体が発光しているのだ。



「何だ、これは?」

と、要塞のほかの仕官や将官が騒いだ。


 バルザスは心の中でまずいと思いつつ、

「ディポック司令官、申し訳ないが、ちょっと失礼する……」

と言って、司令室の隅の方に移動した。



 もちろん、バルザス提督とともに魔法陣も移動する。

 それを他の者たちは奇異の目で見守っていた。


 魔法陣からコア大使が現れた。

 コア大使は霊であるので、バルザス提督には見えるが、他の者の目には見えない。

 そして、コアが出てくると魔法陣は消えた。

 コアは、ドルフ中佐の魔法陣で要塞の司令室に送ってもらったのだ。

 正確言うと、バルザス提督の近くに現れるようにしたのだ。



(どうしたんですか?)

と、バルザスは聞いた。


(この要塞に近づいてくる危険が何かわかったかね)

と、コアは聞いた。


(要塞の外で別のゼノン帝国の艦隊とタレス連邦の艦隊が同時に現れました。おそらく、惑星連盟と共にやってきた艦隊と同一行動を取るつもりなのでしょう)

(このままでは、要塞は落ちるかな?)

(さあ、それはわかりません。この要塞はロル星団内での戦争では無敵でしたから)

(だが、ここのディポック司令官は、落としたのだろう)

(そうでした……)



 ジル星団のことではないのに、コアはヘイダール要塞についてよく知っているようだった。



(この要塞は、艦隊だけでは落とすのは難しい。だが、内部に敵が入り込むと、案外容易いのではないかな?)

(確かに)

(要塞の中にいるゼノン帝国政府とタレス連邦政府の代表をまず拘束すべきだ。もちろん、それはディポック司令官には分かっているはずだがね。問題は魔法使いなんだ、それと外の艦隊のこともある……)



 ディポック司令官は、司令官の席に座って何か考え事をしているようだった。

 その周りを昔からの部下が取り巻いている。

 そこへ関係のないと思われている者が近づくのは、なかなか難しかった。



「いったい、連中はどうするつもりなんでしょうか?」

と、参謀の一人であるパロット元新世紀共和国軍少将が言った。


「さあ、どうなんだろう」

と、ディポックは言った。


 そこへ、

「司令官、ちょっと話があるのですが」

と、バルザス提督が話しかけた。



 一斉に周りの部下達が振り返る。

 何の話だ、とでもいいたげな者もいた。



「どうかしましたか?」

と、ディポック本人は案外のんびりとした表情で言った。


「できれば、要塞内部にいるゼノン帝国やタレス連邦の者達を拘束したほうが、安全かと思われます」

と、バルザスは言った。



 すでにタレス連邦の大使ジアンク・ルプスとその護衛については、アリュセア・ジーンの部屋を攻撃したことで身柄を拘束してあった。

 しかし、他のタレス人についてはまだ会議室に軟禁してあるだけだし、ゼノン帝国の者たちは何もしていないから拘束などはしていないのだ。



「それは、どうしてです?」

と、ディポックは聞いた。


「軍人だけなら、それほど危険はありませんが、彼らの中にゼノン帝国の魔術師が混じっているからです。魔術師は危険です。外の艦隊の連中と呼応して何をするかわかりません」

「魔術師か……。あなたは危険だと思うのですね」


「しかし、単に拘束しただけでは、危険はなくならないのではありませんか?」

と、ディポックは言った。


「そうです。ですから、ナンヴァル連邦や、こちらの味方となる政府と協力する必要があります」

と、バルザスは言った。


「あなたの力だけでは、足りないということですね」

「そうです。向こうの方が数が多い。それでなくとも、タレス連邦の連中の中にはゼノン帝国で学んだ魔術師がいます」

「わかりました。では、どうすればいいのですか?」

「ナンヴァル連邦のマグ・デレン・シャに協力を要請するのです。つまり惑星連盟の協力を要請するのです。そして、ナンヴァル連邦などのこちらに協力的な政府と手を組むことです」

「なるほど。しかし、私の要請を受けてくれるでしょうか」

「受けると思います。彼らにとっても、今は危険なのですから」

と、バルザスは言った。


「待ってください、司令官!バルザス提督の話を簡単に信じてよいのでしょうか?」

と、参謀のグリンが言った。



 彼には、バルザス提督の銀河帝国における「大逆人の部下」という汚名が気になるのだ。



「いや、時間がない。確かに、色々と問題があるというのはわかる。だが、急がなければならない。バルザス提督あなたに任せることができるだろうか……」

と、ディポック司令官は言った。


「やってみましょう」

と、バルザス提督――銀の月は言った。








 要塞の外では、惑星連盟の艦隊には動きはなかった。

 その数から言ってそう簡単に動けないのだ。

 その間に、ゼノン帝国とタレス連邦との新たな艦隊が近づきつつあった。

 彼らは速度を落とし、獲物を狙う肉食獣のようにゆっくりと近づいていた。



 会議室に軟禁されているタレス連邦艦隊のカウベリア提督は、習慣で時間を確認した。



「ほう、もう1600時か。そろそろブレヒト元帥の艦隊が近づいてきているのではないかな?」

と、カウベリア提督は言った。


「うまくいくでしょうか?」

と、セイル・ラリア大佐が言った。



 そして彼は傍らのゼノン帝国で魔術を学んだ魔術師、ヒールリアン・ドレイを見た。

 ドレイは、魔法を掛けられたままだった。



「静かですね」

と、ボズ・フリッツが言った。



 フリッツは会議室から外へTPの触手を伸ばしているが、まだ要塞内に混乱は見られなかった。

 それどころか、何の動きもない。



「もしかして、艦隊の接近がまだ気づかれていないのかもしれませんね」

と、フリッツは言った。


「そんなことはないはずだ」

と、ラリア大佐は言った。


 その時、魔術師ヒールリアン・ドレイが瞬きをした。

「時は来たれり!」

と言うと、あたりに鈍い音が響いた。



 まるで何かを破ったような音だった。








「しまった!」

と、バルザス提督の宿舎にいるドルフ中佐が言った。


「どうしたの?」

と、ルッツ提督が聞いた。


「タレス人の魔術師を捕まえていた魔法が破られたのです」


 ルッツとアリュセアは顔を見合わせて、

「あなたは、魔法使いだったの?」

と、アリュセアが言った。



 アリュセアはドルフ中佐をまじまじと見つめた。

 軍服を着ている姿はどう見ても、軍人としか思えない。

 リドス連邦王国には魔法を使う者が多いと聞いている。

 それだけではなく、日常的に簡単な魔法ならだれでも使うことができると聞いた事がある。

 先ほども魔法を使ったのを見たが、魔法使いとまでは思わなかった。

 魔法使いというと、その道の専門家と言う意味があるからだ。



「銀の月ほどではありませんが、リドスの艦隊の者は、一般人よりも多少の魔法の心得があるのが普通です」

と、ドルフ中佐が言った。


「でも、魔法使いというよりは、軍人なのでしょう?」

と、アリュセアは言った。


「ええそうです。でも魔法も少し使えるのです。それはともかく、銀の月に知らせましょう」

と言うと、再びドルフ中佐は魔法陣を作った。








「大丈夫か、ドレイ?」

と、ラリア大佐が言った。


「大丈夫です。これまでリドスの魔法使いに捕まっていましたが、先程、ゼノン帝国の別の魔術師から解除の呪文を受けたのです」

と、ドレイが言った。


「他にもゼノンの魔術師がいるのか?」

と、カウベリアが聞いた。


「他というのではなくて、計画通りに、我々の艦隊が近づいているのです。その艦隊にいるゼノンの強力な魔術師の助力が得られたのです。」

と、ドレイが言った。


「艦隊だと?すると、要塞に近づきつつある艦隊からの魔法使いの助力というのか?」

と、ラリア大佐が言った。


「そうです。ゼノン帝国でもかなり強力な魔法使いです」

と、ドレイが誇らしげに言った。








 ヘイダール要塞に近づくゼノン帝国艦隊の旗艦アゼンダ上で、ヴィレンゲル少将が少将付きの魔術師ファールーレン・ディラから報告を受けた。



「タレス人の魔術師ヒールリアン・ドレイに掛けられていた術を解除できました」

と、ディラは言った。



 ディラはゼノン帝国の宮廷魔術師の中でも一、二を争う魔術師だった。

 彼女なら、大抵の魔術師は太刀打ちできない。

 まして、半人前の魔法使い兼軍人では、なお更だ。

 プロと素人の差がある、とヴィレンゲルは考えていた。



「わかった。では、計画通りに……」

と、ヴィレンゲルは言った。



 スクリーンに映じたヘイダール要塞は黒々としていた。

 表面が波立って見えるのは、おそらくあれが流体金属というものなのだろう、とヴィレンゲルは思った。

 その点だけは銀河帝国の技術はゼノン帝国よりも進んでいた。

 後は、要塞内部にいるゼノン帝国とタレス連邦の工作員の腕次第だった。



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